貴族の事情。(INアヌヴィアト)
あれからひと月…各地に散った斥候も戻り、予想通りというか、”勇者”様の影がちらほらと散見される。獣人族のみの部隊も存在するが、アルス殿たちが率いる別動隊と踏んでいる。
それらの部隊が、シペラ、ディフェンから多くの難民を導いていたこと。多くの獣人たちを解放した事。同時に噂になっていた各国の悪い噂の裏付けがとれた。
勿論、マシュー女史にも聞いたがよい情報は得られなかった。彼女にしても大いなる利益になるだろうからね。もう一つの関係の深そうなところがあるだろうって?ヴァートリーの方?あっちに行く勇気はない…ね。どうせ何一つ聞き出せないだろう。しかも、今度の”事業”で益々頭が上がらなくなりそうだ。その事業というものは、大きな商業施設の建設。あのヴァートリーの会頭すら身を乗り出すほどだ。
既にミッツ殿の所有する”家妖精の家”の周辺は更地に。おそらくダンジョンが食ったのだろう…ヴァートリー主体の大きな商業施設の建設…この噂はすでに広がっており、この町の土地価格の高騰が始まっている。憎いことに、貴族街から離れた、旧貴族街…払い卸された土地だ…まぁ、貴族街じゃ開発などできないけどね。
でだ、高値になるだろう土地をうちが早期購入(したことに)し、高値になったらヴァートリーが買い戻すという…しかも、ヴァートリーの貸付金(ある時払いの無利子。今回は相殺できるけどね…)でだ。
ははは…事実上の自由に使える”献金”そんなものだからこちらから強く出られない。まだまだお金が足りない。恥ずかしながらな。勿論別途、献金、挨拶料なども頂いた…。
何でそんな回りくどいことをと思うが…この転売、かなりの額になると予想されるからね…普通の献金、挨拶料なんてゴブリンの魔石みたいなもんだからね。ヴァートリーの温情だわ…麦の購入にも尽力してくれた…新体制…発足したばかりなのにもう、首根っこを掴まれた状態と言っていい…ふぅ。
本当に何してくれていたんだ親父たちは…で、その呑気な親父は王都にとどまり、現在も問題を起こしてくれているようだ。王の慈悲により、一命は助けられたが、引退、貴族院の席も抜かれ平民に墜とされた。が、それは元伯爵…まるきり無手当とはいかず、王都に小さいながら住むところは用意されたらしい。そりゃ、アヌヴィアトに帰れないわなぁ。
だが、その御隠居さん…のど元過ぎれば何とやら、金子の無心の手紙が何通か来ている。まだ大して時間は経っていないのにだ!どこぞの保証人にもなっているとか?流石の兄上の堪忍もここまでといったところだろう。先ずは兄弟で協議せざるをえまい…ご意見番(ナック、クエン、フーライ)の長老衆の意見も欲しいな。
「現状を細かく書いて送り付けましょう。その反応で、決めましょう。反省してるようなら一回は助けましょう。」
「反省などするか?あの親父…が。」
「離縁状を国と貴族院に。貴族院から通達してもらいます」
「むぅ。それは困ったな…国としては俺達に力を持たせたくないから生かしておくだろう?」ふむ…それもあるか…
「これ以上生きていられると面倒なだけですね。やはりあの時…」
「それは言うな…王に判断を委ねたのだ。」
「ではどうすると?この保証金?絶対騙されていますよ?治りませんよ。あの父上は」
「俺も賛成だな。部下たちにも示しがつかん。今、緊縮財政につき給料の一部をカットさせてもらっている。」
「ご意見番の意見は」
「私も賛成です。とにかく備蓄…備蓄を準備せねば…お父上の放蕩…治りません。外出禁止はもちろん、予算内での生活を…と。」とフーライ老。
「ご自身は分っていませんでしょうが…良いように面白がられ、舞踏会に呼ばれているのかと…今回の件。悪いと思っているのか…?」とクエン老。
「”聖域”の周辺の引っ越し費用、整備費用も…緊急の出費も多く掛かります。すでに予算もありません。それに…自業自得とはいえ、責任を取って死んでいった者達に顔向けできませんぞ。」とナック老。
