ナーナへ。真火の決意
調査を終え三度商会へ。
準備ができ次第ナーナへと出立するつもりだ。
ナーナの町自体はそんなに遠くはない。私であれば余裕で走って行ける距離だろう。
「お爺ちゃんたち、大体のことが分かったわ。どうやら、皆、領主らの策に嵌り、不法に奴隷に落とされ鉱山送りになってるそうよ。そういった書類、偽造された書類なんかもわんさか出てきたわ」
「な、なにぃ? そ、それは真か!」
「な、なんと……領主、ゴルディア公が?」
「わ、わしらの怠慢じゃぁ……同胞たちよ……」
「そうね……。でも、今回は領主、代官、冒険者ギルドが結託している。ノリナ国自体と言い変えても良いわね。大きな権力……仕方なし。だけど今後はもう少し各支部の連絡を密に……お爺ちゃんたちドワーフは移動が苦手だから、他種族の人員を入れることも含めて考えて行きましょう」
「そ、そうじゃの……」
「同胞を守ることができんとは……情けない!」
「もっと関心持つようにせねばな……」
「で、お嬢、ナーナに行くのじゃろ」
「そうねぇ、明日朝一で出ましょうか……。行くのでしょう?」
本当はここに居てもらいたいのだけど……
「もちろんじゃ!」
「うむ!」
と、いきり立つ、ドワーフの師たち。気持ちはわかる
「いや、待つのじゃ。主ら。先にお嬢の考えを聞こうかのぉ」
と、さすがダワーリン老。
「はい。本当は、皆、ここにいてほしい」
「お、お嬢?」
「なに? 邪魔……かのぉ? ワシらが!」
「足手まといとかじゃなく……要は”囮”ね。お爺ちゃんたちが動けば……」
「……目立つ。のぉ。ワシらが【ナーナ】行こうものなら、相手さんの警戒の度もグンと上がろう。逆に動かず、ここでブラブラしておったら、敵は安心し油断しよるの」
「……なるほど……のぉ。そのとおりじゃな。しかも、足も遅いでなぁ」
やっぱ、気にしてるのね。その点は馬車でぶっ飛ばせばいいでしょう。
「確かにのぉ……」
「そう。納得できないでしょうけど……。お爺ちゃんたちは、むしろ遊ぶくらいのお気軽さで町に出てもらいたいの。その怒りの気持ちは書状に。囚われてるであろう同胞に勇気を与えるような、生きることに執着するような希望溢れる手紙をお願いするわ!」
「そうじゃの……お嬢の気持ち解ったわい! ……のぉ? 主らもの」
「うむ……」
「すまぬが頼むぞい。お嬢!」
「ええ。任して。それなら、今日中に、今から出ることが出来るわ」
「ぬ?」
「私一人ならどうとでもなるわ」
「むむ。すまんのぉ」
”ぱんぱん”
己の頬を張る。気合い入れよう!
「さぁ! お爺ちゃんたちは書状を、アツミたちは訴状と証拠の整理を。真火貴方は……ここの護衛を」
「セツナ……姉さん、俺も行きたい!」
「ん? ”人”を斬ることになるかもしれないわよ?」
「そ、それでも!」
ん。決意はできてるのね。後は実践か。いいでしょう
「解ったわ。ついておいで」
「はい!」
……
「ドレンさん、ご迷惑をおかけします」
出立前、皆が見送りに来た。といっても、壁越えていくつもりだから門じゃないけどね。
「いえ、後で詳細を教えていただければ。当商会からも”ノリナ国”に抗議をいれましょう」
「じゃ、お爺ちゃん達、ここ頼むわ」
「任せよ。まだまだ、若いもんには負けんわい!」
と、お爺ちゃん達の気の入った書状を渡される。その割には軽いわね?
