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スクラップドラゴン

作者: たかさば

 ぼくんちの前は、昔、すっごく見はらしがよかったんだよって、おばあちゃんはよく話をしてくれた。


 大きなクスノキのまわりにへびイチゴの生える草原があって、指先をまっ赤にしながら数をきそってむしったんだよって言っていた。

 草原には、季節ごとにいろんな草が生えて、花のみつをすったり、ふえをふいたり、実を使ってネックレスを作ったりして遊んだんだよって教えてくれた。


 おばあちゃんが起きあがることができなくなったころから、クスノキのまわりにごみがたくさん置かれるようになった。


 はじめは、空きかん、レジぶくろ。つぎに、プラスチックのかたまり。気が付いたら、テレビやせんたく機。いつの間にか、車まですててある。

 だれかがすてていったごみが、毎日、増えていく。


 おばあちゃんがこどもの時に遊んだクスノキの草原から、緑色の部分がなくなった。


 どこにもへびイチゴなんか生えないし、どこにもカラスノエンドウなんか生えないし、どこにもジュズダマなんか生えないし、どこにもつつじの花なんかさかないし、どこにも食べられる草なんか生えてない。食べられない草だって、ほとんど生えていない。


 ごみにおおいつくされた、クスノキの草原。


 ごみに囲まれて、大きな大きなクスノキだけが、風でゆれている。


 ぼくは、たまにごみ山のクスノキに登って、遠くを見る。


 ごつごつとしたクスノキの表面をよじ登って、高い場所からぼくの住む町をながめるのが大好きなんだ。

 赤いフォリーのある大きな公園も、高いビルも、だれもいない小学校の校庭も、車がたくさん走っている道路も、歩道橋の向こうがわに見える夕日も、川にかかる大きな橋も、ぜんぶ見ることができるんだ。


 ごみだらけの場所から見るぼくの町は、ところどころに緑色の見える、きれいな町。ぼくはこの町が、大好きだ。



 今日も、ぼくは。


「はっ!」


 大好きな町を、見るために。


「よっ!」


 手をのばし、足をひっかけ、小さいころから登り続けたクスノキの、ぜっけいポイントへと向かう。さんざん登りつくしてきたから、足場になる場所も手でつかむ場所も、ぜんぶぼくの頭の中にインプットされている。


「ふう……。」


 安定した足場になる、太い幹の上で、ひと息ついた。


 いつもと変わらない、きれいな町の風景が、見える。

 いつもと変わらない、高い、高いごみの山が、足もとに見える。


 クスノキに登れなくなるのは、たぶん、もうすぐ。


 ごみをこれ以上増やさないために、バリケードができたのは先週の事だ。もう、この場所にごみが増えることはないかもしれないけれど、工事が始まってしまったら、きっとぼくはここに来ることはできなくなる。


 少しでも、きれいな風景を見ておこうと……。



「ん?」



 ぼくの目に、動くものが、見えた。


「何だ?」


 こんなごみの中で、迷子?


「へび?」


 だったらにげよう。


「ねこ?」


 だったらなでよう。


「よっ……と。」


 ぼくはいそいで、クスノキからおりる。登るのも、おりるのも、ぼくにとってはかんたんな事だ。はじめて登ろうと手をのばしたのは、まだ保育園に入る前だった。あのころは、おばあちゃんにだっこしてもらって木の幹をさわる事しかできなかったけれど、年長さんになるころには、一つ目の枝にすわれるようになった。五年生になった今では、登るのも下りるのも、プロの技なんだ!


 ようし、この一本目の幹から飛びおりたら、もう地上だ!ぼくはいきおいよく足もとの幹にぶら下がって、木から手をはなした!!!



 ず、ずずるっ!!!!!!!!!



「うわっ……!!」



 ぴたっ!!!



 着地で、足をすべらせて、あやうくしりもちをつきそうになった!!!


 けど……ぴたっ???


「??セーフ!」


 なんか、ちょっといわ感?おしりを支えてもらった、ような。気のせいかな?よくわからないけど、転ばずにすんだみたいだ。




「たしかここらへんに、ねこ?がいたはずなんだけどなあ……。」


 少しだけごみの山が少ない土の見えている部分に立って、まわりを見わたす。ふたのないせんたく機、画面のわれているテレビ、金庫みたいなものや自転車、ベッド、本だな、タンス……ごみとごみの間、ごみの上、いろんなところに目を向けてなぞの生物?をさがす。


「いないなあ……。」


 ごみ山の近くまで移動して、細かいところを見てまわる。ペットボトルにプラスチック容器、変な部品?ホースみたいのや、よくわからないごみでいっぱいだ。



「おーい。」




 だれかが、ぼくを、よんでいる?さっき見たのは、人だったのかな?もしかしたら、ぼくと同じくらいの子どもかも?


「こっち、こっち。」


 ひょっとしたら、ごみ山で遊ぼうと思ってここに来たのかも?もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。


 声のするほうを、見てみると……。


「なんだ?」


 マジックハンド……?

 ごみのすき間から、手ぶくろ?のついた、金ぞくでできたシャワーホースみたいなのが、のびている。


「いやあ、ちょうどよかった。」


 だれか、いるみたいだ。

 ごみのすき間をじろじろと見てみるけど、良くわかんないな、かくれている?はずかしがりやなのかもしれない。


「長い間、ずっと電波を飛ばす部品をさがしていたのだ。」

「はあ。」


 子どもじゃ、ない?声が大人っぽい。言ってることも、大人っぽい。

 どこにかくれているんだろう?マジックハンドの根もとの方を見てみるけど、ゴミの山でかくれていて、人のすがたは見えない。本体をさがしながら、返事を、する。


「で。」


 おかしいなあ、声はするのに、すがたがぜんぜん見えない。変なマジックハンドが、動いているだけ。すごくグネグネしているけど、どうやって動かしているのかな?ひょっとして、あやつり人形みたいになっているとか?上の方を見てみるけど、何もない。クスノキの葉っぱがざわざわとゆれているだけだ。


「そのスマホ、ちょっと貸してもらえんかな……いや、くれ!!」


 ぼくの首からさげているスマホをマジックハンドが指さして、むちゃくちゃなことを言う!!このスマホは、お姉ちゃんからもらった大切なもの、だれかにあげるなんて、できるわけ……ないじゃないか!


「ハア?!やだよ!なんでいきなり!!」


 お母さんやお父さん、お姉ちゃんと電話するのに使わないきゃいけないし、この中にはぼくのハマっているゲームもいっぱい入っているんだ!今日だってこのあと家に帰ったらログインしてほう石集めないといけないし、フレンドにもハートを送らなきゃいけないんだぞ!!!


