知ってることを吐け
『冒険者ギルド』……じゃなかった、冒険者ギルドに占拠されていた『鍛冶師ギルド』の店舗の戸締りをし、ヴァートリー商会に戻る。紛らわしい……何で冒険者しかいないんだ? まったく……
途中、後を付ける者もいない。隠密行動成功って事ね。再び壁を飛び越え帰還。
「ただいまぁ~」
”どたどたどた”
ん? お爺ちゃん達? 待っててくれたのか?
「お、お嬢、どうだった?」
「どんなんじゃった?」
「様子を聞かせておくれ!」
そうね。同胞の一大事だものね。
「それがねぇ。ドワーフの鍛冶師、皆、ナーナに行ってるそうよ?」
「なにぃ?」
「ナーナじゃとう? この町には結構な数の同族がいたのにのぉ」
「どういうことじゃ?」
「こっちも聞きたいわよ。鍛冶屋も無し、整備は東門でできると。で、ギルドの建物には冒険者ギルド所属の人族が二人いたわよ」
「???」
ぽかんと口お開けているお爺ちゃんたち。普段、もっさりした眉毛で半分隠れてる目玉も真ん丸だ。
「? よくわからんが? お嬢? なぜに冒険者ギルドなんじゃ?」
「なんでそうなるんじゃ? お嬢?」
「ギルド長はドローヴァンだったか? おらんとな?」
「もう。知らないわよ。それをこれから調べるのでしょうに。お爺ちゃんたちの管理不足よ。これって」
{うむ}
「面目ない……」
「……すまん」
「どうなってるからわからないのよ……早急にナーナに行く必要があるわ」
「うむむ……」
「い、いやな予感しかしないわい……」
「そうじゃのぉ」
……ええ。単純に考えて乗っ取られた。となればドワーフ達は……。
女中さんにドレンさんを呼ぶように頼む。行動を起こすにも情報がいるものね。
「ただいまぁ~~」
「ただいまもどりました」
アツミ君たちが帰還したようだ。ナイスタイミング!
「お! おかえり! そっち、どうだった?」
「鍛冶師がいないんですよ。ドワーフの。獣人の冒険者は見るのに……。東門に行ってみましたが、人族の鍛冶師……というより、砥師といいましょうか?」
うん。私の見解も一緒。
「どういうことじゃ?」
”こんこん”
「失礼します」
「あ、ドレンさん、すいません。お聞きしたいのですが、鍛冶師ギルドについてですが……」
「当商会とこの町のギルド支所と直接の取引はありませんので詳しいことは……。ただ、数年前から会合には、ロキソンという理事を名乗る人族の男が来ていましたな……」
数年前……かぁ。長くなれば長くなるほど生存率に響くわね。
「ええ、居たわ。二階でふんぞり返っていたわ。『冒険者ギルド』のロキソンがね。受付も同じファタという女」
「冒険者ギルド?……話が見えませんな」
「お爺ちゃんたちが知らないうちに合併されちゃったのね。クス」
「お嬢……」
「そんなことあるかい! 毎年収支報告は上がっとるぞ! 会員名簿も」
「ロキソンから?」
「いんや、ドローヴァンじゃ」
「……お爺ちゃん達、ドワーフが査察とかしないことを良いことに、やりたい放題って訳ね。アツミ、ニコ悪いけど、今から付き合って。家探しをするわ」
「ええ。大丈夫ですよ。……燃えてきますねぇ! そうでしょう? ニコ?」
「はい。お師様!」
「お師?」
「まぁ、師匠ってことで。ミッツ様より託されまして。では、早速行きましょうか!」
「ええ。真火君はここで護衛。ヴァートリーに手は出さないとは思うけど。……お爺ちゃん達をお願い。お爺ちゃん達にも武器置いていくわ。なんかあったら騒いで。私にはわかるから。飛んで戻ってくるわ!」
「うむ!」
「すまぬのぉ」
「お嬢、頼むぞい!」
「休めるようなら休んでて。明日、ナーナに行くわ」
「わしらも行くぞい!」
「うむ!」
「……解ったわ。休んでてね。お酒は控えめに」
「なあぁ~に。燃料じゃ!」
「おう!」
「明日が楽しみじゃ!」
「はいはい。じゃ、行ってくるわ」
……
「ここが、ギルドなのよ。お願いできる」
アツミ君、ニコっちを連れて再びギルドの建物に。特に尾行も観察者もない。
「了解。さて。悪いことの好きなバカはっと……セツナ様、先ずは一階から。地下室の入り口や、空間を見つける魔法とかはありますでしょうか?」
「”探査”ね、ちょっと待ってね」
”どん!”
