出会い。
用事を終え、帰宅…
「まぁ、許しも得ているし…折角こんなところまで来たのだ…」
と足を延ばしてみることに。初めての土地での、新たな出会い…それは?
さて。折角ここまで来たのだ。魔王様に呼ばれるまで、ここらで遊ぶとするか…聖王国とやらも一回行ってみたいものだな。馬どもも一応は、皮をかぶせておくか…ふふふ。中々に馬車の旅も良いものだ。
王都を出て街道沿いに馬車を走らせる。帰りは一瞬。しかし、行くのは己の足で行かねばな。魔王様から下賜されたワインもまだある。のんびり行くとするか。
王都を出てしばらく。呼ばれる気配もない…ひょっとして忘れられているのか?…むむむ…。
まぁよい。良いようにとらえて、邪魔が入らないということにしようか。五月蠅い小娘もおらぬしな。ふむ。中規模の町…か。寄ってみるか…
「なぁ、おっちゃん。なんか買ってくれよぉ。似顔絵だってちゃちゃっとかけるよぉ。こんな何もない街、記念にどうよ!」
町に入ってすぐに、孤児、浮浪児に声を掛けられる。己で描いた絵を広げ、似顔絵描きでもしているのだろうか?…ほう…なかなか緻密な絵ではないか…しかも、炭絵か…濃淡も良く表現できている…なかなかの感覚ではないだろうか。
「少年。これはお前が描いたのか?…なかなかに面白い画風だな。」
「おっちゃん、絵に詳しいのか?」
「ふむ…少年。私は多少は筆を持つが、人の書いたもの…そこにあるもの。内面的なもの…その絵の世界に浸るのが好きでな。そうそう、家族はいるのか?」
「俺っちは、天涯孤独。今は、この炭で書いてるんだけど…絵具ってのあるんだろう?一回使ってみたいな…んなことより、一枚買ってくれよぉ~今は、絵具より、食いもんだ。弟分がピンチなんだよぉ~お願い!紙は手持ち無いから、旦那が買ってきてくれると…」
なるほど…見本は端切れ。裏紙。客が付けば、紙は買わせるのか。よく考えてるな。いや、これしか”無い”のだろう。よくもひったくりなどに堕ちていないものだ。それなりの”誇り”を彼は持っているのだろうな。面白い…よし。
「ふむ。どうだ少年。私の下で”絵画”を学ばぬか。飯だけは保証してやろう。」
「はぁ?おっちゃん、画家か?そんなふうには見えないけれど…」
「私か?私は、人ではない。少年の知る言葉だと、”悪魔”と言うモノだ。私が描いたものには心が入らぬ。もとから無いのか、業なのか…であるから、援助をして少年、其方の”実力”を上げようと思っておる。なぁ~に、其の方の魂をどうのこうのする気は全くない。作風に惹かれたということだ。いわば原石…少々磨いてやろうとな。」
「…はぁ?”悪魔ぁ”?おっちゃん、頭大丈夫か?悪魔って人をたぶらかし、魂食うんだろう?」
「まぁ、そうだな。そういった者が多いのは事実だ。だが私は、”絵画””書画””彫刻”…美術全般に興味があってな。偶々通りかかったところで少年、お前に出会った…というところだ。どうする?まぁ、無理にとは言わぬ」
「う~ん。食うに困ってるのは事実だ…生活環境っても、クソみたいなもんだしなぁ。」
「それなら、よかろう?何を悩むことがある?飯と、魂に触らぬことは約束しよう。」
「まじ”悪魔”かぁ…な、ことないよな…?おっちゃん頭、変だぞ。そうそう、この絵を見てくれよぉ。どうかな?」
ほう…。これもまた趣があるな。目が良い。そう、心の目というべきか。
「ふむ…宗教画か?いや、肖像画か?まだまだ稚拙だが…ふむ…念は宿ってるのを感じる…少年、この絵を描いたものは…そうだな、人の正邪を見極める…か?」
「っげ!ほんとにおっちゃん…”悪魔”か?良く分かったね…そんな風に言った人、今まで居なかったよ。こいつも一緒に良いかな?弟分なんだ。」
「ふむ?ついて来ると?怖くないのか?くふふふふ。」
「う~ん…怖いっちゃ怖いよ?本物だったら。でも飯食わしてくれて、絵教えてくれるんだろう?”魂”も触らないっていうし?それよか、このままじゃぁ、あと数日でかっぱらいかなんかで捕まって鉱山送りさ。」
「うん?まだ未成年だろう?」
「こんななりでも、一応は、成人してるんだよ。ほら、食うもん食わないとってやつだ。その絵描いたやつもそろそろやばい。なら、話は簡単。飯食わせてくれ!」
「ふむ。簡潔でよろしい。私は直接指導はせぬ。何も籠っていない駄作しか描けぬからな。その代わり、多くの技法や作品を見せよう。何か感じられるはずだ。勿論、今のスタイルのまま精進しても良い。」
「それじゃ、世話になるよ、おっちゃん…師と呼んだ方が良いか?俺っちは、ユーホルティアっていうんだ。ユーホって呼んで。」
「ん?少年?まさか、其の方は、女…か?」
「あ…まぁ、どのみちバレるわな。そういう事。女はダメかい?こんななりでも女として見てくれる?お師様♡」
「…そういうのはいらぬ。やる気があればどっちでも構わん。もう一人の方は、弟分と言ったが?」
「そっちは間違いなく弟分。男だ。じゃ、案内するよ。店畳むね。」