「タダとは言わん。礼ははずむぞ。」


 れい?そんなの、いらないよ!スマホなくしたらおこられちゃうじゃないか!


 ぼくのお母さんは本気でおこるとめちゃくちゃこわいんだ、おけしょうがドロドロに流れちゃうくらい泣いちゃって、おばけにしか見えなくなるし……。お父さんは何も言わずにじっとぼくをにらみ続けるのがこわいし……。お姉ちゃんはげんこつがこわいけど、今は上京して家にはいないから、まあ、大じょう夫だけど。


「たしかここに……。」


 あれ、マジックハンドがどこかへ引っこんで行ったぞ。やっとすがたを現す気になったのかも?……ちょっとまって、出てきていきなりスマホをうばわれるかも?!にげるじゅんび、した方がいいかも?!


「これをわたそう!」


 少しみがまえるぼくの目の前に、マジックハンドがのびてきた。ぼくの目の前にさし出されたのは、きたない紙ぶくろ……。なに、これ……。両手で受け取って、

 おそるおそる、中をのぞきこんで、みる……。


「先日拾ったものだが……交番にとどけ出れば一年後にお前のものになる!」


 なんかすごい札たばっ!!!大金!!!きたない紙ぶくろいっぱいに、一万円札!!!たまに千円札、五千円札!!!


 ええええええ?!はいいぃいぃぃいいい?!


 なんかヤバそう!!!ぜったいにもらったらだめなやつだ!!!返そう!!!


「ではそういうことで。」


 ブチ。 


 いきなり、ぼくの首から下がっているスマホをストラップごと、持って行かれた!!ああ、ストラップの金具が取れちゃったよ!!お姉ちゃんからもらったちょっといいおみやげのストラップ!!!夏休みに帰って来た時に見つかったらめちゃめちゃおこられる!!!げんこつグリグリのけいは絶対やられる!!!ひょっとしたらほっぺたびよーんのけいも追加されるかも?!


「ちょ!!ちょっと!!何!!こまる!こまるよ!!」


 札束の入った紙ぶくろを投げすてて、スマホをうばいとったマジックハンドを追う!!


 うばいかえそうとするけど、どこからかまた出てきたマジックハンド2号にじゃまをされる。なにこれ、一本だけじゃないの?!二本同時に動かしている?ものすごいテクニックを持っている人?!こんなの、絶対に大人だ!!しかも、人のものを勝手にうばう、悪い大人にちがいない!!


「ひどいじゃないか!!なにするんだよ!!!」


 あばれても、ぜんぜん手が、とどかない!!マジックハンド一号はぼくのスマホを手のとどかない位置でにぎりしめたままだし、マジックハンド二号はぼくの服をしっかりつかんで放してくれない!!


「どろぼう!!かえせ、かえせよっ!!」


 動けないなら仕方がない!大声を上げて、さわいで、ごみ山の近くを通りかかっただれかに助けてもらうしかない!!!わか草木小学校四年三組一の大声の持ち主であるぼくの本気のシャウトを、受け取るがいい!!!


「む……。男だったら細かい事言うな!!」


 どかっ!!


「うわっ!!!」


 マジックハンドが、ぼくを強く、おした。ただのマジックハンドなのに、なんでこんなに力が強いの?!ぼくはさっきつきそこなった、しりもちをついてしまった。あああ、おしりに土が!!!


「男女さべつした上に、ぼう力なんて!!!」


 いかりで、体がふるえる。


「ひどい……返せよっ!!」


 ぼくはおしりの土をはらおうともしないで、どこかに移動しようとしているマジックハンド一号めがけて、いきおいよくかけだした!!!


 ざっ、ザザっ!!!がさっ!!ガツ!!


 ごみ山を登り、にげるマジックハンドに近づき、何とか、おいつめる!よし、いける!手をのばせば、ぼくのスマホがうばいかえせる!!!


「わかったわかった。ちょっとまてって!!」


 マジックハンドの言うことをスルーして、むりやり、ぼくのスマホをうばいかえした!!それを、すぐさま首にかけ、すぐに、この場からにげ出そうと……


 ガッ!!!


「わあ!!」



 するっ・・かしょんかしょん・・・!!



 ストラップがちぎれていたのを、わすれてた!うばいかえしたスマホが、ごみの山てっぺんからすべり落ちて、すき間にはいってー!!


「あ゛ー!!!!どうするんだよ……こんなごみ山の中じゃ……もう、見つからないじゃないかー!!!」


 お母さんにおこられる!めちゃくちゃおこられる!またあの究極おばけがぼくの目の前に現れる!!夢に出る、おねしょする、またおこられる、またこわい顔見て夢に見て、またおねしょして……わああああ!!!!


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……!!


「うーむ。仕方がない。お前、ちょっと下がっていろ。」


 あせるぼくの目の前に、またしてもあのマジックハンドが現れた。

 ……どこから出ているの、これ。もうぼくには本体の行方を知ろうとする気力もわいてこない。ぼんやりしていると、マジックハンドがぼくの顔ごと、ごみの少ない、土の広がっているところへと、強引におしこんだ。


「おわっぷ……!!うわぁっ!!」


 パワーにおされて、どすんとおしりから着地する。ああもう!!二回目のしりもちだ、ぼくのズボンは絶対に土だらけだ、黒いズボンでよかったよ、ホント。


「そこを、動くんじゃないぞ?」


 動くなと、言われても?!マジックハンドがぼくの頭をぎゅうっとおさえつけていて、身動きが取れないんだけど!!!下がれと言ったり、人をいきなり移動させたり、なんなんだよ!!!


 マジックハンドの手のひらにつぶされた鼻をさすりながら、ななめ上に目を向ける。マジックハンド一号が、指を器用に動かしながら、ゆらゆらとゆれているのが見える……。



 ……コ、コツン!



 ごみ山のてっぺんから、何かが、転げ落ちた。



 ……?



 ゴ・ゴゴゴゴ……!



 なんだ?……地面が、少し、ゆれている?細かく、しん動している?



 ゴ、ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ……!!!



 ごみ山が、 ゆ れ た ! ! !



 カション!


 大きなプラスチックのかたまりが!!!あちこちでうき上がり、空中をビュンビュンと飛んでいく!!!



 シュルルルル……!


 こんがらがった鉄くずが!!!あちこちから飛び出してきて、空中にぐわんぐわんと集まっていく!!!



 グルルルルル……!!


 ゴムなんだかひもなんだかわかんないカラフルなやつが!!あちこちから出てきて、空中でぐしゃぐしゃと丸まっていく!!!



