食事とその頃のギル達
しばらくして、私たちが座るテーブルに頼んだ料理が運ばれてきた。
「これは……麺?ですか?」
サーニャさんが確かめるように尋ねてくる。
「そうですよ。これが、うどんです」
そう。私が頼んだのは、うどんだ。油揚げはなく、シンプルな出汁うどんではあるが、かなり作るのには苦労した。
……ちなみにこのうどんのレシピが、1番の売上をはじき出していることは余談である。
「冷めないうちに食べましょう」
「そうですね」
私は手を合わせ、小さくいただきますと言ってから食べ始めた。
手打ちうどんは、まだ日本で食べるものには劣るが、それでも十分に美味しい。
それに以前よりもモチモチとした弾力があり、ダリオさんが頑張ったことが窺えた。
「あちっ!でも美味しいです!なんというか…モチモチ?してて」
「それは良かったです」
サーニャさんはフーフーと冷ましながら麺を啜っていた。
サーニャさんの口から麺という言葉がてできた時点で分かるけど、この世界にも麺はあった。だから啜るっていう食べ方ができたりする。
「この後、サーニャさんはどうするんですか?」
一応お腹が空いたと言われたので食べに来たけれど、もう護衛依頼は終了しているので、これからは別行動になる。
……まぁ、あのことを相談した後、場合によっては、また行動を共にするかもしれないけれど。
「とりあえず宿に戻って、ポーションの調合なんかをしたいですね」
「ポーションの調合を?」
「はい。採取した薬草の品質が落ちる前に作りたいので」
そう言って腰に着けたポーチをポンと叩いた。それはバケットさんが持っていたものと同じ、マジックポーチだ。
マジックポーチ内は時間が普通に進んでしまうので、薬草をそのままにしておくと枯れてしまう。だからその前に作りたいらしい。
「じゃあお別れですね」
「はい。……色々とご迷惑をお掛けしました」
「いえ。迷惑なんて」
ない……ない?……サーニャさんが私から離れたこと以外はない、うん。
「お金は私が払いますね」
「いえ!それは…」
「気にしないで下さい。私のお節介です」
そこまでお金に余裕があるようには見えないからね。失礼かもだけど。
ポーションを作るっていうのも、それを売ってお金にしたいってことだろうし。
「……すいません」
「そこは謝るんじゃないですよ」
「…はい。ありがとうございます」
サーニャさんが微笑んだので、私も笑みを返した。
うどんを食べ終わり、約束通り私がお金を払って、宿の入口でサーニャさんと別れることに。
「そう言えばどこの宿です?」
「この通りの先の宿です」
「そうなんですね。じゃあ、また会えたら」
「はい。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて、サーニャさんは去っていった。
……ギルさん達はまだかな?
ーーーーーーー
マリーナは依頼主であるサーニャさんと共にガドールへと入っていった。
「いいの?先に行かせて」
「ああ。むしろ、このままいたら面倒なことになりそうだろ?」
「まぁ…確かに」
これから短い時間だが、詰所で話を聞かれることになるだろう。盗賊を捕まえた経緯を聞くためだ。そこに小さな子供であるマリーナがいたら、色々と面倒だろう。
……その小さな子供が盗賊達を叩きのめしたんだがな。
「あの時のマリーナちゃん、ちょっと怖かったわ……」
「あぁ……本気の怒りだったな」
顔は笑っていたが、目は明らかに笑っていなかった。よほどの怒りだったんだろうな…。
「でもマリーナちゃんのおかげで私は助かったのよね」
「ん。多分マリーナはそれがなかったらあそこまで怒らなかった」
そうだろうな。
マリーナは子供ではあるが、状況をよく見て、よく理解している。リナが盗賊どもに目をつけられなかったら、あのまま盗賊達が去るのを待っただろう。
「マリーナは怒らせたらヤバいってことは分かったな…」
「「「同感」」」
怒らせることなんてまず無いだろうが、それでも、な…。
「おーい!待たせたな!」
遠くから先程いた門番が走ってくるのが見えた。
「盗賊どもはこっちで引き取るが、とりあえず話を聞かせてくれ」
「おう。分かった」
と言っても盗賊全員を叩きのめしたのはマリーナだからなぁ……ほとんど話すことは無かった。
「つまり、2人が降参しているときに、仲間の2人が奇襲したのか?」
「あぁ。まぁそんなとこだ」
マリーナのことは話さない。話しても信じないだろうとは思うがな。
「分かった。それと調べたら盗賊の1人が賞金首だったから、渡しとくぞ」
そう言ってドンッと重そうな袋をテーブルの上に置いた。
「そうだったのか……いくらだ?」
「金額にして2万リシアだな」
2万リシア……って、金貨20枚じゃねぇか!?
「すげぇな…」
「よかったなぁ。まぁ、今ここに金貨20枚なんてないんで、銀貨だが許してくれ」
「お、おう…」
ずっしりと重い袋を受け取る。この金、ほとんど…いや、全部マリーナのだよな…。
「盗賊の持ちもんはどうする?」
「それはもう好きにしてくれ」
一応見てみたが、マリーナが望むようなものは無かったし、第一として盗賊が使ったものをマリーナは使わないだろうから、要らないだろう。
「そうか?なら、オークションに出されるな。結果がでるのは5日後くらいだな」
「そうか。分かった」
俺は重い袋をマジックポーチに仕舞い、詰所を後にした。
………マリーナ、もはや俺たち全員分の金より多く持ってそうだな、ということを考えながら…。
護衛依頼【8】の後書きにちょっとしたことを書き込みました。