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きのこ博士 1

クロックちゃんの物語。ちょっと切ない…か?

 暇だなぁ……てか、研究議題が見つからない……。

 そりゃそうだ。先人たちの研究、似たようなものが図書館に山のように積み上がっている。

 長命種たる僕たちエルフは時間がある。その時間を有効? に使って、後世に名を遺すべく本やら、新しい法則など、いろいろと研究をする。

 長命種故か、僕たちエルフは人々の記憶から忘れられることに極端に恐怖を感じる妙な種族ともいえるんだがね。

 僕は全く賛同しない。死んだ後なんかね。もう居ないんだ。勝手にしてもらいたいところだ。

 今の若いエルフ連中も概ねこんな意見……だが。まぁ、これまた長命種故の障害。古い考えの老人……おっと! 年長者の方々が沢山、”存命”でいらっしゃる。

 かといって”国を出る”っていうのもねぇ。覚悟が……さ。

 

 ついでに言うと、僕の家は先祖から、学者先生の家系なんだわ。これが。しかも上級森民族ハイエルフ。多くの一級市民……まぁ、上級市民なんて言われてるけど……どうかねぇ……を多く出してるお家だ。

 ひいひい爺様、ひぃ爺様、ひぃ婆様、あと、爺様? 大大叔父? だったか? 今も王立大学で教鞭を取っている。

 兄や、姉もすでに独り立ち、教師をしながらシコシコ研究を積み重ねているようだ。ふらふらしてる僕に余計にプレッシャーがかかるってものだわ。


 ……

 

 「クロック。君は生涯をかけて取り組む研究課題……見つけたかね?」

 堅物の兄貴様……だ。父上そっくりな……ふぅ。

 年も140歳近く離れている。普段はどっかの研究所に籠っていられるが……珍しいなぁ。わざわざ?

 「まだですよ。なかなか無いものです。名を遺すって言いうのも楽じゃないですねぇ」

 「今までの”生”で興味を引く事象はなかったのかね。まぁ、まだ若いが……」

 ……あればやってるさ。

 

 そして……。

 

 「キノコ類……植物類に興味があるのですが……。僕なりに調査はしていますが何分、先人の研究を越えるというのも……」

 

 ……もう遅い。

  

 「そうだな……人気のある課題ではあるな。すでに研究しつくされていると言ってもいい分野だろう」

 「ええ。いっそのこと、人族の国を歩き廻り探してみようと思っています。父様も落ちこぼれの厄介者の僕がいなくなっても何とも思わないでしょう? この屋敷からも既に追放勧告受けていますし。良い機会です」

 

 ……そう。見つかっていれば出来損ないの烙印を父上に押されていないさ。そして……絶縁宣言。

 家、少なくとも王都から出て行けと。恥ずかしいってさ。

  

 「……その件だが。もう一回、話してみないか。爺様達も気にしている。私も間に入るが?」

 「いえ、結構ですよ。優しいお爺様達の顔を見ると決心も鈍りましょう。2~3日中にはこの国を出るつもりです。良い論文が書けたら送りますよ」 

 「そうか……」

 


 ……なるべく家の物には手を付けないように。……ペンとインクくらいはいいだろう。着替えも……お金は……共通金貨で100枚かぁ。どれくらい持つのだろうか? ……冒険者でもするかな。ふふふ。父上の事だ。僕が冒険者になったら卒倒するだろうなぁ。さてと。行くか!

 出発にあたって、今まで育ててくれた礼、挨拶くらいとも思ったが、 

……父はいない。……母上もね。父上に追従している。絶縁宣言以来、顔も見ないなぁ。ま、仕方なし!

居ると仮定して? 頭を下げる。じゃ!

 

 うん? 玄関には堅物兄貴が……まさかのお見送り?

 「本当に行くのかね?」

 「ええ。挨拶の一つはと思ったのですが……」

 「父上も頑固だからな。……これを持っていけ。少ないが、私のへそくりだ」

 は?  

 「こんなに……良いのですか? 兄上? 家庭もあるでしょう?」

 金貨……100はあるな。

 「少ないがな……。髪も切ってしまって……。気を付けて行けよ」

 「え? ええ。兄上もお体を大切に」

 ……優しい……人だったんだなぁ……兄上……

 

 ……

  

 自身に”隠蔽”の術式をかける。

 人族の国に入るんだ。これくらいの用心は必要だろう……さてと、行くかぁ! 新たなる世界へ!


