セツナ様
大きな倉庫のようなお屋敷?お役所みたいだけど。入るとすぐ、奥に案内された。開け放たれる扉…そして、大きな猪の毛皮の敷物の上に胡坐をかいて座ってる一人の少女…
「アツミです。ただいま帰還しました。」
「セツナ姉!帰ってきたぞ!」
「ご苦労様!思ったより早かったわねぇ。一年くらい帰ってこないと思ったわ。」
「それでも良かったの?」
「迎えに行くわよその時は。城破壊してでも。」
「ダメだろ…父ちゃん怒るぞ…」
「冗談よ。で…そのお嬢さんは?」
…この方が…伝承にあるように黒目黒髪…しかし容姿に反してその鋭い、何もかも見透かすような瞳。私なんかより多くの事を経験しているだろう思慮深い瞳…そして、この世で最強の力を振るうことのできる力と決意を持つ瞳…。
「は、初めまして!私は、の、ノリナ国、子爵家三女、アイリーンと申します!」
「ふ~んで?子爵家令嬢様がこんな辺鄙なところに何しに?」
「わ、私は…」
そっと肩に手を置かれる…あ。
「セツナ様。私の伴侶にと連れてまいった次第です。」
「はぁ!!!マジ?まじのまじ造?」
「マジ造なる人物は存じませんが。本気です。付きましてはお許しを…」
「許すも何も…アツミ君が決めたのでしょう?めでたいわね!今日は宴会…あれ?子爵令嬢といったわね…間者?それとも政略結婚の生贄?」
「違いますって…セツナ様も鑑定を。」
「は、はいぃ!」
「…良いわよ。別に。そう…なんかいいようにされてる感があるのだけど…あの宰相様でしょう?」
「お姉。大丈夫だぞ。帰り際にお師様が連れてくと言い出して。ノリナ国は大混乱だ。」
「あらまぁ。それは大変ね…にしても良くくれたわね。」
「愛の力です!…あ…」
「貴女…大丈夫?頭…」
あ、哀れな目でみないでぇ~!
「こほん。という訳でして。結納の儀なども押しています…」
「おっけ~うちの”宰相閣下”候補だから、恥ずかしくないものを準備するわ。ようこそアイリ。ザルバック村へ!」
「ありがとうございます!セツナ様」
「セツナ様、ザルバック殿が、再考できぬかと…」
「無理ね。さて。宴の用意よぉ~!めでたい!めでたい!」
無理…なのですね…ザルバック様…そっと手を合わせる…
「あ、そういえば、お菓子屋の小父さま、良く見つけてきたわね!今、解読の済んだレシピでいろいろやっているわよ?」
「ん?父ちゃんじゃなくて平気なの?お姉?」
「私だって…と言いたいところだけど…おじさまに会わせれば更なる進化があるでしょう…」
「やっぱし!ぷぷぷ」
「こら!ニコっち!」
「ははは!」
「で、オヤジさんはどこに?」
「厨房の”主”になってるわ。あ。帰ってきて早々悪いけど…明日は…さすがに可哀そうか…明後日にはアヌヴィアトに立つわよ!」
「了解しました。で、人員は?」
「そうねぇ…来たメンバー。お爺ちゃんは行かないそうだから、そこに菓子屋のおじさまね。護衛は…ハンは休暇にすっか…ヒューイ達も帰ってきたばかり…かぁ。いっそのこと要らない?お爺ちゃん達も強いし?」
「ここの防御もありますれば…それでも…」
「あっしが付きましょう。」
「ハン?もっと休んで頂戴な。」
「それでしたら、慰安旅行という扱いで。話に聞くビルック様の晩餐に招待いただければ、何よりの報酬に…」
「…良いの?ハン?」
「ええ。だいじょうぶでっさ。」
「じゃぁ、頼むわね。あなたと私で何とかなるわね。」
「あっし一人で何とでも。」
「ずるーい!お師様ぁ!私も行きたぁ~い!」
「お前さんは、ここに残って”目”となるんだ。良いな。」
「…はぁ。了解です!お土産お願いしますよぉ~」
明後日かぁ~アヌヴィアトどんな街だろう。
「うわ~うわ~すご~い!大きいぃ!」
目の前の台車には、おそらく魔猪だ!こんな大きいの見たことない!
