サーニャさんとお話
とりあえず日が完全に落ちる前にガドールへと戻ってきた。転移って楽だねぇ。早くから使っとけば良かったよ……そうすれば地面の草が一直線に無くなるなんて謎現象起こらなかったのに。
『いつかやらかすより早く気づけただけ良かったのでは?』
やらかすってなに!?私何かするように見える!?
『……刀振り回し』
すいませんでしたぁぁぁ!!
『あの時人がいなくて良かったですね』
いやほんとに思うよ……森の一角が無くなってるからね。人がそこに居たらと思うと、ひやってするよ。
で、聖域から帰ってきた次の日。私はサーニャさんに会いに泊まっていると言っていた宿へと向かうことにした。
「えぇっと……まっすぐだったよね」
まっすぐ進んでいくと、1軒の宿が見えてきた。奥の方をみても無さそうだから、ここで合ってるかな。
早速中に入る。構造としては、[宿り木亭]と同じく1階が食堂のようになっていた。そして、そこで食事をしている見覚えのある緑色の髪……いた。
「サーニャさん」
「はい……はいぃ!?」
ちょっとその反応は傷つくんだけど……。
「え!?な、なんで…」
「いや前に聞いたじゃないですか」
私がそう言うと、サーニャさんはやっと思い出したらしい。
「すいません……いきなり大声出して」
「別に気にしてませんよ。それより、今大丈夫ですか?」
「はい。あ、私の部屋で話しますか?」
「迷惑でないなら」
さっきサーニャさんが大声を出したせいで、人の目が集まってしまっていたからね。そっちのほうがいいだろう。
「(おいあの二人どういう関係だ?)」
「(知らねぇよ。でも幼女ふたりとか……心配だな。色んな意味で)」
「(幼女っ!ふたりっ!いいっ!)」
……最後のやつちょっと殴らせろおい。
「(だ、ダメですよ!?マリーナ様が殴ったら洒落になりませんから!)」
サーニャさんに止められた。むぅ。まぁ直接害がある訳では無いから、いっか。
「(ほっ……マリーナ様ってかなり血の気が多い……?)」
失敬な。そこまで血気盛んではない……よ?
『自覚あるんですね』
う、うるさいやい!
とりあえずいつまでもここにいたらちょっとヤバそうなので、ちゃっちゃとサーニャさんの部屋へ。
サーニャさんの部屋には、フラスコとかビーカーとかがあって、すこし薬草臭かった。
「すいません……こんな部屋で」
「いえ。私が勝手に来たんですから、気にしないでください」
それに本音を言えば、ちょっとだけ調合に興味がある。
『無限収納庫で調合できますけどね』
こういうのは実際にやるから楽しいのっ!
『……そうですか』
今呆れた?!絶対呆れたよね?ね!?
「ありがとうございます。それで、いきなりどうしたんですか?」
おっと。本題を忘れるとこだったよ。
「えっとですね……以前サーニャさんが話したこと、出来そうなのでやりますよ」
「前話したって……まさかっ!引き受けてくれるんですか!?」
「はい。相談してみたら自由に動いていいようなので、私の意思として、引き受けますよ」
私がしっかりと頷くと、サーニャさんの瞳から1粒の涙が流れた。
「あ、あれ?なんで……」
「サーニャさん。泣いてもいいんですよ。ずっと心配だったんですよね。私に出来ることは限られますが、できる限りのことはします。……もう、抱え込まなくていいんですよ?」
サーニャさんはずっと悩んでいた。心配だった。だからここに来た。助けを求めて。その助けになれるかは分からないけれど、少なくとも、サーニャさんは1人ではなくなったんだよ。
「うぅ……わぁぁぁぁ!!」
私の言葉を聞き、堰を切ったようにサーニャさんの瞳から涙が溢れ出る。私はサーニャさんを抱きしめた。
……正直言って、泣くのはまだ早いんだけど。私がどこまで出来るのか分からないんだから。
『まぁ恐らく、いや、絶対大丈夫だと思いますけどね』
ハクがそう言うけど……やっぱり心配。世の中絶対なんてないからね。
「……すいませんでした。お見苦しいところを……」
「見苦しくなんてないですよ。サーニャさんは立派です」
1人だけでよくここまでこれたよ。ここまで耐えたよ。凄いことだよ。
「……ありがとう、ござい、ます。それで、いつ行けるのでしょうか?」
「何時でも大丈夫ですよ。なんなら、今日にでも」
「き、今日……すいません。明日でもいいですか?」
「はい。では明日の…朝方、この宿に来ますね」
「そ、そんな!私から行きます!」
絶対サーニャさん譲らないよねぇ……仕方ない。
「じゃあ来て貰っても?」
「はいっ!じゃあ明日の朝に!」
「それじゃあ私は一旦帰りますね。また明日」
「はい……ほんとにありがとうございます」
「まだ感謝するのは早いですよ。なにもやってないんですから」
「それでも、です。見返りすら用意できないのに…」
「まぁそれは気にしてませんよ。大変なんでしょう?」
「はい……ほんとにありがとうござい、」
私は指でサーニャさんの口を塞いだ。それ以上感謝されたくない。
「では、また明日」
「……はい」
さてと。サーニャさんには今日にでもとは言ったけど、正直話しておきたい人もいたから、明日って言ってくれて有難かった。しばらくここを離れることになるからね。
………リナさん、納得してくれるだろうか。
サーニャを族長の娘としていましたが、族長の孫に変更します。