ヤクザさんも大変だ。
恐怖(ヤクザさんサイド)
「ふぅ…バース(支配人)よ…とんでもねぇのに手ぇ出しやがって…」
短い交渉だったが、大兄貴の疲労度は尋常じゃねぇな。なんでも尻尾連中が…尻尾っていうのは下っ端。構成員を夢見るチンピラ共さ。まぁ。俺も最近まではそっちにいたがね。
そいつらが、空き巣に入ろうとして呪いか何かで動けなくなっちまったとか。客が来る前にどけなきゃ不味かろうと兄貴たち二人が迎えに行ったんだが、駆け込んできたのは支配人のバース。なんでも兄貴たちがピンチだという…こいつはてめぇの所の客を襲わせ手数料を取る屑野郎だ。
「い、いえ、こいつらが…わ、私は約定通りに…」そう言って尻尾を指さす屑。
「耳に入れたのはてめぇだろうが…まぁいい。その二人も連れてこい。それなりの落とし前付けてもらわねぇとな。うちの構成員二人無駄死にしちまった。」
あ~あ。死んだな。こいつら。
「ひぃ!」「た、たすけてくれよぉ~兄貴ぃ!」
「お前らに兄貴なんて呼ばれる筋合いはねぇよ。連れてけ」「へい!」
「しかし、兄貴!良いんですかい!このままで!」
「そうですぜ!俺らの顔に泥を…」
「そいつらの顔見て見な。ちょっとやそっとじゃビビるやつらじゃねぇ。一家の為なら喜んで死ぬ奴らだ。お前らだって知ってるだろう?」
…兄貴たち…どうしたらこんな…恐怖で引き攣った顔、目が半分とびてるくらい見開いた目…歯も砕けるほどに結ばれた口…何より恐ろしいのは目や鼻、口…耳からも血を流して絶命している。こんな死に顔見たこともねぇ。失禁の跡も見られる…
「あ…」「どうしたらこんな…」
「あ、兄貴…」「兄貴?」
「”死”よりひでえもんでも見せられたんだろうさ。」{…。}
「しかし兄貴…」
「オヤジになんて。」
「はぁ。しょうがねぇなぁ。ここだけの話。他言無用だぞ。相手は”悪魔”さ。それも教会にたむろってるような連中とは桁違いな力を持ってる…お前らには感じなかったかい。”恐怖”を。俺なんか、目が合った瞬間死んだと思ったさ。ほれ、今でもこのとおりだ」
悪魔?大兄貴の手には鳥肌が見て取れる。俺たち裏の者じゃぁ常識となっている。ゼクス教会の連中は悪魔ってな。よく”注文”もいただける。お得意様だ。何とは言えねぇがな。
「ダンジ。お前ならわかるだろう?」
ダンジの兄貴。抗争の時もいつも先頭に立つ武闘派で皆が尊敬する兄貴分だ。
「へぇ。兄さん。ぜってぇ手ぇぇ出しちゃならねぇ相手だ。まぁ、死にてぇ奴は止めねぇがな。」
「そういうことだ。手出し無用。我が一家は手ぇ出さねぇ。若い連中にも徹底しておいてくれ。親父には俺が話す。」
{へい!}
「兄貴、バースの野郎はどうしやす?」
「放っておけ。客人が”頂く”と言っていただろう?そういうことだ」
「…へぇ?へい。」
「た、助けてください!たす…うぐぅ…あ!お願いぃいいいでぇげぇえはぁ!」”ばたん!”
「げ…」「し、死にやがった…?」
…なにか見えたのだろうか?…ってか怖ぇえ!本当に死んじまった!
