旅立ち
次の日。朝からリナさんはテンションが低い。バケットさんも同じく。
対してフィーナさんとギルさんはいつも通り。対照的だなぁ……。
「あ、マリーナさm…さん」
今マリーナ様って言いかけたよね!?幸いギルさん達に気づいた様子はない。良かったぁ…絶対説明とか面倒なことになるもん。
『結局は面倒なことを避けたいだけなんですね…』
まぁ…そうだね。誰もがそうだとは思うけど。
「じゃあ、今までありがとうございました。また会えたら」
ペコりと頭を下げる。
「おう。頑張れよ」
と片手を上げてギルさんがそう言う。
「またね」
とフィーナさん。
「…また会おうね。絶対だよ?」
と悲しそうなバケットさん。
「マリーナちゃんの宝物、大切にするわね」
と最後に鱗を見せてリナさんがそう言う。
……その鱗を見て、サーニャさんが絶句していた。というか、分かるんだね。隠蔽してるのに。
あれか。同族だから分かるみたいなやつか。
『ご名答です』
やっぱりそうかぁ…。まぁそうそう龍と会うことは無いだろうし、バレることは無いだろう。
「ななな…」
「サーニャさん。しー、ですよ?」
コクコクと勢いよくサーニャさんが頷く。そこまで勢いよく振らなくてもいいと思うけど。
「どうしたの?」
「なんでもありませんよ。それじゃあ、また会えたら」
最後に手を振って、私はサーニャさんとともに長く過ごした宿を後にした。
……ちなみに料金はギルさんが払ってくれた。最後くらいいいだろって言ってたんだけどねぇ……最後どころじゃないとおもうんだ。ずっとだと思う。ま、ギルさんの気持ちもわからんでは無いので、その気持ちは有難く受け取っておいたよ。
「じゃあ行きましょうか」
「はいっ!」
サーニャさんとともに門から街を出る。ここからは2人旅だ。いや、2人と1匹の旅か。
《……私の事忘れてた?》
「そ、そんな事ない、よ?」
ほんのちょっとだけね。ちょっとだけだよ。
『忘れてたことに変わりありませんけどね』
うるさいやい!
「どれくらいで着きますかね?」
「どうでしょうか…私は街を転々としながらだったので、だいぶかかりましたし」
「参考までに、どれくらい?」
「えっと…1ヶ月?」
……うん。街を考慮したとしても歩きだったらかなり時間がかかりそうだ。ただなぁ…場所は私知らないから、そこに転移することは出来ないしなぁ…。
転移はイメージが大切。だから1回行ったことある場所にしか転移できないんだよね。
『……方法はあるにはありますが』
え、なになに?
『……マリーナ様が龍化すれば』
……その手があったか。でも、それはそれで騒ぎになりそうだなぁ…。
というのも1回試したくて森でやったんだけどね……結構でかいのよ。3〜4階建てのビルくらいあったよ。
あ、ちなみにリナさんに渡した鱗は、その時落ちたやつね。騒ぎになったら困るから、落ちたやつは全部回収しておいたのよ。
で、話がそれたけど、つまり今龍化したら確実に街から見える。
見える=騒ぎになる=身動きとれない。
うん。無理!
「はぁ…」
「どうしたんですか?」
「んー…ちょっと早く行く方法はあるにはあったんですけど、ちょっと問題が……」
「問題…?そもそも、その方法とは?」
「……私が龍化する」
「絶対ダメです!私が死にます!」
えぇー…騒ぎになるからダメってことじゃなくて、サーニャさんが死ぬからダメなの?……ていうか何故に?
「ただでさえこうやって隣りに立っているだけでも鳥肌が…あっ。忘れてください」
うん。忘れられる訳ないよ。つまり私は隣りにいるだけで、サーニャさんの負担になっているのか……はぁ。だから死ぬってことね。負担で。
『格の違いのせいですね。こればかりは仕方ありません。人間なら関係ないと思いますけどね。分かりませんから』
そっかぁ…。
「じゃあ私離れといたほうがいいですか?」
「いえっ!それは…」
「サーニャさんが負担だと思うのなら、私は離れといたほうが…」
「ふ、負担ではないのです。そ、その…安心、は、します、し」
「そうなんですか?」
「なんというか…守ってくださっている気がして」
「気がして、じゃなくて、ちゃんと守りますよ」
「……ありがとうございます。私は大丈夫ですから、マリーナ様が気を遣う必要はありませんよ」
サーニャさんは融通利かないからなぁ…1度言ったり決めたりしたら曲げない。そうだからこそここまで頑張れたのだろうけど…今はちょっと邪魔だなぁ。私はサーニャさんに楽になって欲しいだけなのに。
『人それぞれですよ。サーニャはこういう性格です諦めたほうが賢明かと』
……うん。そうだね。ていうか、今更だけど呼び捨てなのね。
『敬称を付けるのはマスターのみです』
あ、そう…。
「じゃあこのまま行きますけど、もし辛くなったりしたら言ってくださいね。休憩挟みますから」
「分かりました」
さてさて。話し込んだりしたせいで、気が付くと今まだガドールからそう離れられていない。ちょっとペースを上げないとかな。
「サーニャさん。身体強化は?」
「できます」
「じゃあしてください。おそらくしないと私に追いつけないと思うので…」
サーニャさんも同じく龍の力を持ってはいるけれど、私に比べると格段に劣る。だからサーニャさんだけ身体強化してもらう。
「分かりました…はい。大丈夫です」
「じゃあ行きましょう。もちろんペースは合わせますから、サーニャさんが辛くないスピードで」
「はい」
そうして私たちは走り出した。
………そのスピードは、傍から見れば異常だったとだけ言っておこう。私は悪くない。うん。