 ド――――――――!!!


 でっかいはぐるまが!!正直こわい!!土の中から、ごみの中から、太陽に照らされてキラキラかがやくギザギザの丸い板!!!



 ガガガガガガガガガ!!!


 細かいごみが全体的に動き出して!!!ぴたっぴたっと大きなかたまりにはり付いていく!!!



 キキキキキ――――!!!


 ごみが、部品が、次々とつみ重なっていく!!!



 バリバリっバババっ!!!


 たまに火花がちってるよ!!ねえ、火事になったりしないよね?!ぼくここから動けないんだけど?!にげられないんだけど?!



 ピーッピーッピーッ!!!


 小さめの音だけど、非常用火災報知器が反応してる!!ちょっと、これ消防車が来ちゃうんじゃないの?!



 ゴオォォォォォォオ!!!


 大きな、風が、ふいたっ・・・!



 ギュルルルルルルル!!!


 風にまう、小さなちりが、はれると、そこには・・・!!!





 ゴ――――――――!!!




 ごみの固まりが、でっかい、でっかい、ドラゴンに、なっているぅううううう!!!




「え……ええっ?!う……、うわぁああああああ!!!」



 見上げるほど、大きな、大きな、ごみのかたまりでできた……ドラゴン!!!


 長い首や体、しっぽ……あちらこちらに、さっきまで土の上に転がっていた部品?ホース?機械?がくっついている!!ところどころにつぎはぎのような部分があって、ガムテープで無理やりはり付けてあったり、はり金が飛び出していたり、ひび割れた部分にばんそうこうがはってあったり!!!何これ、ここのごみ山は、ぜんぶこのドラゴンだったってこと?!


「うーむ。」


 おどろき固まるぼくをおきっぱなしにして、でっかいごみのドラゴンは、めちゃくちゃ冷静だ!長い首をぐにゃりとまげて、土の上をきょろきょろと見まわしている。見上げる高さにある顔には、大きな目があって、ネジやガムテープ、ばんそうこうで部品がくっついている。頭のてっぺんには、でっかいぞうきんがのっかっていて……、口はないみたいだ。どうやってしゃべっているんだろう。どう体からは、さっきのマジックハンドが何本かうにょうにょと飛び出している。あれは、手だったのか!!!せ中には大きなつばさっぽいものがあるけど、ごみがごちゃごちゃしててよくわからない。


 ズズ、ズズズッ、ギャシャ。

 コロン、ぱららっ、パラ、パラ……。


 ドラゴンが長いしっぽ?を動かすと、小さなネジがあちらこちらから転がり落ちた。


「おおっ!あったあった!」


 少ししめった土の上に転がっているのは、ぼくのスマホ。


 ばたん、ぽいっ。


 ドラゴンは、ぼくのスマホをマジックハンドでひろって、むねのあたりにあるせんたく機のふたのようなものを開け、中に放りこんだ!


 ばたん!!!


「スイッチON!!」


 ぴ。


 ぐぉおおおおおおおん!!!



 はっ!!



「あ゛ーっ!!ぼくのスマホかえせよーッ!!!」


 思わず、見とれてしまっていたけれど!!!ぼくの、ぼくのスマホが、スマホが!!!あわててせんたく機のふたに近寄るけど、もうすでに中でグルングルンと回転してて、……ああ!!ロックがかかってる、開かないじゃないか!!!


「まあ、まて。」


 ふたに手をのばして中をのぞいていると、マジックハンドでまたしてもぼくの顔ごとおさえこまれて!!!ずるずると引きずられて、何もない土の上まで移動させられた。がっちりと頭や体をつかまれている、身動きが全然取れない!!!


 ぼくの持ち物を勝手にうばって、勝手に拾って、勝手にあらって!!!人の都合なんて全然気にしないでさ!!!ぼくがこのあとどんな目に合うかなんて、全然気にしないで好き放題やってさ!!!


 なんて失礼なドラゴンなんだ!!!なんてひどいドラゴンなんだ!!!こんなことになるなら、さっさと家に帰ってゲームをやればよかったよ!!!



 ピーーーー。


 がちょん。



 せんたく機から、レンジのチンみたいな音がして、ふたが開いた。その中に、マジックハンドを入れるドラゴン。ああ、あの中には、ばらばらになったスマホが入っているにちがいない。ぼくは、絶望した。


「ほれ。」


 マジックハンドが頭の上にのびてきて、目の前では何かがぶらぶらとゆれている。……これは?


「アレ?ぼくのスマホ?!」


 おかしなドラゴンに無理やりうばわれた、ぼくの大切なスマホ!!両手でしっかりとつかんで、じっと画面とうら側を確にんする……。画面にはちゃんと時間が表示されている、うら側にはパンのおまけのシールがはってある……あ、ストラップの取れちゃった金属のところが結んであるこれならいちおう、首にかけることはできそうだ!

 安心したぼくは、スマホがちゃんと使えるか、確にんしようと……。


「ちょこっと、部品を取らせてもらったのだ……。」


 なに?!どこをどう見ても、ぼくのスマホのまんまなのに、どこから、何の部品を、どれだけとったのさ!!もしかして、見た目だけキチンとしてて、実はまったく使えなくなってるとか?!


「部品を取った?!こまるよ!!使えなきゃ意味ないじゃないか!!」


 おこるぼくの前に、ニュウっとのびてきたのは、大きなドラゴンの顔!なんていうんだろう、すごくこまったような、それでいて開き直っているような、どういう目で、こっちをじっと見ている。


「大じょう夫だ。ちゃんと使える。」


「本当だろうね……。」


 見た目には、何もかわってないように、見えるけど。ちゃんと使えるかどうか、しっかり調べておかないといけないな。スマホの画面をしゅっとなぞって、いつもやっているゲームのアイコンをタッチ……、え……?


「ただし!!ゲームはできん!!」


 ない!


 ない!!


 ない!!!


 ない!!!!


 ない!!!!!


 ぜんぜん、ない!!!


 ぼくがこのスマホを手に入れた時から、毎日遊んでいたゲームのアイコンが、どこにもない!!!おもしろそうだなと思って入れておいたゲームのアイコンもない!!!あるのは……、検さく、電話、メール、カメラ、アルバム、地図、カレンダー、メモ帳、ちょっと待って、これだけ?!動画もないし計算機もない!!!いつもチェックしているサイトのリンクまでなくなっているじゃないか!!!