「下がれ…”収納”…これで良かろう?」
「…まじ…まじもんですか?お師様?」
「私は嘘は嫌いだ。故に揶揄いはするが嘘はつかぬ。が?」
「…やべぇ!これって悪魔と”契約”?」
「くふふふふ。なに?魂をかけての”契約”がしたいのか?」
「いえ…結構です。しないと飯無し?」
「くくく。構わん。飯ぐらい食わせてやる。ただし修練は怠るなよ。いずれ、私を唸らせる一枚が描ければそれでいい…」
「わかった、よろしく!お師様。」
「おーーーーい!ウルフ!ここ出るぞ!」
「こほ。こほ…騒がしいね…ユーホ…」
「ちょっと訳あり…だけど。パトロン?後援してくれる人を捕まえた!」
「そんな、アホなこと…本当なの?…落書き程度の…僕は足手まといになるし…行って。」
「バカ言うなよぉ。一緒に行こう。お師様!」「……!!!!!!!」
「ほう。良い感覚だ…良い目を持っているな。」
「ゆ、ゆーーーーーほぉ!不味いって!」
「落ち着けって!”悪魔”の…?…まぁ、後援者のお師様だ。」
「…其の方…一度どこかで”悪魔”に会っておるな…その病…気の消耗…その者の呪縛か?」「!!!」
「う、ウルフ?ほ、ほんとう?」
「まぁ、良い…話せば魂をいただくとでも言われているのであろう?さぁ、すべて話してみよ…何。恐れることはない…其の方も既に私の生徒…だ。」
「そ、そんなこと言っても…」
「ユーホにも話してある…飯と、絵を見る機会は先にやろう。多少の技法も授けることもできる。代価は、お前たちが死すまでに私に感銘を与える作品を。最低一作品残せ。お前たちの”存在意義””生きてきた証明”となろう?」
「も、もし描けなかったら…」
「やってみないと分かんねぇだろ!もう弱気か!男だろうが!」
「くふふふふ。ユーホの言。その通りだな。なぁに、別にどうこうする気などない。私の見る目がなかっただけだ。ただそれだけ。だが、失望させてくれるなよ?」
「俺っちはやってみせる!」
「ユーホ…」
「絵描きになれるかもしれないんだぞ!こんなとこで罪人一歩手前…このままじゃ、消えるように死んじまう!名前残せるかもしれない!こんなゴミのような俺っちでも!」
「そうそう。その意気だ…で、ウルフとやら、お前はどうする?」
「…3年前…教会改修工事の折に……」
どうやら、大工だった父親が教会の秘密を知ってしまったらしい。慌てて町から出たのだが…国、大陸単位の組織だ、次の町に着くことはなく、捕まり、その場で父親が殺され、例の契約をさせられ、放たれたという。母はその日のうちに衛兵に訴え出て、兄は3日後に殺されたと。その時の悪魔神父の顔が今でも忘れられんと…お?勤勉な奴だ…来るか…
「お!お師様!」
「ふん。そこでじっとしているがよい。ユーホ、ウルフを頼むぞ。」
「は、はひぃ!」
転移門が開くか。…壁の一部が歪み、一人の男が顔をのぞかせる。
「いやぁ~ウルフェニィ~ぃ君。待ちかねたよぉ~もう、じゅくじゅくにぃ熟れてるねぇ。怖かったろうぅ?疲弊衰弱で死んじゃったらどうしようかと心配してたよぉ。それに、もう一匹…良い子だねぇ。神もきっとお褒めくださるよぉ~」
「ひぃい!」
「お師様ぁ!」
「お師様ぁ?なにをおおげげぎゃげぇええ!」
「ふ…私がそのお師様だが?貴様も”皮被り”か。くくく…小物…小物しかいないのか?お前たちのところには。」
「き、ききょ!くおぎょぐくくく…」
「喋らんでよい。この者らは我が保護下にある。それに手を出そうものなら…こうだな。”ずるり”」
「ひぃ!ぐキグキィイイ!」
「お前たちも見ておくがよい。コレが”悪魔”…教会の真の姿だ。」
「ハ、なゼェぜ!オ、俺ノ魔核ニさ、触ルなァ!」
「往生際の悪い…という訳だ死ね。」”ぶぶちぃ”
「ヒィグッウ!」魔核を引き千切る。
「お、お師様…」
「お師…さ…ま?」
「ふん。もうこいつは死んだ…こいつだったであろう?お前の家族の仇は?」
「…顔が…皮が変わっていますが…中身は一緒だと思います。あ、ありがとうございます!家族の…みんなの仇を!」
「さて、本体は”収納”して皮は森にでも捨てるか…」
「お、お師様!仕舞う前に…見、見ていいですか?」
「う、ウルフ?まじ?キモちわるぅ。」
「ほう。何か感じるところがあるのか。良かろう…用途がある故、30分だ。」
「はい!」
「…ウルフ…あれ、そういや、おまぇ!体は?」
「うん?お師様の言ってた通りみたい。こいつの死と同時に…軽くなった”ぐぎゅうるるるぅ…きゅるり”うぉお???腹もめっちゃ減って来た…」
「ふくくく。それが終わったら食事にしようか。」
「「はい!」」…
ウルフ…下級の亡骸を紙に書き写すとでも思いきや…その特異な目で、じっと30分。微動だにせず、瞬きすらもせず凝視…記憶のキャンパスに焼き付けたようだ。今後の制作活動にどのように影響が出るか楽しみであるな。良い拾い者であるな。くふふふふふ…




