ゴルディア崩し 2
~領主居城、謁見の間にて~
「何ぃ。”勇者”が来たとぉ?失敗したか。」
「エネル様もお戻りに…」
「ん?話が見えぬ。連れてこい。」
「はっ!」…
「ど、どうした…その腕は…」
「…”本物”でしたよ…」
「なに?」
「本物の”勇者様”でしたよ。南門に”報復”に来ています。」
「報復だとぉ~小癪なぁ!」
「そうそう…ご子息…ルファン様も”勇者”の手に掛ったと…また、各種不正の証拠も入手しておりました。」
「なにぃ!それは誠かあ!わ、わしの3人の子を…息子たちをぉ!」
「不正の証拠は一部、軍に訴状とともに引き渡されました。」
「むむむぅ」
「その”勇者”様が門に来ているのです…貴方様の求める、証拠、私怨の対象が…。行かれたらどうです?お待ちのようですよ?今なら腕の1~2本で済むかもしれませんよ?ふふふ。」
「え、エネルよ…いかがした?」
「私は…ちぎり取られました…ふ、ふふふ…領主様も…領主様も!不公平だぁ!あんたのせいでぇ!諸悪の根源がぁ!お前が行けぇ!殺されてしまえ!」
「つ、連れてけ!ぶ、無礼者めぇ!牢にでも入れておけぇ!」
「逃げるな!おい!放せぇえええ!」
「放せぇ~…」
「放せぇ…」
…しんと静まり返る謁見の間…
「りょ、領主様?如何なさいます?」
「…」
「ここに居ても仕方ありますまい…」
「陣頭に立って、街を守りましょうぞ…。交渉を…」「ご出馬を!」
「ちと…疲れた…そのほう…ナーナ代官殿、そのほうが交渉してみるがよい…」
「ええ!領主殿ぉ?」
そう言い残し、謁見の間を出ていく領主。
「お待ちを!」
「おまちぉ…」
”ばたん”皆の制止する声を無視し…城郭の奥へ…
防御結界の制御室。…ドラゴンさえ抜けぬといわれた結界の奥…魔物があふれる…スタンビート対策に初代が手に入れた結界発生装置…これのおかげでこの街が…ゴルディア家が繁栄したと言っても良い。
発生装置のわきにへたり込み…
「何がいけないのだ…」
「わしが…わしが…」
か細く紡がれる怨嗟の言葉…時すでに…
…。
「んん!そろそろ時間ね。そんじゃぁ、一丁、行きますかぁ。」
くいと最後の一口。日本茶が欲しいわね…
「領主出てきませんわねぇ。お姉様にビビってるんでしょうか?」
「どうかなぁ。でも、結界の層が厚くなったようね。」
「結界…ですか?」
「ええ。城郭を中心に…あら、やだ。」
「どうしたのぉ?お姉様?」
「町を覆うのではなく城郭のみね。自分だけ助かる算段なの?」
「へぇえ。」
「…その結界って…お姉様に効くの?」
「ん?」「?」
「一応、人族でしょう?」
「一応じゃないわよ!セーラ!人族よ!」
「そうですねぇ、セツナ様は普段の結界石も抜けられるか…」
「だから、人族です!」
「じゃ、効かない…?」
「そりゃ、結界外から、魔法でもぶち込めば反応はしやす…でしょうが?」
「ふん。それじゃ結界ぶち破って心折って…ん、ん?…!…そうだ!うちの今の採掘場に丁度良いわね!」
この町が魔の森のからの”氾濫”の防衛を担ってるのでしょう?さぞや立派な結界石があるのでしょう!
