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ゴルディアの町

 ……


 ゴルディアの城壁を大きく迂回し、しばらく進んだ森の中。

 周辺散策、安全確認後、ここをキャンプ地とした。約一日費やしてしまった……

 

 「じゃ、ここで待ってて。チャっ! といってくるわ。なんか足りないものはある {酒!} ……それ以外で」

 それしか頭にないのかい! アル中ジジィ!

 一斉に肩を落とさないでよ……ええ、ええ! 買ってきますとも!

 「優しくないのぉ~~」

 「うむうむ……」

 「ちゃんと買ってくるわよ。武器、置いてくわね。魔物はいないと思うけど」

 「盗賊なら平気じゃ、今のわしら……50いるだで」

 「盗賊もこんな小汚いの襲わぬだろうよ。どう見ても金子など無かろ」

 「ばっはっはっはっは! じゃのぉ」

 それもそうね。

 「おう! 人族なら1000来ても勝てるぞい! のぉ!」

 {ぅ応!}

 「……無理しないでね。大人しくしてるのよ~~んじゃ、行ってくるわね」

 ……さて、と。


 面倒だし。一人だから壁を飛び越えていくことに。

 城壁は高いが、途中に空いている穴(狭間。物見や矢を射る穴)に手をかけ、ぴょん! ここは警備がザルだから。誰もいない。そのまま、雑踏に潜り込む。

 ざっと確認したが商会にも見張り等の姿もなし。追跡者も。まぁ、足はついてないと思うけどねぇ。ここでも塀を飛び越え、そぅっと、商会に滑り込む。

 

 「ドレンさん」

 支店長室で書き物をしていたドレンさんに屋敷の外から声を掛ける。

 「おお! セツナ様! ご無事で!」

 「変わったことはあります?」

 お行儀悪いけどぉ。窓から。

 「特には……ただ、早馬が城に入ったとか。老師たちも当たり障りなく街を散策されてましたよ」

 「あれ……ね。昨日見たわ。まぁ、すべての仕事は終わったから直ぐにでも立ち去る予定。そこでお願いがあるの」

 「はい。物資……でしょうか?」

 「ええ。食料、馬。……とお酒ね。代金は……”ごとり!” こちらの世界でも魔刀になるでしょう。……銘を『牙竜天翔』という」

 「セツナ様、お納めください。ご心配ご無用ですぞ。すべての物資につきましても販売させていただきます。無利子、取り立て無しで。お嬢様の名で命令書も添付されています」

 「……エルザお嬢様に借り……ね。高くつくわねぇ……」

 「ははは。そうそう無理は言いませんよ」

 「家に着くまでに何か美味しい話無いかしら……この町の備蓄。……盗んでこようかしら」

 「セツナ様、経過を聞いても?」

 「そうね。皆の所へ行きましょう」

 ……むむむ! エルザに借りかぁ。……面白くないわねぇ。そだ! 全部おじさまにツケておこうかしら!


 「ただいまぁ~~」

 「セツナ様!」 「お姉ぇ!」 

 「お嬢!」

 「どうであった? お嬢! 皆は?」

 押し寄せてくる留守番組! 

 ちょうどいいと二コ君を抱き枕代わりにしようと手を伸ばすも躱される。やるな! おヌシ!

 

 「落ち着いて! 落ちついて! ドワーフは50人。獣人7人、人族6人。救出したわ。皆、痩せてガリガリだけど命に別状なし。むしろ痩せて健康的だわ。お酒も断っていたようだし。顔色もいいわよ」

 「……そ、そうかの?」

 「……良かった……のかのぉ?」

 「そりゃいいでしょうに。お爺ちゃんたちも減量したら?」

 {するわけなかろうが!}

 「で、お嬢」

 「はいはい。経過は領主主体の不正。『冒険者ギルド』は”黒”。ナーナの代官は不明。まぁ、気が付いてないというなら……無能ね。アツミたちのまとめている書類でもわかるように理不尽な人頭税、製品の税の値上げ。隷属化。そして冒険者ギルドが鍛冶師ギルドを乗っ取り、ギルド内の作業、鉱山の発掘要員として使役。武器の販売、整備の独占もしていたわね」

 「なんということ……を」

 「改めて聞くとのぉ」

 「だが……わしらの管理不足でもあるの。連絡ものぉ。誰かが見に来れば一発で判明したじゃろうが」

 「そうね……。ギルドの在り方も見直さないとね。取りあえずノリナ内……。隣国のギルドとの連携も視野に入れて練り直しましょう。連絡方法、人員も含めて」

 「ううむ」

 

 「それで、アツミ君の方は?」

 「セツナ様の経緯に沿う書類の数々、面白いことに協力はしても互いに信用は無かったのでしょうね。それで多くの交わした念書や契約書が。ナーナの代官は贈収賄ですね。領主の意のまま。真っ”黒”ですねぇ」

