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宿

 商業ギルドからでると、もう既に辺りは暗くなっていた。


「今日のとこはここまでだな。宿にいくぞ」


「あれ?ギルさんたちはここに住んでるんじゃないんですか?」


「ああ。ここには長く滞在してるが、本当はいろんなとこを巡ってんだよ」


 へー!それなら私もこの世界旅してみよかな?どうせ帰れないし。


「じゃあ行くぞ。マリーナの分は払ってやるよ」


「え?!そんなお構いなく!お金ももらいましたし」


「子供が遠慮すんじゃねぇよ。ほら、いくぞ」


 そう言ってギルさんは歩き出してしまった。慌てて後をついて行く。


「ごめんね、マリーナちゃん。ギルはああ言うと聞かないのよ」


「大丈夫です。むしろありがとうございます!」


 日本人として、泊まらせてもらうことは遠慮したいとこだけど、せっかくの好意を無駄にする訳にもいかないしね。


 歩き続けていると、突然ギルさんが立ち止まった。


「ここだ。入るぞ」


 そう言って入っていったのは、入口に[宿り木亭]という看板が掲げられたこじんまりとした二階建ての建物だった。


「さぁ、入りましょ?」


「はーい」


 扉を開けて中に入る。中には沢山のテーブルと椅子。そしてそのテーブルで食事を食べている沢山の人がいた。どうやら宿と食堂を併設しているみたい。


「こっちよ」


 リナさんに招かれ、奥の方にあった小さなカウンターへ向かう。


「部屋が無くて私とフィーナの部屋で寝ることになるけど、大丈夫?」


「大丈夫です!」


 むしろそっちの方がいい!1人だけで部屋にいるなんて寂しいもん。


「そう。それじゃあ早速部屋に行きましょう」


「はーい」


 部屋は二階にあるらしく、階段を上がっていく。


「ここよ」


 着いたのは角部屋。中に入ると、1人用のベッドが3台並んでいた。その他には小さな丸テーブルと椅子、それとクローゼットがあるくらいの、シンプルな部屋だった。


「どのベッドがいい?」


「うーん…どれでもいいです」


「そうねぇ…それじゃくっつけちゃいましょうか」


「いいですね!あ、フィーナさんもそれでいいですか?」


 危うく存在忘れるとこだったよ。


「…ん。それでいい」


「じゃあこのベットを真ん中にして…マリーナちゃん運べる?」


「大丈夫です!このベッドをそっちに動かせばいいですか?」


「ええ、そうよ」


 引きずるのはどうかと思ったので、少し浮かして運ぶ。5歳児が持てるような重さじゃないんだけどねぇ…軽々持てるよ。


「マリーナちゃん?!重くない?」


「全然大丈夫です!ここでいいですか?」


「え、ええ(引きずるかと思ったんだけど…マリーナちゃんって一体…?)」


 ええ、それは私も思ってます。あ、そう言えば教会に行かないといけないんだっけ?


『はい。ただ、それは明日でもいいと思います』


 そうだね。もう暗いし。


「よし!じゃあ下に降りて食事をしましょうか」


「わーい」


 わーい…ここも塩味だけなのかなぁ…


 下に降りると、もうすでにギルさんとバケットさんは席に着いていた。


「おーい、こっちだ!」


 呼ばれたので、ギルさんが座っているテーブルまで向かう。


「マリーナちゃん、これメニューね」


 リナさんに渡されたメニューに目を通すと、昼間行ったお店とほぼ同じだった。違いがあるとすれば、スープがあることだろうか?あとパン。こっちのパンってどんな感じなのか気になるし、頼んでみよっと!


「じゃあスープとパンで」


「え?マリーナちゃん、パン食べるの?」


「食べたことないので、食べてみたいんです!」


「そ、そう。あんまり期待しないほうがいいわよ?」


 リナさんがそういうけど、正直私もあまり期待していない。フワフワのパンは、それなりに食文化が発展していないと作れないものだと思うしね。


「じゃあ注文するか」


 ギルさんが店員さんに注文してくれた。しばらくして料理が運ばれてきた。


「じゃあ食べるか」


「いただきます」


 私は手を合わせてそう言った。


「そのいただきますって、なに?」


 そう言えばこの世界にこの概念はないね。


「えっと…食べ物と作ってくれた人に感謝を込めて言う言葉です」


「へぇー…いい意味ね。じゃあ私もいただきます」


 リナさんがやると、他の人もやってくれた。なんか嬉しい。


 私はスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。


「美味しい?」


「うーん…美味しいか美味しくないかで答えるなら、美味しいです」


 塩味のスープで、具材はなにかのお肉と野菜。それが出汁を出してくれているから、まだ美味しい。けど、鶏ガラとかだったらもっと美味しくなると思う。


「そう(まぁ毎日ジリル草のスープを食べていたものね)」


 そういうことじゃないんだけど…ま、いっか。パンは黒色で、おそらく俗に言う黒パンだと思う。ものすごく硬かった。


「か、硬い…」


「やっぱりね。貴族様とかが食べる白パンはもっと柔らかいと聞いたけどね」


 なるほど…柔らかいパンはあるにはあるのか。でもこの硬いのもいいよね。スープに浸して柔らかくすればいいし。


 そう思ってスープにパンを浸すと、みんなから驚かれた。あれ?


「どうしたんです?」


「いや、スープに黒パンを浸けるなんて初めてみたから…」


「そうなんですか?美味しいですよ?」


 浸して柔らかくなったパンを口に運ぶ。うん。美味しい。スープが良ければもっとね。


「私も食べていい?」


「どうぞ」


 リナさんも同じようにして口に運ぶと、目を見開いた。


「美味しいわ!まさか、こんな食べ方があるなんて…」


「俺もいいか?」


「いいですよ。というより食べちゃってください。もうお腹いっぱいで」


 この世界ででてくる食事って、5歳児のお腹からしたらものすごく多いんだよね。


「ご馳走様でした」


「それもいただきますと同じようなもの?」


「はい。いただきますは食事の最初。ご馳走様でしたは食事の最後ですね」


「そうなの。面白いわね。ご馳走様でした」


 食事は宿の料金に入っているらしいので、またギルさんに奢ってもらっちゃったよ。明日は私が奢りたいな。


 部屋に戻り、体にクリーンをかける。


「マリーナちゃんのクリーンって、なんか違うわね」


「そうですか?」


「なんていうか…私たちより綺麗になってるような気がするのよ」


 それは一理あるかも知れない。私がイメージしたのは、古くなった角質とかを除去するイメージだからね。


「まぁ、人それぞれよね。それじゃあ寝ましょうか」


「はーい」


「マリーナちゃんは真ん中ね」


 決められちゃいました。まぁ私もそっちの方がいいけどね。

 ベッドに潜り込むと、少し固い気がした。どうやら下がただの板になっているみたい。そりゃ痛いわ。でもそれほど気にもならないから、いっかな。


「明日はどうするの?」


「明日は市場に行って、食材とかみたいです…あ、あと教会も」


「教会?」


「はい。ちょっとお祈りでもしようかと」


「そう。分かったわ」


 そう言って私の頭を撫でてくれた。すると、私は直ぐに眠りに落ちてしまった。







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― 新着の感想 ―
[一言] 「むしろそっちの方がいい!1人だけで部屋にいるなんて寂しいもん。」 長い事、森で一人で暮らしていたのに、もう森で一人では、暮らせないのでは。
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