家族のあり方
とりあえず頭を上げて貰わないといけませんね。
「頭を上げてください。それで?私はどうすればいいんですか?」
ひとまずそれが大切。
「は!そうでした!」
ガバッといきなり起き上がりました。よく見るとかなりイケメンですね。
「実は…あなたは元の世界に帰れないんです」
…はい?
「どういうことですか?」
「今回あなたは我々神が確認出来ませんでした。その結果、あなたのデータがないんです」
「データ?」
容姿とかそういうことでしょうか?
「データとはあなた方の存在を証明するもの。つまり、容姿はもちろんのこと、血や内臓、DNAといったあなた方を証明する全てのものを指します」
なるほど。でもデータがないと何故帰れないのでしょう?
「転移とは体そのものをそのまま移動するものではありません」
「というと?」
「そのまま移動させると通路のキャパを超してしまうため、1度原子まで分解するのです」
なにそれ?!怖!?
「そして転移した後データを元に体を作り直します。その際転移した世界で困らないような力を授けます」
それがいわゆるチートな訳ですか。
「…なのでデータがないあなたを元に戻すことが出来ないんです」
うん?元に戻す?改めて自分の体を見てみると、体がなかった。
「うぇ!?体がない?!」
「今まで気づかなかったのも驚きなんですけど…」
いや、あなたと話すのに夢中で気づきませんでした……。
「となると、私はどうなるんです?」
元の世界に戻れないというのは恐らく戸籍などの関係だろう。だとすると私は転移先にいくことになるけど…
「…あなたは転移先に行ってもらうしかありません」
まぁそうなりますよね。
「ただ…」
「ただ?」
「人としては、行けません」
……え?どういうこと?
「どういうことですか?」
「データがない以上、あなたの体を1から…いえ、0から創る必要があります。ただ、元の人として作り直す場合、分解したあなたの原子をピッタリで使わないといけないのです。そしてそれは、我々神をもってしても難しいのです…すみません!」
今度は土下座じゃなくて腰を90度曲げて頭を下げてきた。
…ただ、それは答えになっていない。
「答えになっていませんよ?人として行けないのなら、私はどうなるのですか?」
すると神様は頭を上げて、今まで以上に真剣な顔を私へと向けてきた。
「ピッタリとして作ることは出来ませんが、増やすことなら出来ます。なので人より高位な存在に作り替えます」
「人より高位な存在?」
「はい、人ではありませんが人化することが出来ます」
「人化?」
ちょっと待ってください。地球にそんなことができる生物なんて…
「はい。今回の転移先はあなたがいた地球と違い、魔法や魔物といったものが存在します」
え?!それって本当の異世界じゃないですか?!
「な、なるほど…それなら、納得?」
もう、なんか頭痛い。頭ないけど。
…って!そうじゃない!
「家族は?!家族はどうなるんですか?!」
虐められる私のたった唯一の味方だった家族は?
「…大変心苦しいのですが、少し記憶を弄らせていただき、あなたは事故で死んだことにさせていただきました。当時とても悲しんでいましたが、今は前を向いていらっしゃいます」
そっか…って、当時?
「もうそんなに時間が経ってるの?」
「はい。あなた方が転移されてから3年が経過しています」
「それって他の転移した人達が戻る時はどうするの?」
「あーそれは大丈夫です。ちゃんと戻す時は時間を巻き戻しますので」
そうか…だって神だものね。
…お父さん、お母さんにはずっと迷惑掛けたな…なにも返せなくてごめんなさい…
「…泣いているのですか?」
え?泣くったって…
「あなたは心で涙を流しています…どうしたのですか?」
「…もう、家族には会えないんだなって思って。私ずっと迷惑かけて…なにも返せなく…て」
「…すみません。失礼なことを…」
神様が項を垂れた。
「いいんです…もう」
「しかし、そう簡単には…そうだ!」
いきなり大声を上げて顔を上げた。
「では…私があなたの家族の代わりになります。本物の家族とは呼べないかもしれません。ですが!少しでも、ほんの少しでもあなたの気持ちの支えになれれば…」
「…確かに本物ではありません。私の親はあの2人だけです」
「そうですよね…「ですが」…え?」
「ですが、家族はなにも血が繋がっていなくてもなれます。というより、なって…くれませんか?」
最後は声が小さくなってしまった。
「本当ですか…」
神様が驚いた顔をする。
「はい、お願いします!」
今度は自信をもって言うことができた。
「ありがとうございます…」
「いえ、感謝するのはこちらの方です」
なんか立場が狂います……。
「うーん…じゃあ、パパでしょうか?」
お父さんは私の本当の親だから。
「…っ!本当ですか!?」
ものすごく驚いてる。もしかして嫌だったのでしょうか。
「嫌でしたか?」
「いえ!とても嬉しいです!」
なんでも神には家族なんてものはなく、いつもそう呼ばれてみたいと思っていたらしいです。
「じゃあ名前を付けてくれませんか?」
「え?」
「ある意味新しい自分なので」
「あ、そうか。分かりました。とてもいい名前を考えておきますね」
今じゃないのね。
「とりあえずあなたを惑星ティリシアに転移させます。転移先は森になってしまいますがいいですか?」
「何故森?」
「私は地を管理する神ですので」
あーとりあえず納得。
「ではすぐにいい名前を贈りますね」
その言葉を最後に、私は意識を失った。