交渉しよう。
「なんということだ…これ全て、贋作か?嘘…だろ。義兄殿?これなど、薄っすら魔力を帯びているぞ!」
「マリウス殿の証言によると…」
「宰相様…本当でしょうか?」
「贋作の可能性がある。苦労を掛けるがひとつ残らず鑑定してくれ。」
{はっ!}
城勤めの”鑑定”持ちの者を集め、片っ端に”鑑定”を行わせる。
「どうであるか?」
「はっ!”普通の”鑑定”では判別できぬようです。上級鑑定である、”解析”、”品評”、”看破”などが必要かと…もちろん、”教会”の鑑定書は、”本物”と…」
「忌々しい!教会の掌の上か!上級鑑定持ちは?」
「王都には城勤めの者が1人、トックル男爵とその御子息が…後は外部…商会の者になりましょう…」」
「ランドゥところか。よし!招聘せよ!屋敷にいるだろう。内々の事、商会はダメだな…」
「しかし…王よ。高くつきますぞ…それと…」
貴族院との軋轢のある家だ。何せ言うことを聞かない…王からの俸禄はもらうが、貴族院からの援助は一切受けない。”商人貴族”と揶揄され、下に見られる。が、彼らの商会は大きな利益、税を生む。指をくわえているだけの家の妬み以外なし。
「手当を出せば問題なかろう。急ぎ調べよ。」
「これも…偽物だというのか…これなぞ…何と報告したモノか…」
国宝の前にはトックル家の紋章とサインのある鑑定証が。その悉くが”贋作”と…
「宰相殿。聞かせてもらおうか…これは”人の手”によるものではあるまい?」「…」
「図星…か。ふむ。」
「父上?」
「良い機会だ。…恐らくは後程、本物も”観る”こととなろう。しっかり見ておくのだ。」
「「はい!」」…くっ!良い機会…ではないわ!子息二人も見事に”眼”を継いでいるようだな。
「ご苦労であるな。ランドゥ。商売の方はどうか?」
「王…おかげさまで。商売も上手くいっております。この国では”ゴルディア崩しの勇者”などと言われていますが、我らから見ればこれ以上付き合いやすい誠実な方は居ません。義弟も大変世話になっています。」
「確か、ヴァレットであったな。」
「ええ。セツナ様の信を得られているようで、ノリナ側の調整を一手に引き受けてるようです。」
「ふむ。何か役職を付けねばいかぬな…彼の村で何かあればすぐ知らせてくれ。」
「はっ。義弟も喜ぶでしょう。」
「俺は、お前たちの忠臣、勤勉を存じている。税収にも貢献してくれてるしな。群れて他所の家の批判ばかりしてる者共に爪の垢でも飲ませたいわ。義兄殿、派閥の組み換えもあろう?その辺りも頼む。」
「「御意!」」
「…くっ。王家の宝までもか…”悪魔”云々は置いておいても、我ら兄弟しか入れん…ここの物まで…古びた武器などは見向きもしてないようだな…!…そうだ“破魔の短剣”は!ランドゥ!」
「ここに。」
「ふむ…どうだ?見て見よ。」
「はい。お前達、先に観て見よ。」
「はっ。では…残念です…偽物…聖銀ではありません…」「はい。」
「うむ。私の見立ても同じ。贋作ですな。」
「なんという…事だ…宝物庫鍵番を呼べ!将軍にも通達!緊急回線…いや、聖王国に知られるか…早馬を出せ!確実に書状にて”保管している”聖銀の武器”について調査せよ”と!”鑑定”では効かぬと!」「はっ!」
「王、なるほど、聖銀は悪魔にとっては…」…。
「貴様が鍵番か!これはなんとする?王の御前だ。偽りも罪となるぞ!」
「わ、私は何も…」「は、はい…」
引き立てられた鍵番は5人。このうち3人が正式な鍵番であり、残り二人は休暇の時の交替要員である。特に宝物庫最奥の間は王家一族の立ち合い、王の持つ鍵と、3つの鍵を同時に回す必要がある。
「報告いたします!この者の私物に旧金貨が!」
「これは、宝物庫にあったやつだな?」
「お、お許しください!」
「許せるわけなかろうが!最後の善行だ、全て洗いざらい話せ!」
「あ、あああ…」
「嘆いている暇はないぞ!貴様の一族も連座で斬首となるぞ!」
「そ!そんな!」
「関与するものすべて、”反逆罪”だ!国宝盗難だぞ!その罪、わからぬとは言わせぬぞ!特にオカタイ。貴様の家は代々鍵番の家であろう!」
鍵番3家は、代々鍵番の家となっている。目録作成、日ごろの手入れなどが主な仕事となる。
「あわわ…お許しを、お慈悲を…」
「さぁ!吐けぇ!吐かぬなら、この場で!」
「いいます!王弟様の、れ、レクル様が…せ、聖王国の枢機卿、司祭様に見せると…大勢の神官の方々を連れてきたことがありました。」
「届け出は無いが…それだけか?」「…。」
「この金貨は?…吐け!」
「す、少し、目を離しました…い、1~2時間ですが…し、しかし!レクル様の命令でもあり、魔道ケースもありましたから!」
「いつ偽物と?」
「…さ、最近です…ほ、本当です!”紫霞のティアラ”の宝石が外れていまして、その時に…」
「他の鍵番も同様か?貴様らがそろわねば開かぬ…」
「私は休暇をいただいておりました。この者が代行に。それに王命の正式なものとおもわれる書類があり、緊急扱いで私の鍵をこの者が使ったようです。死罪覚悟で申しましょう。王命、王弟の命で起きた事。その者のように賄賂をもらっていれば言い逃れはできないでしょうが、他の者に罪を問うのは筋違い。”王家の鍵”もあったのでしょう?これは王家一族の不手際でしょう。」