 森林国を出て、人族の国、聖王国ナスタティウムに。

 思った以上に面白い。食文化が違って苦労すると思ったが……。ほら、エルフって、勇者様の影響で美食家と言わてるでしょう? そんなこともないんだけどねぇ。

 この屋台の串焼きだって美味しいよ。ちょっと醤油が恋しいが……。

 あ! これが、勇者様の言うホームシック? 文献でしか知らないけど。

 屋台も面白いなぁ。屋台についての論文でも書こうかしら。誰も検証に来ないでしょうけど……。

 

 本当にエルフはいないわねぇ……隣国なのに。……引きこもりだからなぁ。エルフ族って。それに聖王国……だもんなぁ。”聖”を謳ってる割には”悪魔”がはびこる変わった国だ。まぁ、ゼクス神自体が悪魔の親分だから仕方ないわなぁ。手下のなんちゃって神官も悪魔だわ。ここら辺は”緩衝区”と言われてる……比較的法律なんかも緩いみたい。ノリナとの玄関口。

 

 エルフ族は、この世界に招かれた不慣れな召喚者を”保護”するという名目で、その知識を奪う……。勇者様の文化、様式を守ると言うが、猿真似もいいところだ。そう思うとなんて浅ましい一族なんだろうか。聖王国とやっていることが何ら変わらないじゃん。この点も父上と反目しあう点だ。

 前の宰相様もその点が気に入らんと人族の国に行っちゃったっていうし? 案外話が合うかも? 会いに行こうかなぁ。

 

 【冒険者ギルド】という建物に来た……。が、こいつら本当に人か? 知性の欠片もないわね……『ここはガキの来るところじゃねぇ!』 って、アホねぇ高額依頼人だったらどうすんのよ……本当に馬鹿ね。こいつ等。

 気配を消し、建物から避難。お金を預けることができなかったわ……


 あとは【商業ギルド】? 国の機関だと外国じゃ引き出せないものね。その辺も確認……ね。

 「すいませーん」

 「? はい? 坊や、何の御用?」

 「商業ギルドって、口座ってもてますか?」

 「子供じゃ……」

 「僕これでも成人です。登録時にバレるから言いますが、エルフ族です」

 「! 本当? それなら、エルフ族限定の口座が持てますよ。”鑑定”が条件ですが。手数料やら、会費も無し。準会員の身分も付きますよ。人族圏に不慣れなエルフ族の為の特例です。ウィン様が提案されたのですよ」

 「ウィン?」

 「ウィンエアリアーリン……様? でしたっけ?」

 長いもんな……うちらの名前……

 「ああ! 前の宰相様だ! 伊達に長生きしてないなぁ。何処に行けば会えますか?」

 「長生き……? 結構なお年なの?」

 「1000年近く生きてるんじゃない? あの爺様」

 「ふぇええ~そうなんだ……あ、ノリナ国のティネルという町でギルドマスターをされているわ。口座、作るわね?」

 「はい! お願いします!」

 

 有り金のほとんどを預ける。残高、身分の確認後、会員証を渡された。

 指定の店舗。ヴァートリーや、アスターなんかの大きなお店なら、このカードで買い物ができるんだって。便利じゃん!

 お金を下ろすときも本人のみ有効。脅されたときでも、下ろす場所は一人しか入れないからその時に助けを求めろと教えられた。至れり尽くせりだねぇ。

 買い物をさせられるときでもカード提示し、店主に助けを求めろと。それ相応の商店だから、心配無用と言われたが……。

 早速、エルフ風の旅装束が目立つので、人族の服を買うことにする。うん。ここがギルド指定店だね。

 「ぃらっしゃぁ~い」

 ……納得だ。……挨拶は軽いが、店の奥にはオーガのような重量級の店主が鎮座していた。彼なら救いの手を差し伸ばしてくれるだろう。

 

 魔法、”風の囁き”身体強化系。体が軽くなり、速く走れる。馬と同じくらい? 継続時間は……まぁ、気分? コレで街道わきを疾走しようという寸法だ。盗賊に絡まれてもつまらないからね。僕たちは夜目も利くから夜も走れる。ま、眠くなるから寝るし?

 

 途中の町で面白いことを聞いた。何やら当代の”勇者”様が、隣国ノリナにいらっしゃるそうだ。

 是非ともお会いしたいものだ。ウィン爺様にも会いたいし? ……話長そうだなぁ。……1000年分の蘊蓄かぁ。それはそれで……いっそ、研究対象にするか? 人族に馴染む変なエルフって? ふふふ。

 

 商業ギルドで近郊の情報を仕入れ、行き先が合えば、小荷物・手紙の配達を受ける。

 そうやって、日銭を稼ぎながらノリナへとやって来た。ここは交易都市エキドレア。なんでも”神”の御業が振るわれたという町だ。折角だし寄っていこう。

 商業ギルドで情報を聞いたところ、領主のお城の中にあるそうだ……無理っぽいな。……まぁ、ダメもとで行ってみるかな。

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