(´・ω・`)
土下座と、レイって料理も天才だよね。の合わせ技で、命を拾ったゼル。スプーンを出し忘れた事は、少しだけ謝ってくれた。
「でも、ハーフエルフの天才少女のパンチ一発で沈むなんて、上級悪魔のくせに弱すぎない?」
「いや、レイよ。先程も言ったが、我は完全体では無い。不完全な召喚ゆえ、チカラを1%も出せていない状態だ。現に、今。寒さという未知のダメージを受ける程、弱っている。」
「そうなんだ、ごめん。」
「いい、気にするな。」
「あ!良い考えがある。待ってて。」
☆
パタパタとした足音を立てて、部屋の扉を開けて外に出て行くレイを見送るゼル。
ゼルおじさんは、見送りながら後悔する。
なんで!なんで?嘘ついた。
今、カミングアウトするタイミングだったじゃん。上級悪魔じゃないです。ただのおじさんなんです。言えば、楽だったろ?
この子なら、多分、衛兵を呼んだりは、しない。
帰ってきたら、正直に話すか。
そして、厄介事と、さよならだ。
いや、出来ない。それは出来ない。
だって、真剣だった。理由は聞かなかったけど、命を賭けてまで、赤の森を奪還したいんだってな。いい子すぎる、泣かせるじゃないか。
おじさんは、上級悪魔じゃない。勇者でもない。ただのモブおじさんだ。
失敗は、いっぱいしてる。すごく騙されたし、挫折もしてる。だからこそ、人生経験は豊かだ。少しは、力になってやれるかもしれない。今、レイの前から逃げる訳には行かない。
やるぜ!一獲千金。赤の森を買い戻す。
この日、男は変わった。大した目的も無く、ぐずぐずと腐っていた人生から、たった1人の少女レイの為に自分の全てを使いきるとゼルは決心した。自分の為には、たいして頑張れないが、大切な人の為ならば、頑張れる。視点が変わった。
さて、今、自分に出来る事をしようか。
テレフォン:ポーションの期限とは?
(ポーションは、劣化します。例えば、回復ポーションは、1ヶ月経過して有効期限が切れると回復量が半減します。味が改良される以前は、期限が長かったとの文献あり。)
テレフォン:以前のポーションとは?
(回答済です。)
テレフォン:緑の飴玉について
(分かりません。)
他にも、色々聞いてみよう。
おじさんの眼差しは、キリリとしていた。ごめん、錯覚だ。それは言い過ぎた。
☆
ガチャリ。
この部屋の主が帰還した。錬金術師のトレードマークのだぶついた白衣を着たハーフエルフの美少女レイ。胸ポケットには、魔視眼鏡が入ってる。雪のように白い肌、ショートの銀髪、化粧はしていない。短いスカートのようなパンツを穿いており、太腿のタイツには、効果不明のポーション瓶が数本セットされている。
そして、出て行った時には無かった、身体より大きい縫いぐるみのような戦利品を抱えて、ご帰還なされた。その顔は、ご満悦だ。
「フフフ、ゼル喜んで。ぴったりのモノを手に入れてきた。」
「おかえり、レイ。」
「ただいま。」
「外、寒くなかったか?」
「フフフ、ゼル喜んで。ぴったりのモノを手に入れてきた。」
くっ、スルーさせてくれない。嫌な予感がぷんぷんする。獲物を仕留めてきた犬みたいだ。褒めて欲しいのか、聞いて欲しいのか、嫌な予感しかしない。
「なんだ?」
「フフフ、着れば分かる。」
レイが自信満々に、ゼルに渡した縫いぐるみを広げると、魔獣の着ぐるみだった。デフォルメされた魔獣のくりくりとしたボタンの目とアイコンタクトするおじさん。
うわー着ぐるみだよ、これ。着るの?おじさんが着るの?心が完全に壊れた浮浪者のじいさんが不潔に着てるの見た事があるよ。着て許されるのは、渋谷の若者、パリピぐらいだ。ちらちらと抗議の意味を込めて見たが、勘違いされて魔法をかけられる。
「おっと、忘れてた。クリーン!」
レイがゼルに、身体を清める魔法を使った。毛穴の隅々まで汚れが消失して、生まれ変わったような爽快な気分になる。容姿は変わらなかったが、清潔感は出た。
ありがとう。でも、そういう事じゃないんだ。察して欲しい。
レイは、キラキラと期待した目で見てくる。そして、ついに無言の圧力に負けて、着替えだす、おじさん。
ファンシーなモンスターに、清潔おじさんの顔が出ている。上級悪魔ラプラスが、誕生した日だった。
「この、キモ可愛さ。さすが私、天才。」
「そうだね。凄いぞ。」
げんなりする着ぐるみ変質者と、テンション高い少女。さっきのシリアスシーンを返して欲しい。
おじさん、心の中で男泣き。キモ可愛いいって結局、キモいんやろー。やろー。
☆
「フフフ、そのキモ可愛さ、特別に天才の私との添い寝を許可するの。」
「案ずるなレイ。我に、寝床などは不要だ。」
拗ねたおじさんは、面倒くさい。会社に5日、拘束された時は、パイプ椅子を3つ並べて仮眠を取った事がある。本気を出せば、椅子2つあれば寝れる。だから、この広い場所で寝るのは贅沢すぎるぐらいだと。
美少女レイの甘美な誘いをゼルはクールに断り、びょいーん、と小さくジャンプして、描きかけの魔法陣の真ん中に、仰向けに、ダイブするように寝転がった。
罰ゲームのような着ぐるみを着せられたが、もこもこクッションになっており、とても快適だった。異世界は、思ったよりイージーモードかもしれない。




