クリエイティブワールド
初投稿です。
一応これで終わりですがもし続きが気になる方がいたら続きを書くかもしれません(棒)
鳥の鳴き声、風の音、バイクの音、時折通る車の音。
そのどれもが朝特有の音。
唯一、一日の中で音をしっかりと聞ける時。
その音はまるで子守唄かのように、布団へと誘う。
「あー今日も仕事か……」
スマホを見つめ思う。
「……もう10分は大丈夫だな」
そういった安易な考えで今までどれだけ後悔してきたのか。
しかし、もう誰にも止められない。こうなってしまった以上この男の意思は揺るがない。
重い瞼をそっと閉じ、暖かく迎え入れてくれるマブダチの布団と共にーーーーーーーーー
瞼をそっと開ける。ああ、もう行かなくては。
いつもの慣れた手つきで、手の平サイズの小さな端末に触れる。
触れただけで端末は起動し、使用者に対して時間と日付を教えてくれる。
時間はギリギリだが慌てない。慌てる事で良くなる事は一つもない。
忘れ物がないかチェックし身嗜みを整え家を後にする。
俺のマブダチの愛車に乗り、エンジンをかける。
マブダチが多すぎ?そんなことない。
これでもしっかりと区別してる方だ、と思う、いや思いたい。
エンジンをかけるとお決まりの女性の声が聞こえる。
この女性もマブダチだ。いや、正妻かもしれない。
なんていったって毎日朝晩と声を聞いているんだ。
いってらっしゃい、おかえりなさい、と言われてるようなものではないか。
GPS機能を使いそういったボイスも追加してもいいのではないか。
こんな下らない事を考えていられる世界は平和だ。
平和じゃない所もあるかもしれないが、少なくとも俺は幸せだと思う。
良いこともあれば悪いことも起きる。これは産まれて来なければ分からなかったこと。
産まれて来なければマブダチとも会えなかった。
愛車を走らせながら思う。
布団には何故こんなにも魅力があるのだろう。
作った人に感謝感激だ。今の時代布団が無くては生きていけない。
いや、生きていける人もいるだろうが少なくとも俺は耐えられない。
ましてやスマホやパソコン等のネットワーク、ポテチ、コーラ、マヨネーズ。
こいつらマブダチが居ない世界も考えられない。よって、おれはこの世界が好きだ。
仕事が大変だとか、人間関係が嫌だとか、周りからの評価とか。
お金がない、時間がない、出会いがない、いじめられる。
そんなネガティブな事ばっかり考えていると、近くの幸せに気づけなくなるーーーーーーーーー
最も近くにいた最も大切なーーーー。
そのーーーーがいなくなってしまう。
俺は嫌だ
マブダチがいない世界なんて俺は嫌だ
ーーーーがいない世界なんて嫌だ
この世界の事を好きなはずなのに
好きでいたいのに
好きになれない
「俺はこの世界が嫌いだ」
ーーーー不意に全身に衝撃が走る
爆音と共に聞こえるーーーーの悲鳴。
男はどうしていいか分からなかった。
ふとーーーーの名前を呼ぼうとする。
痛い・・・痛い!痛い痛いイタイいたいイたイイタイ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
無理無理無理無理ムリムリムリムリ!むりむりむりむり痛い痛い痛い!!