「久方ぶりに腕が鳴るわい」
「ほどほどにね。アツミ君、ニコ君もお願いね」
「了解です! セツナ様」
「うん! おいらに任せて」
「よし! 行くよ、真火!」
「はい!」
一息に壁を乗り越え、ゴルディアの街に。
先にギルドの建物に。ロキソンの状態次第では約束通り連れて行くつもりだ。担いでね。
「ファタ……居る?」
「はい……今開けます。……ですが……」
「うん? なによ? 問題でも?」
「ロキソンが……」
「……?」
「い、痛みのショックか……し、死にました……」
ふん。痛み止めのような名前で、痛みでショック死? 洒落にならんわねぇ。
「はぁ? 爪一枚、歯一本で? それでも男? ……それも”冒険者”でしょうに?」
いや……ボディか! レバー・ブロウ連打で叩き込んだから。本当に肝臓破裂したのかも? ……軟ねぇ。
「は、はい……」
「私なんか年中、手足斬り飛ばされてたわよ。串刺しだって……はぁ、アホ臭ぁ」
「セツナ姉?」
「まぁ、良いわ……案内して」
……
「ほんとに死んでるわね……ったく。使えん。根性なしめ」
うんむ。肝臓ね。顔にも黄疸? が出てるしぃ。胃袋も? 嘔吐の跡と怪しい液体が口から出てるしぃ。最終的には吐瀉物による窒息か? 悪党らしい最後でしょ。
「”収納”……山にでも捨てておくか」
「あ、あのぉ……わ、私は……」
「困ったわねぇ。貴女の存在意義が無くなっちゃったわねぇ……どうしましょう?」
「た、たすけて! こ、殺さないで! 殺さないでぇ!」
「じゃぁ、ここで何やってたか詳しく書いて。上申書よ。わかった?」
「はい……」
「先に掃除もね。じゃ、またね!」
まったく……そんなに簡単に死ぬなよな。面倒な。
……
城壁をよじ登り、飛び越え、城外に。警戒が厳しいと聞いていたけど。外敵に対してなのかね。人も少なく、ザルだ。
ナーナは東の街道を森に向かいまっすぐ。突き当りだったわね。
「真火君、疲れたら言うのよ?」
「はい!」
……
さすが、チーター? の獣人、足が速い。短距離ランナーのイメージがあるが、スタミナも申し分ないようだ。夜目も利くみたいだね。
「セツナ姉さん!」
「うん! 良く分かったわね! このくそ忙しいときに! 殲滅するわ、真火は無理しないこと!」
「はい!」
街道上、前方の木々が生い茂る場所の手前。
せっせと馬車の足止め用の丸太を設置している屑どもの姿が。
そう、盗賊連中だ。茂みに隠れて丸太で道を塞ぎ、立ち往生した馬車を襲撃する。今はもう日が暮れている。明日の準備か何かだろう。
盗賊は生かしておいてもなんの意味はなし。帰りの障害にもなるだろう。ここは殲滅あるのみ!
「邪魔よ! 屑!」
「ん? ガキ? !……」
すれ違いざまに飛ばしてやったわ。何って? 頭よ頭。お馬鹿だからお脳も軽いのでしょう。よく飛ぶこと。
まだ突っ立ったままの胴体。その首から
”ぶしゅううう!”
勢いよく血が吹き上がる。真っ赤な噴水ね。ふふふ
「なんだ、このガキは! け、剣?」
「やりやがった?! おい!」
「殺せ! 殺せぇ! このメスガキがぁ!」
なによ、メスガキって。失礼ね。こんな美少女つかまえて!
「ふん! そっちこそ死ね! 腐れ生ゴミ共が!」
……たった10人、”屁”でもないわ! ……あら、お下品でしたわ……。オホホホホ。
向かってくる賊を、ただ、バッサバッサ斬っていくだけの簡単なお仕事。
残り二人になったら急に威勢がなくなり、剣を放る。
ひとりは逃げ出したけど、ヤツの放った剣を投げてやる。返却だ。
あら、少々強かったかしら。剣は逃げた賊の背、腹部にささり、通り抜けることなくその勢いのまま前方の木に縫い付ける。不格好な蝉みたいね。自身の重さで少しずつ割けていく。放っておいてもいいでしょう。死しかないのだから。
「ほら、残りはアンタだけ……アジトはどこ?」
「た、助けて……」
無理っしょ。
「う~~ん。早くアジトに案内してくれないと……ブッ殺しちゃうかも?」
「こ、こっちです……」
アジトは移動式? 幌馬車が5台。こんなところで襲われないのかしら。
(後で知るのだが”結界石”という、魔物を遠ざける魔道具があると。取り損ねたわ!)
半分居眠りしていた見張りを背後からクビとん! 逆水平よ! 気絶? 脛骨粉砕であの世行きよ。
馬車を検めていく。気配のあるのは二台。一台には兵隊。三人が寝ていた。寝てるところ悪いけどぉ、その首にギロチンチョップ! を一発ずつ見舞っていく。
器官も脛骨も一気に潰れちゃうから、声を発することなく瞬殺だ
で、もう一台には親分が。ま、特に興味はない。ギロチィーーン、チョォップ!
