謎の現象
ドシィィィィィィィン!!
「きゃあぁぁ!!」
思わず声を上げてしまった。木はミシミシッ!と悲鳴をあげつつも、なんとか折れなかった。が、私は熊に見つかってしまった。
熊の赤い瞳が、真っ直ぐに私を捉える。
「た、助けて…」
今まで感じたことの無い恐怖。それは……『死』
私は足が動かず、口も動かず、ただ熊を見つめていた。
…すると熊は笑ったように見えた。そのまま熊はその場へと倒れ込んだ。
「フゥゥゥゥ…」
張り詰めた空気で、呼吸するのも忘れていた。思わず息を吐く。
「死んだ?」
分からない。そもそも木の下にはあの兎がいて、降りて確認することも出来ない。兎は確実に死んでいると思う。だって胸が動いていない。つまり、呼吸をしていないと分かるから。
ふと辺りを見渡すと、もう既に周りは暗くなっていたことに気付いた。
「うぅぅ」
今まで張り詰めていた糸が切れたからなのか、猛烈に眠気が襲ってきた。
「もう、無理…」
私は木の枝に抱き着くようにして眠りに就いた。
次の日
どうやら木から落ちなくて済んだようで、目を開けると木の肌が目の前にあった。
…そして兎の死体、熊の死体もあった。何時間寝たのか分からないけれど、1晩寝たのだからかなり時間が経っているだろう。それで1ミリも動いていないのだから、多分熊も死んでいるのだろう。
「どうしよ…」
ひとまず木から降りたいのだが…
「私、どうやってこんな高い木に登れたの?」
少なくとも地面まで10メートルはある。もうちょっと見てみようとして…手が木から滑った。
「あ!」
えー!私こんなことで死ぬのー!
ドサ!
「…あれ?」
どこも痛くない?体を見回しても骨折どころか傷1つない。
「どゆこと?」
その場でジャンプしてみる。問題は…あった。
「うぉ!」
軽くジャンプしただけなのに、今まで私がいた枝まで飛ぶことが出来た。驚いたせいで体勢を崩して落下する。
「ひぇー!」
ドサ!
…やっぱり、痛くない。
「…これが、神様が言っていた人じゃないってこと?」
つまりは身体能力が人より明らかに高いから、人間より高位な存在?
「でも人化って言ってたよね…」
つまりこれが人化した姿ということ?ってなると本物の姿があるはずだけど…
「どうやるの?」
だいたいこう言うのってその姿をイメージすることでできそうだけど、そもそも本当の姿が分からないから、イメージして出来るもんじゃない。
「はぁ…まぁ今はいいや。とにかく、この死体をどうにかしないとね」
今の私よりも明らかに巨大な兎と熊の死体。運ぶなんてできそうにないけど、このままにしておいたら腐り、その臭いに引き寄せられ、また別のこんなのが来ることになる。
「穴を掘るか、もしく火で焼くかだけど…」
どちらも現実的ではない。そんな巨大な穴なんて道具もないこの状況では掘れないし、火で焼くにはそもそも火がない。それにここは森。その火が原因で、火事にならないとは限らない。
「どうしたもんか…」
そう言いながら私は兎の死体に触れる。食べるという手段もある…けど…
「そもそも食べれるか分かんないし、解体出来ないし…はぁ、ゲームみたいにアイテムだけ残して消えるとかあったらいいのに」
そう思っていると、突如兎の死体が目の前から掻き消えた。
「へ?!」
なにが起きたの?消えた?どこへ?え?
少し脳内パニック状態に陥りながらも熊の方へ向かう。
「さっきはどうしたんだっけ?」
とりあえず触れて、消えてと心で思ったら……同じように、消えた。
「…うん、こういう仕様なんだ!そう言うことにしよう!」
…いわゆる思考放棄である。
「とにかく、こういう相手に出会ったときのためにも武器が欲しいよね…」
今の私はあまりにも弱すぎる。だから自衛手段を探さなくては……
そう思い、私はひとまず兎と熊のことと、先程の謎現象について忘れることにした。