声に出せない程の激痛。
口からは鉄の味がする、舌を思い切り噛んでしまったせいか口から血が止まらない
文字通り声に出せなかった、口を動かすと激痛が走るのだ。
血の匂いと煙と火の匂い。エアバックが作動し車の中はとても狭かった。
呼吸すらままならない。このまま死んでいくのだと思った。
父さんも母さんも俺も。そしてどこかで聞こえたーーーーも。
「人が3人いるぞ!!」
「おい!誰か救急車を!」
「こっちは2人だ!女の子もいる!」
「っ!?クソっ扉が開かねぇっ!」
「ここじゃまずい!車を動かせ!」
「ダメだ!こっちは皆意識飛んじまってる!」
「救急車はまだか!?」
「とっくに呼んでるよ!まだ15分かかるみたいだ!」
「15分!?しかし俺たちじゃどうしようもねぇ」
「おいあれやばくね?」
「うわー派手にやっちゃてるねー、これじゃ生きてないかもね」
「おい、皆!救急車だ、道空けてやれ!」
なんだか少し熱い気がする。気のせいか周りはカチャカチャとうるさい。
一定のペースで鳴っているのは自分の心拍数の音なのだろうか。
全体的に感覚がなく、かろうじてわかるのは数人で自分の身体を弄っている事くらい。
ほんの少しだけ目が開いた。ぼやけて見える色は青色と白色。
青は忙しなく動き白は固定。たまに赤色がチラッとみえる。
病院、なのだろうか。記憶がない。
たしか、と考えようとしたがうまく頭が働かない。
身体も指も動かせる気配はなく麻酔でもされたのだろうか。
もしくはもう動かなく、死ぬ直前か。
できれば前者であってほしいと願いつつ意識が段々と遠のいていった。
ーーーー不意に全身に衝撃が走る。
ああ、親が親なら子も子か。
俺の中で絶対に起こしてはいけないトラウマが蘇る。
不思議と継続的な痛みはない。
瞬間的に閉じていた目を開ける。
ゆっくり、ゆっくりと。
「君はこの世界が好きかい?」
何を言っているのか、何を意味して発言しているのか分からなかった。
それよりもーー
「あれ?聞こえなかったのかな?おかしいな、日本語合ってるよね?」
目の前にいるそいつは割れたフロントガラス越しに話しかけてきた。
幸いガラス以外は支障はなさそうだ。
「おーい!」
まぁガラスが割れてるも大分問題なんだが、というかこれって保険どうなるの?
対人?対物?人身事故扱いになるの?会社に連絡しないとやばいよなーこれ。
「おーい聞こえてるんだろー?」
警察も呼ばないとだし、いやどうやってぶつかったんだそもそも、どう説明しよう。
連絡先も聞かないとだし。
「無視しないでよー、本当にこいつで良かったのか不安になってきたんだけど。間違えてたらーーーーに謝らないと」
てか目の前こいつなんなんだよ人間じゃないよな?絶対に。
あり得ない身体してるぞこいつ、2.5頭身位のピエロみたいな格好しやがって。
「でもそれは面倒だなー、この子じゃなかったとしてもこの子でいいかー」
でも、こんな怪しい奴なら俺の言い分の方が信用してもらえそうだな。
あれ?これってもしかしてチャンスでは?よし、そうと決まれば。
「「よし!」」
お互いの言葉が重なり、一瞬の静寂が流れる。
お互い譲り合いをしていると、先に口を開いたのはピエロ野郎だった。
「君はーーーーを知っているかい?」
顔が引きつっているのが自分でも分かる。
それくらいに俺は動揺していた。なぜこいつがーーーーを知っている?
