聖域を侵すモノ
瑠璃について行くと、わらわらと別の魔物達も集まってきた。
〈皆マリーナ様を見に来ているのです〉
「なんで?」
《そりゃあもちろん、主様がこの聖域の長を助けたからだよ。お礼を言いに来てるの》
な、なるほど。そんなに慕われてたのね。
あ、クリスタルみたいに輝いてるうさぎさんが近づいてきた。なんか手に持ってる。
《くれるって》
「え、これを?」
どうやら喋れるのは長である瑠璃だけらしい。器用に小さな手で持っていたのは、クルミっぽい木の実。神眼で見てみる。
名前:ミーソの実
んん!?これは……詳しく!
外側の硬い殻を外し、出てきた中身に水を加えて混ぜることで、しょっぱい茶色い食べ物になる。
……正しく味噌だぁぁぁぁ!!
「ありがとう!!」
思わず持ってきてくれたうさぎさんの手を取って、ブンブン振る。
《あ、主様?どうしたの?》
「味噌だよ、味噌!!この世界にもあったんだよォォォォ!!」
《わ、分かったから落ち着いて!!》
は!私としたことが……
「ごめんね?」
クリスタルなうさぎさんは、ふるふると頭を横に振った。気にしてないよってことかな?
「あの…もし良ければなんだけど、この木の実をもっとくれないかな?」
そう言うと、クリスタルなうさぎさんは周りにいた他の魔物と会話?をして、去っていった。持ってきてくれるのかな?
《主様、そんなに欲しいの?》
「もちろん!!どうしたら分かるかな…あ、だったらあとでお味噌汁作ってあげる!」
《オミソシル?美味しいの?》
「もちろん!あ、でも塩分とか大丈夫かな…」
『問題ありません』
あ、良かった。食事はいらないって前言ってたけど、食べられないって訳じゃないらしい。
〈神…マリーナ様、こちらです〉
あ!すっかり忘れてた。
「すいません!今行きます!」
魔物たちが集まってきちゃって、それを構ってたっていうのもあるけど、基本的私が悪いので、しっかりと謝っておく。
「なに……これ」
瑠璃に案内された場所。そこは……聖域とは呼べない空間になっていた。木々は枯れ、地面は黒く変色してしまっている。
〈これが聖域を侵すモノ……【呪詛】です〉
呪詛……つまり呪い?
『その認識で問題ありません。ただ、呪詛には主に2つの種類があります』
それは?
『1つは怨念。これは負の感情と呼ばれるものです。悲しみ、憎しみ、怒り…それらがあつまり、呪詛となります。それは他者を呪うこともあれば、ひとつの形として意志を持つこともあります。代表的なのは……魔王』
魔王、ね…まさかここで聞くことになるとはね。
『ちなみにマリーナ様と同じくこちらに召喚されてきた者たちは、この魔王を討伐する為に召喚されたようなものです』
うえ!?そうだったの!?
『はい。今頃ダンジョンでレベル上げでもしているのではないでしょうか』
ま、まじかぁ…もしかして、会うことになったりする?
『今は会うことは無いかと。国が違います』
ふーん。まぁ今はいいや。今は呪詛について教えて。
『はい。2つ目は術者からの意図的なものです。これは術者の負の感情だけが呪詛となり、作用します。ですが、負の感情が無かったとしても、呪詛をかけることは可能です。しかし、威力などが低下します』
なるほど。一般的な呪いね。で、今回は?
『今回は前者です』
つまり、怨念が原因?
『はい』
分かった。じゃあ瑠璃を助けた時と同じように、聖属性の魔力を流せばいい?
『………』
…ハク?
『………申し訳ありません。特秘事項です』
……はい?特秘事項?なんで?
『特秘事項です』
いやだから『特秘事項です』…そう。
ハクから助言を貰えなかったのは痛いけど、とにかくやってみるしかない。
地面に両手を着いて、瑠璃と同じように聖属性の魔力を流す。すると、ピリピリとした感覚が伝わってきた。
パァンッ!!
「うわ!?」
ピリピリした感覚を感じながら魔力を流していたら、いきなり地面が爆発した。
《主様!大丈夫?》
「大丈夫…だけど、どうして?」
感覚で言うなら……多分拒否された。じゃあ聖属性は間違い?
〈ふむ……どうやらマリーナ様はまだ力を使いこなせていないようですな〉
力……?確かに使いこなせてない…けど、瑠璃が言っているのは、多分違う。勘だよ?でも、何となくね。
〈神の力…神力を使いこなせていないのです。我を助けた時は無意識だったのでしょう〉
神…力?え、そんなの知らないけど?無意識?もしかして瑠璃を助けた時は、聖属性の魔力じゃ無かったってこと?
〈マリーナ様はおそらく……春の龍では?〉
えっとー…説明!
『神龍には種類があります。マリーナ様は最早神龍とは呼べないなにかになっていますが、基本は春の龍となっています』
……うん。色々と突っ込みたいとかあるけど、とにかく春の龍って!?
『春の龍は生きるもの…つまり、"生"を司ります。また、慈愛を司る龍でもあります』
もっと詳しく!
『…つまり、マリーナ様は瑠璃に対して無意識に、"生"の力を使ったのです』
…つまり、生きる力を与えたと?
『そういうことです。今回の呪詛はマリーナ様と相性がいいです』
……なるほど。見たところ植物枯れちゃってるしね。確かに相性はいい…の?まぁやってみたら分かるよね!で、その力を使うにはどうすれば…
『特秘事項です』
ですよね!分かってた。でもどうしたらいいのよ!
〈マリーナ様、生きるとはなにか、それを考えるのです〉
悩んでいると、瑠璃がアドバイスをくれた。いやなんで知ってるの?…うん。聞かない方がいい気がする。
生きるとはなにか、か……私が考える生きるって、やっぱり元気でいることだと思うのよね。誰彼構わずみんなで笑いあって、美味しい食事食べて、ぐっすり寝て、しっかり働いて…なんていうのかな。ココロが温まる感じ?実際今ココロが温かい…ん?
〈気づいたようですな。それが神力というものです〉
そうか…これが神力か。魔力とは違う、とても温かい力。優しい力。確かに瑠璃を助けた時にもほんの少しだけ感じた。
その温かい力を地面に流す。全てを包み込むように。苦痛から解き放たれますように……
《うわぁー…主様、凄い》
耳元でプレナの声が聞こえる。だけど、私は全然凄くない。たくさんの人に支えられて、私がいる。だから今度は私がそれを返したいだけ。貰った温かさを。
〈……さすが、あやつの…〉
瑠璃が呟いた言葉は、私の耳には入らなかった。