 「それで今後は?」

 「ここで訴えても仕方ないでしょう。同じ穴のゴブリンですし。告発するならば王都でしょうか。アヌヴィアトの領主に持たせてもいいですが……。今の王国はゴルディアの主権を喉から手が出るくらい欲しがっていますから」

 「ん?」

 「あ、ああ、セツナ様。ゴルディアは、書類上? ”開拓村”扱いなんですよ。未だに」

 「へ? 村ぁ? こんなに立派なのに? 城塞都市なのに? なんで?」

 「先々代のゴルディア家当主と数家が【魔の森】から切り取って開いた村なんですよ。魔の森の恵みの独占……それで発展したんです。当時の王のお墨付き、一族の領地として認められています。『永世貴族』の治める領地といいましょうか。家が続く限り」

 「ふ~~ん」

 「それだけ魔の森から土地を切り取ることは至難のことですので」

 「なるほどね~~。今や美味しく熟した土地だから、王家は取り上げたいということね」

 「そうです。で、ナーナは王国領。別です。ナーナよりの通行税……バカになりませんから。必ずゴルディアを通ることになります。魔の森の資材の取引益、税金も。ですので、王家への告発は有効ですね」

 「面倒ね……」

 「もっとも、ドワーフの鍛冶師達を連れ去った時点でこの町の領主には大ダメージでしょうけど。先の話にあった坑道、そこの利潤も潰えた……と。経済的にもダメージでしょうね」

 「む~ん……今回の借金の代価にエルザさんに渡そうかしら。商会の利益になるでしょう?」

 「それはもう。王家に大層な”貸し”になりますね」

 「そうしよか。メンドクサイし。丸投げで」

 「お姉、面倒なだけ?」

 「そうよ。私は隠居したいの。面倒ごとはトワに全部ぶん投げね」

 「トワ兄可哀そ……」

 「何言ってるのよ。ニコっち。それを補佐するのが、貴方達のお仕事よ!」

 「げ!」

 「『げ!』 じゃありませんよニコ。セツナ様の言う通り。精進ですよ」

 「はい……お師様」

 「じゃ、ドレンさん、あるだけ、穀物、酒をお願いします。あとは馬、御者ぁかぁ……どうしよう」

 「わしら、走っても良いぞ?」

 「何時到着するかわからないわよ……」

 その短い御足じゃ……

 「むぅ!」

 「馬か……のぉ」

 「御者手配できません?」

 「そうですな……明日までには。……馬車は?」

 「馬車は”収納”に20はあるから、壊れても大丈夫。馬は3頭」

 「それですと……老師たちの馬車を入れて8台くらいでしょうか……かえって幌馬車……しかし急には……」

 「そうね……大キャラバンね。あ、荷物は”収納”にいれるわ」

 「御者と、馬、飼葉は明日までにそろえましょう」

 「お願いするわ。借金につけておいてね」

 「はい。承りました」

 「んお! お嬢、金子ならワシらが出すぞい!」

 「帰ってから精算しましょう。お爺ちゃんが騒いで目をつけられてもだし。『鍛冶師ギルド』ないしぃ? 『商業ギルド』から領主の耳に入ってもつまらないでしょ?」

 「うむむ」

 「うむ。お嬢に甘えさせてもらおうかの」

 「ええ。そうして。なるべく目立たずに出たいからね。そうそう、ドレンさん。ここに来ると奴隷にされる、鍛冶ギルドはもう存在しないって噂流せます?」

 「可能ですが……。そうですな。その方がよいでしょうな。これ以上の悲劇を生まぬためにも」

 「ドレン殿、わしからも頼むぞい……これ以上同胞がの」

 「お任せ下さい、老師様。今後は目を光らせておきましょう」

 「頼むの」

 「私たちが出たら、鍛冶師組合撤退の発表、お願いで来ますか? アツミ君、書面を」

 「はい、明日までに正式なものをこさえましょう」

 「皆さま、よろしくお願いします。じゃ、取り急ぎ、今日の分もらっていくわ。お爺ちゃん達、飢えちゃうから。お酒も」

 「はい」

 「わしらは……」

 「ここで明日の出立の準備を。こっちは任せて!」

 「……たのむぞい。お嬢」

 「ええ。じゃ、アツミ君、引き続き、ここお願いね」

  「はい。了解です」

  

 ……

 

 再び城壁を越え、キャンプ地に急ぐ。今回は随分と働いたなぁ。帰ったら隠居じゃ!

