婿殿…かぁ
「お初にお目にかかります。アツミと申します。」
ほう…いかにも…今でも宰相…上位高官の風格。異国の装束と相まって独特の圧がある。
容姿端麗…宴の華と聞いたが、納得だ。ふむむ。
「うちの娘なんかで良いのかね?」
「貴方!」
「お父様!」
「あ…失礼、私がアイリーンの父、ソケイと申します。こちらへ。」
お茶を勧め、奥を紹介し向き合う。…話すことが…無い…妙な緊張。私が嫁ぐわけではないのだが…な。ふふふ。
「ソケイ殿。御息女のアイリーン嬢との交際をお認め頂きたい。」
「そ、それは、こちらこそ。…ですが、近いとはいえ異国…」
「ご心配もごもっとも…。…すぐにでも…妻として迎えたい。」
「はぁ?と、突然ですな。」
「アイリーン嬢…いや、アイリ。私の妻になってくれ。帰還の際に連れて行きたい!」
「は、はい!」
「こらこら!落ち着きなさい!アイリも!」
…冷たい印象だったが…年相応熱を持っていて安心したわ…
「すいません。取り乱しました…ソケイ殿…」
「義父とは呼んでくれんのかね?」
「お父様!」
「は、はい…義父殿。若輩者…いや、これから家族としてよろしくお願いします。」
「しかし、良いのかね?”勇者様”は知らないのであろう?」
「…!…そうですね。」
勢いかよ…良きかな、良きかな。
「まぁ、文官の端くれですし?説き伏せて見せましょう。」
「…健闘を祈るよ…して、他に条件はあるかね?」
「義父殿…我が村はどうしても獣人族が多い。その点は?」
「特に思うところはない。一応、王の派閥の末席に名を連ねておる。」
「あと一点…宗教についてですが…我が国は多神教である”原初の神々”が国教となりましょう。ゼクス教の入る隙は無いでしょう。」
「アツミ殿も改宗を?」
「私はもともとが孤児。ゼクス教の孤児院に居る時からいろいろと見聞きしておりまして。その時分からとっくに信仰を捨てていましたよ。養父の唯一の善行は私が壊れる前に引き取ってくれたことでしょう。ははは。」
「…すまんな。余計なことを聞いた。」
「いえ。それ以降、宗教に関わることは無かったのですが…」
「なにか、アツミ殿に…そう、心に響くことでもあったのかい?」
「義父殿。アツミと。そうですね。…身近に感じました。今だ御声は聞いてはいませぬが、”勇者”のお一人、ミッツ様との関係が強いそうです。ミッツ様曰く、”地面に這いずってセコセコ生きているおいらを見て楽しまれてるんだ”と。エキドレアの奇跡にも大いに関わっているそうです。」
「…エキドレアの…例の…」
「私の口からはこれ以上は。ですが、アイリも来れば…大いに感じるものがあると思う。命令はできぬが、改宗を勧めたい。できれば式も本拠地で挙げたい。」
「は、はい!」
「…アイリは少し落ち着きなさい…」
「は、はい…」
「それで、国としては公爵家への養子縁組、花嫁修業を検討しているが。どうであろうか?」
「わ、私は、すぐにもついていきたい!」
「黙っていなさい。それで。婿殿の考えは?」
「養子縁組は不要。そもそも、ノリナ国に…貴族に信は置いておりませぬ故。上級貴族の養子の必要はないでしょう。どこぞの知れぬ貴族の名より、義父様の家を信じておりますれば。花嫁修業…このあたりは…どうなんだろう?アイリ…アイリーン嬢?」
「…どうなのでしょう?料理…お母さまも別に作りませんでしょ?」
「うぐぅ!」
奥にダメージが入ったぞ。とばっちりだわな。
「掃除と洗濯は任せてください!軍隊仕込みですよ?」
…軍に入れて良かったのか?憶測通り、婿を釣りあげてきたが…大物すぎるわ…
「…その辺りは協力していこう。内政。生活内で手伝ってほしい。私も家事を手伝ってくれるものくらい雇えるように頑張るさ」