「はあ?!えぇっ?!こまる!こまるって!!!ぼくのハイスコアセーブデータ!!!集めまくったほう石!!仲良くなったフレンド!!お気に入りの動画に宿題お手伝いサイト!!どうするんだよ!元に、元にもどしてくれよ!!!」


 ぽかぽか!!


 パラっ……ぽと。


 ぽくぽく!!


 ぴーん、ぽろっ。


 目の前の無表情な顔に、げんこつをおもいっきりぶつけてやった!!!つぎはぎとネジだらけのドラゴンの顔から、小さな部品がぽろぽろと落っこちる。やわらかい部分はいいけど、かたい所をたたくと地味にいたい。プラスチックっぽい場所を選んで、ポカポカたたき続けることにした。


「まあ、まあ。そんな手のひらサイズの記録なんか気にするな、データなんか、知り合いなんか、またいつでも増やせる!!」


 ぐゎしっ!!ざ、ざざっ!!


 マジックハンドがぼくのかたをつかんで、ドラゴンの顔から引っぺがす。ふり上げた両手が、たたく場所をなくしてじたばたしている!!土ぼこりが足元にまいあがって、白いくつによごれがついた、ついちゃったじゃないか!!これもお母さんにおこられるやつだ!!!


「気にするよ!!!どうしてくれるんだよ!!ぼくの、ぼくのッ!!!」


 げんこつをおみまいしていた手の平をパッと開いて、いきおいよくパンパンとくつの土をはらいながら、言葉でいかりをぶつける!!あまりにも腹が立ちすぎて、自分の言いたい言葉が出てこないんだけど!!!


 ぼくのいかりはそうとうだ!!!


 ぼくが毎日……どれだけ努力してアイテムゲットしているのか知らないくせに!

 ぼくがずっと……どれだけ苦労してフレンド数を増やしているのか知らないくせに!

 ぼくが今まで……どれだけがんばってランキング入りしているのか知らないくせに!


 勝手に人のスマホを改造してさ!!なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ!!


 また一からやり直し?!今から二年分の努力を取りもどす?!レベルの低いキャラクターとフレンドになってくれる人なんかいない、今までの苦労は全部パアだ、これからの努力は実りそうもない!!


 また気になるアニメやゲーム実きょうの動画をさがす?!もう消された動画も結構ある、今まで集めた苦労はぜんぶパアだ、これからさがしても見つかるとは思えない!!


 顔が熱くてたまらない!!!

 体がふるえている!!!

 息がはげしくはき出され、こきゅうがみだれている!!


 マジックハンドでおさえつけつつ、こうふんするぼくの様子をななめ上から観察している、ドラゴン。やけに落ち着いているのがまたはらが立つんだけど!!!いかりくるうぼくをスルーするつもりか?!ゆるさないぞ!!


 思いっきり、つぎはぎだらけの、ネジだらけの、目玉の大きなドラゴンの顔をにらみつける!!!



 ひょいっ。



「へ?!」



 ぼくの体が、マジックハンドにつまみあげられてっ……!!!


 た、高い!!!地面が、めちゃめちゃ、遠くに見えるんだけど?!


「ヒャア!!!!」


 びゅぅんっ!!!


 風が、強くふいた!……ちがう、これ、ぼくがすごく早く移動してるんだ!!!おもちゃみたいなマジックハンドのくせに、ぼ、ぼくのこと持ち上げている?!ちょっと待って、ぼくは高い所はきらいじゃないけど、スピード感のあるものはちょっとだけ、苦手っていうか、なれていないっていうか!!!遊園地でも、ジェットコースターよりも観らん車に乗りたいって思うタイプでええええええええええええ!!!


 ずぐゎしゃ!!!


 ごみの山……ちがう、ドラゴンのせ中?首の根もとのあたりに、いきなりおろされた。おしりの下で、金属のパーツがつぶれるような音がしたけど?!おそるおそるおしりの下を確にんすると、つぎはぎのあるザブトン?の上にのせられているのが分かった。固いパーツの上に直接乗せないための、気づかい?やさしいといえばやさしいけど、そもそもぼくはひどい目に合っているわけで……!!


 あたりをきょろきょろと見ていたら、ドラゴンの首がぐにゃりと曲がって、大きな顔がぼくをのぞきこみ、太陽の光が反しゃした。


 ま、まぶしい!思わず、手で、光をよける。


「わたしといっしょにでっかい楽しみ……見つけに行こうぜ!!!」



 ゴ……コォオオオオ……!!



 ドラゴンがッ!!大きな体をっ!!ふるわせてえええっ?!



 バッ!!



 ぼくの両足の横あたりにある、でっかいつばさが!!ひろがってぇえええええええっ?!



 バラ、バラ、バラ、バラ……!!!



 大きなごみがつばさから落ちてっ!



 パラ、パラ、パラ、パラ……。



 小さなごみもつばさから落ちてっ!



 ばバッサ、ばっさ、ババッ!!!!


 ブ、ブゥわぁアアあああアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!



 つばさのおこした風圧で、土ぼこりがぶわああああああっとまいあがって、ぼくにおそいかかる!!!


 目に入っちゃいそう、ぼくは目をとじ、頭を下げた。風にふき飛ばされそう、何かつかめるようなもの……!!!うっすらと目を開けると、目の前に、赤ちゃん用の乗り物のハンドルっぽいものがある!!!迷わずにぎりしめ、体を丸めた!!!ぼくのかみが、風にあおられてばっさばっさとおどっている!!!じまんのかみ型が、もみくちゃだ!!!


 がしっ!!!

 がしっ!!!

 がしっ!!!

 がしっ!!!


 マジックハンドが四本、どこからかのびてきて、両足首と両かたをがっちりとつかんだ。なんだこれはと思った、しゅん間っ!!!!!!!!



 ゴオオオオオオオオオオオオ!!



「あひゃぁああああああああああ!!」



 ぶわぁああああっと、すごいあつ力がぼくにのしかかりっ!!



「うひぃぇええええええええええ!!」



 エレベーターの、何百倍もの速さで、急ふ上?!ちょっとまって、今ういてるよね?!うん、ういてる、すごい速さでうき上がってる!!!さっきマジックハンドで持ち上げられた高さよりも、もっともっと高い場所に、今、今、うかんでるよ!!!


 ぼくッ!


 ぼくッ!!!


 空、飛んじゃってるよぉおおおおおお!!!



 ぐんぐんぐんぐん、高さが増している。青い空が、よーく、見える。遠くの山が、よーく、見える。はるか遠くにある海が、なんとなく、見える。


 前を向いたら、青い空、白い雲。

 横を向いても、青い空、白い雲。

 上を向いても、青い空、白い雲。


 下を向いたら、屋根。公園。緑。川。道路。人。山崎さんちのムク。いつもなでてるノラねこの梅さん。……ぼくんち。ああ、どんどん小さくなっていくー!!!


