従魔…じゃないらしい
森を抜けて、帰路に就く。
「ねぇ?ほんとに良かったの?」
その途中で、肩に乗っかったままのリスちゃんにまた問いかける。私はあの街にずっといるつもりはないから、今度はいつ会えるか分からないもの。
だけど、リスちゃんは当然!って顔で頷く。森を出るまでの間ずっと返事は変わらなかったのよねぇ。
はぁ…もう諦めよう。
「…そう言えば魔物って街に入れれるの?」
『従魔としていれば問題ありません』
従魔?どうやるの?
『基本は名前をつければ大丈夫です。ですが、マリーナ様の場合、従魔ではなく眷族という扱いになるかと』
…それって従魔となにが違うの?
『大して違いはありませんが、強いて言うなら、マリーナ様の力が分けられます』
分けられるって…魔法が使えるようになるとか?
『はい』
なるほど。じゃあ名前をつけた方がいいかな。
「ねぇ、リスちゃん?名前を付けてもいいかな?」
私がそう尋ねると、リスちゃんは待ってました!と言うように勢い良く頭を縦にふった。そ、そんなにか…
リスちゃんの毛並みは白より銀色に近いのよね。でも色で名前を付けるっていうのもなんかなぁ…
「…じゃあ、"プレナ"なんてどうかな?」
結局なんの意味もない言葉に。ネーミングセンスが……
私がそう言うと、リスちゃん…プレナの体が一瞬光ったけど、すぐにおさまった。これで完了なのかな?
《主様!ありがとう!》
いきなり可愛い声が聞こえた。
「え、今の声って…」
《私だよ!》
プレナがトンっと自分の胸を叩いた。やっぱりそうなのね。
改めてプレナを見てみると、見た目がちょっと変わっていることに気付いた。
目じりから尻尾にかけて、1本の金色の線が現れていた。ちょうど私の毛先と同じような色。
「可愛くなったね」
《ちょ!サラッとそんなこと言わないでよ!》
ちょっと怒ったように顔をそむけられてしまった。褒めただけなのに…まぁ顔が少し赤くなってたし、照れたのかな。
「だってほんとに可愛いんだもの」
《…主様だって物凄くかわいいのよ?》
「ふふっ。ありがとね」
社交辞令みたいなものだよね。そう思って軽く受け流した。
《…絶対分かってない》
「うん?なにか言った?」
《ううん。何でもないわ》
そう?確かになにか聞こえたんだけど…まぁいっか。
「それで、なにか変わったこととかある?」
《変わったこと?…あ、魔法が使えるようになったみたい》
「ほんと!?何属性?」
《えっと…光?》
何故疑問なんだ。でも、見た目からして物凄く合ってる属性だと思う。
「使えそう?」
《うん!何となくわかる!》
な、何となく…
『基本魔物は本能で魔法が使えますので』
あ、そう…
「とにかく、これからよろしくね」
《うん!よろしくね、主様!》
うん。可愛い。思わず頭を撫でてモフる。
《ふわぁー…》
するとべたーってまたしても伸びてしまった。それでも肩から落ちない。逆に凄いね!?
「そう言えば従魔の証とかいるの?首輪とか」
『必要です。無限収納庫に幾つか確認しました』
おお!それも用意してくれてたのね。早速確認してみる。
…だけど見てみると、ゆうに30個あるんだけど。多くない?!そんなに従魔にしないよ?あ、眷族か。
一つ一つ写真みたいなのがついてて、とても見やすかった。色もいっぱいあって、なかなか迷う。
「ねぇ、プレナ?どれがいいかな?」
《むにゃー…は!な、なに?》
爆睡してたね。可愛かったけど。
「従魔の首輪どれがいいかなって…あ、見える?」
今更ながらに、無限収納庫の項目が見えないかもしれないってことに気付いた。
《うん?見えるよ?》
あ、見えるんだ。眷族だからかな?
『はい』
なるほどね。じゃあここからプレナが取り出すことは?
『それは出来ません』
見れるだけなのね。まぁそれはそれでいっか。
「どれがいい?」
《うーん…じゃあこれ!》
プレナが指さしたのは、赤い首輪。真ん中に青い石がはまってるだけの、シンプルなデザイン。
「これでいいの?」
《うん!》
プレナがそう言うので、早速その首輪を取り出して付けてみる。
「うん、可愛いね。似合ってるよ」
《えへへー…ありがと!主様!》
プレナが頬にすり寄ってきたので、私もスリスリする。気持ちいいぃー…
「あ、苦しくない?」
《大丈夫だよ!》
それなら良かった。話しながら歩いていたから、門に着くまでかなり時間がかかってしまった。もう辺りも暗い。
「あ!マリーナちゃん!」
私の姿を見るやいなや、門番の人が走ってきた。たしか…クライヴさん?
「良かった…心配したよ」
「すいません…」
思わず謝ってしまった。
いやまさかちょっと遅くなっただけで、そんなに心配しているとは思わなかったのよ…
「あれ?肩のは…」
「あ!従魔にしたんです」
私が紹介すると、プレナは片手を上げて会釈した。でも腕が短くて分かりにくかった。実際クライヴさんは気付いた様子はなかったのよね。
「ほー。その歳で従魔とは凄いな」
「そうなんですか?」
「ああ。従魔にするには、ある程度の魔力がないといけないからね」
なるほど。そんなホイホイ従魔には出来ないのか。
「じゃあ通っていいですか?」
「あ、ちょっと待って…これに触れてくれる?」
出てきたのは、最初この街に入る時にも見た、犯罪を調べる水晶。
迷いなく触れると、青色に光った。確か大丈夫な色だったよね。
「うん。問題ないね。じゃあ通っていいよ」
門を通り抜けて、街に入る。今日はもう遅いし、無限収納庫は時間停止だから、納品は明日でいいかな。
そう思って、宿に戻ることにした。
道の両側には明かりが付いていて、かなり明るかった。人の往来も昼より多いかもしれない。所々でお酒を飲んで顔が赤くなっている人もいた。平和だねぇ…
そんな街並みを眺めながら、[宿り木亭]に到着した。
中に入ると、もう夕食時だったらしく、下の食堂はいっぱいだった。
「あ!マリーナちゃん!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。思わずそっちを向くと、リナさんが走ってくるのが見えた。
「もう!心配したんだからね?!」
「ご、ごめんなさい」
リナさんといい、クライヴさんといい、ちょっと過保護過ぎない?
リナさんの後ろを見てみると、ギルさんやバケットさん、フィーナさんが立っているのが見えた。そんなに心配されてたの?
「はぁ…攫われたんじゃないか心配したのよ?」
「そんな心配してたのはリナくらいだけどな」
ギルさんが呆れた顔で補足説明してくれた。でも、なぜ?
「マリーナなら、自分の身くらい守れるだろ?」
「あー、まぁ確かにそうですね」
なるほど。理解したわ。確かにそんな人から逃げれる自信はある。
「とりあえず飯にしねぇか?」
「あ、食べてなかったんですか?」
「リナが待つってうるさくてな」
「…ごめんなさい」
「お前さんが謝ることじゃねぇよ。ほら、リナもいくぞ」
ギルさんがリナさんを引っ張っていき、私もその後をついて行った。