「良く言ってくれた。言いづらかっただろう。さすがにこれ以上は…親父は助けて、他のは処刑…肉親は甘い愚かな領主と、領民の目に映るだろうな。」
「まったくだな、国が処刑してくれると思ったのだが。当てが外れたよ。」
「そうだね。でも親殺しは面倒だからねぇ。この状況もなんとなく予測はついたよ。2~3年は大人しくしてると思ったけどね。まさか、数か月とはね。」ふぅ…放蕩ここに極まれり…
「愚かもここに極まれりって所だな…だれが糸を引いてるのか…その辺りも調査せねばなるまい。が、とりあえずは、今回の物は払おう。」
「ええ!冗談だろう?ドブに捨てるようなものだぞ!しかも、何の因果か勇者殿に払った額と一緒だ。こっちは即決で、勇者様の方は領民を危機に晒して苦慮していたのにか?はぁ?アホらしい。」まったくその通り。
「ぐぅ」おお?珍しくランス兄にいいかえせないなぁ。まぁ、核心だわな。
「それを言っちゃ話が終わっちゃうって、ランス兄貴。で?払う見返りは?」
「殺すわけにはいくまいよ。監禁、予算内での生活。とりあえず今のアヌヴィアトの現状の報告…くらいしかできぬだろうな。出来ぬようであれば、アヌヴィアトで”監禁”するしかないだろうな。」
「帰っては来ないでしょう。自ずと未来くらいはわかるでしょう?」
「迎えにいくさ。この件は一応これでいいか?」
「…甘いと言わざるを得ないですね…毒酒の一本でも送ってあげなさい。こっちが本気だと…ね。金子も元本の300のみに。それで自害すれば儲けものでしょう」
「そうせざるを得ぬか…」
「俺が行って来よう。ヴァイロン付き合え。明日。早馬で行く。」
「解った…仕方あるまい。頼む。金子は400もっていけ。今回は面倒見ると…」
「解った…」
入れ替わるように王都より、貴族院代表のクテナンティ公爵、セラティ将軍、ナハス将軍思った以上の大物の来所となった。
「ようこそおいで下さいました。」
「挨拶はよい。”勇者”との関係性…といった話だったな。その前に、其方の父上はどう、何を考えている?また元の派閥に戻ったようだぞ?」
「はぁ?それはどういう…貴族の席も無いのにでしょうか?」
「しかも、元”王弟”派の方だ…余計始末が悪い…最早、王都より引き上げた方が良いと思うぞ。其方たちも悪い印象を持たれかねん。恥知らずの一族とな。」
「…そのような話…」ずるりと椅子に寄り掛かるイーシス兄。
「兄上!気を確かに!」
「だ、大丈夫だ…まさかここまでとは…」本当だよ…すべてが水泡に帰する…
「このままでは降爵もあり得るぞ。心して対応されよ。」
「お、お恥ずかしい限りでございます…ただ、ただ恥じ入るばかり」
「誰か人を出し、連れ戻すのだな。」
「昨日、王都に弟をやりましたが…」
「…今すぐ伝令を出すがいい。時間をやる。」
「はっ。リサ!リサ!」…
「お恥ずかしいところを…」
「王都で落ち合えればよいな。して?」
「私どもの調査した結果をご報告させていただきます。そもそも…」兄上の説明に私が補足する形で進行。悪魔召喚陣の処理から始まり、聖域、ダンジョン地下の可能性。それを裏付ける人の流れを説明した。
「ふむ。あの地下に、街があると貴公等は予測すると。」
「はい。多くの難民が勇者に導かれたと証言が上がっています。その流入先を考えれば…」
「ちぃ。セラティの予想とおり…か。」
「だが、そんな人数…国境を越えた実績は無いのだろう?」
「シペラでは確認しています。おそらく…魔の森を抜けてきたと予測できます。が、アヌヴィアトに入っていないのは確かです。しかし…」
「では。無用な心配では無いか?」
「いや、消えた住人、難民の説明にならん。おそらく…魔の森の中に村がある…な。」
「セラティ?」
「あの勇者殿も通ってきたんだろう?アルス殿もいるというしな。獣人の多くの戦士が居れば、人類には住めぬが…」
「なるほど。おとぎ話にゃ、”ゲート”ってのもあるしな。魔法か魔道具かは知らないが…」
「そんな夢物語が…」