「ひぃー……!!!」


 どんどん高い位置にうき上がっているらしい。いったい、どこまでうき上がるつもりなんだろう?


 ヤバイ!!ぼくんちが、あんなに小さく!!茶色い空き地は、ごみ山だな、ごみが全部ドラゴンになって飛び立っちゃったから、何もなくなって……ちょっと待って、大さわぎになったりするんじゃないの?!

 でも、通行人は全く気が付いていないみたいだ。さっきの大きな音にも、ものすごい風にも、いきなり無くなってしまったごみ山にも、まったく気づいていないらしい。どういう事なんだろう?


 すごく、すごく気にはなるけど!!!


 どんどん上に向かって行くこの状きょうに!!!


 ぼくはもう、ドラゴンに、しがみついていることしか、できなくてッ!!!


 いくらぼくが高いところが好きだと言ってもさ!!!限度ってあるじゃないか!!!

 明らかに観らん車よりも高い位置!!観らん車みたいに個室になってるわけじゃない!!!命づなも無ければ、パラシュートもつけていない!!!ここから落っこちたらいっかんの終わりまちがいなし!!!


 しかも、飛んでるドラゴンときたら、つぎはぎだらけで、パラパラと部品が落っこちて、今にも空中で分解しちゃいそうなゴミのかたまりでできている、ポンコツそのもの!!!


 いろいろとこわすぎて、身動き、できない!!にげ出せない!!助けをよぶ?!スマホで、けい察をよんで……、よんでも、どうやってここまで来るのさ!!!ああ、ぼく、完全につんでる!!!


 ひいいいいいいいいいいい!!!



「おいお前!名前は?」


「しゅ、しゅん、しゅんすけだよ!みんなはしゅんってよんで・・・っ!!」


 ハンドルにしがみついて、取れかかっているねじに集中しつつ、へ、返事を、する!!!下を見るのも、上を見るのも、どこを見るのもこわくて、言葉が出なくなっちゃいそうで!!!


「よーしシュン!!わたしはスクラップドラゴン……、SD(エスディー)とよんでくれ。仲良くしようじゃないか!」


 え、SD?変な名前……。


「スマホも少しもらったことだし、これも何かの(えん)だ!!」


「あげてないじゃないか!!取ったんだろ!!ぼくのデータ返してくれよ!!」


 いかりで少しだけ、こわさがふきとんだ。

 そうだ!!!ぼくは、ぼくの二年間の苦労の結しょうをこのゴミのドラゴンに……SDに全部、全部消されちゃったんだった!!!ぼくのじまんの、限定アイテムで着かざったアバター!イベントで上位入賞した時の記念メール!連日ログインのごほうびスタンプ!全部消えてしまったことが信じられない、信じたくない、信じてなるものか―――!!!


「シュン・・・そのデータとやらは、どれくらいの時間をかけて手に入れたんだ?」


「知らないよ!!すごく長い時間!!」


 このスマホをもらってから、毎日毎日、時間を見つけてはコツコツと努力をしてきたんだ!!!だいきらいな宿題もがんばって早く終わらせて、お母さんにおこられないように注意してさ!


「何時間かけたかわからないくらい長い時間、お前はたった一人で過ごしていたわけか。」



 !!!!!!!!!!!!!!!!


 ……そうだよっ。友達と、遊ぶこともなく、一人ぼっちで。……一人、ぼっちで。


「まあ・・・うん・・・。」


 遊ぶ友だちが、いないから……、仕方ないだろっ!!!


 みんな、じゅくに行ってたり、習い事に行ってたり!

 みんな、外でサッカーやろうって言ったり、公園に行こうって言ったり!

 みんな、いっしょにゲームで遊ぼうって計画立てたり!


 ぼくは、あんまりスポーツをするのが好きじゃないんだ。ボールをければ後ろに飛んで行くし、ボールを投げれば横のクラスメイトに当たるし、テニスボールやフライングディスクをなくしたことだって何度もあるし、なわとびはからまって一回もとべないし!!!おにごっこは永遠におにをやり続けることになるし!!

 うちには家庭用のゲーム機がないから、みんな来ないし、通信対戦もできない。ゴミの山に登ろうかって言っても、だれもいっしょに登ってくれなかったんだよ!


「そうか。それならば。今日からは、スマホゲームの時間分……、わたしと過ごすといい。」


「え……?」


 ちょっと待って、ぼくは毎日、こんな空高くにうかび上がらなきゃいけないってこと?!


 すーっ……。

 ぱきっ…、ゴリゴリっ……。

 すーっ……。

 ゴリっ、ぱきぱきっ……。

 すーっ……。


 ぼろぼろのボディのあちこちから、マジックハンドがたくさんのびてきたぞ……。スムーズにのびてくるものも、と中で止まってなかなか出てこないものも、のびるたびになんかパーツが落ちるものもいろいろと……。


 ……がしっ!!

 ……がしっ!!

 ……がしっ!!

 ……めしっ!!

 ……がしっ!!


 マジックハンドが、ぼくの頭と、体をしっかり、SDの体に、みっちゃくさせて!!おさえこんでっ!!!頭、両うで、こしと、おなかっ!!!がっちり前身、固定されてる!!!


 ……ポロっ!!!


 アアア、一本なんか下に落っこちていった―――!!!


 こ、こしの部分が何もなくなって、おなかを押さえていたマジックハンドがビヨンとのびる!!先たんが細くなって、ズボンのベルトあなを通り、くるっとぼくのおなかまわりを固定した!!!


「たーのーしーいーぞー♪ほーーーれぇ!!!」


 めちゃくちゃ楽しそうな声?!が、聞、こ、え……!!!



 ぎゅるん、ぎゅるるるるるん、ぐごごごごごん!!!



「うわぁああぁああぁぁあぁあ!!!」


 ぼくがきらいな、公園にある、ぐるぐると回る丸い遊具なんて目じゃないくらいにっ!!!!!


 ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんとっ!!!


 空中回転、してる、よぉおおおおおおおおっ!!!


 目が回る!!

 重力がかかりまくる!

 風がびゅうびゅうを通りこして、ガツンガツンと当たる!


 遊園地のコーヒーカップ?!そんなほのぼのとしたもんじゃない!

 遊園地のフリーフォール?!そんなていねいなもんじゃない!

 遊園地の二回転ループコースター?!そんな楽しいもんじゃない!