いつ、どこで?どんな関わりが。
ダメだ、情報が多すぎる。整理が追いつかない。
「ああ、知っている」
知っている。俺はその名前を知っている。
マブダチよりも大切な人の名前。
「そしてもう一つ、最初に言った質問なんだけどそれは?」
ああ、そういえば最初になんか言っていたな。
世界が好きか?みたいな。その答えは決まっている
「俺は、この世界が嫌いだ」
躊躇いはない。俺は確かにこの世界が好きで産まれてきてよかったと思っている。
ただ。
それはーーーーがいる事で成り立つ世界なのだ。
ーーーーが居ない世界でポテチやコーラを口にしても美味しくない。音楽も結局は一時的に忘れられるだけであってあまり意味はない。
ーーーーだけではない。父さんや母さんも居ない世界となってしまった。家族が誰一人としていない。
祖父や祖母も今はもういない。ショックで倒れてしまったのだ。子供を失う辛さはきっと凄いのだろう。俺も誰かを失う辛さを知りとてもショックを受けた。なぜ俺だけが中途半端に生き残ってしまったのか。出来る事ならあの時一緒に死ねれていたならこんなに辛い思いもしなかったのに。
しかしもう過ぎてしまった事だ。
と、気持ちを切り替えたかった。切り替えようとした。けれど大切な人を全員失った辛さは簡単には切り替えられない。切り替えてはいけないような気もする。
「そうか、それじゃあ死んでもらおうか」
突然だった。先程まで見ていたピエロはいなくなり。
否。俺の視線が大きくずれているのだ。
「......ぁ...」
痛みを感じることもないまま意識だけが遠のいていく。これが死ぬという事なのだろうか。死ぬ間際に走馬灯が見えるというのは嘘だったのか。何も感じることなく俺は死んだ。
人が死ぬ時は意外と呆気ない時の方が多かったりする。毎日毎日どこかで死亡事故が起き殺人事件があり喉に物を詰まらせて死んでしまったり知らぬ間に病気が末期になっていて余命僅かと宣告されてしまったり。本当に呆気なく、自分もその一人となったーーーーーーーー
「お母さん、ありがとう」
その日、私は何の突拍子もなくお母さんに礼を言った。
その日が何かの記念日でも、何かされたというわけでもなく、私はこの世界が好きだから、こんな幸せな世界に場所に産んでくれてありがとうと思ったから言ったのだ。当然お母さんは不思議な顔をしていた。
でも私はそれ以上は言わない。お母さんがあれこれと質問してくるが知らぬふりをする。これ以上言うとなんだか恥ずかしい。早く出掛けよう、と話題をそらしなんとか回避する。自分でも何故ありがとうと言おうとしたかは分からない。けど、なんとなく言わなくてはいけない気がした。
今日はGWで外に出ると沢山の車が走っていた。
母と二人で買い物を済ませて帰宅している最中にそれは起きた。
凄い衝撃があった事だけは覚えている。
意識を失い、私はこの世界で目覚める事はもうなかった。
この世界で目覚める事は無かったが私は別の世界で目覚める事となった。
「うう......」
目を開くとピエロが私の顔をのぞいていた。
「誰...?」
周りを見渡すが何もなかった。
本当に、何もなかった。いるのはピエロのみ。
少なくとも私のいた世界ではない、と思えた。
「ん?僕かい?僕には名前なんてないよ」
「じゃああなたは何者なの?」
純粋な疑問だった。周りには何もない。外である事は確かだと思うが建造物や植物、生き物もいない。地平線までただただ地面が続いている。そんな中この前にいるピエロは何者なのか。
「困るなぁ。僕にも僕が何者なのか分からないんだよ。どこでどうやって産まれてきたかも分からない。僕は気づいたらここにいた。そして気づいたら君がいたんだ」
「名前が無いって事だよね?」
「そうだね、僕には名前がない」
「ピエール!」
「?」
「そう、これから君の名前はピエール!ピエロみたいだからピエール!どう!?だめかな?」
飽くまで感覚でしかないけど、私にはピエールが嘘をついているとは思えなかった。
周りに何もなさそうだし今頼れるのはピエールだけ。もしピエールが悪いやつでも情報は多い方が良いと思った。そうなると仲良くならない訳にはいかない。
ピエロは驚いていた。
「ピエール・・・ピエール・・・」