足踏み一発! ん……
「地下に空間は無いようね」
「セツナ姉ぇ……。瓜じゃないんだから……。叩いてわかるわけないじゃん」
え、ええぇ! わ、判るのよ? 空間とか!
「……に、似たようなものよ。ニコっち?」
「……探しましょうか。ニコ……地道に」
「……はい」
なんでよ!
……
「お師様! ここ!」
と、壁の一部を指し示すニコ君
「ん? やりますねぇ。ニコ。セツナ様、引っぺがしてください」
「アンタら、私をなんだと思ってるのよ。怒りの乙女ぱわー!」
”べき、ばき!”
「さすがセツナ様。ほう……金貨に貴金属ですか。で、裏帳簿? どれどれ……。……利益分配表? アホですね……これが出たら縛り首だよ?」
「どれどれ、見して? はぁ、領主もグルか。半分持ってってんな。契約書みたいのない?」
「あるよ。セツナ姉! ほらこれ!」
「……おいおい。領主と【冒険者ギルド】……完全に癒着してるな」
完全に真っ黒。
「失礼……。公式証書での? バカですね……ついでだから、慰謝料ぶんどって失脚させましょう」
「ふふふ。面白そうね!」
「ささ、”収納”へ。そこでしたらいかな手も届きますまい」
「了解。ほかにもないか捜索を。何でもいいわ」
「はい!」
「あ、金銀財宝は出張費でいいわね?」
「いかようとも」
……
「次はこの部屋……ん? 臭いわね……」
糞尿の匂い……ま、縛り上げて放置したから仕方ないかぁ。
「おもらし?」
「むーむー! ぐむぅ!」
「あら起きたの?」
猿轡を外してやる。ロキソンだっけ? どこぞの頭痛薬のような名前ね……ぷぷぷ。
「っぷぁ! き、貴様ぁ! わしにこのようなことをして住むと思ってるのか!」
「はいはい。現状考えなよ? イキるのは良いけど身動きできないのよ?」
「うるさい! 拘束を解け! ひ? ぎぃいいい!」
ほんとうに懲りないわねぇ。再び頭を踏みつけてやる。こういった連中はとにかく痛みに弱い。ぐり! ぐり! ぐり!
「あなたの方がうるさいわよ。下で、契約書やら、利益分配書出てきたけど……ドワーフの組合員、どうなってるの?」
「し、しらん!」
「そう。今から拷問するけど? 言うなら今よ?」
「ふ、ふん! ガキがぁ! 拷問だぁ? な、生意気言ってないで縄を解けぇ!」
ならいいか。たららららぁ~ん♪ 『千枚通しα』! お爺ちゃんに作ってもらった特殊合金製! 硬く曲がらず、熱伝導も良好! ほれ、じゃぁ ”びき!” っとな!
ロキソンの左手、親指の爪の間に差し込み、ぐりっとな! 痛い? 痛いわよねぇ。
「ひぎぃーー! いぃ……! ……! ……!」
”ぐりぐり”
「いぐぎぅーーーー!」
「うるさいわね!」
大口開けてるから……。折角だし? 右、下あごの奥歯に……
”ばきぃき”
ぶっ刺してえぐる。砕ける歯! 良いわこれ! 歯より硬い? 水晶砕けるわね!
「いっ……! ……!! ……!!!」
……叫びにもならないのね? あらあら。お漏らしまでして。
私、おじさまみたいに”洗浄”使えないわよ?
「さぁ? 教えてよ? ほらほらほらぁ」
「セツナ姉ぇ」
あら、ニコ君、まだまだよぉ!
