画商の男
「ねぇ、セパルさんって、お師様の恋人?愛人?」
只今セパルさんと一緒にお風呂タイム。今まで一人だったしぃ。楽しみが増えるってものさ。セパルさんは何をやってた人なんだろう。外仕事じゃないなぁ。お肌、真っ白だし。指だって細くて奇麗…真っすぐで輝く生糸のような髪…お胸だって…はぁ…。…あ、悪魔だったわ、お師様…
「へ?お師様って、マリウス…さん?ふふふ。違うわよ。なんで?」
「だってぇ。女身一人であんな怪しい…”悪魔”だよ?良く雇われたなぁ。って。」
「だから。ってのもあるわ。妙な連中に付きまとわれてたのよ。そこを助けてもらって。もともと水仕事…炊事やら、掃除、洗濯は好きだしぃ。まぁ”悪魔”ってのは想像以上だけど。」だよねぇ。
「ええ!水商売!」
「あら、やだ。おませちゃんねぇ。」
「俺っち、これでも成人ですが!」
「ええぇ!」だよねぇ~
「ほら、食うもん食えなかったから。これからこのお乳にも大いに期待してるさぁ!」
「苦労したのね。ウルフ君ももしや成人なの?」
「あれ?あれは見たまんま。まだおこちゃまだよ。ははは。」
「ふ~~~ん…」
でも、セパルさん本当に家事上手なんだよね。ご飯も美味しいし、洗濯ものすごく上手なんだよねぇ。服がピカピカだ。今は王都に滞在中だから室内に干しているが、移動中は馬車の屋根やらに干される。俺っちのパンツがどこぞの紋章旗のように勇壮にはためいている。まぁ誰も見ないけどね。さてと。ご飯食べて寝ましょうか。
「ふぅ…こんなものか…今はこれが精いっぱい…この心に引っかかる…そう…この波動を…「あんた、何ぶつぶつ…はぁ」…なんだね!お気楽ユーホ殿?」あれから一週間。ウルフが仕上がったと思ったら…
「お城…どこ行ったのよ…あんた…」
「ふん、これで良いんだ。」
「まぁ、あんたの感性だからいいけどね。」
「ふむ…よくもまぁ、そこまで見えたな…題をつけるならば…”権力抗争の果て”…という感じだな。」
「おお!流石お師!そうか!権力…私には無縁の物だから…ふくくくくく」…ダメだこりゃ…悪魔思考だわ。
「良いのです?お師様?」
「ん?ウルフにはそうみえてるのであろう?厳密に言ってお前たちが見ている物が同じとは限るまい。視力も違えば、感性も違う。また光の波長にしたってな。今見えている物が本当にそこに存在している物と同じなのか…くくく。」
「ふ~ん…思考がおいつかん。」ちんぷんかんぷんだ。
「なるほど…ユーホの絵と比べても似て非な物…か…」
「あんたも考え過ぎはダメだぞ…ウルフみたいになるぞ?」「…。」
俄然やる気になってキャンバスと格闘中のウルフを見やる…大丈夫かあれ。
それから数日。一応の完成したキャンバスを並べる。
「ふむ…短期間の割には…ほう…面白い技法だな。ユーホ。あまり乗り気でなかった割には良くできている。緻密さと陰影は一日の長があるな。」
「どうしても厚みがでないんですよねぇ。次は油彩でやってみようかと。」
「ふむ。水彩絵具もケチらず使ってよいのだぞ?…まぁ。いろいろと試すがいい。一枚目にしては及第点だ。」
「はい!」いやっほ~!
