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10ページ 売れない奴隷と再会

 私は魔族でいながら杖が持てない、厳密にいうならば魔法が使えないのだ。


 幼い時、店にいきなり入ってきた強盗に、襲われた父と母を守るため、店に置いてあった杖で魔法で殺した。それが魔法を使った最後だった。


 親はそんな赤く染まった私を見ては、いつ殺されるか分からないと怖がり、父方の叔母の方で住むことになった。大切なものを守ろうとしただけなのに、結果として失った。幼い私はあの時どうしたら良かったのか、考えた末に導き出した答えが.......


― 魔法を使わない事 ―


 その一つだった。


「魔法を使ったら、ネイトも嫌うかな」


 鏡に映る、武装した夜に溶け込む黒ずくめの自分に弱々しく問う、とりあえず店にある使えそうな薬と緊急事態用の薬、それに.......


「持ってくか」


 小包の中身を身に着ける。


「こんな重装備、数年前の依頼ぶりかしら」


 使えもしない杖を腰からぶら下げて、今思えば何でお父さんはまた一緒に住もうと思ったんだか。そんなことをふと思った。思い出せない事にため息が出るな、私も歳か?


「よしっ、行くか」


 外に出ようとドアノブを握った時だった。人影が一つ慌てた足音連れてやってきた。もしやエリシュカ?突然胸がざわつき手が震えだす。


「クーちゃん!まだいる?」


 が、聞き覚えのあるその声に胸を撫でおろした。


「アンタなのね.......良かった、これから行こうとしたところ」

「走ってきてよかった」


 見た感じ死に物狂いで走ってきたのだろう、ボタボタと汗を落とし肩で呼吸をし、私を見るなり「あの人は即死魔法を覚えてる、馬鹿正直に挑むと死ぬわよ」そういうが、ならどうすれば?そう思った時「これを持っていきなさい」と渡されたのは飲み薬の入った小瓶だった。


「一回だけ魔法を跳ね返す効果がある、情報屋が過去に対エリシュカ用に創った物よ、昔は完成する前に創ろうとした人たちは片っ端から殺されていったけど、私は運よく見つからなくてね」見た目が極々普通の飲み薬なのはそのせいなのだろうか、でも何で彼女がネイトがエリシュカに捕まったのを知っているのだろうか。


 そう思ったが、その理由はいたってシンプルで。


「情報屋は裏社会に強いのよ」


 らしい、彼女曰く一気に私の小説が売られたのはエリシュカの仕業で、その狙いはネイトと私の契約を満了させるためだった。


「クーちゃんとネイトの契約内容は、有名な作家、金貨百枚以上の売り上げを出すことだから、今日の夕方で満了になったのよ、私は明日クーちゃんの家に行くつもりだったんだけどね」


 先越されたのか、しかしこれを渡すってことは.......


「止めないって事ね」

「エリシュカは畑を荒らす害獣みたいなものでね、実際害獣の方が可愛いのだけれど、裏社会の王なだけあって、誰も挑めないの、だからあなたしかいないって事、親友だから本当は気が引けたんだけどね」


 彼女が後ろを向いた、その視線の先には、他の奴隷商達が見上げて私の事を見ていた。


「貴方は勇者みたいなものよ」

「私はアンタ達のためにやるんじゃない、私のためにやるの」


 そう私の、この気持ちの為に。


「あとギルドにはいかない方が良いわよ、あそこはエリシュカの息がもともとかかってるから、どうなる事やら」

「あの人も用意周到ね」

「いやギルド事態闇社会に片足突っ込んでるし必然よ」


 そうだったのか、まぁあの大金は普通じゃ出せないよな。


「エリシュカの家は東へ行ったコマールって村、馬車で二日かしら」

「二日.......まぁあの感じじゃ直ぐに殺さないと思うし大丈夫か」


 自分に言い聞かせる私に「馬車は用意してるから、それ使って」そう"頼んだ"と言うように肩を叩く。


「ありがと、銅貨1枚程度の安い奴隷を持つと大変だわ」


 家を出ると「小さい女の子の言った通りね」そうニーナが立っていた。小さい女の子というのにキュア・ロリ・イタリアンの顔が浮かんだ、今の今まで彼女に何か仕組まれているような気がして気味が悪かったが、今は手紙を信じて行くしかないのだろう。


「どうしたの?」


 どうしたのか、彼女は無言で舐めまわすように私の身体を上から下まで眺める。その目は万引きした人間を見る店主の眼に似ていて、思わず「ほんとに何?」と嫌そうな顔をしてしまった。


「やっぱり、あれを使う気ね」

「ハンター特有の探知術か」

「これを持っていきな、少しは副作用を和らげる事ができるから」


 細い注射器、恐らくマンドレイクの根とエントの葉を擦り合わせた鎮痛剤だろう、旅する者達は絶対に持っているものだが、作る素材が手に入りにくい物ばかりが故に、高価なものなんだとか。昔はこれを作って荒稼ぎをしようと私は何度考えたものだ.......


