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Re:Make World‼︎  作者: 霜月アズサ@1月から更新再開
第1章 風評の戦争屋 編

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第04話『追い詰められた国王』

 中央大陸の東に浮かぶ小さな島国。ウェーデン王国の若き国王【アルベート=ウェーデン】は、非常に自分勝手なことで有名だった。


 王族という特別な存在として生を受け、元々彼を非難できる者が少なかった上、唯一の目上である両親――国王夫妻が溺愛して育てたためか。彼は今日(こんにち)までの約20年という時を、尊大に、そして傲慢に生きてきた。

 彼に権力を振りかざされ、夜な夜な涙した使用人や国民の数は、もはや両手両足の指を使っても計算に足らなかった。


 そのため、国王夫妻が病気で亡くなりアルベートが王位を継承した際、彼を支持する者はほとんどいなかった。アルベートが国王になれば、ウェーデン王国はたちまち崩壊すると、誰もが確信していたのである。


 実際、アルベートは政治が下手くそだった。

 気づけば他国に、過度な割合の国益を納めることになっていたり。ウェーデンが誇る特別な煉瓦の製法を盗まれ、量産されて価値が暴落したり。

 彼を発端に起こった様々な事態により、年々国力を失ったウェーデンは、いつ他国に吸収されてもおかしくない状態にあった。


 しかし、ウェーデン城の大臣たちは諦めなかった。

 前国王の存命時から国に貢献してきた彼らは、ついに国王であるアルベートを騙し込んで利用し、ある殺戮兵器の設計に手を出したのである。


『これがあれば、どこの国にも引けを取らない』

『それどころか、他国を支配することも可能になるだろう』


 国を想うばかり、理性を失いつつあった大臣たちは、そう意気込んで兵器の製作を進めた。それが途中で、噂の『戦争屋』に露見(ろけん)したことも知らずに――。





「――ッ、はぁ!」


 地下階段から飛び出すなり、ハネ癖の強い金髪と、真紅のビロードマントを揺らし、アルベートは脱力したように倒れ込んだ。

 息も絶え絶えに床を見つめるも、鼻先を掠めた埃の匂いに顔をしかめ、なんだここはと重い身体を起こして辺りを睨みつける。


 そうして彼の目に飛び込んできたのは、天井近くに取り付けられた、太陽や三日月をかたどるステンドグラスの数々だった。月光を浴びる彼らは静かな神々しさを帯び、見る者の心を浄化してくれそうな、厳かな雰囲気をまとっていた。


「……!」


 次に見つけたのは、いくつか並んだ木製の長椅子だった。座ればすぐに壊れてしまいそうな、古めかしさに哀愁を上乗せする椅子たちは全て、乱れることなく一方を向くように配置されていた。


 アルベートは喉を鳴らしながら、その『一方』である背後を振り返る。

 そこには、教会の神父が読み物を置くような講壇(こうだん)が。さらにその奥には、慈悲を司る女神・セレネが微笑みを浮かべている壁画が掛けられていた。


 信仰心の薄いアルベートから見ても、息を呑むほどに美しいセレネ。だが、今はその笑顔の裏で何かを憂いているように見える。

 単に影が差していることで暗く見え、不吉なイメージが与えられているだけなのかもしれないが――なんだか、とても嫌な予感がした。


「教会……? 何故こんな教会が、城の地下通路と……?」


 アルベートは昇ってきた地下階段を見下ろし、ぽつりと声をこぼした。


 戦争屋から予告された時間より少し前。警備を固めさせた謁見(えっけん)の間を、こっそり秘密の扉から抜け出して、長いこと走ってきたこの地下通路。

 緊急時の逃走経路として、代々王族の間で存在が語り継がれてきたらしいが、まさかその行き先が教会であるとは思いもよらなかった。


「ずいぶんと埃臭い……人の出入りはないのか? とすると、街の中じゃないな……城の中は今、どうなっているんだ……?」


 アルベートが逃げてから教会に着くまで、かなりの時間が経っているはずだ。

 昨今のウェーデン兵は、かつての栄光に泥を塗りたくるほど弱いので、時間経過と(あわ)せて考えると、こちら側はいま相当な痛手を負っていると予想できる。


 しかも、相手は風評の戦争屋。最悪、兵が全滅していてもおかしくは――と、考えていたそのときだった。ふと、教会の扉が蝶番(ちょうつがい)ごと内側に吹き飛んだ。


「ひッ……!?」


 心臓を跳ね上がらせ、贅肉(ぜいにく)のついた身体をすくませるアルベート。その眼前、2つの影が教会の出入り口に現れた。月光が後ろから差していて、2人の顔はよく見えなかった。


「おや。もういらっしゃってたんですね」


 片方の影が揺れ、ゆったりと落ち着いた声を発する。


「ひどい間抜けヅラっスね。この人ほんとに王様なんですか?」


 もう片方の影が揺れ、澄ましたような口調で喋った。


「どうします? ジュリさん」


「ふぅん……まずはお話をしてみましょう」


 2人はアルベートに歩み寄る。距離が近づいたのと、夜目が利き始めたことで、アルベートの目にも彼らの姿がはっきりと捉えられた。


 まず、20代後半くらいの落ち着いた口調の男。


 最初に目につくのは、三つ編みにされた藤色の長い髪だ。次いで細縁のメガネから覗く、鋭さを宿した紺青色の瞳。背はすらりと高いが、漆黒のマントに覆われた身体は、隠されてなおうかがえるほど細かった。

