ゴルディア視察行 21
~川辺手前、討伐隊キャンプ地。夜~
「斥候が戻りました。」
「おお!無事だったか。通せ」…
「それで、逃亡犯共はいたか?」
「はい…”魔の森”の奥に…」
「そうか!よくやった!」
「進行するので?”魔の森”ですが…」
「ん?当たり前だろう?」
「エネル殿は文官だから知らないと思うが…森の中じゃ獣人族やドワーフ族に対抗できないぞ。その辺りは?」
「そんなことあるまい。こちらは100名もいるのだぞ。」
「エネル殿。我らの隊はここにて敵を待ちます。魔の森侵攻など自殺行為。」
「うちの隊もそうさせてもらう」
「命令だ!」
「隊員を守るのも我らの仕事。行くのなら手勢で行くがよかろう。」
「ああ、だれも止めない。」
「く…わかった…明日は森の出口に陣を敷く…」
「?陣?たった百人だぞ?検問が良いところだろ?」
「貴様ら…やる気があるのか?」
「はっきり言ってやる。”無い”ね。俺たちは町の治安を守る門衛と門番だ。領主の私兵じゃぁない。」
「何!」
「今回の噴出しているうわさ…失墜は免れんだろう。新領主が来たら…せいぜい首を洗っておくんだな…エネル殿。警備部の不甲斐なさで俺たちはここにいる…」
「貴様ら…」
「言いたくないが、彼らの言う通りだな。いざ対峙の折には貴殿が先陣を取るがいい。そうすれば皆納得もしよう。」
「な!わ、私は文官だぞ?」
「その文官が分もわきまえず、ここまで来たんだ。本来なら反対し、出兵せずに衛兵たちをとどめる側であろうよ。街の治安も荒れるだろう。」
「それでは逃げられるではないか!」
「逃げてもいいではないか?」
「は?}
「手配だってできるし、国境隊にも通達もできる。正当な理由があればな。が、今回の出兵は完全な私怨と悪事の隠蔽だからな、大手を振って事にあたれんのだ。本来であれば国に訴求し、軍が当たる案件。」
「そ、そんなこと…」
「証拠も集まってきている。ゴルディアの領主も変わるだろう。ごく一部の配下も同様に…な。勿論貴殿もその一人となろう。生きて帰れたらだがな。」
「そ、そんな…」
「衛兵隊長の諸君。君たちの境遇は存じている。よく話し合って行動してほしい。軍もできうる限り協力しよう。」
「「「はっ!」」」
「生き残れよ!」
「「「はっ!」」」
「よく無事に戻ったな。」
「いや…捕らえられたよ…」
「なに!」
「相手は…ハン殿だ…」
「俺は”夜猫”だった。」
「いずれも高ランクの冒険者か…」
「はい。森に入ってすぐに…決死隊の者5人すべて…」
「では、相手の所在は…」
「それは本当だ。普通の人族の脚で1日くらいの場所に、野営地…というより、簡易な砦があった。」
「砦…?」
「ああ。鎧馬車がずらりと。」
「森も切り開かれていたな…」
「あんなとこで何をしてるのかは不明ですが…」
「そうか…」
「そして…”勇者”様に会いました…極極普通の少女でした…」
「特に威圧するでもなく…」
「本当に”勇者”様かと疑いましたが…ハン殿たちの付き従う姿を見ると…間違いないかと。」
「そうか…本当に無事でよかったよ…」
「明日、”勇者”様の方から、こちらに来るそうです。」
「な!」
「それは本当か?」
「はい。そう言っていらっしゃいました…当初の通り、無抵抗で行く方がよいかと…」
「そうだな…」
「再度徹底しておくか…」
~川辺手前、討伐隊キャンプ地。朝~
「おはよう。」
「む?どこから来たんだい?お嬢さん。」
「エネルさん呼んでよ。来てあげたわよ?」
「ハン殿?…ゆ”勇者”様?」
「”偽”だろう!貴様ら何を…うぐぅ」
「黙れ!申し訳ありません…」
「いいわ。聞いてるし。で、貴方は降伏派?」
「はい…」
「じゃ、案内して。軍議くらいしてるんでしょう?」
「はっ!」…
「あきれたわね…まだお眠?呑気ねぇ。」
「すいません…」
「貴方のせいじゃないわよ。」
「”勇者”様…軍の方が面会を求めていますが…」
「そう。通して。」…。
「お初にお目にかかります…本官はノリナ国防軍、東部分隊、ゴルディア駐留軍、調停官、イザークと申します。」
「ご丁寧に。私はセツナ。一応”勇者”よ。証拠要る?」
