いざ、市場へ!【3】
服屋さんは今いる通りの奥の方にあるらしく、どんどん進んでいく。
途中ニンニクとか、白菜みたいな野菜を発見したので、これも買っておく。
「ここね。ここは仕立て済みの服も扱ってるから、まずはそれを見ましょうか」
「はーい」
まずは仕立て済みの服を見ていく。うーん…やっぱり言ってた通り、女の子の服は少ないね。
「あ、これなんかどう?」
リナさんが持ってきたのは、薄い水色のワンピース。肩が出ていて、裾には白いレースがあしらってある。結構可愛い。
「いいですね!」
「じゃあ試着してみましょうか」
店の奥に試着室があるらしい。個室というより、店の奥がカーテンで仕切られてるだけ。もちろん男女別だよ?真ん中に壁があって、それで仕切られてる感じ。
「マリーナちゃん、一人で着れる?」
「もちろんです」
リナさんからワンピースを受け取り、試着室に入る。そして着替えるんだけど…
「この体慣れないなぁ…」
そう言えば、今まで服を脱いだことないや。服を着たままクリーンしちゃえばよかったし。
四苦八苦しながらも、何とか着終わる。
「鏡は…ないか」
『この世界で鏡は貴重なので』
そうなの?
『銀を磨いているだけのものしかないのです』
確か日本で、世界で一般的に使われていた鏡は、ガラス面にアルミとか銀とかのメッキを付着させてるんだっけ。
『その通りです。なのでこの世界では鏡は高価なので、よく水鏡が使われます』
そう言われて部屋を見渡してみると、水が張った桶みたいなのがあった。なるほど…水を鏡として使っているのか。でもこれだったら顔しか見れないよね?ここに置いてる意味はあるのかな?
とりあえずその水を覗いてみる。
「うーん、いつ見ても違和感」
顔立ちはあんまり変わらないはずなんだけど…なんか違和感があるんだよね。
「終わったー?」
カーテンの向こうからリナさんの声が聞こえた。
「あ、はーい!」
急いでカーテンを開ける。リナさんが目の前にいたんだけど、私のことを見た瞬間に目を見開いた。なんで?
「かわいすぎる!」
そう言って私に思いっきり抱きついてきた。く、苦しい…
「リ、リナさん…苦しいです」
「あ!ごめんね…思わず抱きついちゃった」
リナさんは少し私から離れ、私のことを眺め始めた。
「どこかおかしいですか?」
コテンと首を傾げながら尋ねる。
「ぐはぁ!やばい…まじ可愛すぎる」
…リナさん、実はちょっとやばい人だったりする?
「心配しないでいい…リナは可愛いもの好きだから。いつものこと」
いつの間にか私の後ろにいたフィーナさんが、そう言った。可愛いもの好きって…服を変えただけで、そんなに変わるかな?
「私も驚いた…マリーナ、今とても可愛い」
「えっと…ありがとうございます?」
確かに今まで着てたのは無地のワンピースだから、印象は変わるかもしれないけど…そこまでかなぁ?
「でも…これも合うと思う」
あ、ちゃっかりフィーナさんも服を選んでたんだ。フィーナさんが選んだのはカーキ色の長袖に黒色のスカート。長袖はなんか名前があったはずなんだけど…ファッションには疎かったからなぁ…よく分からん!
「これも着てみますね」
カーテンを閉めて、フィーナさんが持ってきた服に着替える。でも、どうせなら動きやすい服も欲しいな。ズボンとかね。
「着替えたけど…自分じゃ分かんないや」
やっぱり姿見が欲しい。
『土魔法の応用で、簡易的な鏡を創ることは可能ですが?』
マジか!?土魔法優秀過ぎない?でも、それってお店の中でやっていいのかな?
『でしたら、手鏡などを創ってみては?』
姿見より小さいし、大丈夫そう?でも、元々今の格好を見たい訳だし、手鏡じゃちょっと違うよねぇ…
「できた?」
「あ、はい」
鏡を創るのは、また今度にしよう。カーテンを開けて、フィーナさんに見せる。ちなみにリナさんは未だ悶絶中。
「うん…可愛いね」
「ありがとうございます」
そうそう。普通はこういう反応だよ?
「じゃあこの三着買います」
「うん…それがいいと思う」
ひとまず着ていたワンピースに着替え直す。そして買う服を持って、店の入口付近にあるカウンターに持っていく。だけど、私の今の身長じゃ届かない…
「持つよ」
「あ。ありがとうございます。じゃあお願いします」
フィーナさんにカウンターに載せてもらう。
「全部で2000リシアになりまーす」
なんか独特な喋り方をする店員さんだ。
「カードで払えますか?」
「ではここに当ててくださーい」
水晶にカードを当てて会計を済ます。
「ありがとうございまーす。袋はご入用ですかー?」
「大丈夫です」
私はカウンターの上にある服を、全て無限収納庫に収納した。
「収納持ちですかー。ならここにカウンターがある意味ないですねー」
「どういうことですか?」
「入口にカウンターがあると、万引きの抑止力になるんですよー」
なるほど。だからこんなとこにカウンターがあったのね。で、意味がないっていうのは、店の中で収納されたら、持ち逃げされても分からないからってとこかな。
「あ、そうだ。動きやすい服を作ってくれませんか?」
「仕立てということですかー?」
「はい。お願いします」
「分かりましたー。ではこっちでーす」
案内されたのは店の奥にあった扉。
「この中で採寸しまーす」
そう言って扉を開けた。中は案外広くて、壁に所狭しと巻かれた布があった。
「おぉー!」
思わず感嘆の声がでる。
「じゃあ測っていきますねー」
メジャー片手に、私の体をテキパキと測っていく。さすが仕事人!
「ふむふむ。大体分かりましたー。で、動きやすい服っていうのは、ズボンとかのことでいいんですかー?」
「はい。それでお願いします」
「分かりましたー。出来上がりは明日の朝頃になりますー」
案外早くできるね。
「代金は?」
「それは出来上がってからでいいですー」
「分かりました。よろしくお願いします」
「はいー。頑張りますー」
なんか間の抜けた返事だけど、仕事は信用できると思う。だって、そうじゃないとあんなにテキパキと測れないと思うから。
「ご来店、ありがとうございましたー」
丁寧に頭を下げて、店員さんは見送ってくれた。
「もう!いつの間に終わっちゃったのよ!」
リナさんは少しお怒りだ。だけど、あれは起こさないほうがよかったと思う。フィーナさんも同感らしく、リナさんになにも言わなかった。
「もう!で?いいのは買えた?」
気持ちの切り替え早いなぁ…
「はい。買えました。あと、仕立ても頼みました。明日できるそうです」
「そう。なら次は…」
グウゥゥ
突然リナさんの会話を遮るように、誰かのお腹が鳴った。誰かとは言わない。
「ふふふっ。それじゃあお昼にしましょうか」
「は、はーい」
さてさて、今日のお昼は美味しいかな?…べ、別にお腹なんて鳴ってないんだからね?!