今私が即席で付けた名前をひたすら繰り返していた。
「だめ?」
「そんな事ないよ!ありがとう!僕はこれからピエール!ピエールだ!」
ピエールは私の手を掴み大はしゃぎだ。
「そ、そんなに良かった!?」
「もちろんさ!君から貰った名前絶対大事にするよ!」
「そ、そう?約束ね。ピエール」
大事にすると約束した後、ピエールはずっと自分の名前を繰り返していた。
それから私とピエールは情報交換をした。
ピエールと私がいる今の世界の事。
そして私がいた世界の事。
この世界には本当に何もないらしい。辺り一面地面のみ。
ピエールはこの世界に来てから大分経つみたいだけど、時計も何もないのでどれ位居るのかは分からないみたいだ。そしてそもそも時計を知らないし時間という概念もピエールは知らなかった。ピエールはとても覚えがよく、私の話した事を全て一回で覚えていた。
また勘が良いのか前世か何かで知っていたのかは分からないけど時間という概念についてやそれ以外の事に対して上手く説明出来ていないはずなのに上手く理解してくれているみたいだ。イメージが直接頭に伝わってくるとかなんとか。
そしてピエールと話していて一つ分かった事がある。
私にはとてつもない能力があったのだ。
自分でも正直怖い能力だと思った。
この何もない世界に私が想像したものが創造されるのだ。
かつてイザナミ、イザナギが日本列島を生み、山や海も生んだとされるが
私も今そんな感じなのだろう。創造神に近いかもしれない。
まだ能力の限界などを調べきれていないが今のところ創造できないものはなかった。
そして調べていく内に色々な事が分かった。
鉄や金などの物は勿論、酸素や水素など元素は全て作る事が出来る。量も問わない。
ただ消すことは出来なかった。
最初のうちは造る事が楽しかった。
だけど私が元いた世界の事を恋しくなる時が次第に増えていく。
結局私が創造出来る物には限度がある。
知らない物は創れない。
次第にやる事が無くなっていく。
人との交流もなくこの世界に飽きてきた。
何年かは経ったはずだけどもうやる事がない。
正直この世界でこの能力を使う事にもう満足していた。
「死にたい」
そう思った。もうやり残したことはないのだ。
しかし、私の呟きをピエールは見逃さなかった。
「どういうことなの?」
「どうもこうも私はこの世界でやり残した事はないんだ。充分に満足してる」
「嫌だ。僕は嫌だよ。もっと一緒にいたい。僕を置いていかないで・・・」
「ごめんね」
それしか言えない。
「僕がなんとかする。君がいた所は地球という所だよね?」
「そうだけど・・・」
何をするつもりなのだろう
「そしてその地球には色々な言語があり、僕たちが喋っている言語を話す所に行けばいいのか」
「?」
「ごめん、なんでもない。この言葉は日本語でいいんだよね?」
「そう。日本語。私はそれしか喋れない」
嫌な予感がする。
「僕、日本に行くよ」
「え!?どうやって?」
何を言っているのだろうか。
「大丈夫。今までに君に教えてもらった情報がある。知っている所ならいける!」
「だから、どうやっていくつもりなの?」
「黙っていたけど、僕には世界を移動出来る力がある。そして知っている所にしか行けない。だから僕が移動出来るのは君に教えて貰った場所のみ」
「待って!それじゃあ私も一緒に行きたい!」
ピエールは首を横に振る。
「なんで?」
「移動するには死なないとダメなんだ。一度死んでしまった君は移動出来ない」
残念だった。期待していたのに。
「だからさ、少し時間をくれないかな?必ず面白いものを持ってくるよ!」
「わかった。ただし、長かったら居ないかもしれないけど」
少し意地悪に言ってみる。
「困るなぁそれは。前世は悪魔だったんじゃ」
「は?」
突如目の前に私が漫画で見たことのある悪魔が出てきた
「悪魔っていうのはこういうやつじゃなくて?」
「はは・・・本当に君は悪魔かも」
ピエールはそう言い悪魔から逃げるように姿を消した。
ーーーーーーーーピエロ野郎に俺は殺された。
とても呆気なく俺は死んでしまった。
死んでしまったのかどうかも怪しい位に痛みはなかった。
しかも意識もあるのだ。死んではいないのだろうか?
