護衛依頼【8】
とりあえず近づく前に、背中に背負っている刀を無限収納庫に収納しておく。もし見つかった時、さすがに女の子がそんなの持ってたら怪しいからね。
少しづつ、気配を極力殺して近づく。すると、話し声が聞こえた。
「けっ!なんだよ。金目のものねぇじゃねぇか」
それはそうだろう。あるとしたら食料と寝具、あとは…予備の武器くらいかな?荷馬車ではないからね。
「ということは移動の為の馬車か。じゃあ他に仲間がいるんじゃねぇか?」
「それもそうだな……とっととずらかるか?」
そうしてくれるとありがたいけどね。楽だから。
「ちっ!まさか襲われるなんて…」
ギルさんが後悔を口にする。
「Aランク冒険者が情けねぇなぁ。へっ」
盗賊の1人がギルさんのことを鼻で笑った。ちょっと私イラってしたよ?
「まぁいい女はいたから、収穫はあったな」
「きゃ!やめてよ!」
盗賊の1人がリナさんの腕をつかみ、無理やり立ち上がらせる
そしてリナさんのことを気持ち悪い目で見始めた。
……吐き気がする。もういい。
「ちょっとおじさん達、聞きたいことあるんだけど?」
怒りを奥に押し込めて、あどけなく小首を傾げながら草むらから飛び出し、目の前に立つ。
「あぁ?……なんだガキか。しっかしいい顔してんじゃねぇか。こりゃ高く売れそうだなぁ?」
……気持ち悪い。反吐が出る。
「マ、マリーナちゃん…だめ…」
心細い声でリナさんが言う。私はそんなリナさんに笑みを向ける。
心配しなくていい、と。
「なんだぁ?知り合い…いや、仲間か?」
「そうだよー?おじさん達、私の仲間に何してるの?」
「なぁに。悪いことじゃねぇよ。ちょーっと話を、な?」
気持ち悪い笑みを浮かべて、少しづつ近づいてくる。とりあえずリナさんの手は離してくれた。
「そっかぁー。じゃあ……」
─────覚悟しろよ。
「あぁん?何か言っ……」
言葉が最後まで紡がれることは無い。私が横っ腹を蹴り飛ばしたからだ。
蹴り飛ばした盗賊はゴロゴロと転がり、肘が、膝があらぬ方向に曲がってしまっているけど、死んではないはずだから大丈夫…だと思う。
「何が起こっ……」
ノコノコ出てきた盗賊の膝を蹴り、骨を壊す。
「あがっ!?な、こいつっっ!?」
私に襲いかかろうとするけど、膝の骨が完璧に壊れているのだから、歩けるわけが無い。体勢を崩し、落ちてきた頭を蹴る。脳震盪を起こし、意識を失う。
「お、おい!こ、こいつらが、どうなってもいいのか?!」
抵抗できないギルさんとリナさんの首筋にナイフを当てて、勝ったような顔をする盗賊。
………でもさ?
「どうぞ?」
そんなの、関係ないんだよ。
「なっ!…」
了承したら絶句された。そんな反応するならしなければいいのに。
「マ、マリーナちゃん…」
そんな怯えた声ださないでください……私が対策してない訳ないじゃないですか。もう既にリナさんとギルさんには結界を張っておいたんですから。
私が了承したのが余程意外なのか、盗賊が固まっていた。
「よそ見ですか?」
簡易的な転移魔法で盗賊の後ろに現れる。
「なっ!?」
私がいきなり後ろから現れたからなのか、盗賊が驚きを露わにする。
そんな盗賊の間抜けな顔を蹴り飛ばし、ギルさんとリナさんを助け出す。
「大丈夫ですか?」
「うぅー…なんで止まってくれなかったの?」
リナさんが泣きそうな顔でそう言ってくる。
「すいません。でもそれは後で。下がってください」
武器がないギルさんと、リナさんは正直足でまといだ。
「お、おい!こ、こいつを殺されたくなかったら言うこと聞け!」
……あ。御者さんのこと忘れてた。
でも、盗賊も学習しないねぇ。私にそれは効かないのに。
「ふふっ」
だから思わず笑ってしまう。そんな私の様子をみて、ギルさんやリナさんまで引いてる。なんで?