「控え「よい。その通りだ。その書類のこっているか?しかし…カギはどのように手に入れたのだろうか…」」
「はい。こちらです。」
「ふむ…宰相どうか!」
「ほ、本物です…王に心当たりは…?」
「無い。インクもサインも俺のモノだな…これは生き証人のレクルに聞くしかあるまい…そこな賄賂をもらった者等は放逐。その他の者の罪はないものとする。良いな。」
「はっ」
「久しぶりだな。レクルよ。しかし良くもまぁ…好き放題してくれたな。」
「あ、兄上ぇ…い、命だけは、い、命だけは…こ、心入れ替えて…国に尽くしますぅ。」
「最後位、潔くしたらどうだ?」
「と、トライデン!き、貴様!」
「よい、で、レクルよ。国宝の数々を持ち去ったのはお主か?”王家の鍵”はどのように?」「…。」
「肯定と取るが?」
「い、いや…そうだ、兄上にぃ…王位を譲ったんだ…そ、それ相応の…な?」
「国宝は国の宝。王ですら自由に持ち出し、販売などもってのほか。それすら知らぬと?」
「だ、黙れ!トライデン貴様には言うてないわ!なぁ、あ、兄上ぇわかるだろう…す、少しくらいの贅沢…」
「レクルよ…馬鹿な弟よ。知ってることをすべて話せ…あの贋作は?」
「あ、あれは…い、いえぬ…”契約”が、ある!い、言えぬ!」
「死してもか?」
「死?ただ死ねるならそのほうが…死にたくない…死にたくない…助けて…」
「”悪魔”か…」
「魂を握る契約…だろうか?」
「しらねぇ、俺は、何も、言わねぇ!知らねぇ!死にたくねぇ!」
「コフィア子爵にも聞いてみるか…」…。
結果はレクルと同様…何らかの契約があるのか情報は全く得られなかった…
「しかし…またもや聖王国か…」
「それで王兄閣下は?」
「一週間前から出ているそうだ。家族を連れてな。そのくらいの情はあったようだな。行き先はイグニアとなっているが…果たして…一応早馬に帰還命令書を持たせて出している。勿論、聖王国国境の町々にもな。」
「連絡網…は使えぬな…派閥の連中に知られる…」
「匿われたり、逃がされたり、武力的妨害すらあるかもしれん。そうなったら、国が割れるな。まったく。面倒な事よ。何かいい方策はないか?義兄殿。」
「…しかし、聖王国に行かれたら…宝物庫から消えた紋章などを使って、正式な後継者などと…」
「そこまで愚かではない…と思いたいが…さて…暫く警戒を密にせねばなるまい…」
「マリウス殿、御足労感謝する。」
5の鐘きっかりに現れた上等な執事服の男。そう”大悪魔”のマリウス殿…だ。ふぅ。交渉か…交渉にすらならぬだろうな…
「いや、中々に楽しませていただいた。さすが王都。すべての物が集まっているようで。ただ、少々。衛生状態が悪いのが気になりますな。」
「古都故のと言ったところでしょうか。整備、補修工事もままならない状態でして。さて、例の件を…」
「うむ。確認はとれたかな?」
「お恥ずかしながら…多くの国宝が模造品と入れ替えられていました。」
「で、どうする?ヴァートリーなりを呼んで査定させるか?もちろん、召し上げは私には効かぬぞ?爵位なども興味はない。」
「…そ、そうですな…お恥ずかしながら、いっぺんに買い取るという訳には…何分金子の多くも消えまして…」
「それはそちらの都合。管理不行き届きであろう?国宝、人物のな。では、勝手にこちらで売りさばくまで。邪魔をしたな。」
「お、お待ちください!せめて、中身を…中身の品目を確認させていただけぬか?一部でも買い戻せれば…」
「構わぬが、金子については返金の意志はないぞ。賊から得た収益になるであろう?」
「わ、わかりました…人を入れても?」
「構わぬ。預けよう。」
「緋毛氈をもて。トックル男爵を呼べ。」
「はい!」…。
「では失礼して…”紫霞のティアラ”?…”鑑定”せよ!”王家の指輪”!こんなものまで?最奥の廟に入らねば…」
「こんなものまで。それでは始めようか。アラ、ヒカ。其の方らも始めよ。アーティファクトも多くある。無理せずにな。そういったものはワシの所へ持ってこい。」
「は、はい!」「はい、父上!」…。
「ふぅ。どうだ?」
「いずれも我らの”鑑定”では本物。最後にこのマジックバッグ…強い隠ぺいが掛けられている。が、容量、レクル殿が入れた食料の具合からいって…本物…でしょうな。」
そこには消えた財宝の数々。帳簿以上の点数、120…レクルの家財道具、多くの酒、食料などが入っていた。おぞましいことに女児の遺体が一体…人ではないな…この所業…仮にも王家の一員…いや、王女たちにも伝播している…か。それだけではない、次代の子女にも…
「宰相…殿?」
「棺桶を一つ…霊安所へ。さて…全てを書に起こせ。ランドゥ殿、もう暫くお付き合いくだされ。」
「わかり申した。別室にて休ませていただく…ここは少々…」…マリウス殿の正体を見破ったか…
{はっ}…。
「それで、トライデン殿。どうする?」
どうせよというのだ?普通に購入できない、希少な品々…王家伝来のまさに、王家の”歴史”そのものの品々…そういったものが”国宝”となる…買い戻す?無理に決まっておろうが!
