ナーナより逃亡中
……
「休憩終わったら、移動よ!」
{応!}
……
本当はここ(盗賊の野営地)で野営にしたかったけど、できるだけナーナから距離を取りたかったから移動を敢行。結果、『魔の森』から離れることもできる。
足が遅いのは仕様だな。お腹が引っ込んでるせいかこれでも幾分速いのかなぁ?
途中一泊。街道沿いで猪を狩ることが出来たので助かったわ。食事よりアルコールの方が喜ばれたんだけど? トワから預かった蒸留酒を思い出したのよ。
野営用に”収納”から馬車を10台並べる。盗賊から鹵獲した馬車もね。
「これでいいかな」
なかなか壮観である。二階建てバスみたいのも良いわね。……そういえば、昔使ってた”家”どこやった……ん? そういえば、食べ物あったわ……非常食。次元越えたけど……まだ食べられるかしら? 一つ出す。これってば美味しくないのよねぇ
某バランス栄養食そっくりなブロック状の物……ぱさぱさ……不味ぅ! 口内の水分みな持っていくわ! 美味しくねぇえぇ……
一緒に攫われた(召喚された)仲間が作ったんだよなぁ……私が殺したけど。命じられてね。
……くそ、あのクソ侯爵……いつか貴様の……。おっと、また闇に落ちそうだわ。いやだ、いやだ。違う世界に来たんだ……忘れよう
「ぅお! すごいのぉ!」
「テントの代わりね。せまっこいけど。そうそう、盗賊馬車の調子も見てもらえます? きっと必要になると思うの」
「うむうむ。任せい」
「わしらの先祖は洞窟に住んどったというし、問題ないぞい」
「お爺ちゃん達、おなか引っこんだから、狭くとも大丈夫ね!」
「むむぅ……。さみしいのぉ」
と、寂しそうに腹を撫でるドワーフ。中年太りよりもずっと健康的だと思うけどね
「自慢の髭も毟られちまったわい……」
顎を寂しそうに撫でるドワーフ。そうねぇ、ドワーフと言ったらもっさりおヒゲですものね。
「うむ……」
こっちのお爺ちゃんはかられた頭をツルリ。……そこに関してはもはや何も言うまい。
「ふふふ。これからゆっくり蓄えてくださいな」
「蓄えられるかのう? ……お嬢に扱き使われてのぉ」
「うむうむ。鉱山よかきついかもわからんのぉ」
「そうねぇ。覚悟しておきなさいよ?」
”ばっはっはっはっは!”
「ああ、期待しちょるぞ!」
ふふふ
……
朝食を蒸留酒とともに……。朝からかい!
日が昇ると……流石に目立つなぁ。総勢60人かぁ。
「お嬢。目立つのぉ~~」
「だのぉ~~。追手来るかなぁ? 真火君どう?」
「後方異常なし! 追跡者なし!」
「了解。皆さん体調どう?」
「うんむ。問題ないぞい」
「人族の娘っこがちときついかの?」
そうね。飯炊き娘たちもそろそろ限界か。でも、ドワーフって本当にタフねぇ。鎖で繋がれてろくすぽ運動なんかさせてもらえていなかったのに
「俺ら獣人族も大丈夫です」
「もう少し行ったら、休憩しましょう」
{応!}
……水場で休憩しているとわずかにだが振動を感じる。馬?
「セツナ姉! ゴルディア方面から。騎影3!」
「こっち、来そう?」
馬車を3台、コの字型にだす。
「お爺ちゃん達は隠れてて」
「大丈夫かい?」
「ええ。問題ないわ」
……
何だよぉ。通り抜けないのかい。少し手前で止まり馬鹿声を張り上げる。
「おい! ガキ!」
「なによ? いきなり?」
はぁ。これだから無教養の人間は嫌いよ。ここまで馬鹿だと親の程度も知れるわ。
「何を運んでいる?」
「関係ないでしょう? なんでアンタに教えないといけないのよ」
「生意気なガキだな……。ここで殺して奪ってもいいのだぞ!」
と、乗っている馬を煽る屑。
「まるっきり盗賊ね。それはこっちのセリフ。抜いたらブッ殺すぞ」
「ガキが!」
”どどっつっどっど……”
馬で跳ね飛ばそうとでもいうのかしら。アホね。私相手に馬上の有利はないと知れ!
