召喚組6
久しぶりの召喚組。
ダンジョンを攻略した後に話し合った結果、俺達は別々に行動することにした。というのも、これから俺達は魔族を探す旅にでる必要がある。だが、全員が戦いたい訳では無い。なので戦いたくない人は城に残り、希望者だけ、旅に出ることになったのだ。
俺か?もちろん旅に出る組だ。ツヨシやセイラ。ユイなども同じだ。
ちなみに川辺先生はというと、いまだ松本さんを探している。だが、手がかりはないようだ。
「まぁ、心配なのは俺も同じなんだがな」
「なにが?」
俺が思わず呟いた言葉を拾ったのか、セイラが問いかけてきた。
「ほら、川辺先生が探してる松本さんだよ」
「………え?マツモト?だれ、それ」
俺は当然知っているだろうと話したのだが……どうやら忘れてしまったらしい。まぁ話した訳でもないから、当然っちゃあ当然だな。
「おいおい。セイラ、忘れたのか?」
「お、ツヨシは覚えてたか」
「当たり前だろ。あんな出来事忘れられるかよ」
「……出来事?」
転校してきたことか?確かに衝撃的ではあったが……
「あー!思い出した!あの子ね!転校そうそう交通事故にあった」
……ちょっと待て。交通事故だと?どういうことだ?
「おい、さっきから何言ってるんだ?」
「うん?ユウキが言い出したんじゃないか。マツモトさんのことだぞ?」
「いやそれは分かるが、交通事故?有り得ないだろ。確かあの人が転校してきて挨拶した瞬間、俺達はこっちに飛ばされたはずだよな?」
「え、何言ってるの?マツモトさんは転校してきて教室で挨拶して、その日に交通事故にあって亡くなってるよ?」
……どういうことだ。なぜ、話が噛み合わない?俺がおかしいのか……いや、そんなはずは無い。確かに転校してきて、挨拶をした直後だったはずだ。召喚されたのは。
………記憶が、改竄されている?だが、一体誰が……
「おいおい、大丈夫か?こんなことを忘れてるなんて」
いや違う。忘れてなんかいない。そもそも、そんなことは無かったのだから。忘れること自体出来ない。
「大丈夫?今日は出発しないでおく?」
ちょうど今日、俺達は旅に出ることになっていた。もう出発予定時間も迫っている。ちなみに他の班はもう既に出発していたりする。つまり、俺たちが最後の班だ。
「……いや、行こう」
「ほんとに大丈夫なんだな?」
「ああ。俺は勇者なんだ。みんなに迷惑はかけれねぇよ」
「おーい。みんなー」
決意を新たにしていると、遠くから呼ぶ声が聞こえた。見ると、ユイがこちらへと走ってきていた。……すまん、ユイ。お前のことすっかり忘れてたわ。
「はぁはぁ…はいっ!これ!」
「なんだこれ?」
ユイが手渡してきたのは、首からぶら下げられるようなストラップがついた、水晶の原石のようなものだった。
「間に合ってよかったよ」
ユイのすぐ後ろから、ゾロディアさんが姿を見せた。間に合ってよかった…?ということは、これはゾロディアさんが作ったものなのか?
「前にユウキが言っていただろう。『魔結晶』を利用した、魔力バッテリーだ」
そう言えば、前にそんなにことを言っていたような気がする。
「試行錯誤していたんだが、ユイの結界と組み合わせることで、形にすることができた」
「だからユイが一緒にきたのか」
「えへんっ!もっと褒めてもいいよ!」
そんなことを言っているユイはスルーして、俺は魔結晶を首に通す。
「中々いいじゃないか。急造で申し訳ないがな」
「いえいえ!むしろ作ってくれてるとは思いませんでしたよ」
俺自身すっかり忘れてたからな。
「それはサプライズになったようでよかったよ。余力があるときにでも込めておくといい。いざという時に役に立つだろう」
「はい。ありがとうございます」
「うぅ……見事にスルーされたぁ……」
ユイが不貞腐れている。いや、悪いとは思ってるんだがな?それよりもはやくこれについて聞きたくてだな……ついスルーしてしまった。
「ごめんな、ユイ。それよりはやく知りたくてな」
「………いいもん。セイラちゃんに慰めてもらうもん」
そう言ってセイラへと抱きついた。まぁ、セイラに任せておけば問題は無いだろう。
「じゃあ行ってきます」
「あぁ。気をつけてな。……ほんとはそんなもの渡したくないんだがな」
「?なにかいいました?」
「いや、なんでもない」
確かになにか言ったような気がするんだが……気のせいか?
「おい。行くぞ」
「うん。ほら」
「はぁい…いきますよ」
機嫌を直してくれたユイと共に、俺達は城を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇
「行ってしまったか……」
私は思わず呟いた。いくら国の考えだとはいえ、あんな子供に任せるなど……虫唾が走る。だが、それを止められない、言えない時点で、私は十分国の犬に成り下がってしまったようだな。
「……せめて、あれだけは言っておくべきだったか……」
ユウキ達に持たせた魔結晶のネックレス。あれには、ある魔法が組み込まれている。
……私はその魔法が使われないことを願いながら、そして、言えなかった情けない自分を、国の犬に成り下がった自分を心の中で嘲笑しながら、ユウキ達の背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしたのだった。