(´・ω・`)
「ただいま。」
「ゼル、お帰り。」
ふらふらと、裏通りの掃除をやり切った男は、達成感に包まれ、普段の2割増しで格好良かった。ん?10が12になっても、100には叶わない。現実を指摘するのは、やめて差し上げろ。
不釣り合いな美少女ハーフエルフのレイが出迎える。こんなおじさんには、天罰が下ればいいのに。
そして、突然、激痛で倒れるゼル。
「ふぐぅ。」
「ゼ、ゼル。大丈夫?」
ゼルは、自分の体に起きた事が信じられない。この痛みは、まるで筋肉痛のようだ。確かに活性化で限界を超えて動いた。だが、ありえない。おじさんの筋肉痛は、2日後に遅れてくる予定だった。
そう、普通は活性化は、反動が効果切れ直後に来るが、おじさんなので、遅れてやってきた事を彼は知らない。
「痛い、筋肉痛だ。」
「え?筋肉痛。上級悪夢のくせに情けな。飲む?売物だけど。」
「いや、いい。これは我の失態。緑の飴玉で十分だ。」
レイに、呆れた顔で差し出された商品のポーション瓶を断り、失敗作らしいイガイガする最悪の後味の緑の飴玉を噛じる。
あばばば。
言葉にならない不味さが口の中を支配する。くっそ、不味い。どうにか飲み込む。覚悟していたが、不味い。
身体が光りに包まれ、回復する。筋肉から乳酸が、シュワシュワと炭酸のように抜ける感覚が、癖になるほど心地よい。しかし、完全回復には、まだ足りない。
覚悟だ、覚悟は足りているか?次の飴玉を摘み、口に入れる。
ただ、油断していた。異世界で油断するバカは痛い目にあう。
ぐべべべ。
なんだ!?さっきと違う、不味さ。言葉にならない不味さに、違う種類があるとは、驚く。しいて表現するなら、油の泡。タヌキの肉。吐きそうだ。ぐっと、噛み砕き飲み込む。やはり、涙目だ。
「ん。」
呆れた顔で、レイが水を差し出してきた。なんと優しい、天使か?有り難く、喉を洗い流す。油断した。優しさに泣きそうだ。
「ありがとう。しかし、この緑の飴玉は、なんなのだ。」
「えっと、これは天才の私が、古代のレシピからヒントを得て作成したオリジナルの試作ポーション。大量生産できて、瓶のように割れて零れなくて、小さくて、保存期間もやたらと長い、最強の回復ポーションになる予定だった。味で挫折しなければ。」
「確かに想像を超える不味さだ。しかも、2つ目は味が違った。」
「改良したけど、どれも駄目。味が違うのはそのせい。コーティングしても、それを突き抜ける不味さ。ゆえに、失敗作。」
「そうか。」
「誰も食べられないゴミ。美味しくなれば、爆発的に売れるのに。」
「そうだな。」
この大錬金術師が、無理なら、構造的に、美味しくするのは無理なんだろう。たしかに大金が眠る話だが、徳川埋蔵金に近い現実性の無い話だ。
彼は、油断していた。強敵を倒した直後は気が緩む。戦に勝ち、勝利の美酒に酔っている所を殺されるなんて歴史は多い。
緑の飴玉を飲み下し、美少女の水で祝杯を上げていたゼルは足をすくわれる。
「そうだ、ゼル。古代の叡智で美味しくして。」
「ん?」
「そう、ゼルなら出来る。新鬼神薬も出来たんだし。これもきっと、すっごく美味しくなる。」
「んん?」
「出来るよね?ゼルお願い。」
「う、うん。任せろ?」
「ありがとう、ゼル。」
ぱああ、と花開く笑顔でお礼を言われた。ああ、癒やされる。
んんん?我は、何を口走った?
ハーフエルフの美少女レイが、可愛く首を曲げて、上目遣いで聞いてきたため、条件反射で、思わず肯定したゼル。
今のは仕方ない。女性に免疫のないおじさんが、美少女にお願いされて断れるか?否!そんな選択肢は存在しない。
だけど、大錬金術師が、実験の末に構造的に無理だという結論に達したものを、素人が何とか出来るのか?
無理だ!
無理だと、言いたい。
うっ!尊敬の眼差しで、見てきた。すごく期待してる。純粋でいいな。好き。
でも、無理。コーティングしか知らないよ。高度な知識なんか、無いんだ。前回とは、話が違う。
他には、口を通さないでお腹に管で直接入れる技術はこの世界では無理。注射は固形だから駄目だ。後は、局部麻酔しか思い浮かばない。だいたい麻酔ってあるのか、この世界。
それとなく聞いて見るか?
「ふむ。コーティングの他に、何か試してみたのか?」
「まず、痺れ草。感覚を鈍くする草があるんだけど、これを使うと不味さが引き伸ばされる感覚になるので、駄目だった。次に、マジックマッシュ。味覚を変えるキノコだけと、違う種類の不味さに変わって意味が無い。他にも色々試したけど無理だった。聞く?」
「いや、大丈夫だ。」
そっかー、味変もあるのか勉強になる。色々試したんだね。なら、無理だよ。無理って分かるよね?
古代の叡智って言葉に騙されてないか。はぁ、無理だと言いたい。言えば楽になる。すごくキラキラした期待に満ちた純粋な表情で見てくるよ。
美少女が!
駄目だ。お腹が痛い。
おじさんだ。普通のおじさん。いや、普通より劣ってるまである。何が出来るんだ。
頼られても困る。ジーニャさんも無茶振りしてくるし。ゴミ掃除は偶然出来たが、もう1つのお願いは、解決してないし、
これで、おじさんに解決出来ない依頼が2つに。
あ!
なんとかなりそう。
「古代の叡智を授けよう。」
「ん。お願い、教えて。」
「この緑の飴玉の改良方法は…」




