癒さない系令嬢ハーキラ
初回は2話、R2/9/6 22:42,23:00
全10話
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恋の狩人、覚醒はもう少し先
ハーキラ・レータは18歳。華も恥じらうお年頃。
シラーネ朝カエサン国の、風光明媚な郊外都市に住んでいる。
「なによ、自分ばっかり」
夕陽の見えるサンルームで、優雅に5時のお茶を頂くハーキラ嬢。どうやらご不満があるようす。
室内は魔術空調で快適だ。お茶は香り高く淹れたてだ。お菓子や軽食も申し分ない。一体何が気に入らないのか。
側に控える、従者ツッキー・ビトーは、涼しい顔でお茶を注ぐ。彼は、ハーキラ嬢が産まれた時から使えてきた。現在23歳。
「ハッキスの奴、いい気なもんね」
「お嬢様」
ハッキスとは、今年21歳になるこの国の第3王子である。さすがに王子に対する言葉が過ぎる。従者ツッキーは軽く嗜めた。
ハーキラ嬢は、ちらりと従者に目を向けて、不服そうにこう言った。
「あたしだって、ドキドキきゅんきゅんしたいわよ」
年の近い第3王子ハッキス・シラーネと婚約したのは、4歳の時。正直、初顔合わせは全く覚えていない。
令嬢ハーキラは、チュケーン伯爵ツーカー・レータとスッカ・レータ夫人の娘。弟、ムクッワ・レータの誕生により、4歳にして家督継承義務が失くなった。
そこで、シラーネ王家が渡りに船と飛び付いた。伯爵令嬢ハーキラは、よい年回りの相手がそれまで居なかった第3王子ハッキスの婚約者に収まったのだ。
カエサン国の領主は、格上と婚姻を結んではならない。婚姻外交をさせない為である。何故か、嫁入りなら許されるが。その代わり、持参金やら輿入れ儀式やら、何かと出費を強いられる。
勿論、当時のハーキラ嬢は、そんなことは理解していない。今もあんまり理解していない。
「良かったわね、素敵な王子さまよ」
とかなんとか、言われたような気がする。王子は、暗い金髪の巻き毛に焦げ茶の瞳。優しげな人物だ。
婚約して13年。しかしハーキラ嬢にとっては、未だに印象の薄い男である。
ハーキラ・レータ嬢は、さらさらの亜麻色の髪。真夏の湖の青い瞳のゲルマン民族的美女だ。この世界にゲルマン民族はいないけれど。
所作は優雅で、性格は親しみやすく愛嬌がある。それだけ聞けば、世の中随分と生きやすいかと思われるだろう。
「なんとか言ってよ。ツッキー」
「ご婚約者様がおられる身で、はしたのう存じます」
「何それ。男は良いのに?」
「男性も、勿論、言語道断でございます」
従者の小紫の瞳がギラリと光る。
「色々とお慎みなされば、殿下のお心もお戻りでしょうに」
「はんっ、バカバカしい。お心を下さった事など、1度も」
「またそのように、下町言葉を」
◯○朝△国――◯○一族が支配している時代の△国。アケメネス朝ペルシャ、ブルボン朝フランス等
婚姻外交――主に国外の王族等に娘を嫁がせることにより、勢力を拡大する『無血侵略』。
小紫――植物コムラサキと似た紫色。日本の色名。現実には無さそうな瞳の色ではある。
次回、嫌われ令嬢ハーキラ
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