「良いのが獲れたのぉ」
「うむ!美味そうじゃ!」
「腸詰でも作るかのぉ!」
「腸詰!お爺ちゃん達作れるの?」
「うん?見かけないお嬢さんだのぉ?」
「ドワーフと言ったら、腸詰と、ビアじゃ!」
「今日、お邪魔したんです!」
「おうおう。そうかね。暇じゃし、造るかの!」
「わぁ。私も手伝っていいですか!大好きなんです腸詰!」
「おう。良いぞ。良いぞ。」
「おい。じじぃ!腸の塩漬け買ってこい!」
「なにをぉ!貴様もジジィじゃろうがぁ!」
「まぁまぁ、お爺ちゃん達、私が買ってきましょうか?」
「…仕方無いのぉ。行ってくるわい。」
「おう。さっさといけ。」
「よし。では作ろうかの。お~~~~~~~~い!皆のぉ衆~~~!腸詰つくるぅ~~~~ぞ~~~~い!」
「「「「「おう!」」」」
「おう!塩持って行くわい!」
「肉は!」
わらわらと小さいお爺ちゃんたちが出てきた…どこに居たのよ…さっきの猪を使うと思ったら、 「熟成させた肉のが美味いんじゃ。」 そう言って氷室?から大きな塊を何個も…
「爺様、なんでも今晩宴会だそうじゃぞ。」
「ん?なら丁度ええの。多めに作ろうかのぉ」
「おう。聞いとるぞ。何ぞや、目出度いことやら?」
「じゃぁ、さっきの魔猪は”丸焼き”じゃな!炭出しとけ!」
{応!}
何がなにやら。
「うわ~良く切れる包丁ですね!」”とんとんとんとん…”
大きな肉塊が細かい肉片へと変わっていく。気持ち良いくらいに
「そりゃ、わしの手による包丁じゃ。嬢ちゃんの手に合うようじゃな。うむ。今日の駄賃じゃ。嬢ちゃんにやろう。」
「本当に!良いのですか!ドワーフ族の手によるものは高価だと…」
「炉の調子を見るに打ったものじゃし。かまわんかまわん!だで、バンバン刻んでおくれ」
「はい!ありがとうございます!」
”とんとんとんとん!”
楽しくなるくらいの切れ味!まな板も切れてるのではと錯覚するほどに。
「良し、嬢ちゃんはこっちを叩いておくれ。」
「はい!」
”とんとんとん…”
「今日はわしの配合でいいかのぉ。」
「おう。構わん。宴会一回分じゃろう。」
「おう。塩くれ塩!」
荒い挽肉と細かい挽肉を混ぜるのね。
「わ!冷たい!」
「ふおふお。冷やした方が出来が良えんじゃ。ホレ。捏ねる捏ねる」
「冷た~い。脂身を入れたかったらここに入れれば良いの?」
「脂身かのぉ。」
「ノリナの王都で食べたものはあっさりし過ぎて…美味しく無かったわ…しおしおだったから茹ですぎだったのかしら。」
「ふ~む。多少は入っておるが…脂身の美味さも良いの…次回やってみるかの。」
「良い香り…スパイス結構入るんですね。」
「ドワーフの家々で配合が違うんじゃよ。」
「ホレ、爺様、嬢ちゃん。肉が温くなっちまうぞ」
「湯もわいとるぞい!」
「燻製の準備も良いぞぉ!」
「おお!いかんいかん。」
筒状の物に混ぜた肉を詰めて…棒で突くのね。奇麗な真っ白な腸に”にゅるにゅる”おおお!こうやって作るんだ!
