もうちょっと待って欲しかった
食事を食べて、いざ冒険者ギルドへ!
………って、場所分からないや。
「俺冒険者ギルドに行くから、一緒に行くか?」
さっきまで話していた人がそう言い出す。
「…はい。じゃあお願いします」
「おう。ついてきな」
一緒に宿を後にする。
「そういやぁ、なんで冒険者ギルドなんかに?」
道中会話がないのは寂しいと思ったけれど、男の人の方から話しかけてくれた。ただ……内容が話しずらいな。
「ちょっと道中の情報がないかと思いまして」
「あぁ、盗賊とかの情報か。てことは、旅人か?」
「はい。2人で」
昨日の宿で分かったよ……私のいまの姿で冒険者を名乗ると、信じてくれないって。だから冒険者ではなく、旅人と答えた。
『どっちもそこまでかわんないですけどね…』
………まぁ冒険者より旅人のほうが危険なことはしてないって思うさ、うん。
「ほぉ。小さいのによくやる。もし護衛が必要だったら言ってくれよ。喜んで引き受ける」
そう言ってくれるのは嬉しいけどね……絶対要らないよ。だから曖昧に微笑んでおいた。
「ここだ。あ、俺の名前は"フレッグ"だ。護衛依頼するならその名前を受付にでも言ってくれ」
「はい。案内ありがとうございました」
「いいってことよ。じゃあな!」
男の人……フレッグさんが走り去っていった。さてと。
「じゃあみましょうか」
「はい」
中に入る前にプレナを影へといれ、とりあえず依頼ボードをみる。
依頼ボードは、依頼だけでなく周辺の情勢や盗賊の目撃、襲撃情報などがある。私たちの今回の目的はこれ。ボードは今の私の身長からしたら高いけれど、視力がいいからなのかちゃんとみえる。でも前は見えなかったような気がするんだけどなぁ?
『それは能力が完全に定着していなかったからです』
能力が定着?
『はい。マリーナ様はもともと神龍ではありませんから、その能力が魂自体に馴染み、定着するまで時間がかかっていたのです。マリーナ様の能力が完全に定着したのは、神力を解放した後になります』
だから前は見えなかったのか……。とりあえず今は情報を探そう。
「………あ、あった」
「え、どれですか!?」
私は1枚の紙を指さす。そこには確かに知りたかった情報が載っていた。
「……思ったより近いですね」
サーニャさんの言う通り。確かに近い。とりあえず今どの辺にいるのか索敵を広げてみ……
「……サーニャさん」
「どうしました?」
「……こっちに来てます」
「……え、えっ!?」
索敵すると、まだ距離はあるが、明らかにここへ向かってきている。あれのスピードならあと半日ってところか。
「ど、どうしましょう…まだできてないのに」
「ちなみに完成率はどれくらい?」
「……5、いや6割ってところです」
……間に合わないな。今からサーニャさんが研究と実験を続けたとしても、おそらく。
「……足りない材料は分かってますか?」
「……まだ分かってないです」
はぁ……なら、仕方ない。
「これを」
「……え、えぇ!?こ、これ……」
サーニャさんが絶句する。まぁ、渡したものがあれだからね。
「それが、足りない材料です」
「え……もしかして、マリーナ様、知っていたんですか?」
「……すいません。サーニャさんにもプライドがあるかと思って、言ってませんでした」
「……そうだったんですか。お気を遣わせてしまったようですね…申し訳ありません」
「いえ、そんなことは無いですよ」
ほっ……サーニャさんが怒ったりしないで安心したよ。ちょっと心配だったからね。
「いまからどれくらいかかりますか?」
「えっと……30分。30分で仕上げてみせます」
「分かりました。それじゃあ、私は行って時間稼ぎをしてきますね」
「はい……すいません」
「謝ることではありませんよ。……ただ、できる限り早く」
「分かりましたっ!それじゃあ!」
冒険者ギルドからサーニャさんが走り去る。なんでできる限り早くって言ったのかっていうと……ちょっとそれ以上だとやりすぎちゃいそうだから。手加減がねぇ……まぁ、とりあえず頑張ってみますか。
冒険者ギルドを後にして、私は街の外へと出る。そしてまた索敵を展開する。……確実に近づいてるね。はぁ……やるしかないか。ぐるっと周りを見渡す。
左右、良し。
前後、良し。
上下、良し。
誰もいないことを確認し、私は背中に翼を出す。魔法で飛ぶよりも、翼出して飛んだ方が速いからね。
軽く羽ばたいて上空へと一気に上昇する。姿が見えないほどの速度で。
………だって見られたら厄介なんだもん。
『マッハですよ、速度』
……今更だ、今更。
雲の上まで昇った私は、そのまま反応のするほうへと飛んで行った。
「………いた」
あっという間だったよ。向こうからも近づいてくるからね。ただ、向こうは雲の上にはいない。雲の下だ。索敵は高低差が考慮されないから分かりにくいなぁ……。
『そもそも空飛んで索敵使いませんし』
そうだけど。そうだけどっ!はぁ……まぁ、地球のレーダーとかも高低差は数値で見えるだけだし、仕方ないのかな。
閑話休題。
さてさて。もうそんなことは気にせず、さっそく雲の下へと降りる。すると、索敵に引っかかっていた相手の姿を、その目で捉えることができた。そして、それは向こうも。
グォォォォォンッ!!
ビリビリと空気が震える咆哮。確かに私が、いや、私たちが探していた相手で間違いなかった。
────サーニャさんのお父さんだ。