「はぁ、公爵殿、3人の勇者様。しかもセツナ様は”真なる勇者”様だ。ゴルディアのドラゴン殿。家妖精の家…どれ一つとっても夢物語だろうよ」
「そ、それは…」
「何が起こっていても不思議ではない…と。おれもセラティに賛成だ。」
「セラティ将軍私もそのように考えています。もはや”国”として付き合わねばならぬのではないかと」
「実のところ、セツナ様からは、国として…宣戦布告を受けておる。無干渉…これを破れば…アヌヴィアトをもらうとな。」
「な!そのような重要な案件を!」
「眉唾…といったら貴公らは怒るかもしれんが、国としてはそこまで考えてはおらなんだ。怠慢といっても良いな。”勇者”案件なのに。ゴルディアの件があったが、それでも、心のどこかで”勇者”は人類の希望…そう甘い考えがあったのかもしれない。」
「セラティ位だな。最悪の可能性を認識していたのは。」
「ああ。魔の森にの中にある小さな村が出来たと。それだけが確認されていた。触らねば好きにしてるだろうとな。周辺の貴族共へ周知徹底させるのに苦労してる。」
「それは、この近くに?あ、通知は無いな…」
「ナーナの近くだな。なぁセラティ。」
「どちらかといえばな。ゴルディアから撤退の途中、どうも珍しい鉱石の採掘場を見つけてな。そこに居座る形だ。希少鉱石、宝石類の埋蔵量が多い。”魔の森”中層部にある。」
「ということは、ここと、”魔の森”中層部に二つの村。魔の森の素材の新たな供給源になり得る…か。冒険者も流れるな…」
「それが、犯罪者以外は入れるが、基本冒険者の受け入れは拒否されている。勿論、冒険者ギルドの受け入れもない。」
「アホが押しかけて、首になって帰ってきたがな。」
「ということは、そちらの村は交易をしている…と?」
「ああ。希少な素材の買い付けもできるな。ギルドを介していないので格安だ。領主などは、村の厚遇を決めたとか…」
「ふつう逆では…」
「関税かけて、関係をこじらせるより、素材の転売。認可業者の手数料などのほうが金になると。ギルドの手数料分の利幅が浮いてるからな。領主曰くその20%も貰えれば十分らしい。」
「マジか?セラティ?はぁ。どれだけあくどい商売してるんだ?ギルドは。」
「そりゃ、安く買って数倍から数十倍で売る。あれだけの高給職員と貴族モドキの役員を養うんだ。タダ事じゃなかろう?」
「ということは、ギルドとしては是非にも欲しい…な。しかし相手は”勇者”と。」
「場所が中層。…手が出ないというところだな。帰りに寄ろうと思っているが…果たして。」
「余程我が領より豊かそうだな…」
「でも、その”勇者”様達が、開発してくれるんですよ。税収も上がるってものでしょう。もう少し楽に考えれば。どのみち、私達じゃ手が届かないことだし。村の存在もほぼ確定。国としてどう付き合うかですね。」
「国としての対処は基本変わらぬと思う。が、この件の仔細の報告書。それと…ライン殿、出頭願おう。国としての判断材料となろう。」
「あ、申し訳ありません。私はご遠慮願いたいのですが、今ここでの先方とつなぎが取れるの私だけなんです。今、いろいろと懸案事項もありますし。”聖域”を囲う工事の終わりまでは動けません。」
「それよ。”聖域”とは…エキドレアの?」
「私は見たことありませんが、”神”がその御力を振るわれし場所。”天使”にも護るように命じられています。後程ご案内いたしますよ。」
「して…”御声”は聞いたか?」
「はい。臓腑が抜け落ちるかと思うくらいの重厚な御声。頭を押さえつけられるような重圧。なのに妙に落ち着き、自然と膝が折れ…涙が噴出するのでございます。」
「なんと…」
「で、”天使”とやらは?」
「姿かたちは、狐人族の美女。その背に大きな純白の翼。清純な気を放ち、幼子たちの御霊を導きていらっしゃいました。ミッツ様を”父様”と」
「…エキドレアのテクス殿の証言と合致するな。」