うっすらとした意識の中で何か声が聞こえて来るのが分かった。
閉じられていた目を開ける。
「やぁやぁやぁやぁ、やっとお目覚めかい?」
俺が死ぬ間際に聞いた声が脳に響き渡る。
やたらと声が近い。
明るさに慣れた視界にはピエロの顔しか映っていなかった。
「!!!」
反射的にピエロの体を蹴り飛ばした。
「うわーーー」
あからさまな棒読みでピエロは飛んでいった。
わりと本気で蹴り飛ばしたつもりなのだが痛がる素振りもみせずピエロは立ち上がった。
「ちょっと!ちょっとちょっと!」
何処かで聞いたことあるフレーズなのは気にしないでおこう。
「急に何をするのさぁ、君もーーーーと同じで悪魔なのかな?」
「は?」
何をいっているんだ。悪魔な訳がない。
「ーーーーは天使だろ」
するとピエロは身体を震わせた。
「うんうんウンうんうん、分かってるじゃあないカ。天使だよネ。大天使だよネ」
何故か狂気染みたものを感じたが気のせいだろうか。
「っと、まぁそれは置いておいて、本題に移ろうか」
「お、おう」
ピエロは急に真剣な顔になった。と思う。
正直表情は殆ど変わらないが雰囲気と声色が違った。
自然と身構える。
「まず、君も知っているーーーーは地球での事故の後、この何もない世界へと連れてこられた。そしてーーーーはこの世界である能力を手に入れた」
「ゼロから物を創造出来る力さ」
「おいおいおいおい、とんでもない能力だな」
「そう、とんでもない能力なんだ。しかも制限がない!知っているものならなんでも創れる。物理法則などを無視したファンタジーの物だって創る事が出来る。この能力を失うのはもったいないと思わないかい?」
「まぁそうだな。もったいない」
「そう思うだろ?僕も同じ意見なんだ。ただ当の本人は創る事に飽きてしまったんだ。この何もない世界に彼女は飽きてしまった。充分能力を楽しみ、満足したんだ」
まぁ物が創れても一緒に分かち合う人がいなければ確かにつまらないか。
まさかそれで俺を呼んだのか?
「そして満足したーーーーは」
一呼吸置いてピエロは口を開いた。
「死のうとしている」
「え・・・」
「僕は彼女が居なくなるのは嫌だ。君は?」
理解が追いつかない。が言えることはただ一つ。
「そんなの、嫌に決まってるだろ!」
ピエロは同じ意見で安心したのかニヤリとした。
「そうだよねェ!嫌だよねェ!」
「すぐにそんなの止めさせる!何処にいるんだ!?」
顔が熱くなっているのが自分でもわかる。急がないと。
「まぁまぁ、今は死ぬ事を待って貰っているからそこまで急がなくても大丈夫だよ」
「そ、そうか。で、俺を呼んだって事は何か俺にさせるつもりなんだろ?」
ピエロにそう言われ、緊急ではないことに少し安心する。
「当たり前さ!君は地球で彼女と仲が良かったはず。その君と彼女を合わせれば少しは生きようとしてくれるんじゃないかと思ってね」
「なるほどな」
なんだ、ピエロ野郎は中々良いやつじゃないか。話を聞く限りーーーーとも仲が良いみたいだし、また会える事になったのはこいつのおかげだし、感謝するしかないな。
「なんか、お前いいやつだな」
「当たり前だろう?」
自分で自分を良いやつと言うのはどうだろうか。
まぁそれより今はーーーーに会いたい。
「よし、じゃあ今からーーーーに会いに行こうぜ。ここから遠いのか?」
早く会いたい。会って今までどんな事があったか、話したい。
「そう遠くはないよ、じゃあ今から会いに行こうか」
ピエロはこっちだ、と指をさしーーーーの待つ方へと向かっていったーーーーーー
「ピエール!」
遠くでーーーーの声がした。
ピエールとは一体誰のことなのか。
もしかして目の前を歩いているこいつなのか?
