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善き鉱山んんん???

 ……


 合流したハンと薪拾いを終え、野営地に戻る。

 暖取り用の焚火の前に青い顔のアツミ君が陣取ってた……。ブルブルと震えて。

 随分と早いわね。戻って来るのも!

 

 「あら、もう見つかったの? アツミ君、例の金属?」

 「い、いえ。……皆、この寒いのに……考えられません……(ガクブル)」

 手のひらを火にさらしては、さすりさすり。ブルブル震えてまぁ。まんま、濡れ鼠ね。

 この世界、そんなに寒くはないと思うけど、現地人には寒いのかしら?

 「お師様はいまいち運動不足だからなぁ」

 と、ニコっち。

 「そうねぇ」

 「猛省してます。わ、私ももう少し動けるように鍛錬しようと思います……」

 「いいことだと思うわ。それよか風邪ひかないようにね」

 「は、はい。セツナ様。うん? そのお方は、先ほどの?」

 今頃気づいたのかい……

 「ええ。早速、解雇になったそうでウチに来てくれたのよ」

 すっと前に出て頭を下げるハン。うん。その動き一つとっても、もはや美しい。完成された体術というの。無駄がない。

 「ハンと申しやす。以後、お見知りおきを」

 「や、やはり……”無影手”殿ですか。もしやと思っていました。こんな格好で申し訳ありません。私はアツミと申し……は、は、はっくしゅん! ……失礼」

 もう。温かいスープ飲ませてさっさと寝させないと。御曹司からいただいた物資に”霊薬”ないかしら?

 「あら、有名なのね?」

 「へぇ。ま、自分で言うのもなんですが、そこそこは」

 「Sランクの冒険者ですよ。対人に特化した。それに元……」

 「気配で分かるわ。よろしく頼むね。で、お爺ちゃん達は?」

 「ええ、そろそろ暗くなるから戻ってくると思いますが……」

 「そう? ね……」

 だといいけど……

 

 焚き火を囲み、雑談。ハンにも詳しい話、経緯を説明しないとね。

 おっと! ニコっち、尻尾、焦げるわよ!

 

 そこにホクホク顔のお爺ちゃんたちがご帰還だ……。嫌な予感がするのは気の所為?

 「おう! 戻ったぞい!」

 「ふぅぃ~~冷えた、冷えた!」

 「そうじゃ! お嬢! 蒸留酒をちょろっと」「うむうむ。いい仕事ができたのぉ!」

 ”わいわいがやがや……”

 まぁ、生き生きとしちゃって。逃亡中や奴隷としてこき使われていた風には見えないわね。

 

 「しょうがないわねぇ」

 ”どん”と蒸留酒の酒樽を出す。

 {ぅおお!}

 「善き鉱山に乾杯じゃ!」

 {善き鉱山に!}

 ”ごくり”

 乾杯はいいけど……鉱山?

 「で、どうだったの? お爺ちゃん」

 蒸留酒、胃に流し込んで人心地ついただろうから聞いてみる。

 「うむ。想像以上じゃのぉ。流れが遅い、小さい川なのにの」

 「そうじゃの。大昔は大河じゃったか……いや、精々が河原程度じゃが……」

 「いや、過去に大きな地面のうねりがあったのじゃろう?」

 「こんなのも出たぞい? そうそう見ない結晶じゃの」

 握りこぶし大の緑色の大きな結晶。ふつくしいわ。

 「……奇麗ね」

 「緑柱石じゃの」

 「明日、安全祈願せねばの」

 「ああ。鍛冶神様にも報告せぬとのぉ」

 「まずは保管庫をじゃな」 「仮住まいも……」

 ”わいわいがやがや……”

 ……何やら不穏な単語が聞こえてくるのですが……。アツミ君も肩を竦めるばかり。

  