「遅いよ」
また後ろに現れるわたし。
「それは見たんだよっ!」
見計らったかのように別の盗賊が剣をわたしに振り下ろした。
「ばかが!」
「ばかは、どっちかな?」
「「は?」」
私はもとから後ろになんて居ない。魔法でちょっとした幻影を創り出したのだ。同じ手は使わないよ。
わたしを切って満足していたのか、私の姿を見て盗賊たちの動きが一瞬止まる。
そんな盗賊たちの反応を後目に順番に意識を刈り取った。止まってるなら楽だよね。
「く、そ…」
最後の盗賊を沈める。ふぅ。スッキリした。
「終わりました……って、あれ?」
なんか振り向いたらギルさん達が唖然としてるんだけど……
「マ、マリーナちゃん!?大丈夫?怪我してない?」
そんな中リナさんが駆け寄ってきて私のからだをぺたぺた触る。
「心配するのはリナさんの方だと思うんですけど…」
「そんなことどうでもいいの!ほんとに、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
そもそも1回も攻撃を受けていないからね。
「(こ、こぇぇ……)」
……ギルさん、小声で言っても聞こえてますからね?
「ところで、この人達、どうします?」
私は地面で倒れている盗賊たちに目線を向ける。
リナさんもその盗賊をみて、すこし顔が引き攣っているような…?
「し、死んでないよね?」
「死んでませんよ、もちろん」
まぁ二度と歩けない体になった人は少しくらいいるだろうが。
「それなら…全員縛って兵に引き渡すのが妥当ね。ギル!」
リナさんがギルさんを呼ぶ。
「なんだ?」
「縛るから手伝って。フィーナとバケットも手伝って!」
「分かったよー…」
「…ん」
2人の返事が乗り気でなかったのはきっと気のせいだろう。うん。
ギルさん達が盗賊を縛っているうちに、私は馬車まで戻る。すると、馬車のところで御者さんと一緒に待っていたサーニャさんが駆けてきた。
「マリーナさん!やりすぎではないですか!」
あ、あれ?てっきり心配してくれるのかと思ったんだけど…
「ご、ごめんなさい…」
あまりの剣幕に思わず謝ってしまった。いや、謝る相手が違うと思うけど。
「はぁ…まぁお怒りはごもっともですがね。私も殴りたくなりましたから」
な、殴りたくなったんだ……。
「でも、今度から気をつけるようにしてください。マリーナ様。(……引かれちゃいますよ?)」
うっ!それは……確かに引かれてたもんね…反省。
「よし。全員詰め込んだな」
日が昇り、辺りが明るくなってしまった頃、ようやく縛った盗賊たちを馬車の中に入れ終わる。
しかし、盗賊が意識を失っているから馬車に乗せざるを得ないとはいえ、これで馬車に乗るスペースは無くなってしまった。
「帰りは歩きだけど……帰るだけだから、問題ないわね」
行きは体力の消耗を抑える為馬車に乗ったが、帰りは別にそんな心配はいらいので、歩きでも大丈夫だ。
「すっかり日も昇っちゃったし……マリーナちゃんは眠気とかない?」
「大丈夫ですよ」
「わ、私も大丈夫です」
睡眠があまり必要でないのは、こんな時便利だね。
「じゃあ帰りましょうか」
やっと帰れるよ……なんだかんだあって、結構大変だった。でも、依頼は達成できたし、良かった良かった。
……あ、帰ったらあのこと相談しなきゃね。
戦闘描写は苦手です…
・ちょっとした疑問にお答え↓
Q.マリーナちゃんは小柄だけど、盗賊なんて蹴り飛ばせるの?
A.
マリーナ「そう言えば……なんで?」
ハク『マリーナ様の力でしたら、少しかすっただけでも威力が桁違いですので』
マリーナ「お、おう……」
以上。