「お、もうそろそろ彼女と会えるね!」
「な、なぁ、お前の名前って・・・」
「ん?僕の名前はピエールだよ。彼女につけて貰ったんだ。どうだい良い名前だろ?」
「ピエロだからピエールか。確かに良い名前だな」
「そうでしょ?僕も気に入ってるんだよ」
そしてそうこう話している内に目的の場所へとついた。
「おかえりピエール!案外早かったのね」
「うん。なるべく早くしたかったからね!」
「ありがと。優しいのねピエールは。ところで隣に居るのは誰なの?」
うーん。こうダイレクトに言われるとちょっと悲しいものがあるなぁ。
まぁ6年位経つし見た目も変わってるからしょうがないか。
「あ、待って!もしかして・・・」
「どう?何か思い出せそう?」
「もしかして、◯◯?」
ーーーーは少し声が変わってしまっているが少し名残があった。
この声で名前を呼ばれるのはいつぶりだろうか。
凄く懐かしい。
「久しぶり、ーーーー」
それからの僕達は色々な話をして盛り上がり、ポテチやコーラなどのものを再現してもらったり等、とにかく楽しい日々を過ごした。
求めていた世界はここだった。
仕事もない、大切な人とマブダチに囲まれた楽しい生活。
ここが天国なのだろうか。ピエールはピエロでも悪魔でもなく、天使だったのだろうか。
こんなに幸せでいいのだろうか。
出来る事ならこの世界がずっと続きますように。
そう願ってやまなかった。
そうこうしていくうちに月日が経ち。
作ってもらった家の寝室に全員が集まっている時に事件は起きた。
「お二人さんは子供とか欲しくないノ?」
ふとピエールがそんなことを呟いた。
「「!?」」
僕たちはお互いを見つめ合い顔を背けた。
顔が即座に赤くなり、まともな思考ができない。
子供を作るというのはアレをアレしてアレするって事だろ?
いやいやそれは流石に。でも確かに子供は欲しい。ただーーーーはどうなのだろう。
うーん、と考え込んでいると、先に口を開いたのはーーーーだった。
「私は、欲しい」
その言葉を聞けて喉元に溜まっていた何かがストンと落ちた。
「ウンウン。◯◯は?」
今までの事は友達という目線でしか見られてないかもしれないという恐怖があったのだ。
異性として見られていないかもしれない。そうだった場合、自分は気まずい雰囲気に耐える自信がなかった。だけど、自分との子供が欲しいと思ってくれているなら。これほど嬉しい事はない。
「俺も、欲しい」
お互いに見つめあい、静寂が流れる。
「ハハハ、僕はお邪魔虫なんでどこかへいってくるヨ。それじゃゴユックリ」
棒読みでそういうとピエールは何処かへ消え去っていった。
この時のピエールはいつにも増してニヤニヤしていた。
そのニヤニヤが何なのかは分からないが、人が増える事を嬉しく思ってくれたのだろうか。
「・・・・・・」
少しの静寂。
その静寂を切り開くために場所を変える。
そして、お互いの息遣いが聞こえる位の距離まで近づいた。
ああ。
初めてここまで近くでーーーーの顔を見た。
当然だが凄く可愛かった。身長は俺より少し小さく顔も小さかった。
今の気温は少し涼しい位のはずなのだが
体全体が熱くなっていくのがわかり、少し背中に汗も垂れてきてしまっていた。
とにかく熱い。体が火照るとはこういうことだったのか。
「あ、あんまり見ないで……」
「ごめん」
ほんの少し茶色がかったショートボブの髪の毛に手を当てる。
「……ん」
口に手を当てていたが少し声が漏れる。
髪の毛を耳の奥に回した事によってーーーーの少し赤く染まった耳が見える。
美味しそうだと思った。
頬に軽くキスをするとーーーーはビクッと体を震わせる。
ーーーーは緊張しているのか棒立ち状態だ。
キスをした時にーーーーの髪から優しい匂いがしてきてもう一度嗅ぎたいと思った。
