商業ギルド
ギルさんの後をついて行くと、着いたのはさっききた冒険者ギルドだった。
「ここが商業ギルドなんですか?」
「いや、ここじゃねぇ。商業ギルドは冒険者ギルドの隣にあるとこだ」
そう言われて隣を見てみると、冒険者ギルドと同じ規模の建物があった。これが商業ギルドだろうか?
「ほれ、行くぞ」
ギルさんの後をついて行って、商業ギルドに入る。するとカウンターがあるのは冒険者ギルドと変わらないけれど、酒場みたいなのは無い。なんかスッキリとした感じだった。
ギルさんが受け付けに向かう。
「買取をしてもらいたいんだが」
「はい。何を買い取るのですか?」
「ジリル草だ」
「じ、ジリル草ですか?!」
なんか受け付けの人が驚いてるけど、そんなに驚くことなのだろうか?顔に出ていたのか、リナさんが説明してくれた。
「ジリル草は採取量が少なくて、希少性が高いの。だからそんなに頻繁に持ってくる人はいないのよ」
な、なるほど…あの森には大量に生えてたけど、それは言わないほうがいいかもしれない…
「と、とりあえずどのくらいでしょうか?」
受け付けの人がそう尋ねると、ギルさんは私に顔を向けた。
「マリーナ、どれくらいだせる?」
どれくらい…
「うーん…百くらい?」
「ひ、百ですか?!」
あら?かなり控えめに言ったつもりだったんだけど…
「(マリーナちゃん…本当はどれくらいだせる?)」
「(うーん…あと500以上は)」
「(…それ、言っちゃだめだからね?)」
「(は、はーい…)」
リナさんと小声でそんな会話をしているうちに、ギルさんが話を進めてくれていたみたい。
「と、とりあえず応接室へ案内します…」
なんか話が大きくなっちゃったよ…私はただお金が欲しいだけなのにね。
「マリーナ、行くぞ」
「はーい」
トテトテとギルさんの後をついて行く。この体歩幅が小さいんだよね…
どうやら応接室は2階にあるらしく、階段を登る。そして1つの部屋に入った。中は、テーブルとソファが2つあるだけのシンプルな部屋だった。
「こ、ここです。ギルマスがくるので、それまでお待ちください…」
そう言って受け付けの人は部屋を出ていった。
「ったく。常識知らずだとは思ってたが、ここまでだとはな…」
「え?!私、そんな常識知らずですか?!」
「当たり前だ!ジリル草100本って、どんだけヤバいか知らないだろ!」
うん、知りませんでした。だってそこら辺に生えてる雑草みたいに思ってたんだもん…
「まぁ金額の交渉は俺に任せとけ。吹っかけらねぇようにな」
「お、お願いします…」
確かに私だったら、二束三文で売っちゃいそう…
そんな会話をしていると、人の気配が部屋に近づいてくるのが分かった。その気配がドアの前で止まり、ドアが開いた。
「すいません、待ってもらって」
そう言って入ってきたのは、ダンディーなおじいさんだった。
「いや、大丈夫だ。それで?買い取って貰えるのか?」
「ええ。無論です。にしてもジリル草が100本とは…にわかには信じ難いですね…」
「それは同感なんだがな…」
「どういうことです?ギルさんが持ってるんじゃないんですか?」
「いや、俺じゃあねぇ。マリーナが持ってる」
「マリーナとは…」
部屋にいる人達を見回し、そして私に目を止めた。
「まさか…その女の子ですか?」
「ああ。その通りだ」
ギルさんからそう言われて、改めて私を見つめる。ていうかギルさんと知り合いなのかな?なんか名前で呼んでたし。
「本当に…いや、収納持ち?」
わぁお。ビンゴ。まぁ今私はジリル草を入れられるようなバックなんて持ってないから、そう思われるのは当然とも言える。
「うーむ…やはり信じ難いですが…現物を見せてくれますか?」
ギルさんではなく、私に向かって言った。ギルさんを見ると頷いたので、出して大丈夫だろう。
「はい、これです」
私は無限収納庫からジリル草を1本取り出し、ギルマスの人に渡した。
「やはり収納持ち…そしてこのジリル草は紛れもなく本物ですね…はい。ありがとうございます。ではこの箱に出してくれますか?」
そう言って出したのは木でできた長方形の箱だった。ジリル草100本を入れても大丈夫そうな大きさだ。
「マリーナ、出していいぞ」
ギルさんから許可を貰い、ジリル草を箱に出す。きっちり100本だ。すると箱の側面に【100】と数字が表れた。どうやら数を数える機能が付いてるみたい。便利だね!
