料理します!
リナさんのあとをついて行って、宿に向かう途中にギルさん達と合流した。ギルさん達もお昼がまだだというので、一緒に食べることに。
「でも、ほんとにいいのー?」
「いいんです。恩返しもしたいですし」
「恩返しってボクたちがしたいくらいなんだけどなぁー」
確かに私が深淵の森で助けなかったら死んでたかもしれない。だけど、それとこれとは別。
「ついたわよ。宿の人には私が話すわ」
「え、大丈夫ですよ?」
「ここは任せておきなさい」
自信満々にそう言い切ったので、任せることにした。
中に入るともう人は疎らになっていた。リナさんが交渉してる内に椅子に座って作る料理を考え…
「終わったわよ」
はや!?
「は、早かったですね」
「ええ。ここの宿の人とは長い付き合いなのよ」
なるほど。だから自信満々だったのね。でも長い付き合いって?
「どれくらい長いんです?」
「そうね…私がフィーナと一緒に冒険者として活動し始めたときからね」
「え、ギルさんとは元々パーティじゃなかったんですか?」
「ええ。ある合同依頼で会ってね。そこから一緒にパーティを組んでるのよ」
ほぇー。つまり、リナさんとフィーナさんの産まれた所はここなのかな?
「それより、早く作らない?もうお腹ぺこぺこで」
「あ、すいません!今からつくります!」
正直私もお腹ぺこぺこだから、急いで作ろう!
「厨房はこっちよ」
リナさんに案内されたのはカウンターの奥の扉。その奥には決して広いとは言えないけど、しっかりとしたキッチンがあった。
「おぉ!」
あ、コンロまである!でもどうやって使うの?
『火属性の魔石を利用しているので、スイッチを入れるだけで使えます』
ほー!便利だね!
「お、あんたが料理したいっていう嬢ちゃんか?」
厨房の奥から真っ白なエプロンに身を包んだ男の人が出てきた。
「はい。大丈夫でしたか?」
「ああ。今は人がいねぇからな。それにあんたが作る料理に興味がある」
そんなに大層なものは作れないんだけどなぁ…
「ここにある道具は何を使ってくれてもいいぜ。必要なら食材もあるぞ」
「本当ですか!?見たいです!」
「お、おう…こっちだ」
そう言って男の人が案内してくれたのは、さっき男の人が出てきた扉だった。その中を覗くと、なんでメニューがあんだけしかないのか気になるくらいの大量の食材があった。
「凄いですね!」
「だろ?だが、こんだけあっても使い道が分かんねぇんだよ…俺自身も研究してはいるんだがな」
「そうなんですか」
それは意外。じゃあ尚更頑張んないとね!
「うーん…材料から言って、ロールキャベツとかかな?」
「ろーるきゃべつ?」
「はい。あの、大きな鍋あります?」
「あ、ああ。ちょっと待ってろ」
そう言って食材の部屋から出ていく。私もその後をついて行った。
「こんなんでいいか?」
「はい。十分です」
男の人が出てきたのは中くらいの深さの鍋。
「じゃあ作りますか」
ロールキャベツだけど、使うのは白菜。だってキャベツないんだもん。
「そうだ。これ使え」
そう言って出てきたのは小さな踏み台。
「あ、ありがとうございます…」
今の私の身長だったら届かないもんねぇ…
踏み台に乗り、まず白菜の芯を取る。その後外の葉から外していく。
そして人参、玉ねぎを刻む。あとオーク肉をミンチにしておく。オーク肉はまさに豚肉みたい。捨てるのが勿体ないので、白菜の芯も刻んでおく。
「あ、ボウルあります?」
「これだ」
ボウルを受け取り、その中にオーク肉と、刻んだ人参、玉ねぎ、白菜の芯を入れ、塩コショウを加える。コショウは予め包丁で砕いておいた。
「コショウはそうやって使うのか…」
ブツブツ言いながら、私の手順をメモしていく。律儀だなぁ。
「コショウは砕いた方が香りもいいんですよ」
ボウルの中身を揉み込んで、味を馴染ませる。
「あ、鍋に水入れて貰えます?」
「分かった」
水は井戸から汲んでくるらしく、厨房に水瓶があった。そこから水を入れる。
「こんくらいか?」
「あー…まぁそのくらいでいいです」
少し多めだけど、多分大丈夫。一旦手をクリーンで綺麗にし、鍋を火にかける。
そして沸騰してきたら、白菜を軽くくぐらせる。全てくぐらせたら火を止め、水を冷ます。後で使うからね。白菜は水気を切っておく。
「なんでそんなことするんだ?」
「白菜…【ハーキュ】を柔らかくするためです」
柔らかくした白菜でタネを巻く。
「あ、爪楊枝…」
まぁ、なくても作れるからいっか!
