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チュワークに完全勝利したかのように、思われた。弛緩した空気が流れる。
しかしながら、2人は忘れている。
チュワークは、ちっぽけな王だ。犯罪結社のよくある小さな末端組織。勇者協会の幹部にもなれない嫌悪されるネズミ族に似た矮小な男。しかし、王なのだ。
降伏など演技だ。勝つためなら靴の裏でも躊躇せず舐めるし、人の財産を殺して奪えない無力な自分を嘆く男。なぜ自分の財産を他人が持っているのかと考える常人と異なる思考回路を持つ男の汚れた目が、ギラギラと水面下で光りだした。
「チュチュ、素晴らシイ。そうダ。契約成立を祝って乾杯しませんヵ?ドラゴンくじの1等を当てた者だけが、飲める特別な1本があるのデス。」
チュワークが手を叩くと、その合図により、扉の後ろに待機していたのか間を開けず、先程の美女が、よく冷えたシャンパンを持って現れた。
「下げさせろ。まだ、契約は完了していない。それに、祝杯はホームであげるから、無用なお世話だ。」
手を振って無下に断るゼル。今度は、どんな罠を張る気か知らないが、もう付き合う理由はない。さっさと、サインしろ。
「チュ?私は仲間外れですヵ?」
「呼んで欲しいなら、呼んでやるが。」
「んん。」
粘るチュワークに軽口で応酬すると、レイが嫌そうな顔をして、裾を引っ張ってきた。大丈夫だよ、レイ。この男は、毒薬の類いを飲ませたいだけで、お祝いしたいなんて微塵も思ってないから。
「いえいえ、そんな厚かましい真似ハ、おぃ、さっさと下げロ!」
チュワークの指示に従い、美女は退室する。弱みでも握られてるのか?まぁ関係無いがな。
「茶番はもういいだろう、さっさとサインして、白銀貨2枚(2億円)を受け取ってくれ。この硬貨も、あんたのトコロに行きたそうな顔をしている。」
輝きまくる硬貨をギラギラと見せつけると、大商人チュワークの喉がゴクリとなる。あえて、赤の森を出せとは言わない、欲を刺激しろ。
「チュチュチュ、完敗デス。しかし、最後に、もう1枚だけ契約書を付け足させて欲シイ。」
「何だと?書類に不備は無いはずだ。」
粘りすぎじゃないか?いや、焦る時間では無い、逸る気持ちを抑える。
やはり、卑劣なる大商人チュワークは強敵だ。しかし、こちらはまだ8億円の弾丸を以前、隠し持っている。この弾丸が、余裕を持った交渉に繋がり、今の所は良い流れだ。
何を足したいのか知らないが、そんなの断るに決まってるだろう。ただし、金で済むなら、レイも把握していない8億円を、さらに積む用意がある。
「いえいえ、誤解なさらないでくだサイ。赤の森は、チュワーク商会に所有権がありますガ、我が地下帝国。ごほん、我社は、勇者協会の傘下にありまス。」
「何が、言いたい。」
「ですので、契約書の最後に勇者協会の事を追記した正式な証明書を付ける必要があるのデス。契約内容は変えませン、手続き上、必要な事だとご理解くだサイ。」
胡散臭すぎる。当然、断ろうとしたが、小さなお手手に、阻まれる。
立ち上がったハーフエルフのレイは、決意を込めた顔で了承する。その真剣な横顔は、燦然と輝いていた。
「ん。分かった、それでいい。」
「チュチュチュ、契約成立でスナ。いやーなんと、喜ばしイ。」
興奮のあまり、ツバを撒き散らし、手を叩きながら立ち上がり、レイに握手を求めるチュワーク。
レイは、無視した。
「汚い手で、レイに触らないで貰おうか、さっさと、それにサインして持ってこいチュワーク。」
はいはい、握手券の無い人は、お帰りください。アイドルのマネージャーよろしく不審者を、はがす。
つーんとしてるレイも可愛い。チュワークが丁寧な口調で仮面を被り直した以上、何かえげつない罠を仕掛けてくるのは明らかだ。不安な顔でレイを見るが、ニコリと微笑まれた。
ズキューンと心を撃ち抜かれ、思考を放棄する。よし、レイに任せよう。
いざとなれば、8億あるし、マッスルゴーレムのポチョムキンもいるし、なんとかなるだろう。最悪、おじさんは死んでも、ここから逃してやるよ。
だから、レイ。好きにやってみろ。
例え失敗したとしても、その失敗のつけは、おじさんが払うから、好きにやれ、ブチかませ。
全幅の信頼を小さな少女に、託す。この異世界で、「変な着ぐるみ」と、「人生の目標2個」を、くれた女に、全てを賭ける