「良い?これは万能薬と言っても完全に消せるわけじゃないから、それだけは頭の片隅に置いとくように」


やはりハンターなだけあって、彼女の言葉には説得力がある。いつもはヘラヘラしてるけど真剣な彼女程安心するものはなかった。


「ありがとう、感謝するわ」

「まさかクーちゃんに好きな人が居たなんてねぇ、帰ってきたらお祝いね」

 

 感心してたのにフラグを立てないでほしいものだ。3大言ってはいけない言葉ワースト2である。どうしよう、一気に怖くなってきた。


「今の発言のお陰で、無事に帰れる可能性がガクンと下がったけどね」

「本気のクーちゃんなら大丈夫でしょ、私は知ってるから」


 ニッと笑う彼女に、こっちも釣られて笑顔がこぼれる。


「それはありがとさん」


 用意された馬は、夜に溶け込む黒々とした馬で、どこにでもいる茶色の馬を選んでいない辺り、本気で殺してくれというメッセージを感じた。馬は静かにこちらを見ては「町まで宜しくお願いします」と言わんばかりに頭を下げた。


「町までよろしくね」


 手綱を握ろうとした、その時だった。真上に魔法陣が展開され、たちまちそのまま吸い込まれたのだった。


「話が長いぞ」


 キュア・ロリ・イタリアンだった。どうやら魔法陣を出しここに連れ込んだのは彼女らしい。


 七色に変色する空間は殺風景で、聞いて見ると転移する空間だとか、いわゆる時空の境目というやつらしい。


「私は、闘うことが苦手な分こういう魔法が得意なんだよ」


 何も聞いていないが彼女はそういうなり私の方へ来て「ワシの弟子を殺してくれ、頼んだぞ」そう伝える。


「なるほどね、イタリアンさんとネイトの繋がりは、エリシュカとの繋がりから出来たものだったんですね」

「そうだ、ワシが子供の時のアイツに魔法を教えたのがきっかけだ」

「へー、イタリアンさんって素だとワシになるんですか」


 彼女はキャラを忘れていたのか慌てて「ロリちゃんは素でもロリちゃんだよ」なんて言っては誤魔化すように「よろしくお姉ちゃん」そう指を鳴らした。


~ ~ ~ ~ ~ ~


「逃げようとしても無駄よ~」


 勘のいいやつというべきか、俺の視線だけで心理を読むなんてな。


「なわけあるか、しっかし窓の外はいつもこんな暗いのか?」

「まあね、朝も夜も暗いよ」


 窓ガラスに写る俺とエリシュカ、その光景はどこかで見たような気がして、変わってしまった今に心が寂しくなった。どこで変わってしまったのかはしっかりと分かっている、でもいま後悔してどうするんだ。


「逃げるかもしれないのに、なんで拘束したり薬漬けにしない?」

「好きだからよ、それにこの町は私の眼と言っても過言ではないしね」


 なるほど、裏社会の王なだけあって、その社会の住人しかいないこの町じゃそうなるか。


「好き、か」

「唯一私を信じて一緒にいてくれた、唯一態度を最後まで変えなかった」


 「まぁ最後は逃げたけどな」そう言おうとしたが、「それなのに私から変わってしまったことを、私はずっと後悔してた」その言葉に何も言えなくなった。


「もしあの時、父さんを殺してなければ、お金に目がくらんでなければ、沢山の"なければ"が私を今も後悔させてるの」


 このセリフに嘘がなかった、深海の様に暗い瞳から感じる寂しさはこの気持ちに似ていた。


「今からよりを戻そうなんて言わない、でも許してほしいの、あの時の私を」


 彼女は昔っから人付き合いが苦手だったから、その事を聞いた今エリシュカが俺に付きまとってくる理由が分かった気がする。


「あの時の事を謝る為に付きまとい、関わる人を殺していたのか」

「はい」


 まあ会ったら俺は逃げるだろうし、表で自由に動けない彼女にはこの方法しかなかったのだろう。なんで俺はそんな事を気が着けなかったのだろうか。もしかしたらこの悪夢を終わらせられるかもしれない。


 そんな自分が出てきた今、だがもしもこれが嘘だとしたら?なんて警戒する自分も居た。


「昔の様になって今更どうする」

「特に何もない、ただ許してほしいだけ、だからそんな警戒しないで」

「すっすまん」

「ごめんね、私のせいで今まで苦しい思いにさせて、でも今の私はこの方法しか知らなくて」


 光が届かない瞳から流れるそれはとても綺麗だった。苦しませていたのは俺の方だったのか。彼女の顔をまともに見たのはいつぶりだろう。彼女を変えたのは自分のせいなのでは?心に湧き上がる罪悪感、その事に気付いた時初めてあの時に戻れたような気がした。彼女があの時の弟思いの優しい姉に見えた。


「そうだったのか、俺こそ今まで苦しませてしまってすまなかった」


 その時だった、冷たく光るナイフが飛んでくるのを俺は見逃さず、彼女を押し護身用の杖を抜いては魔弾を放った。


「誰だ!」

「何故そいつを庇うのよ」


 俺とエリシュカしかいなかったはずの部屋に彼女がいた。


「もしかして、洗脳された?」


 クラーラがそこに立っていた。

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