懐かしの……
「「「つ、疲れたぁ……」」」
私、サーニャさん、スーさんが、やっとお客さんが居なくなった1階のテーブルに突っ伏した。ほんとに疲れたぁ……
「お疲れさん。いやぁー助かった!ありがとな、お嬢ちゃん達」
「「は、はひ…」」
なんでそんなに元気なんだろ……
「慣れだ」
あ、そうですか……
《主様!私もちゃんと出来たよ!褒めて!》
「あー、偉い偉い」
思わず投げやりな返事にはなってしまい、慌てて頭を撫でると笑顔になった。ほ……
「にしても嬢ちゃん、料理の腕あるな。うちで働くか?」
「え、遠慮しときます…」
毎日これはヤダ!
「おとーさーん。お腹空いたぁー…」
確かに食べる時間なんてなかったものね。スーさんの言葉で自覚したのか、サーニャさんのお腹が鳴った。
「じゃあ何か簡単なものつくりましょうか?」
「え、大丈夫なの?」
「はい。もう十分です」
疲れるには疲れるんだけど、回復が早いんだよね。種族の影響かな。
『はい。それと加護ですね』
あぁー…納得。あれか。グランパパとかの加護か。
『はい』
やっぱりね。
「俺が作れるが?」
「休んでて下さい。慣れているとはいえ、それなりに疲れているでしょう?」
「…なら、甘えさせてもらうか。あんまり難しいのはいいぞ?簡単なので十分だからな。無理すんなよ?」
「分かってます」
ふふっ。なんだか孫を心配するおじいちゃんみたい。
「じゃあ厨房お借りしますね」
「おう。食材も好きに使ってくれや」
ふっふっふ。言質はとったよ?
といっても、そんなに材料使うつもりはないんだけどね。
「さてと。やりますか」
作るのは、庶民的な料理と言っていいのか分からないけど…すいとん。簡単だしね。見つけた材料も使いたいし。
「まずはーっと」
ボウルに厨房にあった小麦粉と水をいれて混ぜる。これだけですいとんの元ができる。ちょっと寝かせておいたら、モチモチしてくるんだったかな?
「じゃあこれは置いといて…」
他に入れる材料を用意する。
細切れにしたオーク肉に人参。大根……それと、ゴボウとネギ。この2つを厨房で見つけていた。あともう1つあるんだけど…あとで。
ゴボウは皮をこそげてささがきに。ボウルに水をいれてさらしておく。
人参と大根は短冊切りして……ネギは輪切りに。
「ふっふっふ」
そしてやっとこれが使えるっ!私が厨房で見つけたもう1つのもの。それは……
カーン!
「うん。いい音」
打ち合わせて音を確かめる。そう、見つけたのは、鰹節だ。まさかここで見つけられるとは……。スープの味が良かったのは多分、これを使っていたから。
ただねぇ……カンナがないんですわ。だからそのまま突っ込んでたんだと思う。
「私も鰹節のカンナはないなぁ……」
そう。あるにはあるが、木工用のカンナだ。多分出来なくはないけどねぇ…やりにくい。ので、包丁で削ぐ。
………うん。私の今の力をもってすれば、簡単に包丁だけで削れちゃうんだよねぇ。
「……今更だね」
とにかく!鍋に鰹節を削いでいれて出汁をとる。懐かしい匂いが厨房へと立ち込める。
ちょっとしんみりとした気持ちになりつつも出汁を取り終え、野菜とお肉。醤油とみりん(この厨房にあった)を入れる。煮立ったらすいとんの元をスプーンでポトンっと落としてひと煮立ち。ネギを入れて味を整えたら……
「完成っ!」
うん。我ながらいい出来ではなかろうか。お玉で均等になるように掬ってっと……
「出来ましたよ…うわっ!?」
振り向くと扉の隙間から覗く6つの瞳が……怖いよ!
「美味しそうな匂いがしてつい……できたのねっ!?」
「は、はい。運びますから落ち着いてっ!?」
わちゃわちゃしながらも運び終え席に着く。
「食べていい?」
ソワソワと待ちきれなそうにスプーンを手にしながらスーさんが尋ねる。まわりの人も同じ感じ。
「どうぞ」
そう言うと、サーニャさんだけ小さく「いただきます」してから食べ始めた。他のふたりは我先にと食べ始めていた。温度差ァ……
「「「美味しい!」」」
それでいて言葉は揃う。まるで子供みたい…
「良かったです」
そんなことはおくびにも出さず、ニッコリと笑顔で答えておく。
「香木を削って使ったのか…」
か、香木……確かに見た目木だけど、木だけどっ!
「ど、どうした?」
「……なんでもないです」
思わず睨んでいたらしい。反省反省。
「本当に美味しい…これメニューにしちゃだめ?」
「いいですよ」
「やっぱだめ…えぇぇ?!いいのっ!?」
「はい。これどうぞ」
言われるかなぁとは思っていたので、無限収納庫内でレシピは書き起こしていた。
………うん。我ながらヤバいくらい有能なスキルだと思うよ。でも、使えるものは使う。
《主様ー。私も食べていい?》
「いいよ。私の食べて」
プレナに専用のスプーンを手渡しつつ、スーさん達を見る。どうやらもう食べ終わったようだ。満足そうな顔で、しかししっかりとレシピを凝視していた。
「なるほど出汁を……」
「あっ。そのことなんですけど、あの…香木?は、削ったほうが香りがいいんです。出汁に旨みもでますし」
「削る……あれを?マリーナちゃんは包丁で削ってたけど、普通無理よね?」
あ、しまった。そこまで見られてるとは思わなかったからなぁ……
「……湿らせて」
「そんな時間あったかしら?」
「……魔法でやりましたっ!」
うん、墓穴を掘った気がする。
「ふーん。そう……まぁ深くは聞かないわ」
つまりそれが嘘だと分かってるってことだよねぇ…はぁ。
「でもそれだとこのメニューを再現できないわねぇ……」
チラチラとこちらを見てくる。うっ…そんな目で見られても…
「……カンナという道具を使うはずなんですが」
「カンナって…あの木を削る?」
あ、伝わった。
「そんな感じのものです。より薄く削るほど美味しいです」
「なるほど…持ってないの?」
「あいにく。なので包丁でやりました」
大体こんな感じですねぇー、と紙に鰹節のカンナの図を書いてみる。
「作ってもらおうかしら……その時はあげるわね」
「いいんですか?」
「ええ。レシピのお礼ね」
……まぁいいか。好意は受け取っておこう。