水は完璧には冷えてないけど、触れないことはない温度まで下がったので、その中に丁寧に隙間なくロールを並べていく。
「よし、あとは…」
コンソメキューブを加え、中火にかける。
「こんな感じでアクっていうのが出てくるので、これを丁寧にすくい取って下さい」
「ほうほう」
アク取りはないから、お玉でとる。水多めで良かったかも。少し余分に取っちゃうもんね。
体感で15分を測り、皿に取り分ける。
「完成です!」
「これが…ろーるきゃべつ?」
「はい。少し味見します?」
一つだけ余ったロールキャベツを皿に盛り、手渡した。
「じゃあ…」
まずはゆっくりとスープを飲む。私は味見してないから、少し心配だなぁ…
「…っ!美味い!!」
ほ。良かったぁ………男の人は味見どころか、一瞬でロールキャベツを食べ終えてしまった。
「こいつは美味い…こんなレシピを俺に教えていいのか?」
「はい。厨房も貸してもらいましたしね」
それにこれは私が考えたレシピじゃないしね。
「ありがとな…」
「いえいえ。じゃあ運びましょうか」
とはいえ、今の私だと一皿運ぶのが限界…この世界の人達が使うお皿って大きすぎない?
残りの皿は男の人が持ってくれた。
「あ、そう言えば自己紹介してませんでしたね。私はマリーナといいます」
「そういやぁそうだな。俺はダリオだ」
ダリオさんと一緒に厨房を後にする。
「出来ましたよー」
「本当!?もうお腹ぺこぺこだよー」
「ふふっ。はい、どうぞ召し上がれ」
「「「いただきます」」」
みんなまずはスープから。
「どう?」
「凄く美味しいわ!これ本当にマリーナちゃんが作ったの?」
「もちろん。えへへー、良かったぁ」
思わずだらしない笑みがこぼれる。
「マリーナちゃん…もう!可愛すぎる!」
リナさんが飛びついてきたので、結界でやんわり押し返しておく。そしたらリナさんが結界にチューする形になった…私は悪くない!
「…リナ…迷惑」
「は!ごめんなさい。つい…」
うん。そのついは治した方がいいと思う。
「にしてもほんとに美味いな。レシピは登録してるのか?」
「登録?」
なんです?それ。
「知らねぇのか?商業ギルドでこういう料理のレシピは登録できるんだよ」
ほえー。
「登録したら何かあるんですか?」
「そうだな…まず、この料理のレシピが販売される。それが売れればレシピは広まる。そのレシピの売上が貰えるな」
ほうほう。本屋でレシピ本を出版するようなもんかな?
「でも、私はお金が欲しい訳じゃないですし…」
そもそも、そんなことでお金を貰うのもちょっと気が引けるしね。
「だがなぁ…「絶対登録すべきよ!」」
リナさんが突然口を挟んできた。
「こんなに美味しいのよ?!これを広めない手はないでしょう!?」
いやまぁ私も広まって欲しいとは思うけど…
「という訳で、食べ終わったらいくわよ!」
…………どうやら強制のようです。