「同じ”神”による浄化が行われたのであろう…その場所の整備に費用も半分だそう。早急に整備しよう。ゼクス教を嫌っておられる故、彼の者達が土足で踏み入るようであれば、何が起きるか…」
「そのようなことが…警備を厚くしましょう。」
「そろそろ、教会には退場願えないものでしょうか。各地の悪事の陰に教会あり。何でしたら国内すべての大きな都市に、悪魔召喚施設の破壊を勇者様に依頼を出すというのもありですよ。この街にも二つあったのでしょうけど、もう一か所は勝手につぶしたと思います。今回の契約から外されていましたので」
「ほう。」
「只で…か?」
「クリスタルが目当てでしょう。兄上、勘違い召されるな、今回の生贄云々は、我らこの世界の者の問題。この街で、知らなかったとはいえ。起こったことだから。一応、従兄弟の家だし?」
「…そうだな。」
結局のところ、私の召喚は見送られ、代わりに多くの書類が王都へ行くことになる。その後、”聖域”を案内し、今日の会談は終わった。
軽くではあるが、歓迎の宴を開き半分寝ている兄上に喝を入れる。
「寝ちゃダメだよ。これからが本番。」
「だよなぁ。」
談話室で、軽く飲みながら近況、今後の動きなどを計る
「明日は、ヴァートリーの開発してる場所を見たいな。」
「しかし、急な事ゆえ、遠目から見るだけとなりましょう。個人の事業故。」
「資本は全く?貴族街であろう?」
「いえ、あの場所は旧貴族街として、かなり昔、100年近く前に払い下げられております。出資にしても、今の領の状況…とてもとても…」
「そこまでのことであるか?」
「我が家の財産はほぼ0ですよ。領の金庫も空。備蓄すら収穫が70%切れば人的被害もありましょう。」
「なんと…飢饉にならなくともか?」
「はい。できましたら国庫を…」
「ふむ…その状況で、あの男は遊びまわってるのか?」
「呆れた御仁だ。」
「お恥ずかしい限りです。少なくとも2~3年は節制すると思ったのですが…」
「…あれほどの態度を…保身だったのかと疑われてもな…」
「お恥ずかしい事ですが…最近借金の借用書も。この派閥…首謀者は…だれでしょうか…」
「見せなくともよろしい。力になれぬ。ワシからは何も言えぬし?そもそも貴殿の父上は自ら参加してるのだからな。そんなことよりも、首に縄をつけてでも早急に連れ帰るのがよかろう。そして、一歩も出さず、または…わかるな。」
「…はい。」
「ナハスの方から多少都合できぬのか?」
「ふむ…いざとなったら出さざるを得ぬが…それまでは領主の仕事であろう。職責がはたせぬのなら辞すればよかろう。」
「うむ。ナハスの言う通りであるな。本来であれば斬ってしかるべきところであったが…今の情勢ではな…とにかく戻せ。それしかないわ」
「は、はい。」
「なにかな?」
「…いえ。」兄上…クソ…貴族院も手を引いたか…こういう時の貴族院だろう?王都に残る手配にしても…
「それはあまりにも。それが国の考え方でよろしいのでしょうか。クテナンティ公爵。王家の言葉と。」
「ランス殿?何が言いたいのかね?」
「ランス!下がれ。」
「公爵。それはちょっと突き放しすぎですよ。貴殿も所属する派閥の締め付けが足りなかったのも事実でしょうに。彼らの忠誠の行方も行先を失うでしょう。まだ若いのだから、ここで手を伸ばすのが貴族院の仕事でしょう。」
「セラティ将軍!」そう言うことだよ!勇者様にアヌヴィアト献上するぞ!
「ぬぅ…」
「少なくともサーラサア殿に国元へ帰って実情を見てこいくらいは言っても良いでしょう。王の判断が下された手前、今更死を賜るわけにもいかない…被害を最小限にするために手をお貸しなさい。それと国庫を開く…それか、無利子での融資もいるでしょう。」
「お、お願いします。」
「王家にしたって恩を売る機会でしょう。」
「…解った…具申しよう…」
「ありがとうございます!将軍!ありがとうございます!」
セラティ将軍に大きな借りが出来てしまったが、これでだいぶ立て直せるだろう…兄上の面目も大いに立ったというわけだ。