 「こいつは益々上流の調査が必要じゃのぉ」

 と、酒を飲み飲みお爺ちゃん。もう、出しただけ飲んじゃうのだから。ひょいと、樽をどけてやる。

 「調査? あまり奥の方はいけないわよ。護衛もいないし」

 「了解じゃ。特定して……領主に? ……イヤじゃのぉ」

 「だのぉ」

 まぁ? ここらはゴルディアかもしれないものね? 因縁マシマシのところだ。

 「そうねぇ。『商会』で押さえるってことできる?」

 「商会……ヴァートリーか! あすこなら、可能か!」

 「ふむ。面白い考えじゃな」

 「それでも、埋蔵量やら、産出品の提示はいるじゃろう?」

 「なんとかギルドウチと共同事業にせんとの」

 「その場合って、商会に”卸す”ってこと?」

 「そうじゃのぉ。先方が加工品が良いといえば要相談じゃし」

 「『名義代』も納めにゃぁならんの」

 「それじゃ、ギルドにうま味がないじゃない」

 「そりゃ、隠し鉱山と同じようなもんじゃて。商会さんの力に大いに頼ることになるでの」

 「駄目じゃない。……まぁ今回は仕方ないか。次はウチの力で回すわよ!」

 「応! その意気じゃ! お嬢!」

 「……言っておくけど! お爺ちゃんたちが何にもしないからこうなったのよ!」

 「そうかのぉ?」

 うそぶく白髪ジジィ

 「ボケた振りはやめてくれます? アヌヴィアトに強制送還かしら?」

 「お、お許しを……勇者様。老い先短い…… 「当分大丈夫よ絶対!」 ……そうかの?」

 あ、でも……ダワーリン老ってば、発言力の大きいお方だけど、『鍛冶師ギルド』じゃ、役員でもないのよねぇ。一応は組合員ではあるけれど……。一線から退いていらっしゃる。

 

 「お嬢のいうとおりじゃな。わしらももっと力を付けぬとな。今回のようなことが再びおこる」

 「大いに反省じゃな……」

 腕を組み、うんうんと頷くお爺ちゃんたち。こっちのグローヴィンお爺ちゃんたちはギルド長。役員。バリバリの責任者だ。

 「じゃ、さっさと帰還して打ち合わせね!」

 「それとこれとは話は……同元じゃが……別じゃ!」

 「同じ元って言ってるじゃない。往生際が悪いわね! 帰るわよ!」

 「何とでもいうといい!」

 「鉱山前にして往生できるか!」

 「主も、ドワーフ、分かるじゃろうよぉ!」

 逆ギレかよ! このジジィは! 

 それに、ドローヴァンお爺ちゃんたち! ついの数日前までコキつかわれてガリガリなのに。

 てか! まじで逃亡中なのですが!

 「ええ~~い! うるさい! それに私は人族じゃ!」

 「そうであったわ!」

 {ばはっはっはっはっは~}

 ……駄目だこりゃ。まったく、これっぽっちも、1mm程も動く気はないみたいだ。

 

 「仕方ないわね。調査や発掘はしっかり朝を食べて、休憩後から。8の鐘までね。ちゃんとお昼も取るのよ。抜け駆けはダメよ! いい! これくらい守れないと強制送還よ!」

 「ぬぬぅ……仕方なかろう。良いな! 皆の衆!」

 「もうちょいっと、どうにか 「異議は認めませ~~ん」 ……了解じゃ」

 「爺にやさしくないのぉ」

 「あら。優しくないからお酒はださなくていいわねぇ。作業に危険ですし?」

 {お嬢!!!!!!!}

 「冗談よ。ちゃんと約束は守ってね!」

 {……おう}

 ……もう。


 ……


 ~~一方そのころ。場所はゴルディア、謁見の間~~


 「な! なにぃ! ラファルが死んだと! レファスが半死? も、もう一度言ってみよ! 貴様ぁ!」

 

