魂寄令嬢ハーキラ
今回は完結まで3話投稿です
サブタイトルが前話と逆になっていたので直しました。
全10話 完結
R2/9/7 11:35,12:00,13:00
帰りに寄った喫茶店で、悲劇は起こった。
居眠り運転のトラックが窓を突き破って飛び込んできた。平和な店内に悲鳴が響く。硝子が飛び散り、テーブルや椅子が壊れて転がる。
キミト青年は、咄嗟にハーキラを安全圏に突き飛ばす。
「キミくん!」
叫んだ時には、もう遅い。彼は血だらけで倒れている。即死だった。
(問題ない。禁術上等よ)
ハーキラ嬢は、血だらけの遺体をかき抱く。
キミト青年の遺体を、ハーキラの家に連れ帰る。
「師匠、今から禁術つかう。他言無用、言ったら殺す」
「物騒だね。禁術なんか、ばんばん使ってるくせに」
ハーキラ嬢には、未認可の常軌を逸した自作魔術が、そもそも禁術に当たるとは認識していなかった。
「そうなの?」
ハーキラ・レータ嬢は、間抜けな声を出す。
気を取り直したハーキラ嬢は、愛しい青年の亡骸を見つめ、
「兎に角、魂を呼び寄せる」
と、宣言した。
「まあ、そうだろうな」
大魔術師デール・オ・ソトーは、慣れきった様子で傍観を決め込む。恐らくは声を聞き付けたであろう従者ツッキー・ビトーも、同じ心境だ。今、ハーキラ嬢が生命の理を歪めようとしている、まさにその扉の前に居る。
ツッキーは、レータ家の人々には、
「ハーキラお嬢様が、お部屋におられるようです」
との報告だけはするが、部屋に入ろうとはしない。巻き込まれるのはごめんである。
彼は、ハーキラ嬢や大魔術師と違い、ただの従者である。禁術に関われば死罪だ。逃げられない。
そんな周囲の心境など露知らぬハーキラ嬢は早速、今完成した新魔術の、魂寄を行う。気付けの魔術をしてはいけない方向にいじった、ハーキラ会心のオリジナル魔術だ。
(ついでに、今回だけサービスしちゃお)
キミト青年のいた世界では、辺りの惨状が瞬く間に回復する。事故は、無かったことになった。
キミトの魂は世界を渡る。体が無い状態で、異世界へと移動する。世界間の境界線を越える時に、彼は死んだ人の魂として登録されてしまった。
「ここは……俺は……」
キミト青年はハーキラ嬢の腕の中で、ゆっくりと目を開ける。肉体の損傷は、完璧に修復されていた。ただ、世界を移動するときに、ずっとハーキラ嬢の魔術に覆われていたので、元の人体組織から変質している。
「キミくんっ!」
「君は……?何故泣いてるの?」
ハーキラは、キミト青年に状況を説明する。
「生き返ったの」
一言である。
師匠が気の毒そうにキミト青年を眺める。
キミト青年は、じっとハーキラを見る。
「君は、ハーちゃん?」
「えっ、記憶があやふや?大丈夫?」
次回、完結