「ラクテラは…」あまりの嬉しさに他の連中の評価を聞き逃しちまった…ははは…
「ふぅ。なんとか合格はもらえたな。」
「まだ一枚目だもんなぁ。しっかし、ウルフ。以前のような聖なる感じの絵は描かないのかい?」
「そんなことはないよ。そのような場所、物を目にすれば…ね。お師様の教えだとどうしても本質を見るようになったと言いうか…裏側に眼がいっちまう。のんきに綺麗なだけのねぇちゃんはもう描けねぇだろうなぁ。」
「まぁ、”悪魔”だしなぁ。本当の聖なる場所にはいかないだろうし。」
「こういう作風でも良いだろうさ。」
「いやな、勿体ねぇなぁってさ。まぁ、駆け出しも駆け出し。そんなこと言える立場じゃねぇもんな!がんばろう!」
「ああ。そうだな。やっと”絵らしいもの”になったってレベルだもんな!よし頑張るぞ!」
「盛り上がってるところ悪いが、俺も混ぜてくれ。俺だって負けない。」
「おう。お互い、ライバルであり友として…腕を磨いていこう。」
「「おう!」」
「誰が背後にいようが知らぬ。さっさと帰るがよい。邪魔だ。」
「こ、後悔しますぞ!」…またやってら…
「あのおっさん。本当にしつこいなぁ。その内、お師様に喰われんじゃね?」
「まさかぁ。あれはあれで楽しんでるんじゃない。ねぇ、ウルフ。」
「知らん!どのみち切り売りする気はない!むむむ。ここは…」
ダメだこりゃ。まぁ、これくらいの集中力は欲しいものだわ。
その日の夜…セパルさんとお風呂に入っていると…
「彼方、王城公園で絵を描いてる子でしょう?」
「違います。ふぅ~~~~。」極楽。極楽!
「ごまかさないでよ。どう?大きな画廊紹介するわ。絵の好きな立派な子爵様も面倒見てくれるそうよ?どう?」
「人違いです。」
「…強情ねぇ。あんまり駄々こねてると王都から出られないわよ~」
「はぁ?脅迫…ですかぁ?こんな未熟者の絵が欲しいなんて…目が腐ってらっしゃるようねぇ。その子爵様。」
「この…言うこと聞いておいた方が良いわよぉ~じゃあねぇ~」…。
「セパルさん、本当に来た。」
「きましたねぇ~ふふふ。認められたのかしら。良かったわねぇ。」
「良かった…のか?楽しんでない?セパルさん?」
「さて?どうでしょう。ふふふ。」時々”影”が落ちるよのねぇ~美人の憂いか!
風呂上がり。食事の場で一応…お師様には報告しておく。
「放っておけ。くくく。」だそうな。男風呂の方には出没しなかったらしい。
「ふくくくく!ユーホはここでデビューか?」
「バカ言わないでよ。ウルフ!未熟って自覚くらいあるわい!こんなの”ユーホ画伯”の初期作品なんて飾られたら自殺ものだわ。」
「画伯…か!ぷぷぷ」”ぷぷぷ…”
「そこ、ラクテラも笑わない!」
「ははは。だってさぁ~まぁ、そう言われるようにならないと。だけどね。」お師様も楽しそうだ…
「まぁなぁ。お師様の予想よりちょっと早いな…お師様何か策でも?」
「案外本気じゃない?絵好きの子爵…きっちり型に嵌めるとか?」…あり得るわね…
「…あり得るな…お師様の策略か!子爵コレクションいただき!って。俺らも変なのに目を付けられたかと思ったが…」
「逆に目を付けられてた…ってか!可愛そうに。ぷぷぷぷ」
「…お前達…私はそんなことはせぬぞ。それに、たいした絵のコレクションじゃなかったしな。」
「お師様…子爵の所、確認済みじゃん…」
「説得力ねぇー!」
「ほんと、貰う気満々だったんですね…」
「…画廊に期待だな。」おいおい…
「うわぁ!悪魔だ!」
「…そうだが?」”ははははは”とまぁ、こんな感じで飯食って就寝となったわ。
翌朝、いつもの場所に人が…イーゼルを並べた5人の坊ちゃんたちが…
「あちゃぁ~出遅れたかぁ。」
「仕方ない。宿で描こうぜ。最近、鍛錬も休みがちだから外で剣振るのも良いか…」
「ふむ…仕方あるまい。戻ろうか。ん?くくく…」
お師様の視線の先には例の画商の男?あれで隠れてるつもりか?なるほど、いやがらせの類か…せこいな…
「お師様?」
「後々面倒だ。気づかぬふりして撤退だ。王都ももうよかろう。このままでるか…」
「…なんかお師様らしくないなぁ。」
うんうん。魂引っこ抜くかと思ったわ
「…そうかね?もともと争いは好まぬが?」ええ!うそだぁ~
「ええ!そうなんです?」
「説得力ねぇー!」うんうん!
「お前達…」




