お食事事情
リナさんがお祝いにご飯を食べようというので、ギルドを後にして、オススメだというお店へと足を運んだ。
「ここよ」
着いたのは人がいっぱいいる食堂みたいなところだった。
「ちょうどお昼時なのね。でも席はあるわね」
勝手に入って席に座るらしい。リナさんとともにお店に入って、席に座った。
「これがメニューね。お金は心配しなくていいわ。だから好きなの頼んでね?」
そう言われても、なんか遠慮しちゃうな…。どれを頼もうとメニューに目を通す。
「え?!」
そこに書かれていたのは、ステーキ、スープ、サラダだけだった。
「どうしたの?」
「…種類はこれだけなんですか?」
「そうだけど…少ない?」
いや、少なくない?3つって…
『この世界は地球ほど食文化が発展していません』
え、そうなの?!
『はい。逆に地球ほど食文化が発展している世界はあまりありません』
ま、まじかぁ〜…
「ど、どうしたの?!」
衝撃すぎる事実にぼーっとしていると、リナさんが心配そうに覗き込んできた。
「…なんでもないです」
言える訳ないわ!
「そ、そう…それで決まった?」
いやぁ〜決まったも何も選択肢ほぼないじゃん。
「じゃあステーキで」
「サラダはいる?」
「はい!」
リナさんが店員さんに注文してくれた。にしても食文化が発展してないとはなぁ〜…
「あ、パンってあるんですか?」
「パン?あるが、あんなもん食うのか?」
え?あんなもんって?
「どんなのなんです?」
「うーん…非常食って感じね」
ひ、非常食…それってカチコチってことかな?
「あ、きたわよ」
その声とともに運ばれてきたのは、お皿に乗ったでっかいステーキだった。食べ切れるかな?それと木のボウルに入ったサラダ…だけど、ドレッシングはなかった。
「これで食べてね」
リナさんが渡してきたのはフォークとナイフ。早速切ってみるけど…
「か、硬い…」
「あ!マリーナちゃん!危ないから切ってあげるね」
リナさんの言葉に甘えることにした。するとさっき私が格闘していたステーキを、いとも簡単に切っていく。え、ナイフ違う?私、そんなスパスパ切れなかったんだけど?
「はい!これくらいなら食べられるわね」
御丁寧に1口サイズに切ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って、ステーキにフォークを突き刺す。すると肉汁が切り口から溢れて、口に運ぶとさらに溢れだした。肉質はさっき切れなかったとは思えないほど柔らかかった。
「美味しい?」
「はい!」
薄い塩味かな。でもお肉の味もしっかりしてて、美味しい!ただ、やっぱりちょっと物足りない。ステーキソース欲しいなぁ…あと、ドレッシング。サラダはただの生野菜の盛り合わせだったからね。ある程度のソースやドレッシングのレシピは知ってるから、材料さえあれば作れるけど…こっちでの材料の名前が分からん。
『地球の情報との照らし合わせなら、可能です』
あ、ほんと?じゃあそのときになったらよろしく。
『はい』
「やっぱりここのステーキは美味いな!」
「ほんとにね〜」
ギルさんやバケットさんもお気に入りらしい。私も食べるけど、さすがに多い。半分ほど残して、お腹いっぱいになってしまった。
「あら?マリーナちゃんもういいの?」
「はい!もうお腹いっぱいです!」
「そう。それなら良かったわ」
リナさんは…1枚どころか2枚食べてるよ。どこに入ってるの?フィーナさんは、洞穴で話してから、1度も声だしてないけど…サラダばっかり食べてる。お肉は好きじゃないのかな?
「フィーナ、ちょっとはステーキも食べなさいよ」
「…や。これがいい」
「まったく…」
なんかリナさん、お姉ちゃんみたい。私が残したステーキはギルさんが食べてくれた。
食事を終えて、食堂を後にする。
「さてと…これからマリーナはどうすんだ?」
ギルさんからそう言われたけど…どうしようかなぁ。
「今のところは決まってないです。でもお金は欲しいですね」
お金が無いとなにもできないからね。
「金かぁ…そういや、マリーナ収納魔法使えたな?」
無限収納庫のことは、ギルさん達には収納魔法と言ってある。無限収納庫との違いは、容量に限界があることと、時間がそのまま流れてしまうこと。無限収納庫は時間停止なんだよね。
で、なんで言わなかったって言うと……神様がステータス隠蔽してるんだから、言わない方がいいかなってね。
閑話休題。
「はい」
「それにジリル草は入ってないのか?」
「入ってますけど…それが?」
「そいつはポーションなんかには使えないが、滋養強壮の効果があるから、商業ギルドで高く売れるんだよ」
おー!そう言えばそんなことも言ってたね。ジリル草はもう数えきれない程あるし、時間は止まってるから新鮮だしね。高く売れるんじゃないかな?
「なるほど…じゃあ売ってみます!」
「まぁ待て。マリーナは常識ってもんを知らねぇからな。一緒に行くぞ」
私ってそんな常識知らずだと思われてたの?!心外なんですけど!?
そんな私の心の声が聞こえるはずもなく、ギルさんは歩き出してしまった。
「マリーナちゃん、そんなに気にしなくていいわよ!(常識は教えればいいし!)」
…リナさん、聞こえてます。みんなから常識知らずと思われてたのかぁ〜…まぁ確かに、この世界についてほとんど知らないからね。そう言われればそうかも知んないけど…やっぱり傷つく。
私は少し落ち込みながら、ギルさんたちの後をついて行った。