初めての町、満喫中って話
ヴァートリーの支店で『緑晶石』という宝石の存在を知る。綺麗な淡い緑色をした宝石だ。
だが、ルージュ様曰く、そいつの正体は『精霊蟲』とやらの魔石だそうだ。しかもルージュ様がおっしゃるに地中に魔石が埋まってること自体がそうそうあり得ないそうだ。という事で自ら眠りについたのかと仮定された。もちろんその話に乗らないという手はなし! 面白そうだもの!
……
「明日の情報収集に合わせて『緑晶石』という石について調べてくださる?」
「そいつは構わんが……で、なんだ? 『緑晶石』って? 宝石の類か? 欲コキお嬢?」
おいおい……。
ただいま紹介された食事処に移動中。宿舎の方でも食べられるがせっかくだし? ちょっとお高い処に向かってる。
「おい! パテンス! セツナ様に向かって無礼だろうが!」
「へいへい。それで?」
ドネリーも本調子だなぁ。勇者教の信者だもの。
「そうだけど、そうじゃない? ま、後で話すわ。浪漫よ。浪漫。それにパテンスさんこそもっと欲コキなさいよ! ガツガツと! 欲こいての冒険者でしょうに?」
「そうか? そこそこの稼ぎがあって酒が飲めりゃぁ 「はぁ……。そんなんじゃお嫁さん貰えないわよ……貴方。一生……そして一人……寂しく野垂れ死ぬの……誰に知られることもなく……」 ……う、うぐぅ! お、お嬢ぉ!」
「『緑晶石』ですか……。私たち”砂漠の民”が珍重する宝石ですね。『緑の記憶』『森の記憶』ともいわれています。砂漠になる前、ここは豊かな、古代の森が広がっていたとか」
と、ヤンさん。
「へぇ。『緑の記憶』『森の記憶』……そういった伝承、元は精霊蟲って伝わってるのかしら? ヤンさん?」
「『精霊蟲』でございますか? その辺りは……。大きな祭りを執り行ってる部族であればあるいは……そういった話も伝わってるかもしれませんね」
「……一生……野垂れ死ぬ? 俺が? ……ブツブツ……」
まだやってんのかよ……パテンス。
「パテンスは放置でいいや。 「おい!」 じゃぁ、明日から情報収集ですね。それにしても、宿が使えないっていうのもひどい話ですね。団長?」
「ああ。部族の偉い奴……の力が強いそうだ。そういった連中がちょっかいやら難癖付けてくるという。ヴァートリー商会は大丈夫みたいだがな……」
と、団長。
「チッ。そうみたいだカルネラ。思った以上に影響力があるようだわ。ヴァートリーは逸話もそうだが、生活用品やら酒肴品を大量に商ってるから大丈夫みたいだがなぁ」
と、補足を入れるパテンス。お、戻ってきたな?
逸話……報復する商人だものなぁ。ここならその生活物資を止めちゃうとか? 待つのは飢え死に? こわ!
「部族の連中?」
「ええ。砂漠の民のね。砂漠の利権をめぐって毎日のように争っていますよ。協力しようって頭はないですね」
と、その砂漠の民の出身のヤンさん。
「沢山あるんです?」
「ええ。大きいのから小さいの、このネフロ砂漠に100からの部族がひしめき合っていますよ。ウチのダンジョンもその一部族ですよ。ネフロレビス、セネシオラ両国の王家も手は出しませんね。砂漠での戦いは砂漠の民に分がありますし。それに、砂上船も砂漠の民が運航しています。砂漠の風読みの技がいりますし。物資の輸送、交易に無くてはならないものですからね」
「へぇ」
「馬賊みたいのもいるんだろう、ヤン?」
「まぁ、そこは。それに自分の土地に入ってきた他所者は襲ってもいいという考えもありますし。パテンスらの世界の国と一緒ですよ? 規模が小さく入り組んでるだけですよ? それに年中、他所の部族と小競り合いしてますし?」
「なるほどなぁ。小さな国かぁ。境がないからしんどいな」
「まぁ、それを覚悟で砂漠に入らないとね。返り討ちにするくらいの気概じゃないと? 前みたいに駱駝がたくさん集まりますよ。パテンス。ふふふ」
「でも、ヤンさん。それじゃぁ、他所の商人さんやらは?」
「ですから、”砂漠の民”のガイドを雇ったり、砂上船に乗るんですよ? それでも襲われるときは偶に? ありますけどねぇ」
「ほれ、『砂のダンジョン』案内してくれたポリゴナ殿も言ってたろ。正規のルートってやつだ。そもそも勝手に突っ切れる代物じゃ無かろうよ? 砂漠はよぉ」
「それもそうだね。ミッツ様のお知恵で乗り越えたんだもの。んじゃぁ、俺らも雇う?」
「ヤンって交渉役になるのか?」
「さて、どうでしょう? 部族から出てますし? そもそも襲撃されれば、即、”殲滅”でしょうに? ねぇ、セツナ様?」
「当然ね! ぶっとば~~す!」
「……だわなぁ」
は、ははは……そうね。返り討ちだわね。
……
レストラン【ブドウの房亭】に到着。清潔で綺麗な飯屋だ。テーブルの上に僅かな砂粒もなし。
そうそう、この町に路上の屋台はない。余程、砂漠から吹く風が強いのか。砂塗れになっちゃうものね。代わりに通りに面した大きな建物にまとまって入ってたりする。セツナ様曰く、”ふーどこーと”という様式らしい?
「あら、そんなに脂まみれってほどでもないじゃない。このブドウの葉の包み焼? 羊肉かしら。ラム? 癖も無いわね。うんうん。美味しいわ」
「おう? こっちの中身は麦粒と玉ねぎか? このスープ、美味いな」
個室を押さえて(ルージュ様がいるからね)大皿料理を適当に注文。正に地元の料理だろう。なにせブドウの葉っぱがふんだんに使われている。しかも、この葉っぱ……結構美味い!
「う~~ん。トルコ料理に近いのかしら。ここらのピーマンの肉詰め、ドルマだったかしら? ま、美味しいからいいけどぉ」
「ここの羊は若いのを使っていますね。交易都市の高級店故でしょうね。私には少々物足りませんが」
「へぇ~~そんなに違うモノか? ヤン?」
「ふふふ。好みの分かれるものとだけ言っておきましょう。この国にいれば食べる機会もあるでしょう」
「なんか怖いですね……ヤンさん」
「ああ……」
そうだなぁ。ミッツ様、セツナ様もだけど、一緒だと基本高級店だもんなぁ。屋台は無いし? 砂漠突っ切る時もどこも寄らなかったし? 後で”ふーどこーと”とやらで食ってみるか? 現地の味を……
<うむ。軽い口当たり。爽やかといってもいい。美味い。相棒! このワインもう一瓶貰ってくれ>
「はいはい。ちゃんとごはんも食べるのよ? ルー」
<では、この川魚のトマト煮を追加でもらおうか。ナマズも結構美味いものよ。ここのコックも腕がいいな>
「はいはい」
……
夕食を終え、宿舎に帰還。今日の処は何も無かったが……。明日もないといいがねぇ。さて?
……




