完
邪悪な悪魔を天に還して、お手手を繋いで上機嫌に帰る二人。唐突に、天才レイは、自らの勘違いに気付いてしまった。
「ん、んんん?」
「どうした、レイ?」
「もしかして、始まりのあの日、魔法陣は完成していなかった?」
「そうだな。」
つまり、この肯定により、着ぐるみのゼルは、上級悪魔では無く、ニセモノであると確定した。
レイは、思考の海に沈む。
彼はニセモノだった。でも、深い絶望から救ってくれた、本物の私だけの勇者であるのも間違いない。
では、誰なのか?好奇心に任せて、そう聞いてしまうと、この関係性は、壊れてしまうだろう。彼と過ごした日々は、ぬるま湯のような暖かな日々だった。聞けば、彼は、私の元から、遠い場所へ去っていくだろう。それが、怖い。失いたくない。
しかし、分かっていても、聞くのはやめられない。人間とはそういう生き物だ。
なら、お婆ちゃん少し勇気をください。お婆ちゃんと過ごしたあのテラスなら、たとえ、どんな結果になっても耐えられると思うから。
「ゼル、お婆ちゃん家に行きたい。」
「あぁ、分かった。任せろ。」
エアロバイクで、空を飛ぶ。
コォォォォ
誰にも奪われない自由な空を飛ぶ。下界では、人と魔獣が、争っているのが見える。人と人も、魔獣と魔獣の争いも。
眼下に流れるのは、凶悪な魔獣が、立ちはだかる巨石郡が、全てを阻む崖が、楽々と超えて行く二人を、何も出来ずに見上げる姿。やがて、神秘的に美しい赤の森に入ると、ツリーハウス郡が見えてきた。その一番立派なテラスに、二人は着陸した。
レイは、幻想的に美しい赤の森をバックにテラスの上で、禁断の質問をした。
「ゼル、それとも貴方は、ラプラスと呼べばいいの?」
「好きに呼べ。」
レイは、勇気を振り絞り、聞く。
「貴方は誰なの?」
ゼルは、ふぅ、と息を吐く。なんと答えれば良いか、色々とあり過ぎたから整理しないと言葉にはならない。
「分かった。少し長い話になる。おじさんは、魔界では無く、異世界から来た。」
「異世界?」
「あぁ、そこは魔法の無い世界、凄く科学が発展していて魔道具が溢れている。おじさんの住んでいた日本は特に凄かった。ほとんど、全員が、スマフォとかパソコンという魔道具を持っていてさ、その魔道具は、何でも知れるし、本も読める、音も鳴るし、絵も動く、他者とコミュニケーションもとれる。すごい魔道具だった。そんなのがゴロゴロしてる、まさに、魔道具大国から来た。」
「だから、ゼルは物知りなの?スマフォ?」
「スマフォと、パソコンは、レイには見せてやりたいな。絶対ハマる。それは、約束しよう。」
「そうなんだ、ゼルが言うなら気になる。凄いね、ニホン。夢の国なの?」
どうだろうな、その国で、おじさんは、負け犬で、生きる死者だった。まぁ帰る予定は無いし、夢だけを語ろうか。
「あぁ、そうだな。」
「その・・」
「なんだ?」
「ん。なんでもない。」
「話せ。」
「貴方の本当の名前が・・知りたい。」
「そうか。」
「待って、・・・・ん。」
心の準備をしてレイが聞いてきた。その美しき顔に、表情に陰りが見える。不安なのだな。大丈夫、消えたりはしないよ。
そういえば、ここ最近は、言葉が足りなくて、すれ違ってばかりだ。だから、最後は、丁寧に向き合って応えよう。
最終回にて、
いまだ成長する男、ゼル。
「この世界に転生したあの日。我は、過去の情けない自分と、愛する祖国と、名前を、捨てた。そして、レイのために頑張ると誓った。頑張れたかどうかは、怪しいが。教えてやろう、よく聞け。我が名は、・・・《赤の森》の、マーシャル、ゼル、ラプラスだ!」
「!?」
「どこにも行かないから、安心しろ。」
「ゼルっ!怖かった、本当は離れたくなかった。ゼルは、頑張ってた。私だけの勇者様。うぇぇん。」
良く泣く子だ。これは、幸せの涙だ、許してくれ。ひしっと抱きついてきた小さきハーフエルフの、さらさらとした触り心地の良い銀の髪を撫でる。尖った耳を弄ぶ。
赤の森の真紅の紅葉が、風でザワザワと揺れる。地球と異なる白い幹、白い湖。白のキャンパスの中で、煌めく赤。卑劣なる大商人チュワークから奪還したエルフの森。
目の前には、この異世界で、名前と、変な着ぐるみと、生きる目的と、居場所をくれた女がいる。
おじさんには、能力チートが無いから、出来る事が少ない。だから、悪魔の名を、着ぐるみのチカラを、魔道具を借りて、ようやくそれでスタートライン。不恰好でいい。大事な事は、格好つける事より、彼女の笑顔を守る事だ。
目の前には、笑顔のレイちゃんがいる。
それだけで、十分だ
チートが無いけど異世界で頑張ります
《完》
(´・ω・`)