「ま、まさか?」
「いただきましょう!どうせ、城郭だけしか範囲ないし?町には影響ないでしょう?」
「はぁ…」
「決定!あと折角だから…武器庫やら備蓄…全部はかわいそうね…2/3はいただきましょう。迷惑料と慰謝料よ。」
「流石お姉様!」
「ほどほどに…」
「で、どのあたりに…?」
「そうねぇ…貴族街は西門の付近…よね?」
「西門から北門にかけて、城郭付近までですわ。」
「じゃ、その辺りにしましょうか。…ったく…貴族も生かしてもらってるんだから、東側に住んで壁になりなさいよ!ってか、ハンって、この街の備蓄先判る?」
「軍のでしたら…」
「軍のじゃなく…やっぱり、城郭内…か。」
「おそらく…」
「城壁壊して、城郭へ。備蓄いただいて、結界石をもらう…と。」
「領主は?」
「いたら…そうね。腕の一本ももらおうかしら?」
「殺さないのでぇ…?」
「いちおう、イザークさんに任せると決めたからねぇ。」
「解りました。」
「じゃ、行こうか!」…。
「軍隊付いてくるわね…」
「そりゃぁ…城壁ぶっ壊すと宣言されてるんでぇ…」
「ですです♡」
「まぁいいかぁ。結構大きな街ねぇ。」
「そうですよ~”魔の森”の恵みで~今思うと、本当に扱き使われてたわ~」
「そうだなぁ。まとまって稼げるから居たってもんだ。」
「みなアホ息子の小遣いよ。ぷぷぷ。」
「それをいわないでぇ~お姉様ぁ~」
「大丈夫だぁ…奴ら、金払わん…」
「「大丈夫じゃないわよ!」」
{ははははは}
こちらは、わいのわいのと歩を進める。散歩してるみたいに。が…後方の軍隊のお偉いさんは真っ青だ。くす。
「ついでに、虐げられてる、獣人さんとかって居る?」
「スラムの方に居るかもしれませんね…」
「スラム?」
「ご存知かどうか…東門付近にあります…」
「解ったわ。帰り寄っていこう。」
「「はっ!」」
ゴルディア西門に到着。貴族街があるせいか、壁は厚いようだ。なぜわかったかって?城壁の上に多くの派手な格好をした連中がわんさか居るからだ。宴会?見物?ったく。お貴族さんの物見遊山ね。
「ここいらからね。」
「はい。ここから行きますぅ?あら♡」
”ぱぱぱぱっぱら~”勇壮なラッパの音が鳴り響く!ん?
すると門が開き…
”ぱぱぱぱっぱら~”再びのラッパ。
同時に一人の不細工な人族と露出多めの女5人を吐き出した…ったく…
「貴様が偽物か?…我は、”勇者”ガジオ!”偽勇者”めぇ!尋常に勝負しろぉ!」
「おおーーーー!チャンプ!」
「ガシオぉおお!」
「ガシオ!」「ガシオ!」「ガシオ!」
城壁の上から歓声が響く…これのせいかぁ…逃げないんだ…アホね。
「なにあれ?ほかにもいるの?”勇者”って3人だけだと思ったけど?」
「ガジオ?ああ、闘技場の剣闘士、チャンピオンだったか…?なぁ?ねぇ、お師様?」
「へぇ。見世物の…ですね。あっしがいきましょうか?」
「いいわ。城壁の上の連中。退避勧告無視ね…死んでも良いのかしら。」
「あ!ああ♡」
セーラ…驚いた風に…喜ぶなよぉ。あんたは解ってたでしょうに。さっき何気にチェックしてたじゃない…
「沢山…いますなぁ…貴族の”習性”忘れてましたわ…」
呆れ顔のハン。
「まぁいいわ。行ってくるわ。ご期待に応えてあげましょ」
…。余興には丁度いいわねぇ。
「いいわよぉ~相手したげる…”勇者”様。」
「このガキ!」
”ぶん!”ぶん!”
…普通、女の子…美少女に剣抜いて躍りかかる?屑ね。
しかし、とろいわね…取り巻きの女も何気に…うざい…。踊るのならあっち行ってやりなよ。
ひょいひょい躱していると…ん?…なるほど…伏兵?女がナイフを投げてきた。
「あらら。品性のかけらもないわね…尋常って意味知ってる?」
飛来するナイフのすべてを奪い…
「ほらぁ。弱点マルだしよぉ。」
”ひゅん!”
露出の多い胸元に正確に…お自慢であろう、おっきなお胸の真ん中に深く、深くお返しするわ…
”どど!どど!ど!ど!ど!どっ!どど!”
