護送官の場合
今回も2話
R2/9/7 2:00,3:00
無実の罪で告発されたハーキラ嬢。衆目に晒されながら、罪状不明の凶悪犯罪者として引き立てられて行く。
きらびやかなホールの扉がしまる。廊下を行き交う人は無い。所々に衛兵が無言で立っているだけ。
ハーキラは、辺りを見回した。どの衛兵も前だけを見ている。中庭へ出る扉の無い出口に居る兵隊さんも、である。
(後ろから来たらどうすんの)
平和な治世ではあるが、国内外からスパイや暗殺者は来る。稀ではあるが、魔物も出る。油断し過ぎだ。
(ハアー、こいつらは、とりあえず駄目ね)
(あたしを掴んでる2人も、やる気あんのかって話よ)
ハーキラ嬢は、連れて行かれる先よりも、嫁ぎ先の心配をしている。今、チュケーン伯爵家のハーキラ・レータ嬢を連行している2人は、中肉中背、平凡な風体だ。
(見た目通りにもさっとしてるよね)
ハーキラ嬢が少しでも体を揺らせば、簡単に拘束から逃れられそうだった。
ラブをハントしようと意気込んだは良いものの、獲物が居そうなパーティー会場からは、早々に追い出されてしまった。
衛兵達にも掘り出し物は居ない様子。
ハーキラ嬢は、実際には人生からも退場させられそうになっているのだが、意に介さない。どうやら逃亡の勝算はあるようだ。ただ、今はそれよりも、結婚相手を手に入れる事の方が優先されているだけだ。
(護送馬車だ。ツッキーどうしてるだろ)
犯罪者を護送する馬車は、辺境で良く見掛ける。頑丈で逃亡防止の魔法がかかっている、灰色の辛気くさい馬車だ。
ドアの前に護送官が立っていた。知らない顔だ。衛兵よりは体格が良い。それなりの手練であろう。
ハーキラ嬢の従者は、見当たらない。
「ねえ、あたくしの従者が見当たりませんわ」
デーレニナの仕草を思いだして、護送官に声を掛けてみた。しかし、思った効果は得られない。護送官は無視してきた。ハーキラには目もくれず、衛兵に渡された護送書類にサインを書き込む。
(なに、こいつ)
「従者を呼んで頂戴」
悲しそうな顔を作ってみた。護送官に睨まれた。護送官は、サインの済んだ書類を衛兵に返す。
(腹立つわぁ)
「何が何やら解らなくて、困っておりますの」
泣き落としは続行中。護送官は、護送馬車の扉を開ける。
「色仕掛けなど無駄だ。さっさと乗れ」
「はあっ?従者が何処かって聞いてるだけでしょうがっ!思いあがんな、この雑魚がっ!」
高圧的な護衛官に、思わず反抗するハーキラ嬢。
「ああ、もうっ、ツッキー!!何処なのよ!」
「静かにしろ、この悪女めが」
ハーキラ嬢は何の配慮もされず、乱暴に馬車の中へと押し込まれる。護送官を標的にするのは諦めた。ついでに、従者と連絡を取ることも、諦めざるをえなかった。