「いえ…結構にございます。」
「で、面会の内容は?」
「此度の発端の件…人を人とも思わぬ所業…ドワーフの方々には大変不自由を強いて申し訳ない。ただいま調査の最中ですそれ相応の補償を…」
「むぅ。わしからもええかの。」
「お爺ちゃん?どうぞ。」
「わしは、ダワーリンという。一応、鍛冶国の王族じゃ。」
「は、だ、ダワーリン様?」
「此度の件…ノリナ国の在り方が良ぉ~わっかたぞい。」
「は、はっ!」
「わしらの怠慢もあろうが…領主…国が行っているとの。どうしようもないのじゃ。」
「はっ、は、はい!」
「それにの…人族至上主義も良いが…此度の件…人族の奴隷もおったぞい。金に目が眩むというのは恐ろしいのぉ。同族まで…」
「お、お恥ずかしい限りです…」
「本来であれば、国からもそれ相応の抗議を出すところじゃが、わし等にも怠慢があったでの。」
「あら、囚われた方々には何の落ち度もないわよ!」
「そうであったな…言葉足りなかったの…補償は求めん。わしらが償うでのぉ…死んだ者もいるじゃろ…その代わり…わしらは二度とノリナには協力せぬ…」
「そ、それは…」
「鍛冶師ギルドの方針としてもらっても良い…のお。理事殿。」
「そうね…それだけでいいの?」
「良いじゃろ…わしらの戒めにもなるじゃろ。」
「そう…じゃ…アツミ。」
「はい。セツナ様。私はアヌヴィアトのアツミと申します。」
「麒麟児のアツミ殿で?」
「さて…凡夫ですよ私は。此度の件…まとめておきました。これらが訴状…こちらの正当性をうたったものです。一読下さるよう…証拠の書状もありますが…正式に国よりの召喚があれば提出しましょう。」
「この場での確認…転写書での転写は?」
「用意がよろしいですね…”勇者”様の前で不正もないでしょう…こちらが証拠品のリストです。」
「恐れ入る…こ、これは…むむ…ほ、本当にこれらのモノが…」
「偽証罪になりますよ。横の番号を言っていただければ…特には5番でしょうか?」
「い、いかにも。」
「どうぞ。」
「むむむ…本物か…」
「なによあれ?」
「聖王国とのつながり…隷属の術式、呪物の譲渡などなど。しかも、人族の女性を対価にしていたり?まぁ、屑の所業ですね。聖王国、領主、冒険者ギルド。」
「最低ね…聖王国だって、ノリナだって一応は奴隷廃止派でしょう?」
「ええ。そうですね。」
「屑ね…もういらないんじゃないの?消毒しましょうか?」
「セツナ様。」
「冗談よ。」
「おや、賛成でしたのに。」
「あら、アツミ君珍しいわね。」
「どうも最近の事件の裏にはすべて教会が絡んでいるようです。ちょろちょろと目障りです。いっそのこと…」
「直接来たら…そうしましょ。」
「ええ。期待してますよ。その前に…ゴルディアですものね。」
「ゴルディア…はっ!」
「そうよ。イザーク殿、そのために来ているのでしょう?」
「し、失礼する!”偽勇者”が来た…げぇ!!!」
「騒がしくて…失礼ね…エネル殿。久しぶり。」
「な、なぜ…ここに、ヴァートリーが…?」
「あ~あれは、バイト…臨時雇いよ。”偽勇者”のセツナです。お見知りおきを。うふ♡。」
「セツナ様…全然可愛くないですよ。」
「うっさい。で、お寝坊のエネルちゃん。文官の貴方が何しにここへ?」
「…」
「あら、ビビッて何も言えない?」
「う、うるさい…」
「はい。ご用件をどうぞ?扉の外の呼び込む?}
「…だ…だ…」
「”偽勇者”にビビッてまぁ…さっさとご用件をどうぞ?この後、押してるのよぉ。ゴルディアに行かないとだし?」
「ご、ゴルディアへ?な、何しに?」
「そりゃ、行くでしょう…三度目よ、三度目。襲撃は。こっちの力を解ってないのでしょう?領主も…国も…あなた達も。」
「そ、それは!」
「無所属の勇者の力見せてあげるわ。」
「ど、どうにか…お、納めてもらうわけにはなりませぬか…」
「ふん。3度襲われて泣き寝入り…解ったわ。これからノリナの都市…王都含めて…ゴルディア…とあと一か所…襲うわ。これでお相子。」
「そ…っつくぅ…」
はぁ、もう面倒…。波動食らう?この姿じゃ、説得力無いのでしょうけど?