「な、何か望むもの…対価になりうるものは…」
本来であれば功績を称え…献上させる品々…”名誉””爵位”と引き換えにな…
「”悪魔”に対価と?宰相殿はそうおっしゃるか?くくくくく。」
「さ、宰相!」「いや、宰相…」
「ふむ。そうであるな…これだけの財宝…アヌヴィアトの町…っていうのはどうでしょう?もちろん、ノリナから切り取る形にはなりましょうが。」
「よりによってアヌヴィアト…」
「国民の命を!」
「”悪魔”の求めるモノなど、そう多くないであろう?くふふふ」
「仕方ない…な。」
「さ、宰相!」「ま、まさか!」
「所有権を放棄しよう。勿論、全ての国宝のものだ。ただ、王家の紋章の入りし、”聖銀の剣”と装備一式、”5家の盾”は買い取らせてもらいたい…」
「ほう。引くか…なかなかに思い切りのよい。流石だな。」
「買い被りだ。我らに払える代価がないのでな。紋章入り以外の物であれば後々の問題も捌くことができよう。」
「ふむ。で、貴公は責をかぶって、毒でも飲むのかな?」「…。」
「宰相?」
「ふふふ。誰か一人くらい、責任を取らねばなるまいよ。これだけの宝の流出。下手をすれば王にも責が行く。今の王にはまだまだ生きて改革をしてもらわねばならぬ。折角の脱教会、他種族との融和…これからという時。」
「ふむ…我が主の意向にも沿うであろうか…であれば………良し。マジックバッグと、風景画数点以外はすべて貴殿に返還しよう。トライデン殿にだ。責も転じ、貴公の功績となろう。これで現体制が揺らぐこともあるまい。此度の件の責任のありかもはっきりしよう。屑の証言如何で教会派にも楔の一つは入れられよう?」
「ほ、本当によろしいのか!ほ、本当に!それに主…と?」主…だと?
「”魔王”様だ。何分変わったお方。私もやりすぎれば叱られる故。この辺りが良い落としどころであろう。」
「”魔王”…本当にいるのか…」魔王だと…極力思考の外に…いや、主のこと…考えたくなかった、ある憶測…”魔王”の存在…しかも魔族の王ではなく…”悪魔の王””真の魔王”を…
「”魔王”…」
「安心せよ。あまり熱心に”魔王”はやっておらぬ。くふふふふふ。して、どうする?」
「こ、こちらからは不満はない。もともとが王弟が持ち出し、いずれ、換金され世間に撒かれたであろう品々。おまけに我らの面目も保てる…貴公の言う通り、証言を得ることができれば教会にも一撃入れられる。」
「わかった。マジックバッグには正式に譲渡した由の書面を。貴国の記念でこさえた金貨も2セットもらうが、残りは寄贈しよう。」
「しかし…本当によろしいのか?」
「貴公が断固受け取り拒否、いらんと言うのであれば持ち帰るが?ノリナ国へは返還する気はない」
「い、いや、売ればかなりの額になるからな…」
「先も言ったであろう?皆、持ち帰れば”やりすぎ”になってしまうわ。我が、”魔王”様はそういった細々したことにうるさいからな。」
「では、引き渡しをお願いする。それと、もう一点。こちらからの願い…なのだが。王弟…レクルの取り調べの際に”契約”があると。一切口を開かぬ。協力願えないであろうか。」
「ふむ?屑の”契約”は、破棄されていると思うが?」
「あの怯えよう…命にかかわるものと。」
「下等な契約…我の契約が上書きされよう。」
「う、上書き?」
「くくく。まぁ良い。屑の魂は我が掌の上、死せばな…犯した罪に見合った業火にさらされるだろう。」
「そ、それは」
「では、立ち会おう。先ずは…ポチ…コフィア子爵だかに聞いてみようか…案内を頼む。」