 ごりっごりの、暴力的なちょう回転っ!!!!


 何だろう、ぼく、全自動せんたくかんそうきの中にでも入ったみたいだ!!!いや、ちがう、それよしもはげしい回転にまきこまれている!!!


「もう、おろしてぇええええ!!!」


 ぼくは、SDに、お願いした。


「まあまあ、そう遠りょするな!空中散歩へレッツゴー♡」


 ダメだ!!!全然聞いてくれる、気がしない!!!

 うん、全然聞いてない!!!


 ぼく、無事に生きて帰ってこれるんだろうか、そんなことを思ったしゅん間、回転の重力が、ズルっと横にそれた。


 びゅぅんっ!!!


 右の方から、はげしい風が、一度、ふいた。ごみ山の上で、グルグルと回転していたSDが、まっすぐに体をのばして、青空の中を泳ぎ始める……いや、つき進む?!めちゃめちゃ早い、ねえこれ時速何キロ?!あっという間、あっという間にぼくんちが、ぼくの町が遠ざかって行く―――!!!


 ぼくは空中散歩に、連れ出されてしまったらしい!!!散歩?!散歩ってふつう、近所を歩く程度なんじゃないの?!こんな勢いで、めちゃめちゃ遠くまではりきって行くもんじゃないんじゃないの?!これ、絶対に散歩じゃないやつだ!!!


 ねえ、ぼく、どうなっちゃうの―――?!







「よーし、エンジン快調変形OK!!現在地のザ標34.107, 136.642、移動キョリおよそ211㎞!キョ点まで最高速度でおよそ20分!」


 ものすごいいきおいでぼくの町を飛び出したSDだったけど、ゆっくり飛ぶこともできるみたいだ。飛び立った直後はSDにもうスピードで連れまわされたけど、高いビルのならんでる場所をこえたあたりからだんだんとスピードがおそくなってきた。

 そよそよとした風を受ける程度の、ちょっと早いなあと思えるくらいのスピードでの飛行は、そんなに、こわくなくない。マジックハンドで固定されているから、少しくらいななめになっても、ひっくり返っても大じょう夫ってわかったことも大きい。とはいえ、やっぱり地面が頭の上にある状態ってすごくい和感があって、あんまり好きじゃないんだけどね。


 SDの運転?っていうのかな、それにも、だいぶ、慣れてきた。体を右にたおすと右側が下がって、左にたおすと左側が下がるんだ。体を前にたおせばスピードが上がって、後ろにたおせばスピードが落ちる。右を向けば右に曲がり、左を向けば左に曲がる。首を上に向ければ上しょうするし、首を下に向ければ下こうする。ぼくの体の向きに合わせて、方向転かんをしてくれるみたいだ。自由に動かせることが分かったら、遊園地のバッテリーカーみたいでかなり面白い!!!ぼく、あの車を運転するやつが一番好きなんだよね!!!


 自由自在に動かせるようになったSDのせなかで、ふと、まわりを見わたすと。


 わぁ……!いつの間にか、海の上だ!


 スゴイ、足の下が、ぜんぶ海だ!!!きれいだな……、ひろいな……、すごい!!!海って青くないんだ、ちょっとびっくりだ!少しはなれたところに、船がいっぱいならんでいるのが見える。あれは……なんだろう、遊園地みたいなものが見える。すごく大きな船も遠くに見える。船って乗ったことないんだよね。いつか乗ってみたいなあ。たまに海の中がきらきら光っているのは何だろう?魚でも泳いでいるんだろうか、近くで見てみようかな?


 海ってほとんど行ったことがないから、すごく、おもしろいや!


 ……そうだ!ちょっと海の水、さわってみようかな!せっかくここまで来たんだし、本当に海の水がしょっぱいのか、確かめてみよう!!!


 速度を落として、頭を下げ、海面に近づいてみる……。


 ぼちゃん、ぼちゃん。


「ん?」


 ぼちゃん、ぼちゃん??


 波の音にしては、ちょっと、なんだか、ちがうような……。


 音のした方を、見てみる……。



 げえ!!!!!



 なんか、いっぱい、おちてるー!!!


 長いしっぽのあたり?!おなかのあたり?!つばさのあたり、首のあたり……!!! SDの体のあちこちから、ねじやばね、変なパーツが、ぼちゃぼちゃと海の中に落っこちてるよ!!!ちょっと、これってまずいんじゃないの?!こういうの、かん境破かいっていうんだよね?!というか、いきなりバラバラになって落っこちたりしないよね?!


「SD……なんかいっぱい、落ちてるけど、大じょう夫なの。」


「ん?あー、ねじが色々さびてるからな。まあ、大したことはない。鼻くそみたいなもんだ。」


 いらないパーツなのかな?じゃあ、まあ、いいか……。広い海だし、小さいパーツくらいなら、気にしなくてもいいのかな……。でも、ちょっと、悪い事をしている感じがして、あんまりいい気分では、ない。だって、ゴミなんでしょ……。ぼく美化委員だし、こういうの、結構気になっちゃうんだけど。


 でもなあ、海に落ちちゃったら拾えないよね。もう海の上飛ばない方がいいんじゃないのかなあ。いや、ちょっと待ってよ、町の上でもいろいろ落としてきたにちがいない、人に当たったりとかしなかったんだろうか、いったいどれくらい落としてきたんだろうか……うわあ、心配になってきたぞ!!もう帰った方がいいんじゃないの?!


 飛んできたルートを引き返そうと、真後ろを向くために、目の前のハンドルからかた手をはなして、せなかのパーツをつかんだ、そのしゅん間!!



 ぼろっ。



 は、はいぃいいいいいいいいい?!


 ぼ、ぼぼぼぼぼぼくの右手、右手に!!!めちゃくちゃ大きなパーツ、パーツが!!!ちょっと待って、電げんコード?がぬけた?!緑色に光ってたライトはプツンと切れて、変なしん動が止まって、止まってええええええ!!!時計みたいな表示が消えちゃったけど?!セ、せなかの方で、バチバチいってる音が、音がああアアアアアアア!!!!


「なんか取れた!!!重要そうなやつ!!取れたああ!!!」


 これ!!これやばいんじゃないの?!気のせいか、なんか太もものうらあたりが熱くなってきた気がする!!!ねえ、なんか、こげくさいにおいがしてるんだけど!!!


「まさか……落ちたりしないよね?!」


 これ、取れたから、つい落とかないよねええええええええ?!

 これ、付け直さないと、ばく発するとかないよねええええええええええ?!


 ぼく、こんなの、直せないんだけど?!


