森ってひとつじゃなかったんですか?
リナさん達の後をついて行って、ギルさんに勧められた席につく。
そして席について運ばれてきたのは……ロールハーキュでした。まぁステーキって気分でもなかったし、良かったけどね。
「あ、プレナはどうする?」
《私は要らないの。主様の魔力があれば大丈夫だから》
そうなんだ。衝撃の事実だわ。魔力が食事代わりになるなんてね。
「それはマリーナちゃんの従魔なの?」
「あ、そうです。プレナって言います」
《よ、よろしく…》
ちょっと緊張気味に頭を下げた。
「賢いのね」
「はい。私も驚きました」
「でもよ、マリーナは初級の森に行ったんだろ?そこに魔物なんていたか? 」
「初級の森?」
「ああ。クライヴに聞いたぞ」
あー。クライヴさんに聞いた森か。初級の森ってまんまじゃん。つまり初心者向けの森ってことだよね。だけど、私が行った森って結構強そうな魔物いっぱいいたんだけど?
「あそこって初心者向けの森なんですか?」
「ああ。定期的に魔物を狩ってるからな。比較的安全なんだよ」
「でも、私が行ったとき、かなり魔物いましたよ?」
「「「「は?!」」」」
ガタッ!ってギルさん達が椅子から勢い良く立ち上がって叫んだもんだから、食堂中の視線を集めてしまった。そんなに驚くことなの?
「あぁ悪ぃ。気にしないでくれ」
食堂にいる人たちにギルさんがそう説明すると、集まっていた視線が散った。それでもまだ気にしてる目線は感じるけどね。
「それで、どういうことだ?」
「どういうこともなにも…そのままの意味ですよ?」
「待って。マリーナちゃんは初級の森に間違いなく行ったんだよね?」
バケットさんが会話に参加してきた。
「間違いなくかどうかは分かりませんけど…」
「どういうことだ?」
「真っ直ぐ道なりに進んで、一番最初に見えてきた森に入っただけですから」
看板が立ってるわけじゃないしね。
「…ほんとか?」
「は、はい」
ギルさんの視線がちょっと怖くて、言葉に少し詰まってしまった。いや、多分普通の5歳児が見たら絶対泣き出すと思うからちょっと止めてください。
「バケット。地図持ってるか?」
「持ってるよー。はい」
バケットさんが腰に着けたポーチから地図を取り出した。でも、明らかに地図なんて入らない大きさだとおもうんだけど?
そんな私の視線に気付いたのか、バケットさんが説明してくれた。
「これはねー、マジックポーチっていって、沢山物が入るんだよ」
「へー、凄いですね!」
「そんなんも知らなかったのか?……まぁ収納が使えたら無縁の代物か」
そうなのよね。でも収納は魔力を消費するし、緊急用に持ってる人はいると思う。まぁ私は関係ないけどね。
「話を戻すぞ。ここが俺たちがいる街だ」
テーブルに地図を広げて、ギルさんがある一点を指さした。なるほど。そこがガドールね。
「で、ここが初級の森だ」
地図の上の指を滑らせて、街からそう離れていないところを指さした。
「マリーナはここに行ったんだろ?」
「えっとー…私が行った森は、もう少し離れてたような…」
そう。私が行った森は、結構街から離れてたのよね。帰りはプレナと話しながらだったから周りを見てなかったけど、それでもかなり歩いたのは分かる。
「離れてた?……まさかここか?」
ギルさんが次に指さしたのは、街からさらにはなれたところ。さっきの初級の森が点だったのに対して、そこは大きな楕円を描いていた。規模的にも私が行った森に似ている。
「多分ここです」
「…まじか?」
「まじです」
私がそう答えると、ギルさんは天を仰いだ。あ、あれ?なにかおかしかった?
「マリーナちゃん?ほんとにここなの?」
「はい。ここのはずです。距離的にも、規模的にも」
「……ここがどういう森か知ってる?」
真剣な表情でリナさんに聞かれた。そんなにヤバいとこだったの?
「…知りません」
「はぁ…いい?ここは魔の森って呼ばれてるの。Aランクの冒険者が入っても無事では済まないっていう森なのよ」
ま、まじですか?確かにあの森にいた魔物は、深淵の森にいた魔物より強そうだったけど…
「…でも偶然強い魔物とは会いませんでしたし」
「……そうなの?でも、これからは行かないようにね?」
「は、はい…」
まぁバレなきゃいい…よね?
「今日はもう寝るか…」
「ええ、そうね。なんだか疲れたわ」
「…すいません」
ほんとにすいません。迷惑ばっかかけて…いや、迷惑ではないのか?心配かけてかな?
「そうだ。明日マリーナはどうすんだ?」
会話の流れを変えるようにギルさんが問いかけてきた。
「今のところは決まってないです」
「なら俺たちと依頼受けるか?」
「あ!やりたいです!」
「なら決まりだな。じゃあまた明日な」
「はい!おやすみなさい」
明日何しようって思ってたから、ギルさんの誘いはとても嬉しかった。まぁそんなに難しい依頼じゃないだろうしね。
「大丈夫なの?」
「大丈夫です。どうせやることないですし」
「そういうことじゃないんだけど…まぁいいわ。じゃあ明日に備えてもう寝ましょうか」
「はい!」
リナさんたちと部屋に戻る。その後、リナさんが明日の依頼は多分討伐依頼になるだろうって聞いた。だから後ろから支援して欲しいんだって。まぁリナさんたちは連携とかあるだろうし、私が前に出ないほうがいいものね。だからもちろん、異論はなかった。
そんな話し合いを終えて、私はクリーンを自分とプレナにかけて眠りについた。