「ホレ、嬢ちゃん。こう、くるんとの。」
「ああ!なるほど!うわ!結構難しい!」
「ほれほれ。どんどんやらんと。」
「あ、小さくなっちゃった…こっちは大きく…難しい。」
「手本じゃ。ほれほれほれ!」
ドワーフのお爺ちゃんすごい熟練だ。あっという間に成形されていく
「お爺ちゃん、腸詰みたいな指なのに器用ね。」
「ぬぉ?言うのぉ!嬢ちゃん。ふぉふぉふぉ」
あちこちで、小さいお爺さんが”にゅるにゅる””くるくる”やってる。ふふふ。楽しいお料理教室だわ。
「す、すごい量ですね…」
「今日の宴で無くなるじゃろうて。どれ。燻すぞい。余分な水分が抜けてうまくなるんじゃ。香りもええしの。」
「スパイスだけじゃないのね。」
「嬢ちゃん、包丁見せてみろ…ふむふむ…使い方上手じゃのええ奥さんになれるぞい。」
「本当?嬉しい!」
「ドワーフ族は刃物の事で嘘は言わんぞい。うむうむ。」
きれいに洗って、布に包んでくれた。
「ありがとうございます!大事にします。」
「うむ。研ぎはドワーフの鍛冶屋に出すとええ。」
「はい!」
小屋?から漏れる良い香り…中層で見つけた新しい燻製の材料だって。
「もう良かろう。つぎじゃつぎ!」
「おう!」
「大変ですねぇ。」
「しっかり燻してやれば、日持ちもするしの。酒のつまみにも最高じゃて。」
「暇な時に、今日みたいに、皆で作るんじゃよ。」
「すぐに食ってしまうがのぉ!」
「美味しい腸詰はビアとの相性バッチですものね!」
「おお!その通りじゃ!」
「出来立ては…うまいぞぉ~」
「どれ、ビアもあけようぞ。」
「まだ早いですよ~」
「水じゃぁ、水。一樽持ってこい!」
{おう!}
「”ぷはぁ~~~~~”美味しい!一仕事の後の一杯は美味しいですねぇ!」
「だろう。そうじゃろう!そうじゃろう!」
「第一陣が茹で上がるぞい。焼くかの!」
「おお!焙ろう。」
「焼くのですか?」
「カリっと美味いぞい。」
「茹でたのしか食べたこと無いわ…」
「楽しみにしとれ。そろそろ鼻の良いのが集まってくるぞい。」
「あ、獣人族の子達?」
「ほれほれ。こっちおいで。」
{わ~~~~い}
「ドワーフのおっちゃん!」
「食っていいのか!」
「おうおう。直に焼けるぞい。」
か、可愛い…マジで…うわぁ…さ、触っちゃダメ…絶対!特に尻尾は…手がワキワキしちゃうわ…
「貴女…何やってるのよ…こんなところで」
「!セ、セツナ様ぁ?」
「おうおう。お嬢。見回りかの。ご苦労さん」
「…夜、宴会よ…で、なにしてたの?」
「嬢ちゃんと一緒に腸詰造ってたんじゃ。」
「はぁ?なんでそうなるのよ?」
「うむ。成り行きじゃな?」
「作り方知りたくて…大好物なんです。」
「まぁいいじゃろう。これから味見せにゃならん。ホレ、お嬢は行った行った。」
お、お爺ちゃん!セツナ様相手に?豪の者だわ!
「…私はダメなの?」
「そりゃ、作り手の特権じゃ。なぁ?」
{おう!}
「……」
セツナ様から謎の威圧が…
{…おうぅ…}
「仕方なかろう…お嬢も呼ばれていけ…」
「じじぃを威圧するでないわい!」
「わ~い!」
「可愛く無いぞい…」
「ぜんぜん」
「おう…」
「なによ!」
…セツナ様…
焼いた腸詰…皮はカリカリ、肉汁じゅわわわわ!肉も最高!もちろん作り手も!スパイスの配合も秀逸。はぁ…
「今まで食べた腸詰で一番です!美味しすぎますよ!」
「そりゃそうじゃろう!わしが作ったんじゃぞ!」
「おうおう。本場じゃ!」
「見ろ!わしの家の配合ぞ!」
「なにを!じじぃ!肉が良いんじゃ肉が!」
「なにおう!」
「はぁ、本当に美味しい!ビアが…うまい!」
「おっちゃん!うまい!」
「おいしいよぉ~」
子供たちも満足だ。
「嬢ちゃん、茹でたてじゃ.ホレ。」
”ぶっつり”
「はふぅ、はふ…う、美味い!美味しいよぉ~~~~~~~!」
「「美味しいよ~~~~」」
子供たちも真似してるわ。か、可愛い…遠吠えみたいね。
「さて、味見も終わったでしょう。付いてらっしゃい。お風呂行きましょう。」
「お風呂!あ、あるんですか!行きます!行きます!お爺ちゃんありがとうございましたぁ!」
「おうおう。またくるとええ。」
「はい!」
初日から楽しい出来事!腸詰だけでも来た甲斐があったわ!最高!