 大広間、王城の謁見の間のように贅を凝らした広間……いや、謁見の間なのだろう。例外中の例外、”永世領主”の治める街なのだから。

 ノリナ国の中にあり、王のように振る舞う”絶対領主”の”城”だ。

 その謁見の間に、領主の怒号が響く。真っ赤な顔、ワナワナと身体を怒らせ、王笏のような杖を向ける。

 領主の前に跪き、その杖を向けられ怒声を浴びるのは、国軍の歩兵隊長以下2名。

  

 「ゴルディア公。報告の通りです。ご子息以下20人の騎士が死亡。相手は手配書にない”勇者”様。少女の御姿をされていました」

 と応える兵士。

 「そんなバカなことがあるか! 少女だぁ? そんなものに我が息子たちが! 騎士が殺されただとぉいうのかぁ! 貴様は!」

 さらに唾を飛ばす領主

 「報告は以上です。それでは」

 すぅと立ち上がり退場する兵たち。ゴルディア公に付き従う貴族たちの冷ややかな目に晒されながら。

 

 「待てぃ! 貴様ら! なぜに貴様らは無傷だ! お前たちがやったんじゃないのか!」

  

 「私どもでは貴殿の騎士団には敵いませんよ。騎馬、贅を凝らした装備、人数すら。歩兵部隊は”勇者”様へ降伏。その後解放されました」

 「こ、降伏……だとぉ? き、貴様らぁ!」

 更に激昂するゴルディア公。もはや、手にする杖に寄りかからねば立ってもいられぬだろう。

 「そもそも”勇者”様に敵う訳ありますまい。それに逆らってはならぬ高貴なお方。現着した時には先行したご子息と騎士団30人がすでに全滅していたのですから」

 「何もしないで……のこのこと……貴様ら……誰かある! この者共を捕らえよ! 捕らえよ! 儂自ら、その首叩き落としてくれる!」

 甲冑に身を包む騎士が二人現れる。……が、

 「領主殿、我らは”国軍”。それに、詳細全て聞きました。”奴隷””隠し鉱山””ギルドの癒着”……ほかにも」

 領主は驚き、顔色を変える。そのすべてがノリナ国内では”違法””重犯罪”なのだから。”永世貴族”とはいえ、国の一貴族にすぎぬのだ。

 

 「な、なにぃ!」

 「今の我らの手に証拠はない。ですが、いずれ証拠とともに明るみに出るでしょう」

 「き、貴様らぁ!」

 「先にも言いましたが、我らは”国軍”です。裁判なしで刑の執行はありません。貴族の子弟も多くいます。かくいう私も任が解かれれば、侯爵様の側仕えに戻ります」

 「くっ……。よ、よい! さっさと出ていけぇ!」

 「はい。一度、”王都”へと帰還いたします。経緯の報告と失った物資の補給が必要ですので」

 「勝手にしろ!」

 「最後に……。”勇者”様は、”みればわかる”と、今後関わること無きようとのこと」

 「さっさと行けぇ! 出て行けぇ!」

 地団駄を踏む領主に一礼をし、部屋を出る兵。

 それを憎々しげに睨みつける領主と、側使えたち。

 「誰かある! ナンカンと国軍の……セラティ司令をを呼べぇ!」

 「はっ――!」


  ……

 

 ~~時間は少し戻る。謁見の間の出来事の前。場所は軍屯所~~


 「司令! ただいま戻りました!」

 「ご苦労。無事で何より。すまんな此度の件。私に一言もなく勝手に国軍を動かすとは……。この命令指示書”緊急用”なので領主のサインでも効力はあるがな」

 

 兵を迎えるはノリナ国『四竜将軍』の一角。東護蒼竜将軍セラティ。主たる任務は戦略武官。『魔の森』の監視及び、溢れた時の対処に当たる。

 

