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第7話 

 王立学院は国内の貴族ならびに有力者の子息が通う、王国屈指の学び舎である。


 そんな名門学院においてすら、王国の将来を左右するだろうとのうわさが飛び交うほどの豪華な顔ぶれが、ひとつのクラスに集まっていた。


 それは生涯にわたって宮廷に縁がないであろう者たちでさえも嘆息せずにはいられない豪華さであった。



 ――グラディウス王家嫡子・王太子ローデリヒ


 その綺羅星のごとく集まった才能の中でもとりわけ輝きを放っているのが王太子ローデリヒ。

 グラディウス王朝の次期国王にして正当な後継者である彼は、中肉中背の線の細い美男子で、外見だけでいうならそれほど印象は強くない。

 もっとも見た目だけの話ではなく、為人(ひととなり)を含めてもやはり派手さは持たない。

 穏やかな性格で頭がよく、芸術に造詣(ぞうけい)が深い。

 諍いを好まない性格で、武官よりも文官と波長が合うらしく、財務卿の子息であるオットー・ヴァイスとの交友関係はよく知られていた。

 一緒にいる時間も長く、彼を未来の宰相候補と見做す向きもあるほどだ。

 ローデリヒの輝きは人格や才能によるものではなく、血筋がもたらすものであったが、その穏やかな人柄と等しく、堅実な治世を王国にもたらすであろうと期待されていたのも紛れもない事実であった。



 ――ヴェントブルク公爵家令嬢・オフィーリア


 王太子ローデリヒに次いで影響力を持つのが、従兄妹であり、かつ許婚でもあるヴェントブルク公爵家令嬢のオフィーリア。

 齢17歳にしてすでに社交界の華として名が知れ渡っている、地味目な従兄妹とは対照的に華やかな容姿の持ち主であった。

 学院でも随一の発信力の持ち主であり、こちらは人目を引かずにはいられないのか、いつも取り巻きに囲まれている。

 オフィーリアが貫いている信念を一言で表すなら〝美徳〞が相応しいだろう。

 彼女こそ、学院に誇り高く咲き誇る、大輪の赤い薔薇。

 どんなときも余裕のある態度を崩さず、社交の華に相応しく常に笑顔を絶やさない。

 そんな彼女を慕う者は数多い。

 誰よりも美徳を重んじ、ゆえに血統に恥じない立ち振る舞いを体現した〝令嬢の中の令嬢〞との異名を戴いていた。



  ――パラダイン辺境伯家嫡子・クラウス


 このふたりに対抗できる唯一の人物と目されていたのが、パラダイン辺境伯家の嫡男であったクラウス。

 すでに騎士団長の地位が内定している彼は、王国の軍事における将来のトップの地位を約束されたようなものであった。

 王太子とは表だって対立することこそなかったが、両者とも相手を苦手としていたようで、自然と距離をおき、お互いに接点を持たなかった。

 また、オフィーリアが〝美徳の権化〞なら、クラウスは〝清廉実直の権化〞といってもよかった。

 質実剛健を求める者たちの旗印として、いつしか夜の海に浮かぶ灯台の明かりのような役割を背負わされていたが、不満ひとつ漏らすことなく黙々と後進を引っ張る姿が多くの尊敬を集めていた。

 彼の長所は実直さだが、その真っ直ぐすぎる性格は融通の利かなさにも通じていた。

 ただ、己の強さを過信していた彼は、それを危惧する声に耳を傾けようとはしなかった。

 揺らぐことなき信念の男として、評価を確固たる物にしていた。



 ――マルケス男爵家令嬢・シャルロット


 そんな彼を本来支えなければいけないはずの許婚の男爵令嬢シャルロットは、自分の婚約者が社交に疎いことをよいことに、平素から奔放な振る舞いで一部の良識ある人々から冷ややかな目を向けられていた。

 だが、彼女自身は――善意であるにしろ悪意であるにしろ――他者の忠告に耳を傾ける気はないようだ。

 また、多くの者たちも彼女のそんな行動を問題視していないように感じられる。

 というのも、クラウスを取り巻く者たちは堅苦しい考えを他人にも強要する場合が多く、しがらみに束縛されないシャルロットの存在は、そうした者たちの不満を解消する一種の清涼剤のような効用を帯びていたからだ。

 何より、彼女は三国一と(うた)われた美貌の持ち主でもあった。

 美女を巡って国が傾くことは古今知られた話ではあったが、それでも魂が抜かれるほどの美貌を前にしてなお、彼女を窘めようとできる者は少ない。

 ただの男爵令嬢だったはずの彼女の周りにはなぜか人が集まり、いつしか有力な派閥を形成するに至っていた。





 宮廷を拠点とする王太子ローデリヒと従兄妹の公爵令嬢オフィーリアに対して、軍を掌握している将軍家嫡男クラウスとその許婚である男爵令嬢シャルロットの対立。


 ……これが一般に知られる王立学院内の権力構造の形であった。



 一般に流布されているそれらの評価は、彼らの真実の姿を知ってしまったアーデルハイドからしてみれば、なにかたちの悪い幻覚でも見せられているようにしか思えなかった。

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