「きっちり100本ですね。そして間違いなく全てジリル草ですね(まさか本当に持っていたとは…)」
きっちり聞こえてます。絶対普通の人が聞こえないような小声まで聞こえるって、私の聴力ってどれくらいなんだろ?
『意識を集中すれば、1キロ先の針が落ちた音さえも拾うことが出来ます』
なにそれ怖!地獄耳じゃん!
「ジリル草100本。しかも鮮度がSクラスだから…」
うん?
「鮮度がSクラスってどういうことです?」
「鮮度がとてもいいってことですよ。冒険者のランクと同じような感じだと思っていただければいいかと」
へー…
「その顔、どれだけ凄いことなのか分かってないわね…」
え、あれ?凄いってだけじゃないの?
そう思い首を傾げると、リナさんがため息をつきながら話してくれた。
「いい?鮮度がSクラスなんて、普通ありえないんだからね?」
「えぇ!?そうなんですか?」
「ええ。私も冒険者として長いけれど、Sクラスの鮮度なんて聞いた事ないわ」
うわぁー…やらかしたっぽい。
「だからこのジリル草は高く売れます。そうですね…金貨300枚でどうでしょう?」
どうだって聞かれても…助けを求めてギルさんを見る。
「はぁ…なんかこうなる予感はしてたがなぁ…」
え、予想してたの?!
「マリーナ、安心しろ。この金額で問題ない。寧ろいい」
ギルさんがそういうなら、いいのかな?
「ではお金を用意しないと…あ、マリーナさんは商業ギルドに登録していますか?」
「いいえ?冒険者ギルドだけですけど…」
「そうかですか、それなら話は早いです。ちょっとギルドカードを貸していただけますか?」
「いいですけど…なにするんです?」
「商業ギルドに登録するだけです。そうすればギルドカードにお金を入れて買い物もできるようになりますよ」
ほぇー!電子マネーみたいに使えるのか。なら有難いかな。あ、一応ギルさんに確認…
「大丈夫だ。俺たちもしてるし、大半の冒険者は登録してる」
「そうなんですね。じゃあお願いします」
「では、早速お金はカードに入れておきますか?」
うーん…そっちのほうがかさばらないけど、もしものために現金も欲しいよね。
「半分は現金で下さい」
「分かりました。ちょっと待っていてください」
そう言って、ジリル草が入った箱も持って部屋を出ていった。
「まさか300とはな…」
「そんなに凄いんですか?」
「ああ。大抵ジリル草は1本で金貨1枚だからな。しかもそれは売値だ。つまり買い取り自体はもう少し安い」
ほうほう。つまり約3倍の値段で買い取って貰えたのね。やばくない?
「一気にお金持ちになっちゃったわね」
確かに、さっきまで無一文だったしね。
「まぁこれだけ貰って、使うのかは微妙なところですけどね」
「それもそうね」
この世界での月収は金貨5枚ほど。なので300枚っていうのは、60ヶ月分に相当するわけだ。
…使いきれるかな?
そんな心配をしていると、ギルマスの人が帰ってきた。
「無事登録は完了です。あと、これが金貨150枚です。ご確認を」
そう言って、ドンッと机の上に重そうな袋を置いた。こんなにあるの?!
「そして、ギルドカードはお返しします」
渡されたギルドカードは、何も変わっていなかった。
「マリーナさんの魔力を流せば、残高が分かるようになっています」
早速魔力を流す。するとうっすらと【150000】という数字が表れた。どうやらリシアで表示されるみたい。
「ちゃんと確認できましたね。商業ギルドにくれば、何時でもそこから出し入れできます。あとこのお金も」
「あ、ありがとうございます」
危ない危ない、忘れるとこだったよ…
「袋ごと貰って大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です」
地球でいう封筒みたいな感覚なのかな?とりあえず袋ごと無限収納庫に収納した。
「では外まで送ります」
「あ、その前に名前を聞いてもいいですか?」
そう言えば聞いてなかったんだよね。
「そう言えば言ってませんでしたね。私の名前はローランと言います」
ローランさんにギルドの外まで送ってもらって、そのまま商業ギルドを後にした。