ほんと私って……
「そこのあなた!こんな所に来ちゃダメでしょう!」
どうしたものかと思案していると、いきなり大声が聞こえた。どうやら私に向けられたものらしい。確かにここに居たら危険と判断されてもおかしくは無い。むしろ邪魔だろう。正直に邪魔と言わなかったのは優しさかな。
「聞いてる!?」
「あっ、すいませんっ!」
とりあえず撤退。さてと、本当にどうしたものか……
あの呪いを治す手段は主に2つ。
ひとつはスーさんのお母さんや瑠璃にやったように、私の神力を流すこと。これが1番確実ではあるけれど、1人の治療にそれなりの時間が必要。それに後で絶対追求されそうなので、これは却下。
もうひとつの方なんだけど……あまりこれも現実的ではない。その方法って言うのが……薬。
ただの薬ではなくて、私の素材を用いて作られた薬。あの万能薬みたいなのね。
で、これがなんで現実的では無いのかって言うと……まず数。かなりの量が必要になるから、サーニャさんに作ってもらうとなると、それは酷だろう。
『無限収納庫で調合出来ますが?』
確かにその方法も無くはない。だから、本当の問題は別にある。それは、渡す時。
こっそり飲ませようとしても、かなりの人が居たから、それは難しいだろうし、だからと言って薬を関係者に渡した場合、後で追求されるのは目に見えている。追求される前に王都を出るという手段もあるんだけど、原因の調査もしなくちゃだから、すぐには離れられないんだよねぇ……。
………結局、打つ手がない。
「はぁ……」
「マリーナ様、どうでしたか?」
ため息をつくと、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「…何故サーニャさんがいるんです?」
振り向いた先にいたのは、予報通りサーニャさんだった。肩にはしっかりとプレナが乗っていた。なんでこんな所に……
「宿にいたんですけど、やっぱり何もせずじっとしているのが嫌で……駄目でしたか…?」
「はぁ……まぁ、この距離ならば心配はないでしょうから、いいですよ」
歩きながら考えていたから、治療院から離れている。ここならまだ問題はないだろう。
「良かった…」
明らかにほっとした様子のサーニャさん。そこまでかと思い、おもわず苦笑した。
「それで、なにか分かりました?」
「かかった人はかなりいましたね。その治療に追われている状態でした」
「……その治療はできそうですか?」
「生憎難しいですね。迂闊に力は見せられませんし」
一応記憶を消す魔法もあるにはある。けれど……細かい範囲指定が出来ない。大体範囲の基準が1年とかかなり大雑把で、使った場合その後の生活に支障が出るだろうから、使えない。
「……マリーナ様、治療は、触れていないと出来ませんか?」
しばらく俯いていたサーニャさんが顔を上げて、いきなりそんなことを言い出した。どうなの?ハク。
『理論上、可能です。ですがその場合治療にはかなりの時間がかかります』
具体的には?
『あれだけの患者を治療するならば、丸一日かと』
なるほど……
「出来なくはないですが、丸一日ほどかかりますね」
「そうですか……」
落ち込んでいる反応を見るに、どうやらなにか案があったらしい。
「なにか考えが?」
「マリーナ様が患者に化けて治療できればと思ったのですが……」
なるほどね。それは確かにいい案かも。でも丸一日も誤魔化せるとは思えないんだよなぁ……
『…時間を短縮する方法は一応あります』
え、どうやるの?
『龍化すれば神力を解放しやすくなるので、時間が短縮できます』
り、龍化かぁ……。
やったら騒ぎになるだろうし、そもそもサーニャさんが心配だしなぁ……
『…おそらく大丈夫ですよ?』
「えっ!?」
「ど、どうしました?」
「あ、すいません。ちょっと……」
思わず声を荒らげてしまい、サーニャさんを驚かしてしまった。いけないいけない……で、どういうこと?
『その通りの意味です。以前交わした盟約の影響です』
……そう言えばそんなこと言ってたね。次第に慣れるだろうって。となるとひとつ、解決策が浮かんだ。
「サーニャさん。ちょっと頼まれて貰えますか?」
「任せてください!」
まだ何も言ってないんだけど……まぁいいか。
「……本当にこれでいいんですか?」
腕の中にいる私をサーニャさんが覗き込む。
『いいんですよコレで』
私は龍語で返事する。今の私の姿は人ではない。龍だ。でもその大きさは以前とは比べ物にならないほど小さい。……大きさ変えれるって凄いチートだと思う。まぁ今更だとも思うけど。
喉の作りが人とは違うので、龍語しか話せない。けれど会話を盗み聞きされる心配がないから、逆にこれでいい。
私がサーニャさんに頼んだこと。それは私を運ぶことだ。作戦としてはサーニャさんが薬師として、私と一緒に治療院に潜入する。サーニャさんが薬師として動くその間に私は神力を解放し、治療を行う。全体を一気に治療するから、もしサーニャさんが呪いを受けたとしても大丈夫。というもの。
「うぅ…本当にいいんですね?」
『私が頼んだことですから、いいんですよ』
サーニャさんが渋っているのは、私のことをリュクサックにいれることに対してだ。狭いところに入れたくないらしい。別に狭いとこ好きなんだけど……
「そう言う問題じゃないんですよっ!」
『えぇ……』
その後なんとか説得し、リュクサックに入れてもらった。あ、このリュクサックは無限収納庫に入ってたもの。ほんとなんでも入ってるよね……
「…じゃあいきますね」
『はい。お願いします』
私が入ったリュクサックを背負い、龍化を見られないように入っていた路地裏から出る。あ、路地裏に入った時にプレナは影へ入れたよ。
……ちなみに外の様子は神眼を使わずとも見える。ほんと…いや、もういいか。