ぴょんとジャンプ。その得意げのニヤついた顔面、顎に膝を打ち込む。
ゴキリ! 顎が割れ、首の骨の砕ける感触が膝に伝わる。ふん。
仰向けのまま吹っ飛ぶ屑。そのまま馬の鞍にまたがり、ぐいと手綱をひく。馬首を返し、後ろでニヤついていた男の顔が驚きに変わる前に斬り飛ばす! アホ面のまま飛んでいく生首。プクク
残った一人、剣を抜くも、遅いし、馬上は不慣れ? 馬も暴れ出したわよ?
”匕ヒィィン!”
「わ、わぁ! ど、どう! どぅ! ど、ひぃ!」
あ~~あ。一人ロディオ? あらあら。手綱は握るものよ。手首に巻いたら……
馬の背でおもちゃのように振り回される屑。面白いからしばらく見てましょう。
乗っていた馬、首を飛ばした男の馬を真火君に託す。
「真火君。見てみなさい。手綱は軽く握るだけよ」
「う、うん。でも凄いね。アレ」
今も背の異物を落とそうと暴れる馬。手首に巻いた手綱が外れず馬の背で踊り続ける男。
もち、助けてなどやらんし?
”ボグゥ”
おお! いいケリが入ったわね! 弧を描くように反対側にぶっ飛ばされるも、手綱は解けず。
そろそろ馬も可愛そうだ。背に飛び乗り、手綱に巻き付いた賊の腕を切り飛ばし、異物から開放。ゆっくりと手綱を引き落ち着かせる。
「どう! どう! もう大丈夫。大丈夫よ。いい子ねぇ」
落ち着いた馬の首をなでてやる。
賊? もち、死亡されてるわよ。この子の蹴りが致命傷ね。ナイスキック!
「何やら勝手に馬が手に入ったわね! らっきー!」
「姉さん、こいつら、冒険者だ」
「本当に? 盗賊と変わらないわね。襲われた証拠に証だけでも集めておいて」
ああ……私の中でも冒険者に対する認識が……。ま、気に食わなけりゃぶった斬るのみ!
「了解!」
……
「あ、そだ。革細工職人さんにお願い、馬が手に入ったから、馬車を牽く用の馬具お願いできない? 簡易ので良いわ」
「お任せを。この馬車で?」
と、コの字に並べた馬車に視線を向ける。
「ええ。お願い」
”収納”から皮工場にあった、道具、革、リング状の金具などを出す。
「はい」
加工もあるから、少し休憩。冒険者の装備もついでに剥いで死体は茂みにぶん投げて放置だ。あ、ついでにロキソンもここでいいかぁ。
さすが職人さん。てきぱきと革紐をあみ、適当な金具も流用して馬二頭を馬車に繫ぐ。
「簡易の物ですが、全速力で乱暴に走ること以外でしたら当分は持つでしょう」
「解ったわ、会敵したら、逃げずに皆殺し! 殲滅するわ!」
「い、いや? そうなる……のでしょうか?」
「お嬢……死屍累々だの」
「敵には容赦無用。もれなく死をくれてやるわ! さぁ、人族の……貴女達乗って。御者は?」
「俺がやろう」
と獣人の職人さんが名乗りを上げる。
「そうね……ドワーフさんは相性悪いもんね。馬と。体力がないもの優先で」
「ふん、お主が乗せてもらえばええじゃろ!」
「お前こそ乗せてもらえ。爺ぃ優先じゃ!」
「この年寄りが!」
「クソじじぃ! さっさと乗れ!」
……わいのわいの。若く見られたいの? お爺ちゃんたち、皆、我が強いから……
「順番にね。行くわよ」
{……応}
まったく……
「真火は乗馬の練習したら?」
「ええぇ? 走った方が早いよ? 俺」
「俺が教えてやるよ」
「うん……」
「じゃ、しゅっぱぁ~つ!」
……
あ、ゴルディアの城壁が見えてきたわ。
「すと~っぷ!」