「これでわかったろう。手ぇ出すなよ?口外も無用だ。そこの女、お前もだ。」
{へい!}「は、はい。」
…本当にこんなことが…俺もここについたときから妙な胸騒ぎ…感覚があった。コレが”死”の感覚なんだろうな…しかも絶対踏み込んではならねぇ…
「ん?ラルよ。お前ぇも感じたかい?その感覚忘れんじゃねぇぞ?」
「は、はい!大兄貴!」…忘れたくてもってやつだ。
この件以来、何かと大兄貴が目をかけてくれるようになった。親父にも声を掛けられたり…こういう感覚を持つものは他の組織でも重宝されるらしい。しかも遭遇し、心に恐怖を刷り込まれた奴は特に重用されるという。こういった事例で真っ先に身を、組を引くことができるからな。 <完>
「おお!こういった宿の方が落ち着くね。」
「爺臭いわな。ウルフは。」
「はあ?”勇者”様式っていうんだぞたしか?お高いんだぞ?たぶん?」
「そうなの?」
「ふくくく。正式には”和式”というそうだ。黒目黒髪の勇者様の古い文化だそうだ。もちろん高級宿の部類に入るな。」
「へぇ。流石お師様。物知りで。」
「だが食事…和食というのは期待できぬであろうな。まぁ、ワインに合わぬ料理が多い故、普通の食事で良いがな。」
「ふ~ん。一回食べてみたいなぁ。」
「そのうちな。だが、エルフ族のような野菜多めの食事だぞ?」
「…俺っちは遠慮すらぁ。また痩せちまう。やっぱ、肉だよ肉。」
「ふくく。では食事をとって休むとするか。良い風呂があると良いな。」
「!そうだ!風呂、風呂ぉ~!」
ヤクザさんに案内されたお宿。とても奇麗で食事も美味い。しかも風呂!すごく大きい!魔導具で一年中いつでも入れるとか。ちょっと前まで風呂なんか入ったことすらなかったのにね。井戸よ井戸。流石に川はねぇ…なんでもドでかいスライムに飲まれるとか?まぁ、噂だけどね。お風呂一つとってもお師様に付いてきてよかったと思うくらいだ。
でも…もうあの生活には戻れない…発狂してしまうだろう…せめて捨てられないように。絵で食べていけるように!ね!
街中を散策するときもレジンさんが付いてきてくれる。少々ウザったいが…お師様は眼中にないのか、気にも留めない。まぁ、人じゃないし?関心ないものはそこらの小石みたいな感覚なんだろうね…
なんとなくお師様の言うことも理解できて来たと思う。自然にない美しさ。人の工夫。技。ここ三日間は、町の通りに面した空き店舗を借りて創作に励んでいる。
ヤクザさん便利だわ~道でイーゼル広げたらすぐにレジンさんが数カ所の空店舗。テラス付きを案内してくれた。町のはずれ。境界の場所がウルフの琴線に触れたようで決定。
…こういうの好きだからねぇ。彼は。俺っち…普段は私で良いわね。キャラ作ってるのよ。これでも。おっぱい小さいのは…うん。仕方ない。まぁ、女の孤児なんか碌な目に遭わないし。孤児仲間も体売って一時は羨ましい生活してたけど…変な病気でほとんど死んじまったわ。当時はどっちが良いのかって真剣に悩んだものだわ。まぁ、結果大成功だけどね。で、そんな私には暗いのはもうたくさん。賑やかで明るい町があればいいわ。未来は明るい。そう思わせてくれるもの。
それぞれ創作活動中。その間、お師様はジッと私たちの手元を見てらっしゃる。特に指導することも無い。その日の終わりや、完成した時に批評してくれる形だ。たまにお師様も筆を走らせるが…確かに上手だ。だが…なんというのだろうか…図鑑の絵のようだ。印象に残らないが資料としては価値のある…というような…表現が難しい。
「以前、言った意味がこれでわかろう?」
「はい。生意気言いますが、図鑑の絵のようです。」
「ふむ。それが一番近いだろう。資料としての価値はあるが、心には刺さらぬ駄作。」
「すいません!」
「気にすることも無い。我も十二分に承知しておる。故に欲するのであろうな。」
普段は威風堂々。困難なぞどこ吹く風、人の魂を抜くのも片手間なふてぶてしいお師様の陰のあるお顔。きっと満足させる…お師様の心を動かす…あるかは知らんけど?…ははは。そんな作品を必ず描く!今ここに誓う!御恩返しになればと…
「…なんで、町が墓場になってるのよ…」
ウルフの絵…怨念渦巻く墓場と化しているのだが…
「ふん。いいんだよ!これで。感じるんだ!恨み、妬み”ぽこん”あ痛!」
丸めた紙でお師様に叩かれるウルフ。…ざまぁ!
「そう感じるのも良いが…明るさ…希望なぞは一条もないのか?」
「ふくくくくく!もちろんありますとも!小さいですが!これで対です!まだ途中ですけど」
半分くらいの紙を出すウルフ。考えているわね…って、ふくくくって…お師様の真似?あんた”悪魔”になりたい訳?
「どれ…ほぅ。面白い作品になっているな…あえて希望を半分に…これだけでもこの町の様子を如実に表しているな。」
「それと、どうせユーホのこと!能天気な希望溢れる白い街並みを描いてるでしょう!その3作をもって作者違いの連作になるでしょう!ふくくく!」
「うっさい!失礼ねあんた!」
「ふむ…面白いかもしれん。くふふふ…」
「お師様ぁ…」




