私という存在
私はグランパパの目を見て、相談というか、質問のようなものをするために口を開いた。
「私は、どこまで関わっていいんですか?」
するとグランパパは不思議そうな顔をする。
「どこまで、とは?」
「この世界で、人という存在に、どこまで関わっていいんでしょうか?」
私はもう人ではない。ならば、価値観も当然変えないといけない。人としての価値観は、もちろん人として生活している以上必要になるかもしれないけれど、それとはまた別に、神龍としての価値観が必要だろう。
そして神龍とは、神の眷族。それはすなわち、この世界を管理する存在の1柱とも言える。
そんな存在である私が、この世界の人に、どこまで関わっていいのかが分からなかったのだ。このまま関わり続けていいものか、と。
人として、または神龍として、どこまで関わることができるのか、と。
「ふむ。それは範囲を答えるなら難しい質問ですね……ではまずは、神の立ち位置について説明しましょうか」
グランパパが言うには、神は基本世界に直接関わるようなことはしない。ある国が滅びそうだ!とか。ある種族が絶滅しそうだ!とか。そんなことなどは些細なことであり、気にもしない。それが神なのだという。
……もしそれが世界の存亡に関わるなら話は別だが。
そして神龍である私などの、眷族という存在。これは神の代理、もしくは手伝いをする存在なのだという。
「代理、手伝い、ですか?」
「はい。我々神が直接世界に関わるのは難しいのです。主に、世界の負荷が大きくなり過ぎるという原因で」
「世界の負荷……ですか?」
「つまりは、直接関わるには力が強すぎるんです」
あぁ……そういうことか。
つまり、世界のシステムを管理するのがグランパパなどの神様達で、世界に降り立って、直接世界を調整、または世界に関わるのが、神の眷族の役目ということか。
「役割は分かりました……が」
「はい。マリーナさんが何故その相談をしてきたのかは分かります。そして答えとしては、基本好きにしてもらって構いません」
「……好きに、とは世界に影響を与える行為もしていい、ということですか?」
「世界に影響を与えると言っても、それが悪いか悪くないかはやってみないと分かりません。結果として悪くなったとしても、それは我々神が調整すること。なので眷族であるマリーナさんは、もちろんその行動にそれ相応の責任が伴いますが、大量虐殺などをしない限りは、好きにしてもらって構いません」
……いわゆる神様が尻拭いをしてくれるということだろうか。それはそれでなんだかなぁ……。
「眷族は基本自由ですし、第一として現在この世界に眷族はマリーナさんしかいないんですよね」
「え!?」
それ初耳なんですけど!?
「なのでもし、マリーナさんが神龍の姿になってはっちゃけたとしても、正直一体だけなので処理は楽なのですよ」
「ぶっちゃけましたね…」
そう言うと、グランパパが苦笑する。
「まぁマリーナさんがそこまで世界に悪影響を与える行為はしないと思いますが」
「……信用されてるってことでいいんですかねぇ、それ」
ニッコリと笑顔で返された。そうですか……それは肯定ってことでいいんですね、はぁ……。
「あ、魔王は?関わっていいんですか?」
魔王はこの世界のシステムの一つだ。妬み、憎しみ、怒り、悲しみ……それら負の感情が世界に溢れて、世界そのもののバランスが崩れないようにするためのシステム。人々がそれを倒すことで、この世界はバランスを保っているのだ。
「あぁ……まぁ倒してもらっても問題ないですね。というか眷族であるマリーナさんに倒してもらったほうがいちいち異世界から召喚するより楽……」
後半が本音だろうなぁ。
「勇者の意味……」
「まぁ今回はもう召喚してしまった勇者に倒してもらいましょう」
「……つまり次回から私が倒すと?」
「はい。これがいわゆる神様の仕事の手伝いですよ」
まぁ仕事はしたほうがいいだろうな、とは思ってたけど。思ってたけど!
はぁ……まぁあと魔王が現れるまで何年後かは分からないから、気長に待とう。
「話が逸れてしまいましたね。とりあえず、マリーナさんはこれまで通り自由に、この世界を満喫してもらっていいですよ」
「満喫って……まぁそのつもりですけどね」
「はい。せっかくなので楽しんじゃって下さい。あ、じゃあそろそろ時間ですね。また……あぁそうだ。緑茶とほうじ茶の茶葉を無限収納庫に送っておきますね。急須と湯のみも」
「おぉ!ありがとうございます!」
「いえ。では今度こそ」
「はい。また」
その言葉を最後に、いつものように意識が引き戻される感覚がする。
そして目を開けると、教会へと戻ってきていた。前よりしんどくは無い。
さてと。まだ時間はあるし……どうするか。
『眷族の回収は?』
眷族?……あぁ!プレナか!やべ、忘れてた。
『………』
わ、わざとじゃないからね?!
急いで教会を出て門を抜ける。そこから近くの森へ入り、人目がないことを確認してから、聖域へと転移した。