話、聞きましょ?
『神龍殿でしたか……では、私めを消しますか?』
消す、ねぇ……
「マリーナ様…どう、いうこと、ですか?消す、とは……」
サーニャさんが混乱しているのか、今にも泣きそうな顔で尋ねてくる。
『サーニャ。これは仕方の無いことなのだ。私はそれだけの罪を犯した』
「罪って…お父さんが一体なにをしたと言うんですか!?お父さんは…なにもしてないのに!」
『サーニャ……』
いやー、うん。二人の世界が繰り広げられている間に、ちょっと説明しますとですね……決まり、というものが存在するんですよ。
この決まりっていうのは、高位の存在、まぁ龍とかにあるもので、簡単に言ったら、弱いものいじめはダメだよーっていうの。
『……大雑把過ぎません?』
そう?まぁ、つまり、無闇に下等生物を殺戮してはならないってことね。ここでいう下等生物は……人間。龍とかからしてみれば、弱い存在だからね。
そしてこれを破った場合、罰が発生する。サーニャさんのお父さんが言っているのはこのこと。
サーニャさんのお父さんは、操られていた状態とはいえ、かなりヤバいことしてた。まぁ……街二個くらい地図から消えてます。一応傀儡には抗っていたようで、寧ろ被害が少なくて済んだほう。
でまぁ結構な人を殺戮した訳で…当然決まりを破ったことになる。罰の執行は神の代行者が行う。
………つまり、私の事ね。
「なんでっ!なんでこんなことにっ!」
あーあ。もうサーニャさん泣いちゃってるよ。罪悪感があるなぁ…
『神龍殿。厚かましいとは重々承知しておりますが、1つ、お願いしたいことがございます』
なんか勝手に罰が執行されることで話が進んでるんですけど…?
『サーニャのことを、頼めないでしょうか』
「お父さん!」
うん、親が子を思うのはいいことだ。もちろん、サーニャさんさえ良ければ、これからも一緒に旅したいよ。
「マリーナ様!お父さんは悪くないんです!どうか、どうか…!」
サーニャさんが私にすがりついて泣いてくる。可愛い顔が台無しですよ?
「サーニャさん。落ち着いて下さい」
「お願いします、お願いします…」
ダメだこりゃ。話聞いてないや。
「はぁ……えっと、サーニャさんのお父さん」
『はい。いつでもどうぞ』
いや首を差し出されても……
「私がいつ、罰を執行するといいましたか?」
『「……え?」』
うん、親子揃って息ぴったりだね。
「私は一言も言ってませんよ。というか、私だって嫌です。サーニャさんのお父さんを消すなんて」
「マリーナ様…」
『いやしかし、いくら神龍殿とはいえ、決まりを曲げるようなことは…』
まぁ普通はそう思うよね。
「大丈夫ですよ。許可はとってあります」
「許可……?それは、つまり」
「はい。神様から、今回は情状酌量の余地ありとの判断がありました」
実は戻ってくるのが遅かったのは、これが理由だったりする。一応森を治した後にね、初めてだよ。体ごと神界に行ったの。そこで色々と今回の件についての話をしたんだよね。
そこでの話し合いの結果として、情状酌量の余地ありという判断になった。とはいえ、やすやすと操られてしまったサーニャさんのお父さんにも非はある訳で……
「罰の内容としては……龍化を強制的に解除します。期間は……5年です」
『5年…』
「また、龍の能力も1部制限させてもらいます。それで5年、生きることが罰です」
誰しもが無意識に力に頼るもの。だから龍の力を制限された状態は、かなり過酷だ。慣れてしまっているからね。
『生きる、こと。ですか』
「はい。これでも神様に頼んでやっと飲んでもらえた条件なんですよ?くだらないことで死んだら、私がもう一回消しに行きますからね」
ニッコリと笑顔を添えて忠告する。この罰は反省させることが目的なのだから。死んでもらっては困る。
『……分かりました。絶対生きます。しっかりと、己を見つめ直し、反省いたします』
「はい。ちゃんと頑張って下さいね。あ、罰が執行されると同時に、ランダムに転移されますので、悪しからず」
『…え!?』
次の瞬間、サーニャさんのお父さんの体が、光に包まれる。そして、そのままランダムに転移されていった。ふぅ…これで一件落着、かな?
「マリーナ様……」
「はい。驚かせてしまいましたね。私がすぐに否定していれば…」
「い、いえいえ!元はと言えば私が早とちりしたからですし!」
ブンブンと首を振ってサーニャさんが言う。うん、そうだね。私が入り込むこと出来なかったからね……はい!この話ここまで!
「で、サーニャさんはどうしますか?」
「え…えぇ!?わ、私何かしました!?」
あぁ…うん。言い方が悪かったね。これだとサーニャさんの罰はどうする?ってことになっちゃうね。
「違います。サーニャさんはこれからどうしますか?ということです」
「あ、なんだ……えっと、はい。実はもう決めてます」
お?意外だね。
「どうするんですか?」
「……マリーナ様。私も同行してもいいですか?」
「それは……旅の友として?」
「……はい」
決意の籠った目で見つめてくる。……私、この目に弱いんだよねぇ。決心したはいいけど、断られるのが怖い。そんな目。
「……もちろん。喜んで!」
「あ、ありがとうございます!!」
満面の笑みを浮かべるサーニャさん。笑ってる顔の方がいいね。
「じゃあ街に戻りましょうか……ここ治して」
「あ……はい」
先程までサーニャさんのお父さんの体によって押しつぶされていた木々を治して、私たちは宿の部屋へと転移した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい。首尾はどうだ?」
「それが……少々問題が」
「何があった?」
「……火龍に使った傀儡薬の効果が切れました」
「なに!あれは1度使えば解毒するまで続くはずだっただろう!!」
「も、申し訳ありません!それが……報告班からの連絡によると、白金色の龍が現れ、火龍を助けたようです」
「……嘘も大概にせよ!何故龍が龍を助ける!?そんなこと有り得ぬだろう!」
龍は高位存在であるが故に孤高の存在。つまり群れることがないのだ。そのため龍同士が助け合うなどありえないこと。しかし、それが実際に起きていた。……神龍という、イレギュラーな存在によって。
「し、しかし、本当のことなのです!」
「ええい!もう下がれ!」
部屋に待機していた兵によって、報告していた男が連れていかれた。
「はぁ…おい。それで状況は?」
男は後ろの人物へと話しかけた。
「はい。今回のことが予想外でしたので、多少計画を変更する必要性はあります……が、正直火龍がかなり状況を乱してくれたため、成功は揺らがないかと」
「そうか……だが、もし白金色の龍が火龍を助けたとして、我々に牙をむくことはないのか?」
「それはご心配なく。彼らは我々を襲うことが出来ないのです。決まりによって」
「なるほどな。ならばそのまま計画を進めよ」
「はっ!」
……彼らは知らない。例え決まりがあったとしても、自由に動くことが出来る存在が、この世界に一体だけ存在するということを……