「大じょう夫。落ちたら拾い集めればいいのだ。なんとなくまた使える。」


 ちょ!!!!!!!!!!!


 落ちる事決定?!拾い集める?!なんとなく?!ねえ、バラバラになるってことだよね、なんとなくってことは完ぺきには使えないってことだよねえええええええ?!そもそもぼくが一番気になっているのは、落ちた部品の話じゃない!落ちた後の話じゃないんだよっ!!!ぼくが無事ですむのかどうかだってば!!


「……ぼくはどうなるの。」


 めちゃめちゃ冷静に、つぶやく、ぼくがいる。あれだね、人間っていうのは、本当におそろしさを感じると、ものすごーく、落ち着いちゃうんだね、うん、たぶん、そういう事だね、きっと。


「ま、こんな感じ?」


 ぼくの目の前に、ひびの入ったタブレットがでてきた。マジックハンドの先たんが、タブレットになっているみたいだ。


 PART1!!!


 画面には、飛行中のSDとぼくの姿がうつっている。順調に飛んでいるSDから、細かいパーツが落っこちて、中くらいのが落っこちて、大きいのが落っこちて……空中分解した。海にバラバラにうかんでいるパーツを、マジックハンドがかき集めて、トンカチなんかで無理やりくっつけている。その横に、ぼくが大きなパーツにしがみついてうかんでいて……うん?!でっかいサメが現れて、パ、パク―――――――――――――!!!


 GAME OVER!!!


 は、ハハハハハハハハハハはいぃイイイイイイイイイイイイイイイ?!


 PART2!!!


 画面には、飛行中のSDとぼくのすがたがうつっている。順調に飛んでいるSDから、細かいパーツが落っこちて、中くらいのが落っこちて、大きいのが落っこちて……空中分解した。地上ににバラバラにうかんでいるパーツを、マジックハンドがかき集めて、トンカチなんかで無理やりくっつけている。その横に、血をふき出した少年の姿がうつし出されてるんだけど?!


 GAME OVER!!!


 ちょ!!!!!


「食われたら終わるな。地上ならまあ、何とか?まあ、治るさ。大体は。今の医学はすごいからな。おそらく。たぶん。きっと。治ってほしい。治ると信じたい。信じていればあるいは。」


 どっちにしてもダメなやつだ!!!!!こんな、こんなあぶない物体にぼくは乗っているという事?!


「おろせ!!今すぐに、だーッ!!」


 マジックハンドで完全に固定されている体で、思いっきり暴れてだっ出を試みる!!!暴れてるから、飛行状態もおかしなことになって、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、上に行ったり下に行ったり、ひっくり返ったりすい直落下したり―――!!!

 暴れるぼくを、別のマジックハンドがのびてきておさえこむ!!!このマジックハンド、いったい何本あるの!!!


「まあまあ、落ち着け。ジョークだ。今のところ。」


「今のところ?!じゃあもうじき本当になるって事じゃないか!!!!!!!!」


 うググ、マジックハンドにグルグルまきにされて、身動きが取れない!!このままじゃ、ぼくはサメのごはん……いつの間にか地上の上だ、ああ、バラバラになるしゅん間が、近い!!!

 ああ、ぼくまだしもふり和牛のステーキ、一回も食べた事ないのに!!世界三大ちん味、一つも食べた事ないのに!外国、一回しか行った事ないのに!北海道も行ったことないし、沖縄にも行ったことないのに―――!!!


「自動ソウジュウオン!リカバリーシステムオン!スペシャル高速運転スタート!酸素セット!キョテンまでおよそ六分!」


 ぐゎぁアアアしっ!!!!ぎゅるんぎゅるんぎゅるんぎゅるぎゅる!!!


「へっ」


 ぼくにグルングルンにまかれたマジックハンドが、いっしゅんびよーんとのびて、全部取れたと思ったら!!!SDのせなかをかかえるように、ぴったりとくっつくようにして固定され、その状態でマジックハンドがグルングルンとまき付いて!!!指一本動かせないくらい、がっちりと固定……しばりつけられてるじゃないか、これ!!!頭までグルグルで、顔の部分だけが出ている……なんかのびてきたぞ、空気が出てる?とう明なボウルみたいなものがぼくの顔にかぶさると!!!


 キン、キンキンキンキンっ!!!ばきっ!!!キン、キンキンキンキンっ!!!ぼきっ!!!キン、キンキンキンキンっ!!!バラ、バラバラっ……!!!


 つばさが変形しているのが見える!!!顔が動かせないから一部しか見えないけど、広がっていたつばさが、シュッとしたひれみたいになってるみたいだ!!!時々、聞こえてはいけないような破かい音が聞こえるのがめちゃめちゃこわいんですけ


 シュゥウウウウウウウウウウウウウっ!!!!ドビュバアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!!!!!!!


 も、ものすごい、重力!!音!!!ひ、ひええええええええええええ!!!!


 ぼ、ぼくは!!ぼくはぼくは、ぼくはあああああああああああああ!!!!








 げっそり。


 アレからどうにかごみ山に帰ってきたぼくは、つかれはてちゃって、ごはんもあんまり食べられなくて。

 お母さんに変な顔されちゃったよ。

 あーあ、からあげだったのにな。


「なんかもーすっげーつかれた・・・あ゛ー、でも。宿題・・・やらないと。」


 大きらいな算数・・・。

 でも、もう、気力が・・・。

 ぼくは、勉強机に、つっぷした。


 ピ、ピピピピ・・・。


「ん?」


 スマホがなってる・・・『わったしはSD♪すっげぇごみの竜なんだい♪』


 ふひゃぁああぁああああああ!!!

 何!!この変な歌は!!!

 しかもものすごいおかしな音ていだ!!

 オンチってこういうのの事言うんじゃないの?!


 おそろしい音を消すために、スマホに出てみる。

 SD?


「おー。ちょっとテストだ。ふんっ!!」


 スマホ画面から、ちっちゃいSDが、出て、キター!!!


「うはぁ!!なんかでたっ!!!」


 しゅ、しゅしゅしゅっ!!びよ、びよよよよ!

 おしり?しっぽ?スマホ画面からつながったまま、立体的なSDが飛び出てる!!


「よーし!大成功!さすが私だ!」


「な、なにこれ・・・。ど、どうなってんの、これ・・・。」


 ぜんぜんしくみがわからない!!立体えいぞう?まさか?!


「その質問に答える前に、確認したいのだが。」


 ぼくの目の前に、黒板?みたいなのが出てきた。

 ナニこれ、ゲームのステータス画面みたい?

 よくアニメでみる、アレとよくにてる!!


 ∫[0→∞]e^(-x)*xdx=?


 見たことない記号?が、画面にうつった。


「この問題の解答を、求めよ!」


 SDがえらそうに問題を出した。

 ・・・これ、問題なの?


「え?なにそれ?もとめよ?イコール?えいご?さんすう?」


「わからんのか・・・。ならば、説明をしよう。」


 ∫[0,∞] xe^(-x) dx

 =lim(A→∞)∫[0,A] xe^(-x) dx

 =lim(A→∞) [-xe^(-x)][0,A]+∫[0,A] e^(-x) dx

 =lim(A→∞) [-xe^(-x)-e^(-x)][0,A]

 =lim(A→∞) -A/e^A-e^(-A)+e^0

 =lim(A→∞) -A/e^A -lim(A→∞) e^(-A) +1

 =lim(A→∞) -A/e^A -0 +1

 =1-lim(A→∞) A/e^A

 =1-lim(A→∞) 1/e^A

 =1-0

 =1


 ???????

 なにいってるんだろう???

 じゅもん?

 まほう?

 答えは1なの???


「数字や言葉を知らんやつには、たしざんは解けない・・・。赤子に1+1を聞いたところで「んまー」しか言わんだろう。」


 赤ちゃんが話したらこわいよ!かわいいけど!!


「それはわかるな?つまり・・・。今現在のお前も同じような状態なのだ!!現在のシュンの知識では、私の話を理解することは不可能!!」


 という事は、そのうちりかい、できるようになる?

 うそだあ・・・。


「ということでだ。あまり仕組みを理解しようとせず。とりあえずすごいと認めて。この現実を受け入れるのだ。」


 うけいれるもなにも!


 すごくうごいてるよ!

 スマホも動いてるよ!!

 SD本体が動かしてるの?!

 まほうだとしか思えないよ!!!


「そして今すぐ寝ろ、明日は五時起床だ。」


「は、はい?!」


 なにそれ!!むちゃくちゃだ!!


「やばい部品を落とした。明日探すのを手伝ってくれ。」


「ヤダよ!今から芸人スペシャル見るんだか「宿題がまだのようだが。」」


 SDはかってににぼくの勉強机の引き出しを開けた。

 うわぁ!!そこにはぼくのっ!!!


「そしてテストの結果も芳しくない・・・と。」


 人のテストを、点数の低すぎるテストを、見るなああああ!!!


「わぁ!!やめろっ!!・・いいんだもう!!ぜんぜんわかんないし。だいたい数字なんか大きらい・・・」


「バカヤロウ!!」


 どかっ!!

 スマホの立体えいぞうに、なぐられたーーーー!!!

 うーん、どういうしくみ・・・?


「いいか。できなくてヤケクソになっているお前に教えてやる。算数なんてもんはだな!!単純なもんなんだよ!!」


 うそだ!!ぜんぜんわかんないよ!!!


「めしを見ろ!!人が食ったらくさい物体に変化だぞ?!ありえねえ!!」


 うんこと数字をくらべるのって、ありなの、それ・・・。


「その仕組みに比べたらだな、数字のあれこれなんてもんはハナクソ以下だ!!これから毎日算数のこつを教えてやる。」


 教えてもらって、できるように、なるのかな?

 だいたいぼく、かけざんすらあやしいんだ。

 かけるのいみが、よくわからない。


「その代わり、毎朝五時起床な。」


 ねんをおすように、ぼくのはなをおすと、SDはぼくの宿題を、見てくれた。

 ぼくは一年生いらい、初めて宿題を、全部やることが、できた。


 これから、ぼく、変わっていけるかなあ?





 チュンチュンと、鳥がないてる。

 朝だ。

 目ざめは、さいこうに、わるい。


 朝一であのオンチ歌を聞かされて、とびおきた。

 目はさめたけど、気分はよくない。


 ばたんとドアを開けて、そうじ道具一式を持って外に出ると、新聞はいたつのお兄さんがいた。


「あれっ?おはよう!」


「お、お・・・おはようございます・・・。」


 早おきになれていないぼくの声は、ちょっと変なことになってる。


「そうじかい?えらいなぁ。これ今朝の新聞ね、ハイ!」


「ありがとうございますぅ・・・。」


 新聞をげんかんにおいて、ぼくはごみの山に、むかった。





「うーん、ここらへんにあるはず。」


 ねじといっても、あちらこちらにばらばらと落ちてて、どれがいる物で、どれがいらない物なのか、ぼくにはさっぱりわからない。



「おっ!これだー!このねじ!おぉー!」


「見つかってよかったね。」


 じゃあかえってもうひとねむり・・・ふぁあああ・・・。


「バカヤロウ!!」


 どかっ!!

 朝から立体えいぞうパンチ、もらっちゃったよ!!

 がんばって早おきしたのに、ひどい!!


「ほかにも何か落としているかもしれん!キリのいいところまで掃除&お宝探しだ!!」


 きらーん!

 立体えいぞうとは思えない、このそんざいかん。

 だめだ!!とてもさからえる気がしない!!


「は、はい・・・。」




 ちょっといろいろ大変だけど。

 一人ぼっちでゲームをしていたあのころよりも。


 なんだか。




 たのしい・・・かも!




「SD!これ、使える?」


「おぅ!持ってけ!!」


 いつの間にか、そうじと、お宝さがしに、む中になっちゃってたのは、SDにないしょにしておこう。


「よーし、セット完了!!」


 ピー・・・。


 SDはスマホから本体にいどうして、部品のチェックをしたみたい。

 さがし物見つかってよかったね!

 お宝見つかってよかったね!

 じゃあ、そろそろぼくはこのへんで。


 まだ六時だからね、家かえってテレビでも見よう・・・


「それでは、さっそく。」


「……さっそく?」


 ぼくのあたまと体が、マジックハンドで、固定されてええええええっ!!!!


「テスト飛行に、レッツ!ゴー!!!」


「うわああああ!!今日はとばなくて、いいってばああああああああああ!!!」


 ぼくの体は、SDといっしょに、空めがけて、とび出した!!




 ぼくの家の前にはすごいごみの山があるけど・・・。

 これからはたぶん、時々、みはらしがよくなるはずだ。



 君の住む町に、変なねじが落ちてないかな?



 ひょっとしたらそれは・・・。


 SDの落し物かも、しれないよ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 的違いな米ントをしてしまい反省の意味を込めて昔の作品を拝見させていただいていたのですが凄ぇーいい作品ですね!。 この感じ結構好きです。 [気になる点] ゲームの出来ないスマホよりも、しゅん…
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