”ぐりぐりぎりぎりぎり……”
「ひぐ……ひ! ぐぅ……ひぐぅ~~」
「教えてくれないの? 困っちゃうなぁ♡ ……んじゃぁ、隣の歯にいくわよぉ~~♡?」
るんるん♪
「ひぃ! まふぇ! まふぇ!」
「はい?」
「こ、こんなこふぉひふぇ……じふぇぇぇぇ! ぎさまぁ! 領主が黙って」
「ふぁいあ! んなことは良いのよ! さぁ、さっさと吐け!」
顎の骨に刺さったままの『千枚通しα』に炎を放つ。小さくね。赤熱するα。
「いぎゃぁあああああぁぁぁーーーー! ………!」
くっくっく!ものすごく熱いでしょう!
ああ……いいわぁ……火の通りもばっちり。βへの改良点としてはもっと細くかな?
「大方、奴隷に落として扱き使ってるんでしょう?」
あら、気絶しちゃった? 頬を張ってたたき起こす!
「……ふ? ふいぃふいぃぃ!」
「違うの? まぁいいわ、ナーナにつけばはっきりするでしょう?」
「ひぃぃふぅぅうう」
今日の処はここまでね。あらあら。ものすごく腫れてるわね。人相も大分変っちゃって。
「女連れてきて」
「はい……。さっさと知ってることを言えばいいものを」
…。
「! ろ、ロキソン! あんた! あ、あんた!?」
そりゃ、別人だものね。αで抉った右側なんか、顔、倍以上に腫れて、紫色に変色してるもの。
「ファタ。貴女にも聞くわ。ドワーフたちはどこ? 言わないとこいつのように歯を一本ずつ……砕くわよ?」
「ひ、ひ!」
「ほら? アナタもああなるわよ。まだ一本であの様……ふふふ。何本いけるのかしら?」
「い、言いますぅ! 助けてぇ! 言いますぅうう! な、ナーナの近くの鉱山と、ナーナの入ってすぐ……鍛冶小屋にいますぅ!」
「ほう。”自由”は?」
「……」
「ほら?」
『千枚通しα』を向ける。眼球の直前に。ぶっすり行くわよ?
「ひ、ひぃ! み、皆、ど、奴隷になるのが悪いのさ! 馬鹿だから!」
「じゃ、アナタは私に出会ったのが災難ねぇ。丁度良さげに”呪物”があるわ。この部屋にあったものよ?」
首輪タイプの拘束具。命に従わねば徐々にその首を締め上げる。
ほんと、こういうものはどこの世にもあるものねぇ。特に魔法があるところは顕著だ。
「や、やめて!」
女のクビの前に差し出す。
「わが名は”セツナ”神より断罪の剣を授かりし者、受け入れよ! ファタ、我が名を、我が命を、我が盟を……拒否すれば凄惨な死あるのみ。……選ぶがいい……奴隷になるか、死か……」
「……」
「答えねば否ととる。死ね」
「う、受け入れます! 殺さないで、殺さ ”かしゃん!” あ……」
了承とともに呪物が首にはまる……。脅迫されていたとはいえ、自分の意思、誓約もより強まるだろう。
「裁判の証言台までは生かしといてあげるわ」
「あ、ああ……」
「ほかの帳簿とかあれば出しなさい。全て。冒険者ギルドの書類、その他、どんな証言も受け付けるわ。知ってることみな話しなさい」
「は、はい……」
「最初の仕事……そいつの面倒を見てやって。臭いのは困るわ」
足でロキソンを小突く。あら? 反応なし? 痛みのショックで死んじゃった?
「は、はい」
「アツミ君、そっちはどう?」
「はい、セツナ様。これだけの証拠、”普通”に裁判が出来れば完勝でしょう」
「普通に……ねぇ。まぁ、台ごとひっくり返せばいいだけね」
「台ごと?」
「ふふふ。ニコ。セツナ様でなければできないことですよ」
「アツミ君、悪いけどまとめておいて」
「了解です。で、どちらを?」
「そうねぇ。ギルド、領主……ナーナの代官……」
「ほう……国も?」
「だめ?」
「いえ。行きましょう!」
「ふふふ。よろしく~~。さぁ、帰ろうか。ファタ、貴女はここでこいつの世話をね」
「はい……」
「あえて行動に制約はかけていないわ……あなたの行動であなた自身の今後が決まる……まぁ、誠実に。……頑張りなさいな」
どうせ無理でしょうけど……ねぇ。人はそうそう変われないわ。