すべてのナイフを投てき者に返す。本数も正確に。
”どさささささ…”心臓をナイフで貫かれ地に伏せる女共。もちろん皆、物言わぬ。
「んんなぁ!」
「もう茶番は結構…」
ひょいと躱し必殺のぉ!”もんごりあんちょーっぷ”!もちろん奇声付きだ!DVDでしか知らないけど、チャーミングなおじさまだったわぁ。”うっとり”
「きええええぇーーーーーー!」
”ずぅうっつぐきごききぃきぐぅきぶちいぃみちぃ…”
両肩から入った手刀が鎖骨、あばらを砕き…
「ひ…ひふひふひふひふ…」
「あら…行きすぎちゃったわね…」
右手刀が心臓近くまで入ったついでに”握”。
「ひう!」
「あらあら。苦しい?んじゃ、さよなら。」
”ぶちぶち…””どさり”
そのまま心臓を引き抜き、今尚、脈動を続けるそれを、草むらに放る。
膝を突いてその一部始終、己の心臓を草むらに放られたガシオ。彼の目はその様子を脳に送っていたのか?
”びくんびくん”大きく痙攣し体が跳ね上がり、頭から地に伏せる。
そして、その場が静寂に支配される…
しん…と静まり返った城壁の上。間抜け面どもを見回す。さてと。
「おバカねぇ…さてと…ショウヘーイ様…おいでませ~」
目の前に召喚陣が現れ”魔剣”が召喚される。あは。久しぶりねぇ!
右手にズシリ…久々の重さ…”破城魔剣ショウヘーイ”刀身は2m9cm、柄はもちろん38cm(十六文)のアホみたいな大剣だ…タクヤと洒落で作ったロマン武器。刀身形状が…チョップの形、武骨だがどこか優しい一品だ…そう!伝説のレスラー様の…
「久しぶりね。ショウヘーイ様…貴方の力、借りるわよぉ…うなれ!ゴッドォーーーーチョーーーーーーップ!あぽぉ~!」
ジャンプからの一閃!城壁に脳天唐竹割りだ!”ずががががぁああああーーーん!”見えない刃…衝撃波で城壁も人体もまとめて粉々だ。今更逃げてもぉ…遅い!
「ぁぽぉ~」
”ずががががががががが!”切り裂かれる城壁と…人体。
「ぎゃぁ~~~」「きゃー」「ひィ~」
「逃げないのが悪いのよぉ~警告したでしょっと、ぽぉ~!」
”ずががががぁあああぁあぁーーーん!”舞う、石屑と人だった欠片。
ここらで逆水平じゃ!
「あっぽぉ~~~~~!」
”がぎゃがぎゃぎゃぎゃががががが…”
「どれもう一発!あっぽぉ~~~~!」
”ずぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあああああ!”
「…お姉様…楽しそう…」
「セツナ様ぁ…」
ふふん!あらあら。セラティ殿、顔、真っ白ね…
「見よ!これが”勇者”の真の力!魔剣の真の姿を!ショウヘーイーカモ~ン!」
チョップの形状が”かしゅしゅしゅん!”変形…そう膝から先の足の形状…
「必殺!ゴッド~~~~~スタ~~~~~~ンプ!(十六文キック)」
”ずぅ…ごーーーーーーーーーん!”
城門が微細な石片に成り、周辺に降り注ぐ…木製の落とし扉も鉄製の格子戸も原形を留めることなく宙を舞う。破城魔剣の真骨頂!
「ふぅ…もう一本行っとく?」
「セツナ様…そろそろ…」
「むう?そう?この調子で北門まで行こうと思ったのだけれども。」
「いやはや…しかし、バカ騒ぎしてた貴族連中も粉みじんですなぁ…」
「逃げないのが悪いのよ。時間もあげたし警告もした。尤も、あのへんな剣闘士けしかけて、賭け事でもしてたんでしょう?自分の命賭けることになったけど。ざまぁ無いわねぇ。その辺のこと、ちゃんと記憶しておいてね。軍人さん。自殺者の群れよ。」
「は、はい!」
「じゃ、城壁はこのくらいで良しとするか。ショウヘーイ様、またね~」
チョップの形状に戻り優しく手を振り返してくる…ジェントルメンだなぁ。




