疾走る!
……
「準備はいいかい?」
コホーネ村の門を出て軽く足の屈伸。これからフィリキまで走るからね。
グイングインとニッキさんも屈伸運動! すごい、体が柔らかいなぁ。ふんふん! と、地面を踏みしめる。地面がへこみそうだ。
ビルック兄とニッキさんは背中、両手に魚の入った木箱を持っている。その格好で走れるんだ……。
「おっけ!」
「あ、でも、遅かったら先に行っていいからね。魚、腐っちゃうからね」
「ビルックさん、ニッキさん。メメの言うとおり、気にせず先に行ってください」
と、ヤルルちゃん
「大丈夫よぉ~~。きっと♡ エルフ族のヤルルちゃんならぁ♡ 私のぉ走るペースだしぃ?」
「い、いや? そう……かな?」
ヤルルちゃんの心配も納得だ。だってぇ、ニッキさんてば人族には見えないもの! 魔力量はそんなに多くはない。無いけど、魔力のあつかいは上手そうだ。なんで分かるのかって? 見た目もだけどドルトン老の雰囲気によく似ているからね。てか、魔纏なくても走っていけるでしょう……
見送りに来たスピックさんにお礼を言わないとね。
「それじゃ、スピックさん。大変お世話になりました!」
「「お世話になりました!」」
短い間だけど、一日中、しかも、ヤルルちゃんに至っては夜の飲み屋も? お世話になったからね。
「いえ。俺、お役に立てたのであれば嬉しいです!」
はい! 大変お役に立ちました!
「うん。ありがとう! スピックさん!」
「ええ。本当にお世話になりました」
「また一緒に飲みに行きたいわねぇ。スピックさん!」
おい!
「え? ええ、そうですね……ヤルルさん。またコホーネ村にいらっしゃったら? それまでに俺も酒、強くなっておきますから?」
無理しないでくださいね……
「ふふふ。楽しみにしているわよ~~」
「またね! スピックさん!」
{さようなら!}
本当にお世話になりました! また来ます!
……
「ビルック兄もお父ちゃんみたいに”充填”できるんだね!」
前を走るのはやたらに元気なニッキさん。ビルック兄から魔力の譲渡を受け飛ぶように走る。これが”街道の怪物”の秘密。ニッキさん、予測通り魔力の扱いがとても上手だ。
「魔力の修業の一環としてね。危険だけど、魔力制御のいい修業になるんだよ。ヤルルさん、疲れたら遠慮なく声をかけてね。休憩とるから」
「ええ」
さすが”街道の怪物”! 馬車や旅人とすれ違うときも、追い越すときもスピードを落とさないわ。しかもぉ! 慣れたもの? 御者台から手を振る商人さんもいるわ。
スピードはお父ちゃんの時ほど速くはない。一応、ニッキさんも人族だからね。い・ち・お・う・ね!休憩も多くとるだろうから? 私たちもついて行ける速さだと思うよ
……
「ふぅ……。気持ちがいいわねぇ~~。いい汗でたわぁ~~」
休憩時、汗を拭うニッキさん……。不思議ねぇ……なぜか女性に見えてきたわ。しかも、若々しい……。いいおじさんなんだけれどぉ。なぜに?
「ヤルルちゃん、大丈夫? はい、水!」
飲む水は別、マジックバッグから金属製の水筒を出す。ゴクリと一口の水を美味そうに嚥下する
「ふぅ……。ええ。大丈夫よ。快調、快調! コホーネ村でも十分休暇とれたからね!」
「そうそう! たこ焼きたべる? たこ焼き?」
と、キキ。
「そうね。ちょっとお腹が減ったわね」
「オヤツにするかぁ」
ノーム印の”たこ焼き”生地にもしっかり出汁の味がついているから温め直さずとも十分に美味い。時間が経ってのシミシミのソースもね。タコも大ぶり、ぐぐぃ! と歯を押し返す感覚が気持ちいいわ。それに、タコってとても美味しいよね。
”もぐもぐもぐ”
「うん……。冷めても美味しい……。しっかりとだしの風味もある。粉臭くもないな」
おお! ビルック兄も認めたぞ!
「あらぁ。本当ね♡ いつも焼き立てだものねぇ。そりゃ、焼き立てには敵わないけど、これはこれでアリね~~。オヤツにはちょうどいいわねぇ。ノームさんたち、フィリキでもお店やらないかしら?」
「たこ焼き屋か……タコも茹でたものであれば……」
「あんらぁ? ビルック君、またまた思考の海に出航しちゃったわねぇ。きっと、その航路は美食の国につながっているのでしょうねぇ」
と、出航したビルック兄を優しい目で見るニッキさん。ビルック兄、愛されてるね
「私もそう思います。ニッキさん」
「ふふふ」
ニッキさんって素敵な人だなぁ。
オヤツも食べたし、水分補給もした。魔力も問題なし! ヤルルちゃんも元気! さぁ! 行くか!
……
「ねぇ、ビルック兄、夜になっても”吸血コウモリ”ぜんぜんいないんだけど?」
「ん? メメたち、夜も走っているのかい? 街道には小さいけど猛毒持ちのナイト・ヴァイパーって毒蛇がいるから踏みつけないようにね。暗いと見えづらいからね」
「毒蛇のナイト・ヴァイパー? それ食べられる?」
「キキ……。食べられるか、食べられないかなのね……」
がっかりしないで! ヤルルちゃん! そこ大事だから!
「う~~ん。ナイト・ヴァイパーは細いから肉はあまりついていないよ。皮剥いてカリカリに焼いてオヤツにいいかも。骨せんべいみたいな」
「ふ~~ん。じゃなかった! ビルック兄、吸血コウモリよコウモリ!」
「吸血コウモリはあまり見ないね。北の方に行くといるって聞くけどね。馬の出血の傷、吸血コウモリのせいにされているけど、ほとんどが大きなヒルや、吸血昆虫の仕業といわれているよ」
「へぇ~~。じゃぁ、あまり吸血コウモリっていないんだ。残念。ヒル、食べられないもんね」
「吸血昆虫ってどんなの?」
「僕が見たのは手のひらくらいの大きさで、茶色。口が針のように尖っているんだよ。刺激を与えると”くさい臭い”をだすんだ」
「くっさい臭い? イヤね、それ……」
「でも、尖った口で刺すと馬も痛がって暴れるのじゃなくて?」
と、ヤルルちゃん
「先に軽く刺して麻痺させる唾液を打ち込むとかっていわれてるね。刺されてもそんなに感じないそうだよ。大きいからくっつかれるとわかるけどね」
「私の筋肉には刺さらないわよぉ~~♡」
と、走りながらも腕の筋肉を膨らませるニッキさん……。いや、スカートからでている太もももムッキムキだ! うん。きっと刺さらないだろう!
「……ヒルもそうだものね。よく出来てるわね」
ニッキさんを見ないで話を進めるようね、ヤルルちゃん……
そして、暗くなる前にフィリキに到着した……