 少し病弱そうな印象を受けるが、冷静で知的な雰囲気がある。意味ありげに浮かべられた微笑からは、どことない胡散臭さが滲み出ていた。


 もう片方、10代半ばくらいの澄ました口調の少年。


 癖っ毛の黒髪と、眠たげな紫の瞳が特徴的だ。シャツとスラックスの上には、瞳と同じ色をしたオーバーサイズのパーカーを羽織っている。

 身長や体型に特筆する点はなく、一見普通の子供ようだったが、その実ナイフのように研ぎ澄まされ、洗練された(たたず)まいをしていた。


「初めまして、国王アルベート=ウェーデン」


 眼鏡のほうの男が、すくんでいたアルベートに声をかけた。それはただの挨拶だったのだが、緊張が高まって限界を迎えていたアルベートはそれにすら身震いし、


「戦争屋……インフェルノ……!」


 舌の根まで干上がった口で、彼らの名前をこぼした。


 自分たちにとって不都合な世界を憎み、『世界改変』を目的として、邪魔者を排除して回る悪人の中の悪人。目的のためならば、裏社会を牛耳る反社会的グループも、万単位の兵士を抱える国さえも敵に回すという、イカれた男たちの小さな集団。


 その桁外れの悪行の数々から、誰かが始めた作り話なのでは、とまで言われている彼らが、まさか本当に目の前にいるコイツらだというのか。戦慄(せんりつ)するアルベート。謁見(えっけん)の間から出るんじゃなかった、と後悔が頭を横切る。


「ええ、左様です」


 眼鏡の男がそう言って、薄っぺらい笑みを貼り付けた。


「まぁ、私たちが決めた名前ではないので、そのように呼ばれるのは遺憾(いかん)なのですが……いいでしょう。さて、こちらが一方的に存じているのも不公平です。お話の前に軽く、自己紹介をさせてください」


 すると、隣に立っていたパーカーの少年が、呆れたように口を開く。


「ジュリさん、自己紹介なんて意味あるんですか? だってこの人どうせ」


「いいんですペレットくん。あの、格好つかないんで黙っててください」


「格好つかないってジュリさ」


「黙れって」


「――」


 ペレットと呼ばれた少年は、じとりと目を細めて吐息をする。

 緊迫した空気が行方不明になり、呆然と口を開けるアルベート。その様子を一瞥(いちべつ)した眼鏡の男は、わざとらしく咳払いを響かせた。


「申し訳ありません。私の名前はジュリオット。【ジュリオット=ロミュルダー】と申します」


 眼鏡の男、もといジュリオットは胸に手を添え、うやうやしく頭を下げた。

 流れるような滑らかな一礼。もしやどこかの貴族の血筋なのだろうか。腐っても王族、これまで何度も目にした仕草に、アルベートは唾を飲み下した。


 と、


「では、早速ですが今から3つ質問をします。全て偽りなく答えてくだされば、私たち2人は貴方を解放して差し上げますので、正直に答えてくださいね」


 青い双眸(そうぼう)をほのかに輝かせ、ジュリオットは顔を上げた。――能力者だ。直感すると同時、アルベートは冷たいものに背筋をなぞられる心地がした。


 何の能力だ? この男はこれから、自分に何を聞くつもりなんだ? そもそも何故ここがわかった。自分はこの後どうなるんだ? 解放すると言ったが、はたしてそれは五体満足なのか? そもそも嘘をついているんじゃないか?


 インクをこぼした白紙のように、心がじわじわと蝕まれていく。


「いや、だ……」


 虫の息のような、弱々しい声が拒絶を形作った。瞬間、恐怖が理性を上回った。


 ――いやだ、いやだ、死にたくない! 逃げろ、どこへ? どこへでも!


 アルベートは勇気を振り絞って立ち上がる。2人を突き飛ばして逃げ出そうとした。が、けらけらと笑う膝が、銃声とともに声を失った。

 崩れ落ちたアルベートは、焼かれたような痛みを膝に感じながら、息を、瞳孔を震わせて正面を見た。


「こら」


「さーせん」


 そう、ジュリオットにたしなめられるペレットの手には、先程まではなかったはずの拳銃が握られていた。


「……あ、予告っス。ちゃんと答えてくれないと、次はあんたの目玉が弾けるんで」


 ペレットは宣言しながら、アルベートの顔に向けて銃を構え直した。その真っ黒なボディが、月光を浴びて艶めかしく光る。


「……だそうですので、質問にはきちんとお答えくださいね、アルベートさん」


 呆れ顔のジュリオットは、中指でフレームを押さえてクイと眼鏡の位置を直す。それがスイッチの切り替わる瞬間だった。直後には、ぞっとするほど優しい笑みが、ジュリオットの端正な顔に貼り直されていた。


「それでは、これより尋問を開始します」


 人型の悪魔が冷ややかに(わら)う。アルベートはもう、へへ、と泣くことしか出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 智将キャラが年下から普通に チャチャ入れられているこの 構図が大好きです。
[良い点] まだ序盤しか読んでいませんが ギルの喋り方がめちゃめちゃタイプでした! シャロの武器もでかい鎌とかなんか想像するとめちゃめちゃかっこいい! ギャップってやつですね! 物語の構成もよくできて…
[良い点] 戦争屋の一人一人に個性があってそれでいて惨忍なところいいですね。溜まりません。 場の展開も秀逸ですね。 [一言] このタイプのダーファン大好きです!
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