「耳、大丈夫?」
「ぇ?」
向こうは何を言っているのか理解してないみたいだった。
「!?!?!?!?」
耳を咥えるとーーーーは面白い反応をしていた。
「ど?どうい...う...っ!?」
ーーーーの体温は凄く熱く、汗を少しだけかいていた。
目が合う。
ああ、本当に、どうしようもない。気持ちが抑えられない。
制限を掛けようとしたがそれはとても出来なかった。
「ーーーー。好きだ。愛してる」
「アア!永かっタ!永かっタ永いナガイ永い長々しい長過ぎル!でもそれもオワリ。
僕はここまでガマンしてきタ!耐えてきタ、褒めてくれヨ。僕は偉イ。これから僕はもっと偉イ。アトスコシ!アトスコシデ。アトスコシなんダ!!」
無事、ーーーーとの間に愛でたく子供が産まれた。
産まれるまでに色々アクシデントがあったがピエールが全て解決してくれた。
有り難い。ピエールには感謝してもしきれない。
子供が産まれた後、すぐにやらなけばいけないことがあるとの事で
ピエールが子供を抱き抱えどこかへ行ってしまった。
付いていくよといったが
「ーーーーハツカレテル、ソバニイテアゲテ?」
と言われ、今はーーーーと一緒にいるがそれにしても遅い。
どこまで行ったのか。
「ーーーー悪い。ちょっと様子見てくるよ!」
ーーーーが頷くのを見届け、すぐ戻る。とだけ残し家を後にした。
ピエールは思いの外すぐにみつかった。噴水がある広場で何かをしているみたいだった。
何処かでお湯が必要だとか聞いた事があるがそのためなのだろうか。
思えば勢いでやってしまったが、出産の事について何も考えていなかった。
本当にピエールには感謝しかない。
しかしピエールの様子がおかしい。少し嫌な予感がしていた。
「ピエール?」
肩を叩き名前を呼ぶ。
「ゴチソウサマデシタ」
振り返ったピエールの顔は赤色に染まり血生臭い臭いがしたーーーーーーーーーー
「君はこの世界が好きかい?」
ふとそんなピエールの言葉が頭をよぎった。
「好き、なわけねぇだろ・・・!!」
何なんだよこれは!
「ドウシタノ?」
ふざけるなふざけるなふざけるな意味が分からない意味がわからない
「聞いてよ僕。ーーーーの能力が使えるようになったんだヨ!?子供にも能力って引き継がれるんだネ!!これで僕はジユウだ!ここまで永かったヨ!ガマンした甲斐があっタ!」
コイツは一体何を口にした?なんで口が赤い。なぜ何処にも子供がいない。
どういうことだ?なぁ、神様。どういう事なんだよ。答えてくれよ……
「オイシカッタナア。おかわりだっけ?ねぇ◯◯。僕おかわりしたいんだけどサ!」
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い。
信じたくない。嘘だと言ってくれ。頼む。
「なぁピエール。お前は何をおかわりしたいんだ?」
精一杯の笑みで答える。
「ナニって、グモンだなあ。君達がツクッタ赤ちゃんにきまってるじゃあないカ!」
それを聞き俺は
反射的にピエールの顔面を殴りとばした。
「うわーーーーー」
明らかな棒読み。
飛んでいったピエロ。否、ディアブロ(悪魔)だこいつは。
ピエールの背中に悪魔のような羽が生えていた。
ディアブロは即座に立ち上がる。
「ちょっと、ちょっとちょっ」
言い切る前にもう一度殴る。
「イタタタタ……。キミってもしかして悪魔?ねェねェキミって絶対悪魔だよねェ!隠さなくてもいいヨ?僕ら何年も一緒にいたマブダチじゃあないカ!」
「……お前!」
「マブダチって響きステキだよねェ。思い出すなア初めて出会った時のこト」
ディアブロは感慨に浸っていた。
「君はこの世界が好きかい?」
ここまで読んで下さりありがとうございます!