 「いえ……」

 「どうした? 罪人の捕物であろう。皆、疲れてはいると思うが……」

 セラティの予想よりも随分と疲れた様子の兵たちの顔を見渡す。命令書によれば相手はドワーフ。数は10と少ないが苦労したのかと。

 「いえ、司令。順を追って説明させていただきます。その指示書にある、捕り物は真っ赤な嘘。”奴隷”にされ、逃亡したドワーフの捕縛が真の目的。証拠はありませんが彼らを使い、武器市場の独占、隠し鉱山の採掘がおこなわれたようです」

 「な、なに? それはどういうことだ?」

 驚く司令。

 「同行……いえ、手引きをしたのでしょう。あのダワーリン様がおられました」

 「あの、”放浪王子”か?」

 「はっ――! 確かに!」

 「それで? ダワーリン様がいらっしゃればこちらは無傷という訳にも行くまい。損害は?」

 「我らは後発でしたので。現着時には先行した騎士20名、領主のご子息のラファル様死亡。レファス様かろうじて生存」

 「なに? バカ息子のお守りにハン殿もいただろう? であれば……」

 あれほどの手練れ、死せず帰還させることは可能ではと首を傾げる。

 「はい。我らが敵対したのは……。ドワーフたちを率いておられたのは”勇者”様です」

 『勇者』と聞き、一瞬、時が止まる。

 「なに! ”勇者”様だと? アヌヴィアトにいらっしゃる」

 「いえ! 全くの別人。そのお姿は幼き少女であられました!」

 「なに! 召喚されたのは2名だったはず……間違いないか?」

 「はい! この目で確かに。聖なる白炎の燃え盛る剣をお持ちでした。証明代わりとレファス様に”焼き印”を」

 「本当か……。ふぅ……。よくぞ無事で」

 「ハン殿が交渉を買って出てくれました。私たちが馬車ごと消されぬようにと。代価として輜重隊の物資、すべて献上してまいりました」

 「ソレで済んだのなら安いもんだ。で、ハン殿は?」

 「このまま領主の前に出たら見せしめにされると思い逃がしました」

 「うむ。良い判断だ。さて?」

 「私はこの後、報告に。たぶん、国軍をもって……という話になるでしょう。どうにも自分の兵や財貨をを使うのを極端に嫌われる方のようで」

 「うむ」

 「不正の件明らかに。物資不足などと、適当に理由をつけ出兵はお断りください」

 「勝てぬ……か?」

 「はい。我ら国軍が関わろうものなら……。このゴルディアのみならず国に害が及ぶかと」

 「では、此度、再度出兵となれば……二度目か」

 「司令、どうも、今回が二度目らしく……」

 「なに?」

 「一度目は”魔の森”で活躍する、高位冒険者たちだったようです。ギルドからの指名依頼で」

 「……聞かぬな。皆、死んだか?」

 「いえ。交渉し、ギルドの非を認め戻らず。そのまま雲隠れしたようです。一部の者は”勇者”様に付き従ってるようです」

 「では、ハン殿も?」

 「おそらく合流するかと。勇者様に誘われていたようですので」

 「三度目ともなれば……」

 「はい。”報復”の可能性はぐっと高くなるかと。先方から見ればどんなに言い繕うと、相手はノリナ国」

 「解った。しかし、報復に来たときは……」

 「国軍、軍人の私が言うことではございませぬが、降伏を。民、そして国を守るためなら……相手は”勇者様”でございます。王へ報告も」

 「そうだな。新たな”勇者様”か……。が、子を殺されたのだ。しかも相手は少女。……出兵するであろうな」

 「恐らくは……ドワーフの隊。足も遅いですし」

  

 「ウェント小隊長! 領主様より、面会の許可が!」

 「わかった! では、司令、行ってまいります」

 「俺もついていこう」

 「いえ、大丈夫です。この間に備えを」

 「うむ。そうだな。頼んだ。輜重隊、物資の確認を! 救護班も備品の補充、在庫の確認を!」

 「「はっ――」」

 ……

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