「イザーク…貴方、私を舐めてるでしょ?あれもダメ、これもダメ?どうすりゃいいのよ?黙って殺されろと?本来なら交渉…会合すら無用。王の命?ならば、”勇者”セツナが問う…お前の王は私に何をしてくれるのだ?んん?速答えよ。」
「そ…それは…」
「言なくば沈黙せよ。私を止められるか?其の方らで?」
「くぅうう…」
「い、イザークどのぉ!クソぉ!」
あらあら。若いのにやるわねぇ。でも、頂けないなぁ。この交渉の意味わかってるのかしら?
「や、ヤメ」
「ひぎぃいい!」…
抜いてかかってきたらねぇ。とりあ、あいあんくろー!
「貴方死にたいの?…このまま、頭握り潰してあげようか?」
くすくす。
「あがががが…」
「くくく。宣戦布告…確かに受け取ったわ。ノリナ国…敵認定ね。」
「お、お許しください…そ、その者も…」
「ぎやぁあああ…」
あら?土下座?こちらにも?…ああ…勇者たくさん来てるからね…
「武器抜いてかかってきたら”敵”でしょう?違うの?」
ぱうわ~!あっぷぅ~!”ぎりぎりぎり…」
「いぎぅうぅうう……あぐ、あぐぅ…」
「お許しください…どうか…どうか…」
「…解ったわ…今のは無しにしてあげる。この子も返そう。あの殺気の中、よく動けたわねぇ。関心関心。…だが、ゴルディアは諦めよ…なぁに、人死にも少なかろう…逆らわなければな。城壁を少し吹き飛ばすだけだ。これが最大の譲歩と知れ。」
”どさり”
気を失っちゃた?…死んじゃないでしょうね。
「は、はい…」
「さすれば、我が力を知り…あの領主一族のようなものも出まい。其方も説明しやすかろうが。」
「はい…」
「な、なにを勝手に!そんな横暴許されるわけないだろう!」
はぁ?本当に文官?あなた?頭悪すぎ…
「あら、奴隷にして扱き使うのは横暴ではないと?」
「ドワーフ族だろう。」
「人族もいたわよ?」
「我らの命令に、ぎやぁーーーーー!」
右腕をつかみ後方へ。肩をぐるりと…一回転。関節破壊してからのぉ、びち!引きちぎる!もぐ!”ぽい”っとな。
「もう沢山…あの次男だか、三男といっしょね。ふぁいあっと。”じじゅうううう~” 「ぎゃぁああ!」 …血だけは止めてあげるわ。まったくあなたも懲りないわね。」
狭いテントの中というのに…人の焼ける匂いって…全然美味しそうじゃないのってなんで?
「「エネル殿!」」
エネルの絶叫を聞きつけ、扉を開けて、ムサいのが二人。…
「ガキが!」
「で、そのガキにどうしたいわけ?」
「やっち”しゅ”ひう?」
”ぶっしゅーーー!”
「いい加減にしねぇか…どいつもこいつも…セツナ様に向かって…」
「”ぴしゅ”へひぃ?」
”びゅびゅしゅ~”
「ええ…本当、どいつもこいつも…お姉様に無礼ばかり…」
二人の首が、途中まで断たれる…。ぶひゅぅ、びひゅぅと不気味な呼吸音を漏らして。わざと、半死にしたのだろう。既に助からない。
「こんな形だもの…仕方ないわよぉ。」
「いえいえ…素敵でしたわ…本当にもげるんですねぇ。腕。」
「でしょう。じゃぁ、行くか…アツミの方は?」
「大丈夫ですよ~。」
「ここはイザーク殿に任せてもいいかしら?ちゃんと荷物まとめて帰るのよ?」
「は、はい…」
「うちの者に手出したら…」
「わ、解っております!」
「じゃ、ヒューイさん、キャンプ地までお爺ちゃん達よろしくね。」
「はい。承りました。」
「ハン…貴方も来るのでしょう?」
「お許しいただけるのでぇ?」
「その代わり交代で、エネル担ぐわよ?」
「ほっほ。そのような、貧相な棒きれ…あっしひとりで担げけまっさ。」
「無理はしないでね。」
「な~に、腕一本分軽くなっておりやすし。くっくっくっく。」
「…」
「お師様、つまらないわよ…笑えないし…」
「ほ、そうかい?」
「まぁ、いいわ。暗殺者ジョークね…行きましょうか。」
「へい」「はい」