「はい!子作りも頑張ります!」
「「はぁ?」」
「最も大事なことですよ。婿様、あなた。健康面は全く問題ないわね。アイリは。」
「へっぽこ騎士団の鍛錬が役に立ったわ。」
「では…すぐにでも連れて行くと…」
「義父殿、義母殿のお許しが頂けましたら…」
「急な話ですわね。」
「は、離れたくない…のです…」
「あらあら。そういった心の声を聴きたいわね。」
「では!…」
朗々と娘との馴れ初めから、惹かれたところ、毎日の読書?とティータイム?…宴で、ダンスが出来なかったことへの無念。”勇者”のミッツ様の言葉、”恋に忠実にあれ!おいらみたいに貰い損ねるぞ!”…ミッツ様は50近く、独身だそうだ…実の言葉なのだろう。
自分の娘をここまで褒められると照れ臭いというか恥ずかしいな…奥と、アイリは頬を染めてうっとりだ。さすが”麒麟児”演説もお手の物だな。
いろんな意味で、ノリナ国の損失だな。ははは…そして、我が婿殿か…
「…という訳で早速連れ帰り、夫婦として共に生活をしたいと思っています。結納等に関しては後日…ただいま出先故…。出先でわがまま放題ということも理解しております。お許しください。」
演説は終わったようだ。尻がかゆいわ。この婚姻については王公認なので心配はしていないが…
「それは構わないが…出会って2週間くらいだろう?」
「あら、お母様とお父様はお見合いで、数回でしょう?私たちは恋愛で二週間ですよ?」
「「ぐはぁ!」」
ものすごいカウンターが…
「い、いや、そ、それはなぁ”家”同士の…であってだな。」
家同士の見栄…ともいうが…
「あら、私たちは”国”同士よ?」
「「ぐふっ!」あ、あなた…」
「奥よぉ…」
…であったわ…
婿殿と部屋に二人。…男同士でどうぞ。だと。
特に話すことは無いのだが…何度も言うが…あ、一つだけ…
「婿殿…ひとつ聞きたい。”教会”の在り方だ…話によっては我らも改宗しても良いと思っている。王すら、ゼクス教とは一線を引いておる。”勇者”様も同じであろう?」
「…人族の国に…聖王国に隣接するこの国では生きづらくなりますよ。」
「それでも…」
「そうですか…結納納めに来る日まで待っていただきたい。確認事項もありますので。」
「そうかね。了承しよう。この後はどのように動くのかね?」
「まずは”村”へ。セツナ様に報告。すぐにアヌヴィアトに行くことになるでしょう。そこで、養父スルガ、”勇者”ミッツ様、トワ様へ挨拶をと。」
何?
「ん?3人?3人でいらっしゃるか!”勇者”様は!」
「…その辺りも正確には伝わっていないようですね。かの国に召喚されし”勇者”様は、ミッツ様と、トワ様。セツナ様は自力で来たようです。トワ様の実姉です。」
「なんと…”真なる勇者”様でおられたか…」
「はい。御三人の中でも最も苛烈。容赦など全くありません。その辺りをもっと真摯に受けていただかぬと。本当にノリナは終わってしまいますよ。」
「そういう状況であったか…いい加減ノリナもあり方を見直せねばならんな…」
「そうですね…まぁ、歴史が許さぬでしょうけど。暫くはアヌヴィアトに居ると思います。一段落ついたら再びこちらにお伺いしようと思っています。」
「そうかね…で、結婚式はどうするのだね。」
「その後…アヌヴィアトで。と考えております。」
「こちらでは?」
「必要とあらば…教会にはかかわりを持ちたくないので、披露宴のようなものをと。」
「うむ。解った…娘を頼む…な。婿殿。」
「はい。」
翌日、アイリを連れて帰還された…次に会えるのは一年後であろうか?…涙を流す奥の肩に手を置く。激動の時代…幸せにな…