 

 「戻ったわよ~変わったことは?」

 「いま、真火君が大きな猪を2頭仕留めてきてくれました。血抜きしています。解体用の包丁お願いします」

 「あ、忘れてたわ。ごめん、はい。穀物も、もらってきたわ、よろしくね」

 「「はい!」」

 「お疲れ様じゃな、お嬢」

 「お嬢、どうであった?」

 「うん。明日早朝、物資と馬、御者の目途が付くわ。物資受け取の後、すぐにゴルディアをでるわ」

 「了解じゃ……世話をかけるの」

 「甘えてばかりですまんの」

 「気にしない。気にしない。この後、コキ使うのだし?」

 「で、領主と会談するのかいの?」

 「いえ。面倒だし。さっさと帰りましょう。私たちが離れたら鍛冶師ギルドの撤退の発布されるわ。内外共に」

 「了解じゃ」

 「ふむ……それもそうじゃの」

 「顔も見たくないわい!」

 「明日から数日は強行軍になるわ。ゆっくり休んで。離れればのんびり旅を楽しみましょう!」

 「それも良いのぉ」

 「そうじゃの、帰ればお嬢にコキ使われるからの!」

 「うむうむ! 英気を養おうぞ。」

 「コキ使わな……くないわよ?」

 「どっちじゃ……お嬢?」

 「今の言じゃと、コキ使う気満々じゃの」

 「そうよ! 覚悟なさい!」

 {応!}

 ”ぶわっはっはっはっはっはっはぁ!”

 はぁ、頭来る。こんな気のいい連中を……さっきは会見はないと行ったけどぉ。ご領主様のご尊顔拝んでこようかしら? 

 その日の夕食は猪のソテーとナン・モドキ。そしてお酒。本当に美味しそうに飲むものね……惚れ惚れする飲みっぷりだわ。

 ……

 

 「じゃ、行ってくるわ!」

 「頼むぞい!」

 早朝、ゴルディアの街に向かう。さっさと帰りたいわ……もう。

 

 「おはようございます。セツナ様」

 「おはよう! ドレンさん!」

 そして、商会に。町は平常。静かなものだ

 「では。こちらへ。先ずは物資の受け渡しを」

 ……


 「よく集めたわね……」

 そこにはうず高く積み上げられた麻袋。

 「ちと、張り切りすぎたようです。傘下の商会から集めましたので足はつかぬかと」

 「ありがとう。助かるわ。しっかり帳簿につけて請求してね」

 「はい。そして、この者達が”御者”です」

 「あ、それが……助けた獣人たちが何とか御せるようなの」

 「そうですか。ですが、町の外までは必要でしょう?」

 「ええ。お世話になります」

 食料、酒を収納に入れてゆく。よし! と。

  

 「お嬢! 早いのぉ」

 「おはよう。どう? 準備は?」

 「おうおう。万全じゃ!」

 「ほんとはもっとゆっくりしたかったけどね」

 「なぁ~に。ギルド自体無くなっておったのじゃ……調査も何もあるまいて?」

 「まぁねぇ~。あ、野暮用がもう一つあったわ……出るときでいいか」

 その、ギルドの建物に……

  

 「セツナ様、これが書状です」

 「ふむ……まぁ、こんなものか。……後はアヌヴィアトに着いたら?」

 「ええ、もちろん、第二弾もありますよ。エルザ殿や商会の立場もあるでしょう。どうなるかは会談次第ですね。ミッツ様もどう思うか」

 「そうね。じゃぁ、おじさまにぶん投げでいいか。確実に、ここは萎むわね。冒険者の街が、その要、鍛冶師を大切にしなかった。そのツケね」

 「はい。おっしゃるとおりです」

 ……

 

 「それじゃ、ドレンさん。ご協力ありがとうございました!」

 「またのご来店お待ちしています」

 もうこの町には来たくないですけどぉ! さぁ~て。帰りますかぁ。

 「ちょい、野暮用。すぐ戻るわ。アツミ君たちは門に」

 「はい。お気をつけて」

 ……

 

 【鍛冶師ギルド】の……跡地? へ。すっかり忘れてたわ……

 「ファタ開けて」

 『はい……』

 ……

 

 「で、上申書は書けた?」

 「……はい」

 「どれどれ……うん。良く書けてるじゃない。……さ、血判押して」

 「はい……つぅ……」

 私の差しだしたナイフで指先を傷つけ、上申書に押し付ける。

 「これで良いわね」

 「あ、あの……私は……」

 「どうしたいの? ……死にたい?」

 もっとも……ねぇ。

 「い、いえ……」

 「冗談よ。解放してもいいけど……」

 「は! はい! 心入れ替えます!」

 「……そう? ……まぁあいいわ。”解呪”……呪物は外してあげるわ。誠実に生きる……のね。良い? 余計な事はしない事……守れるかしら?」

 「は、はい!」

 「そう。じゃぁ、さようなら。誠実に……よ?」

 まぁ、無理だろうけど。呪物は外してあげるわ。……呪物はね。誠実に……ね。ファタ。

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