お風呂って疲れるものでしたか?
とりあえずしばらく宿にて待っていると、ギルさん達が帰ってきた。
「遅かったですね」
「あぁ。盗賊の処理とギルドでな」
ギルさん達は今回私の監督官として付き添うという依頼を受けていたから、それの達成処理だろう。
「そうだったんですね」
「おう。それと…」
話しながら人が疎らになったテーブルに腰掛けると、ゴソゴソとギルさんが腰に着けたマジックポーチをあさりだした。
「盗賊の中に賞金首が居たらしくてな。これがその賞金だ」
そう言いながらポーチから取り出した重そうな袋を、ドンッ!とテーブルに置く。
「賞金…ですか」
あんな小規模な盗賊団に賞金首がいたことに驚きなんだけど。
「金貨20枚なんだが、金貨がなかったらしくてな、銀貨が入ってる」
金貨20枚……それが銀貨……って、200枚!?そら重いよ…。
「これあげます」
正直要らないので、テーブルの上に乗った袋を、ギルさんの方へと押しやった。
「いや、あげるっつっても…」
「じゃあ今回盗賊に襲われたことに対するお詫び金?として受け取ってください」
「お詫びって……」
「受け取ってください」
有無を言わさない態度を貫く。
そんな私の態度をみて引く気がないと分かったのか、渋々といった様子でお金を受け取ってくれた。
「はぁ……お前強情だな」
否定はしない。ていうかそもそも使い切れない位のお金があるからね…要らないの。ホントに。
「それでこの後マリーナちゃんはどうするの?」
話し合いが終わったと見たのか、リナさんがそう切り出してきた。
窓から外を覗けばもう夕暮れ時。
「教会に行こうかと思っていたんですが、もう日もくれますから、明日にでも行こうかなと」
「つまり、暇?」
「そういうことになりますかね」
そう言うとリナさんの瞳が輝いた……?え、何するつもり?
「な、なんですか?」
ややたじろぎながらも尋ねる。
「そう構えなくてもいいわよ。一緒にお風呂入りましょってだけよ」
そ、それだけ?
「は、はぁ。まぁいいですけど」
「じゃあ今から行きましょ!ほら!」
「えっ!?ちょっ!」
手を引っ張られ……いやもう体浮いてる状態でリナさんに連行されました。
いやまじでなに!?
「お礼したいだけよ」
お風呂場に着くとリナさんがそう言った。
「お礼……?」
「そう。盗賊から助けてくれたお礼ね」
あぁ……そのことか。でも、何をするつもりなのかな…?
「何をするんです?」
「……私ね、前から思ってたの」
「何を?」
「……マリーナちゃんのことを可愛がりたいって」
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声をだす。か、可愛がりたい…?
「だから…遊ばせて!」
「え、えぇ!?」
思わず逃げようとしたけど、すぐに捕まってしまった。
「ふふふ…」
「な、なにを…」
「ただマリーナちゃんのことを洗いたいってだけよ」
洗いたい?その言葉を裏付けるように、リナさんが私の体を泡まみれにしてくる。
「ひゃん!?ちょ!リナさん?!」
「ふふ。可愛い声だすのね。ほら」
「ひゃ!?」
や、止めて!私コショコショされるの苦手なんだから!
そんな心の叫びも虚しく、そのままリナさんによって弄ばれたのだった……。
お風呂って入ったら疲れるものだったっけ?
「うぅぅ……」
「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎたわ」
「やり過ぎたってレベルじゃないですよぅ……」
もう精神も疲労困憊。リナさん、笑いながら謝ってるし…絶対反省してないですよね!?
恨みがましくリナさんを見つめたけれど、さらに笑われただけだった…。
「もう…無理です…」
部屋に入ってベットに倒れ込むと、すぐに睡魔が襲い、私はまどろみの中へと溶けていった……。
ーーーーーーー
「………寝たわね」
私は隣りのベットで眠るマリーナちゃんの頭を撫でる。こうして眠っていると年相応の可愛い女の子よね。
「マリーナ、気持ちよさそう」
フィーナが言う通り、マリーナちゃんの寝顔はとても気持ちよさそうだった。
「……フィーナ。マリーナちゃんのことどう思う?」
「……どう思うって?」
「普通の女の子だと思う?」
私はそれが分からなかった。今まではただ魔法の腕があって、深淵の森で戦い慣れている女の子という認識だった。けれど……
「あの時、マリーナちゃんは確かに転移の魔法を使っていた」
私がマリーナちゃんのステータスを見た限り、転移という項目は無かった。それは今でも。
「……つまり、マリーナが自分のステータスを隠していると?」
「そうとしか考えられない。でも、それを意図してやっているのか、はたまた誰かからやられているのか……」
少なくともマリーナちゃんは自分のステータスを把握している。そうじゃないと、転移という魔法が使えるはずがないもの。
「……マリーナが何者なのか、か…」
それは出会ったときから思っている。あんな森に1人でいたことも、5歳とは思えない受け答えをすることも不自然で。
「……私、そこまで気にする必要ないと思う」
「どう、して?」
「……だって、マリーナはマリーナだから。私を、私たちを助けてくれた子。それ以外ない」
……フィーナの言葉を聞いてハッとした。そうね。そうよね。マリーナちゃんが何者なのかなんて関係ない。私たちを助けてくれた時点で、敵対するような存在ではないと分かっているのだから。
そのことに気づき、苦笑を浮かべた。
「そうね。悩んでたのがバカみたい。マリーナちゃんはマリーナちゃんよね」
「うん」
フィーナが満足そうに頷く。
「もう寝ましょうか」
「そうだね。おやすみ」
「おやすみ」
私はマリーナちゃんの頭をひと無でしてから、重たくなった瞼を下ろした。