「おうぅん? どうした? お嬢?」
と、馬車からひょっこり。お爺ちゃん。
「見えてきたから。どうしようかぁ」
「わしらは……アヌヴィアトに?」
「そのつもりだけど? ほら、妖精家? 家妖精? だっけ? そこに住んでるのよ」
「ほう?」
「お嬢、アヌヴィアトいうたら【家妖精の家】じゃぁの」
「ほぅ? 受け入れられてたのかの。何百年ぶりじゃか?」
「どっちでもいいわ。あそこ、ダンジョンなのよ。そこで皆を受け入れようと思ってるのよ」
「おっほ! そいつはすごいの。ダンジョンかい。イカサマ聖王国の言う通りじゃったか」
「ぶっちゃけるのぉ。お嬢ぉ」
「聖王国が騒いでおったが……本当じゃったか」
「魔物はいるのかの?」 「鉱山は!」 「珍しい石は!」
”わいわいわいわいわいわい……”
”石”の話が出るとボルテージが上がるわね。
「落ち着いてよ。お爺ちゃんたち! 無事に帰らないことには。ほら、気合入れて!」
「そうじゃのぉ」
「……確かにの。こりゃぁ、益々死ねなくなったぞい!」
「そういや、ワシら野垂れ死に寸前じゃったわい」
「違いないのぉ!」
”ぶわっはっはっはっはっは!”
……だからぁ、笑い事じゃないって……
「まぁ、そんなことだから、ゴルディア通過した地点にキャンプを張ろうと思うの。それで、私が入って、食料と馬仕入れてくるわ。ダワーリンお爺ちゃん達も回収しないとね」
「手間かけるのぉ。お嬢ばかりに」
「頼んだぞい」
「全然」
「セツナ様、御者が足りませんね」
「う~ん……。うちの馬、大きいから皆追従すると思うけど……そうね。……驚いた時、困るわね」
「丁度わしらも痩せてるからたくさん乗れるじゃろう?
「うんむ。台数も減らせようぞ」
「ふふふ。本当にドワーフに見えないわねぇ。お髭 「お嬢! それ以上言うてはいかん!」」
「ぅむぅぅふうーーーー! 腹が立つの! わしらの自慢の髭……毟りおってぇ!」
「おお! 今からナーナに攻め込むか!」
「ゴルディア侯の素っ首、たたき落とそうか!」
「あらあら」
「髭はワシらの自慢じゃあ!」
「うんむ! 頭剥げても良いが、髭はぁ、いかぁん!」
「髪も毟しられたがな! 許せんわい!」
「ははは。そうなの?」
「笑いごとじゃあないぞい! 同じドワーフであろうが!」
「気持ちがわかろうが! お嬢!」
「……人族よ!」
「そうだったかの?」
「であったな!」
”ぶわっはっはっはっはっは!”
……もう。
「姉さん! 後方より……3騎! 斥候? 伝令かな? 同じ装備!」
「ったく。隠れててね。上手くいけば馬手に入るわ」
「……恐ろしいのぉ」
「くわばらくわばら」
……どっちの味方よ!
騎兵はこちらに一瞥もなく街道を駆け抜けていった……
「ふぅ。坑道の件かなぁ~~。随分と急いでいたわね」
「そりゃそうじゃ、たぶん、”隠し鉱山”なんだろうさ」
「うんむ。領主の小遣いが減るのぉ」
「隠し鉱山?」
「ああ。国に申請しないで採掘してるのだろうさ。奴隷ばかり、使い捨てでな」
「うんむうんむ。お国への上納金も懐じゃ」
「ああ、ムカつく……領主出てきたら斬っちゃうわねぇ。たぶん」
「わしもじゃ!」 「おう!」
「髭の弔いじゃ!」 「おう!」
……お髭の仇で殺されちゃったら…浮かばれないわねぇ。
まぁ、やってきたこと極悪だし。因果応報、それも良し! 死あるのみね。