馬車を漁り盗賊宝をゲットする。お頭のマジックバッグに入っていた。
なかなかの量だ。伊達に冒険者相手に盗賊稼業はしてないな……。
しかも、丸太が入っていたであろうマジックバッグ――麻袋のような見た目だが――も手に入れた。これは真火に上げよう。試練を越えられたら……ね。
「真火……こいつ、斬れる?」
「え!」
どん、と蹴りだしたのは、アジト迄案内させた賊。もちろん、降伏もしたし、武器も捨てている。が、賊は賊だ。どのみち、縛り首だ。
「お、お助けを! お助けを! ここまで案内しただろう!?」
「こいつは盗賊。多くの者を……人の”命”を食い物にしてきた屑だわ。理不尽にね」
「……」
「そんなこたぁ、してねぇよぉ~~」
「逃がせばまたやるでしょう。最悪、逆恨み、真火の大切なものに手を出すかもしれない」
「……」
「しねぇよ、そんなこと! 足洗うよぉ」
「……」
……駄目……かなぁ? まぁ、あの街の中なら”殺し”をしなくとも生きてはいける。ん!?
「へぐぅ……? ! ぃ痛てぇ? ……い ”ぴしゅ!” ……」
左手の湾曲した刃が盗賊の鳩尾に吸い込まれ、一拍後、右手の直刀で頸動脈が断ち切られる。血を吹き出しなが倒れる賊。
「お見事……よくやったわ」
「ね、姉さん……?」
「真火……貴方は悪くない。これだけは言えるよ。やらせといてなんだけど……嫌悪感や後悔、するといいよ。命を奪う……とても重いことなんだ。心をすり減らすほどね」
「だ、大丈夫……俺は、俺たちは、奪われてきたんだ……父さんだって、母さんだって……」
「……そうだね。でも信念を忘れないように。守るためにその刃を振るいなさい……闇に落ちぬように……」
「……はい」
「じゃ、行こうか」
……私の台詞じゃないわね。……はぁ。
……
しばらく走り、休憩を取る。
「どう?」
「大丈夫。まだ走れるよ!」
「……そう」
「……初めて……だったよ」
「うん。そうだね」
「……姉さんは?」
「う~ん……そうだね。……私やトワ、ミツル――ミッツおじさまのいた世界はね、死が遠い世界だったの。もちろん、盗賊みたいのもいたけどね。こんなちっこいナイフ持ってるだけで衛兵につかまるくらいよ」
と、指先で示す。
今思うと、あの国(日本)ってば自衛の手段のことごとくを奪うところだった。おまけに、犯人に怪我させたり殺したら過剰防衛って。アメリカやこっちの世界に来ればよく分かるわ。
それが凶器に変わる? 結構じゃない。そんな奴は皆に集られてズタボロに切り刻まれて、くたばればいいのよ。
「え! 本当! どうやって身を守るの?」
「それだけ安全な世の中だった? のよ。たぶんね? 警察……衛兵も沢山いてね。それに牛とかも専門に殺す人がいてね、私たち、普通の人は切り身を買うのよ。血抜きやら解体なんて……生きてる姿なんか見えないのよ」
「ほんと?」
「うん。魚の切り身や干物が泳いでると思ってる人がいるくらいよ」
「ははははは。お貴族様みたい!」
「だね。ふふふ。……そんなとこから、私たちは来たの。人殺しなんか……」
「……セツナ姉……」
「私は、”奴隷”にされて……考える暇も、権利もなく。……多くの命を奪ったわ。やれ! って一言でね。何百、何千……何万とね……」
”ごくり”
「あ、この世界じゃないよ、また別なところね。もう、慣れちゃったわ。……私は悪い例。……闇に近いわね。殺しなんかなんとも思わない。呼吸するのとおんなじ。半面、トワや、おじさまは自分の身を、大切なものを守るため、必死に……考えて考え抜いて……命を奪うことを選択していてるわ。そっちを真似るようにねぇ~~。私みたいになっちゃだめよ」
「セツナ姉……」
ぽんぽんと頭をなでてあげる。ふふふ。殺しをしないでいい世界なら……
「さぁ、行こうか!」